百詩篇第7巻42番

原文

Deux de poysou1 saisiz, nouueau2 venuz3,
Dans la cuisine4 du5 grand Prince verser:
Par le souillard6 tous deux au fainct cogneuz7,
Prins qui cuidoit de mort8 l'aisné9 vexer

異文

(1) poysou 1557U : poison T.A.Eds.
(2) nouueau 1557U 1557B 1568 1590Ro : nouueaux T.A.Eds.
(3) venuz : Venus 1672
(4) cuisine : Cuisine 1712Guy
(5) du : d'un 1712Guy
(6) souillard 1557U 1557B 1568 1590Ro : soüillard T.A.Eds.
(7) cogneuz 1557U 1568A : congneuz T.A.Eds. (sauf : cognuz 1590Ro, conneus 1653, connus 1665 1712Guy 1772Ri 1840)
(8) de mort : mort 1600 1653 1665 1867LP
(9) l'aisné : lasné 1627, l'aisne 1650Ri

校訂

 1行目の poysou は明らかに poyson(poison)の誤植。
 ジャン=ポール・クレベールは後述の解釈との関係から、Deux de poison (ドゥ・ド・ポワゾン、二人が毒に)は、D'oeuf de poison (ドゥフ・ド・ポワゾン、毒の卵に)の可能性があるとした。

日本語訳

新参の二人が毒の虜となり、
大君主の厨房で注ぎこむ。
皿洗い人によって二人ともその行為を見通され、
長子を死に至らしめたと思い込んだ者が囚われる。

訳について

 大乗訳1行目「毒により二人は新しい金星に養われ」*1は採用している底本で venuz が Venus となっているので、それの訳としては許容範囲内である。
 同4行目「そして取られて 死で長男は混乱する」は qui cuidoit (~と思った者)が訳に反映されていない。

 山根訳1行目「二人の新入りが毒を奪いとり」*2は、saisis が過去分詞なので、能動的に訳すことは不適切だろう。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールアンリ4世がメラン(Mélan)で毒を盛られそうになったことと解釈した*3

 バルタザール・ギノーは、未来においてある君主の邸宅に外国人が訪れ、子供たちに毒を盛ろうとする予言と解釈した*4


 ヘンリー・C・ロバーツエリカ・チータムは、詩の状況をそのまま敷衍したような解説しか付けていなかった*5

 セルジュ・ユタンはまだ解読できていない詩としていて、ボードワン・ボンセルジャンの改訂版でもそれがそのまま踏襲された*6

同時代的な視点

 ピエール・ブランダムールジャン=ポール・クレベールは魚卵に毒を仕込む話が出てくる第7巻24番と関係があるのなら、ここで想定されている君主は「フランスの長子」(l'aisné)の異名をとったロレーヌ公かもしれないとした*7

その他

 1611B では39番として、1672では44番として収録されている。前者は一部の詩が省かれているためで、後者は偽の詩篇が42番と43番に挿入されたためである。


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最終更新:2011年01月22日 00:11

*1 大乗 [1975] p.213

*2 山根 [1988] p.252

*3 Garencieres [1672]

*4 Guynaud [1712] pp.381-382

*5 Roberts [1947], Cheetham [1973/1990]

*6 Hutin [1978/2002]

*7 Brind’Amour [1993] p.226, Clébert [2003]