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書評:『わが祖国オーブ。かくも敗れたり』

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書評:『わが祖国オーブ。かくも敗れたり』(著者:エントス・マイヤー)


後の世に言うピースガーディアン(以下PG)紛争で、統一地球圏連合(以下統一連合)の盟主オーブは開戦後僅か三ヶ月でその座から追放された。

この現実は後の世界史ではアメノミハシラを中心とする反乱軍の電撃戦と、PGの敗北のみが注目され、見劣りどころか圧倒的な戦力を持っていたオーブ側の原因はあまり注目されないままにある。

オーブの一軍人であり文学者であったマイヤー氏は、この戦争でわずか三ヶ月足らずで凋落した祖国を目の当たりにした。
氏は著書の中でオーブ敗北の要因として主に以下の3つの点を挙げている。

1. 戦争の準備不足。
2. 行き過ぎた軍神信仰。
3. 統一連合議会内での反オーブ派(主権温存派)による議会工作。

まず「戦争の準備不足」である。
PG大戦が勃発したとき、オーブは戦争のための準備をほとんどしていなかったといっても過言ではない。
なるほど確かに大戦の英雄ともいうべき、軍神キラ=ヤマト率いるPGという極めて強力な戦力は有している。

しかしながら他の多くの致命的な点でオーブはいくつもの欠陥を抱えていた。
有事における行動原則は決まっていたものの、それは元首の意向で簡単に覆される脆いもので、実用性はほとんど無かった。
兵器の生産を担う工場労働者たちが非戦闘員という事で、開戦とともに疎開してしまい、たとえばモルゲンレーテ(MSなどの総合機械メーカー)の工場などでは、平時でさえ3万人程度の労働者がいるのに、開戦後の従業員は約8千人に激減してしまう。

また過去二度に渡って戦火に被災した経験から、住民が次々に勝手に隣国へ避難をはじめ、避難民があたりを覆い尽くしインフラや経済活動が麻痺。内政が完全に混乱に陥ってしまった。
併合したプラントもまた同じで、直轄地ゆえに自決しうる自治政権も無いため、オーブ本国が混乱するとたちまち立ち往生してしまった。


しかし氏は最も主張する原因として、「軍神信仰」を上げている。

深刻なまでに軍部・議会を中心に蔓延したこの「軍神信仰」は、対第二次汎地球圏大戦(デュランダル議長時)、対大西洋連邦戦、対西ユーラシア連邦戦で、その位置づけを決定的なものにした。

これらの戦争はどれも僅かな戦力、いやたった一機のMSの活躍が戦いの趨勢を決めていた。
キラ=ヤマト操るフリーダム、ストライクフリーダム(後にエターナルフリーダムに変更)の存在、そして歌姫ラクス=クライン。
この両者が結びついた時、圧倒的な戦力も一瞬で無力になる様を世界は過去三度に渡って目の当たりにしていたのである。

これがPGという形で公式に常設軍となった時、特にオーブ軍を中心にPGを頼りにしていればいい、PGがいれば何があっても安心だという軍神信仰、一種の神風信仰が絶望的なまでに支配した。
また世界各国も物量での戦力差が、全く無意味である事を思い知らされ、PGへの感嘆と畏怖を抱くようになった。

加えてテロを対象とした治安問題に直面していた治安警察が、独自軍を編成するようになり軍はその存在価値すら疑われるようになる。
結果として軍は官僚主義とルーチンワークをこなすだけに安穏とする組織になり下がり、弱体化の一途を辿った。
これは旧ザフト軍にしても同じだった。
かくて軍は頭数はだけは揃う、ただの烏合の衆と化す。

一方のアメノミハシラをはじめとした反オーブ連合は、水面下で連携しあい着々と戦争の準備をしてきたのである。
レジスタンスで鍛え上げられた屈強の兵に新鋭MS群。
特に決戦MSデスティニーブラストの開発は、対PG戦を想定したものであったのは明らかだった。


そしてオーブ敗北の決定打となったのは、統一連合議会の内部工作であった。
特にそれを引き起こしたアメノミハシラによる情報戦と、ミハシラと内通した大西洋連邦を中心とする反オーブ派(国家主権温存派)による議会工作は致命的だった。

太西洋連邦はエターナリストによるクーデター政権が樹立していたが、PGによるガルナハン殲滅事件の真相が独立系ジャーナリスト(一説によるとアメノミハシラの支援を受けているとも言われている)の手によって明らかにされ、その報道で世論は一変する。
情報管理省による隠匿工作が行われるものの、議会の反オーブ勢力国家を中心に、現場でのサボタージュなどが頻繁に行われ、情報は世界中に瞬く間に広まった。

大西洋連邦ではその直後の選挙でエターナリストの大半が議席を失い、対して政権を得たのは旧政権派の残党になった。
彼らは旧政権の中核のように直接的な行動には出ず、この日ためにかねてより地下で各反オーブ勢力と通じ合っていたのだった。

目ざとい国家はすでに統一連合の致命的構造欠陥に気づいていた。
回転し続ける不安定なコマのようなものだという事を。
平和維持をキラ=ヤマトという軍神に頼り切った張子の軍隊、張子の国家。
実質、統一連合の戦力はPGのみであった。

全面戦争をしようにも議会が紛糾し、結局軍は動けずPGの派遣に留まる事になる。
アメノミハシラがPGを叩き軍神を失った時、政権は大混乱に陥った。
それ乗じて反オーブ派は議会工作を進め、主席の交代を条件に反連合勢力との和解へと持ち込む。
後にPGを解散、主権返上の破棄、国家主権の確立を議決。

自然オーブは権力の中心から転落する事になる。

一見、反乱軍と政府軍の対立に見せかけながら、実質は議会内のクーデター。
これがアメノミハシラ、大西洋連邦など反オーブ派が描いたシナリオだった。

彼らの真の目的は国家主権の確立・確保であり、そのためにはなりふり構わぬ戦略で来た。
軍神キラ=ヤマトの存在に全てをゆだね、外交も議会戦略も持ちえなかったオーブは、その敗北を軍神の敗北と同時に思い知ることになったのだ。

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