「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

失われし第五話(没)

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
第5話「真実と嘘」

 ガオオォォ………
 ジープの唸り声だけが、辺りに響く。舞い散る砂塵、乾いた風。遠くを見渡してみても、一面の砂漠。
 「空は、こんなに蒼いのに―――。」
 何時か見た空と、同じ空。しかし、何もかも違う空。
 ソラ=ヒダカはぼんやりと空を見渡し―――太陽の眩しさで目を伏せた。

 「………何だって生活必需品の補給なんぞで、アリーくんだりまで行かなきゃならないんだ?」
 レジスタンス『リヴァイヴ』のガルナハン=アジトから最も近い街、バクゥまでが片道3時間。アリーまでは6時間かかる。唐突に運転手に任命された少尉の愚痴は、解らなくもない。
 「バクゥは、最近警戒が厳重ですから。………気晴らしは必要でしょう?」
 助手席のセンセイが、そんな少尉ににこやかに微笑む。…少尉の鼻の下が伸びるのは必然か。
 「いやあ、そうっスね!さぁっすがセンセイ、話が分かる!なに、アリーなんぞ直ぐ着きますよ!」
 グォンと、ジープが思い切り吠える。………アクセルを全開にしたのだ。
 「………この単純馬鹿!いい加減にしろォ!!」
 馬鹿馬鹿しすぎて今まで全く会話に参加しなかった後部座席のコニールが、運転席の少尉をひっぱたく。その様を、ソラは唖然としながら眺めていた。

 アリーは、海岸線からもかなり離れているが一応交易都市である。多少頑張ればカスピ海まで行けるとあれば、この様な砂漠の街でも何とか頑張れるものだ。街に入ると所構わず置かれた輸入品の山に皆、圧倒された。
 「………街中、市場みたいなところね………。」
 どうも、この街に来るのは初めてだったらしいセンセイ。コニールは多少浮かれた顔だ。
 「みんな、迷子にならないでよ。後、商人にほいほい着いて行っちゃ駄目。何か買わされるから………って!少尉は何処行ったのさ?」
 「さっき、『知り合いのお姉さんが居た』って行っちゃったけど………?」
 答えたのはソラ。……無論、コニールの知る限りこんな所に少尉の知り合いが居るはずがない。
 「捨てて行こうかな、あの馬鹿………。」
 半分以上本気なコニール。異論を唱えたのは意外な事にセンセイだ。
 「良いけど、帰りの運転手が、ねぇ。」
 ………そういう理由は少尉が泣きそうな気もしなくもないが。
 「センセイかあたしがする?」
 「嫌よ、面倒くさい。」
 半分は自業自得だが、多少哀れな気もしないでもない。とはいえ、女性陣から見た少尉の立場はその程度の物だろう。
 ソラは、二人の後をはぐれないように付いて行く。色とりどりの服や、新色の化粧品などはセンセイやコニールを一喜一憂させたが(正確にはセンセイが騒いで、コニールが合いの手を入れてるだけ)、ソラには何となく現実味の無い事だった。それはセンセイもコニールも知っていたから、二人ともわざとソラを巻き込んで出来るだけ明るく振る舞った。
 ………三人とも、端から見れば馬鹿な観光客にしか見えないという事を承知の上で。

 ………そんな三人を、眩しそうに眺める女性が居た。
 (私は………もうああいう世界には戻れない………。)
 メイリン=ザラがガルナハン方面にやってきたのは、再三取り逃がした『リヴァイヴ』の面々をなんとしても捕まえたい―――その思いからだ。とはいえ、市民レベルで未だ統一地球圏連合に協力的でないガルナハン方面では、レジスタンスの足取りを捕らえるだけで大変な労力を要する。まさに砂の中の石を探すような作業なのだ。
 (……このままではライヒ様にも顔向け出来ない。どうしたものか………。)
 とはいえ、焦っても進める訳ではない。気晴らしとばかり、観光地としてはそこそこなアリーまで遊びに来たのである。厚化粧を落とし、ポニーテールにカラーコンタクト。どちらかと言えばボーイッシュなスタイルは、かつての彼女でも今の彼女でもない―――彼女が思い描いていた、未来の自分の姿。彼女がもう、メイリンとして表せなくなった姿である。………彼女自身にその思惑は無かったが、ショーウィンドウに映る自分の姿に嫌悪感はそれほど感じなかった。寂寥感だけはどうにもならなかったが………。
 ふと、周囲を見渡す。―――あの三人が居なくなっていた。
 (………何処へ?)
 別に気にする事でもない―――そう思い直した時、
 「あのー………。」
 不意に、声をかけられた。
 「?」
 振り返ると―――そこに先の三人組。三人の中の一番気弱そうな赤毛の女の子が、話しかけてきたのだ。メイリンは訝しんだが、話しかけられて無視するほど忙しい訳でも無い。
 「はい、どうしたの?」
 もう作り慣れた営業用スマイルを浮かべ、メイリン。
 「………この服、似合ってますか?」
 おずおずと、赤毛の女の子―――ソラがそう言った時、その様子を少し遠くから見ていたセンセイとコニールが大爆笑した。
 「………笑わないでって言ったのに!」
 顔を真っ赤にして怒るソラ、「ごめんごめん」とか言いまくるも、ひたすら笑いまくるコニールとセンセイ。呆気に取られるメイリン。しかし、メイリンは直ぐに気が付いた。
 (度胸試し、させられたんだ………。)
 自分も姉とショッピングに行った時、やらされた覚えがある。真新しい服を一緒に買いに行って、気に入った服が見つかった時。―――何気無くそんな自分を見て欲しいと思う事はあるのだ。それは別に誰でも良くて、本当にたわいの無い女の子のささやかな願望……。だから、メイリンは―――もう、自分では出来なくなったはずの笑みを漏らしていた。本当に、ささやかな―――口で押さえたら誰も気付かなそうな微笑みを。

 「ご、ごめんごめん―――。」
 実のところ、こうした事で笑ってはいけない―――そういう暗黙の了解がある。メイリンは僅かだが、笑ってしまった。それは、見せにきたソラが敏感に気付く。そんな時の思いはメイリンにも理解出来る―――だからこそ、自然にフォローが出るのである。
 「良く似合ってるわ、本当よ………。」
 下から覗き込むように、俯いてしまったソラを慰めるメイリン。
 「……本当?」
 「とても綺麗。貴方の赤い髪とも良く似合うわ。―――そうだ、ちょっと待って………。」
 メイリンは言って―――つくづく自分には似合わない事をしているな、と思いながらも―――自分のつけていたブローチをソラの胸に着けてあげる。
 「うん、やっぱり思った通り。……良く似合うわ。」
 上品に宝石をあしらったブローチは、どう見ても高級品だ。ソラは慌てる。
 「で、でもこんな高そうな………。」
 「良いのよ、笑っちゃったお詫び。………貴方に進呈するわ。」
 やっとソラに笑顔が戻った時―――ぐぅぅ、とソラのお腹からくぐもった音。またまたソラは真っ赤になり、メイリンは笑いを堪えるのに必死になった。
 「そうね、そろそろお昼だものね………。」
 「もう嫌………。」
 ソラの連れ―――コニールとセンセイがこっちに来る。それは、人と人との出会い。良い運命も悪い運命も全く見えない、混迷の出会いだった。

 ―――天井には全く見た事もない、豪華なシャンデリア。目の前に並ぶ銀食器に、並々と盛られた高級料理の数々。………とてもリヴァイヴの食事風景には見えない。
 「どうしたの?……・どんどん食べて頂戴。」
 メイリンは皆―――ソラ、センセイ、コニールに促す。三人とも、あまりの展開に着いて行けてない様だった。
 「ほ、ホントに食べて良いの?コレ………。」
 コニールが目の前の料理を凝視して呟く。センセイは、「この料理の金額………幾ら位かしら………?」とぶつぶつと。ソラに至っては、完全に未知の世界である。
 「ここの支払いは心配しないで。一人で食べて居ると、どんな高級料理でも美味しく無いのよ。」
 「はあ~。お金持ちなんですねぇ。」
 「こんなの、夢にも見た事無かったよ………。」
 呟くセンセイとコニール。
 そんな事をしていたら、ウェイターが次の料理を運んできた。
 「………言い忘れたけど、こういう料理って次の料理がどんどん来るのよ。食べ終わってないと、ウェイターが引き上げていくから、その前に食べた方が良いわよ。」
 ワインを片手に、メイリン。それを聞いて三人は一斉に食べ始めた。何せ、次に食べられる時が来るとは思えないのだ。センセイはまだしも、全く礼儀を知らないコニールとソラにウェイターは眉を潜めたが、そこはプロらしくにこやかなスマイルを絶やさなかった。

 メイリンは三人が食事を始めたのを見届けると、会釈してテーブルを中座した。………まあ、向かった先は化粧室なのだが。
 化粧室に誰も居ないのを見届けると、奥の個室に入り携帯電話を取り出す。女っ気の欠片もない、ごつい軍用の携帯電話だ。
 「まさか、こんな幸運に巡り会えるとはね………。」
 三人娘の中の一人、コニールにメイリンは心当たりが合った。かつて、会った事があるのだ。コニールは変装していたメイリンに気付かなかったようだが………。
 さもなければ、メイリンはわざわざ三人を食事に誘うような真似はしなかったろう。
 (良い暇潰しには、なったけどね………。)
 携帯電話を操作して、自分の部隊の副官、カレルを呼び出す。実直、素直とまるでどこかの誰かを思い出しそうな性格の人物である。………無論、選定はメイリンである。きっかり3コールでカレルは電話に出た。
 「指令、何か?」
 きびきびとした、気持ちの良い声。メイリンはその声を聞く度、虐めたくなる。
 「何か、じゃないでしょう。………副官たるもの、司令官の思考を読めなくてどうするの?」
 ………無茶苦茶である。
 「は?は!申し訳ありません!」
 携帯電話の向こうで、最敬礼をしている姿が見える。………そういう男なのだ。ついつい弄りたくなってしまうが、今はそういう場合ではない。思い直し、メイリンは本題に入った。
 「今から直ぐにPAを一部隊率いてアリーまで来なさい。大急ぎでね。」
 「は?………今からですと明日には展開出来るかと………。」
 カレルはつくづく実直である。言わなくても良いところまで言うのが特に。
 「今すぐに、と言ったのよ私は。夕刻までに展開させなさい!」
 ぴしりと言って、電話を切る。電話口で「は!申し訳……!」とか聞こえたが無視する。
 (コニールはガルナハンのレジスタンスに身を置いていた女だ。きっと良い情報が聞き出せるだろう………これで、私の失態も取り消せると云うもの………。)
 心の底から沸き上がる、ドス黒い感情―――それは、メイリンに蝕まれた負の感情そのもの。だが、不意に―――本当に滑り込むように、ソラの顔が脳裏を過ぎる。蒼穹の空の元、健やかに育ったと思わせる少女の事を。鏡に映る自分の姿を見て、メイリンは思う。何故、彼女は私に話しかけてきたのか………。今の自分は醜い欲望に身を任せた、下らない大人に過ぎないのに。
 コニールを捕まえれば、勿論センセイもソラも捕まえる事になる。………その先に待つのは大の大人でも泣き出す厳しい拷問。『仕方が無い』の連鎖が呼び起こす悲劇の数々。
 ―――だが、もう遅い。もう、引き返せないところまで来ているのだ。
 (貴方達が悪いのよ、私などに話しかけるから………。)
 そう、思い直すメイリン。だが、その顔は何処か寂しげだった。

 ―――バクゥ近郊のPA部隊が動き出したという連絡が入ったのは正午過ぎだった。
 「………どっちに向かったって聞いてるんだよ!」
 オンボロの通信機に向かって大声で怒鳴る大尉。聞こえるのは砂嵐の音だけだ。………だが、何とか地名だけは聞き取る事が出来た。
 「………アリー?間違いないんだな!?」
 だが、そこで通信機が途切れる。
 「チッ、このポンコツが!」
 荒々しく、だが一応壊さないように受話器を叩き付ける大尉。
 「そうかといってウチを支えてるのは紛れもなくポンコツですが?」
 冷静に中尉が突っ込みを入れる。
 「混ぜっ返すな!………ええい、こんな事してる場合じゃねぇ。直ぐに対処を………っておい、コニールお嬢とかは何処行くって言ってた?」
 「………確か、アリーですね………。」
 言ってから、さすがの中尉も顔色が変わる。
 「お嬢の事ですから、大丈夫だとは思いますが………。」
 「………馬鹿少尉を呼び出すぞ。」
 ―――しかし、何度呼び出しても返事が無い。
 「あの馬鹿、たぶん女だな。」
 「間違いないでしょうね。」
 ………少尉の信頼は大したものである。
 「何かあってからじゃ、手遅れだ。」
 「アリー近郊で様子を見ましょう。………シグナスを出します。」
 「頼む。俺はユウナに話をつけてくる。」
 こうして、『リヴァイヴ』もまた忙しく出撃準備を進める事となった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー