若林辰雄(わかばやし・たつお)三菱UFJ信託銀行 取締役社長
朝日新聞「リーダーたちの本棚」Vol.48掲載

1952年広島県生まれ。77年一橋大学法学部卒。同年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。84年から90年ニューヨーク、97年から03年ロンドン勤務。99年三菱トラストインターナショナル社長。09年専務取締役。12年4月から現職。


本を通して自らに問いかける 「信託」に足る人間とは・・・


「木のいのち木のここ―天・地・人」
アート・建築・デザイン
法隆寺宮大工の棟梁で、薬師寺金堂や西塔の再建にもあたった西岡常一さんと、お弟子さんの小川三夫さんの生きざまを聞き書きで著した本で、自分のバイブルです。
「大工というのは仕事ですが、その前に人間なんです。大工という仕事を持った人間なんです。すべていいかげんではいかんのです。どこかがいいかげんなら、それが仕事に出ますからな」という西岡さんの言葉は、大工の部分を信託銀行員に置き換えて自戒し、社員にも伝えたい言葉です。

「生命のバカ力」
科学・テクノロジー
ノーベル賞に近いとされる生物学者の村上和雄さんの著書です。「患者に漫才を聴いてもらったあと血糖値を測ったら、全員数値が下がっていた」といった内容も興味深く、英国駐在時にお世話になった方が病を患ったと聞いた時、本書を送り喜ばれました。読むと元気になれる一冊です。

「少しだけ、無理をして生きる」
人文・思想、直木賞作家
作家では、城山三郎さんのファンで、小説はほとんど読んでいます。
城山さんが自作を振り返り、取材の裏話を交えて登場人物たちについて語っています。
「落日燃ゆ」の主人公広田弘毅は、「自ら計らわず」を信条とし、利己的なことは求めず、人のために尽くした。
「雄気堂々」の主人公渋沢栄一は、すべてを知り尽くそうとする「吸収魔」であり、拒絶されても情熱をもって上役に進言し続ける「建白魔」であった。こうした人物評は、多くの教訓を与えてくれます。組織の中で生きていると、ともすると「出世のため」「建白して上司に目をつけられたくない」などとなってしまいますが、広田や渋沢のような心意気は本当に大事だと思います。
どのページを開いても「人としてこうあらねば」とおもうことばかりで、社内報でも社員にも勧めました。

「ゴルフを以って人を観ん 緑のお遍路さんたち」
スポーツ
ゴルフエッセイストの夏坂健さんが、角界のゴルフ愛好者とプレーした印象をつづったエッセー集で、本書をきっかけに彼の著書を読みあさりました。世界中のゴルフコースを”お遍路”した夏坂さんの足跡のほんの一部でもたどることが、ひそかな夢でもあります。

「信託のすすめ」
投資・金融・会社経営、株式投資・投資信託
著者は日銀理事、信託協会副会長、預金保険機構理事長などを歴任された永田俊一さんです。本書は金融実務書とも法律専門書とも違い、ローマ時代から洋の東西を問わず発展してきた信託の歴史や逸話を通じて「信託の精神」を描き出した一冊です。
私は本書っから「信託に足る人間であれ」というメッセージを受け取りました。

それぞれ分野は違えど、「人としてどうあるべきか」を示す五冊の紹介です。

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最終更新:2013年04月11日 00:44