平景清


「西海に散りし一門の遺恨、果たさでおくべきか!」

ナムコ(現バンダイナムコゲームス)が1986年にリリースしたゲーム作品『源平討魔伝』、並びに1992年リリースの続編『巻ノ弐』の主人公。
史実上の武将藤原景清”がモデルとなっており、作品自体のモチーフも人形浄瑠璃や歌舞伎の演目して有名な『出世景清』。

+ 伝説上の藤原景清
「悪」という漢字が強者を意味する時代にあって、悪七兵衛と讃えられた武士である。
源平合戦においては平家に仕え、源氏の武将の兜を素手で引き千切るなどの活躍を繰り広げた。
やがて壇ノ浦の戦いで源氏が勝利。平家は落人となって各地へ潜伏せざるを得なくなってしまう。
そんな中、景清は逃亡を是とせず、源頼朝の首を討ち取るべく、ただ一人鎌倉を目指して駆け抜けた。
結局、この目論見は失敗に終わり、無念にも景清は捕らえられてしまうのだが、
彼は「源氏の飯は喰わぬ」と食を断ち、「源氏の世は見ぬ」と目を抉り、獄中にて壮絶な死を遂げたという。
これに対して源頼朝は景清を「真の武士である」と絶賛。今日に知られる「平景清伝説」が生まれたのである。
また景清の愛刀であった痣丸は、持ち主の目を潰す妖刀として知られ、現在は熱田神宮に奉納されている。
毛利元就が落とすのに苦労した難攻不落の堅城である月山富田城を築城したのは景清との伝承もある。
また、有名な「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ」の名乗りを上げた人物でもある。
つまり殆どゲームと変わらない伝説の武将である(まあ源義経を筆頭に源平合戦は史実と伝説が曖昧だけど)。

実際の所、藤原景清という武将が現実の歴史上において、どのような人物であったのかは定かでない。
これは北山忠彦氏の『軍記物論考』に詳しいのだが、他の武将の逸話などがいつの間にか景清のものとして統合され、
それを踏まえて制作された軍記物や歌舞伎などで活躍した景清の姿から人々が「平景清」を思い描いていった事で、
いつしか出来上がった「景清伝説」とでも言うべきものが、今日の平景清像として知られているのだ。

かつて1185年の壇ノ浦の戦いにおいて、平家一門共々戦死する運命を辿ったが、
異界からの干渉者「ぷれいや」からのお布施(100円玉)と、世の乱れを憂いた天帝の命を受けた三途の川の渡し守・安駄婆の手引きにより現世に復活。
平家討伐後に日本を魔界へと変えてしまった源氏の勢力を誅殺すべく、魔人・源頼朝を倒すために必要な「三種の神器」を求めて、
源義経や武蔵坊弁慶といった源氏の刺客を討伐しつつ、諸国で転戦を繰り返す。
隈取の入った白い顔はPVでの説明によると仮面であり、素顔はゲーム中でも明らかにされていない。

武器は日本刀(痣丸かどうかは不明)。また先述の「三種の神器」を手にする事で、その身体能力も大幅に強化される。
必殺技は巻物を取ると使用可能になり、右腕を大きく回転させながら斬撃を繰り出す「旋風剣」。

「必殺、旋風剣!いやぁぁぁぁぁっ!!」

ゲームの結末では頼朝を倒すと同時に、その使命を終えた景清自身も再び死者へと還ったが、
後に再び復活を遂げ、日本を魔界へと変えんとする頼朝を倒すために二度蘇る事となる(『源平討魔伝 巻ノ弐』)。

この当時、画面の3分の1を占める巨大な多関節キャラクターが剣を振り回して戦うというインパクトの強いゲーム画面構成、
和と妖のテイストを全面に押し出したビジュアルとサウンドはたちまちプレイヤーを虜にし、
今なお根強いファンを獲得するに至る、ナムコの顔の一つとも言えるタイトルである。
今でこそ見ると画面の色合いや雰囲気などから「変わったゲーム」に見えるが、当時のゲームは何もかもが手探り状態であり、
そんな状況でこの作品を生み出したスタッフの力量と当時のプレイヤーに与えたインパクトはそれはもう凄まじかったのである
(1986年と言えば、『スーパーマリオブラザーズ』が出てから1年しか経っておらず、
 『ストII』が出るのにあと5年を要する、と言えば少し時代が伝わるだろうか)。
家庭用ではX68000、PCエンジンに移植された。え?ファミコン?*1まぁそんな事より景清の話しようよ。
昨今ではPSやWiiバーチャルコンソールの他、携帯電話でもプレイできるようになっている。
制作費100万のPV
アイマス8bitアレンジ

加えて現在『牙狼』などで知られる特撮監督、雨宮慶太氏の初監督作品が『源平討魔伝』のPVだったりする。
この縁から『未来忍者』の実写映画化企画に繋がり、氏の映画監督デビュー作『慶雲機忍外伝』へと至った。
さらに『慶雲機忍外伝』から『魔法少女リリカルなのは』や『FF8』の武器演出など後発作品へ様々な要素が伝播していくため、
そういった意味でも、本作が今日の日本サブカルチャーに与えた影響は、極めて大きいものであったと言える。
つまり景清さんを通してなのはさんとスコールは遠縁の親戚と言えなくもない。*2

FGO』での平景清は前述の景清伝説を踏まえて「平家の怨念の集合体」という形で描写されたが、
同作の牛若丸ともども『源平討魔伝』ネタが所々に仕込まれている。
と言うか、作者が「ナムコ黄金期」直撃世代だった事もあり、こいつ同様に超絶強化されている。

+ 外部出演
外部作品としては『NAMCOxCAPCOM』に出演。この時の担当声優は 置鮎龍太郎 氏(同作でキャプテンコマンドーを兼任)。
不愛想な雰囲気が目立つ一方で「我と出逢うた不幸を呪うがいい…」と声優ネタを言うノリのいい一面も。
時系列的にはAC版終了後であり、木曽義仲が居る事や頼朝の姿などから『巻之弐』がベースとなっている。
複数の異世界を跨いだ異変に際して蘇った源氏一門を討伐するため再び復活を果たし、
閻魔大王の勅命を受けて『妖怪道中記』の主人公、たろすけと行動を共にする。
当初は自軍も源氏ごと斬ろうとしたが、たろすけの説得によりスゲェ不服そうな顔をしながら加わる事となる。

「すべて…斬る…!」

「駄ぁ~目だっつうの!
 あの姉ちゃん達が戦ってる相手だけにしろってば!」

「………」

「あ、あの…悪い奴らだけでお願いします」


性能は近距離戦に特化しており、たろすけのお陰で物理属性に加え、気属性で攻撃できるのも高ポイント。
スキルは敵の攻撃と防御を半減させる「平家の呪い」が優秀で、
他にも移動力+3の「飛城」、2回行動が可能になる「極意の巻物」(それぞれスパロボにおける加速と覚醒)など、便利なものが揃っている。
元々の攻撃と防御の高さに加え、HP30%以下で発動する攻撃力アップの「八坂瓊曲玉」により、最前線のアタッカーとして頼りになるだろう。
御剣平四郎との合体技「太刀魔割」で複数攻撃も可能。

シナリオ面ではソウルエッジとの絡みが比較的多く、終盤にはこれが源氏打倒の鍵となるという意外な展開も描かれる。
「だじゃれの国」では戦闘後、頼朝の呪いが長続きしない事をだじゃれを言いながら裏付けていた。

「根拠は? カゲキヨ」
「…“呪い”というくらいだからな」
(も、もしかして…影響受けてる?)


『ファミスタ』シリーズでは「ナムコスターズ」の選手として出演。主なポジションは外野手。

そのビジュアルから漫画『デトロイト・メタル・シティ』のクラウザーさん扱いされることもあるが、登場はこちらのほうが随分先である。
と言うか両方ともロックバンド「KISS」の影響だろう。まぁこちらは冒頭の通り『出世景清』が元ネタなので、歌舞伎の隈取が元ネタかもしれないが


MUGENにおける平景清

Borewood氏による、フリー配信の格闘ゲーム『源平闘乱』をベースにしたリアル頭身の景清が存在。MUGEN1.0以降専用。
原作ゲームを再現した必殺技超必殺技も実装されており、また各種のEX版も存在。
操作性は同格ゲーの物に概ね忠実で、『源平闘乱』独自のシステム「諸行無常ガード」も導入されている。
これはあらゆる打撃攻撃をガードし、その瞬間にカウンターを放つ事ができる一種のハイパーアーマーだが、
やはりと言うべきかなんというか、投げ技に対しては無効なので注意が必要(諸行無常ガード中なら受け身動作も可能だが)。
さらにここから強力な「盛者必衰カウンター」を繰り出す事もできるので、タイミングを見極めて積極的に使っていきたい。
公開先へのリンクは古いものなので注意

流石に主人公、基本の攻撃技から飛び道具対空技まで揃った万能キャラである。
「真空斬・翔」から派生する「真空斬・弐の太刀」を打ち込めば敵のライフも大きく削る事ができる。
また飛び道具を通常攻撃で撃墜する事もできるため、相打ちの可能性を踏まえてなお、相殺して斬り込む戦法も取れる。
さらに諸行無常ガードからバックステップも取れるので、上手く使えば相手の永久コンボの回避も可能。
システムと技とを駆使して、なるべく間合いを保ちつつ戦うのが理想。
プレイヤー操作ならば大概の相手と互角に戦えるはず。
また、ぬいぐるみ化と言う形で『NAMCOxCAPCOM』のドットも使用されている。

AIは未搭載だが、カサイ氏の外部AIが改変パッチと同封する形で公開されている。
+ 改変パッチによる追加点
  • ボイスの追加修正(音源は『NAMCOxCAPCOM』のものを使用。ただしやられボイスはそのまま)
  • イントロ、勝利ボイスの追加(「全て斬る」「斬捨て御免」など)
  • 義経用の特殊イントロの追加(ボイスのみ)

出場大会



神様は死んだ
悪魔は去った
太古より巣食いし
狂える地虫の嬌声も
今は、はるか
郷愁の彼向へと消え去り
盛衰の於母影を
ただ君の
切々たる胸中深くに
残すのみ

・・・・・・・・・・

神も悪魔も

降立たぬ荒野に

我々はいる

*3


*1 
FC版『源平討魔伝』は、
3つのモードがあり、デカキャラが動くオリジナル版をそのまま移植するのは性能的に無理があったようで、
ジャンルをRPGとボードゲームを組み合わせた、全く違うゲームとして発売された。

1人用モードではほぼRPGだが、景清が隣の国に移動する度に源氏が国々を支配していく。
そして源氏に支配された国は敵が強化されるので、源氏の動向を把握する必要がある。
ファミコンでは新しく支配された国を表示する事はできても、現在支配された国の一覧を表示する事は難しかったのか、
付属のボードゲームの地図のマーカーを使って、プレイヤー自身が源氏の動向を記録する方法が取られた。
多人数モードだと最大4人で領土を争う事になり、よりボードゲーム要素が強くなる。

……その少し前に、コナミがファミコンで『月風魔伝』という、
明らかにこのゲームをパk意識したゲームが登場している。
詳細は主人公の月風魔のページを参照されたし。

*2 
+ ガキンガキンガキン!
所謂ガンブレードやベルカ式カートリッジシステムの事。
非射撃武器に弾薬を装填、撃発する事で瞬間的に威力を高めるというガジェットは、
映像化作品としては『未来忍者』『慶雲機忍外伝』の十字剣が初出なのである。
そして『慶雲機忍外伝』は『源平討魔伝』がなければ……というのは前述の通り。
こうした奇妙な縁で繋がった作品が共演出来るのも、MUGENの面白さの一つだろう。

*3
+ この文章が意味するもの
頼朝を撃破すると「わが魂は不滅じゃ」と言い残し、消滅する。
目的を果たした景清は死者へ還った後、桜の花びらとなり、風に舞い散っていく。
そして富士山を背景に桜吹雪が乱れる画面が映し出され、上記の文章がスクロールしていく。

『ゼビウス』や『ドルアーガの塔』の作者として知られる遠藤雅伸によると、
「神様は死んだ」とは、旧ナムコの黎明期に活躍し、人望の高さも併せてと讃えられながらも、
1985年(『源平討魔伝』リリースの前年)に31歳の若さで急逝した深谷正一氏への追悼が込められていると言う。
「悪魔は去った」とは、深谷氏と同時期に旧ナムコを支え、
不可能を可能にするプログラミングテクニックから「悪魔」と恐れられていた黒須一雄氏が退社した
(遠藤氏と共に「ゲームスタジオ」を立ち上げた)事を意味しているとの事。
「神(深谷氏)も悪魔(黒須氏)も降り立たぬ荒野に我々(ナムコスタッフ)は居る」のだ。

そして上記の文章は最後に深谷氏への弔辞で締め括られる。

故深谷正一氏に

ささぐ。

なお深谷氏への弔辞は『ドルアーガの塔』の続編である『カイの冒険』や『イシターの復活』にも表示されている
(双方ともゲームスタジオ作品(販売はナムコ))。
逆に移植版では『源平討魔伝』でさえ表示されない事もあるが。



最終更新:2024年02月11日 21:33