「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

『愚者の平和は何故壊れたか』(C.E112発行)前文

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
Y.ウェンリー著「愚者の平和は何故壊れたか」(C.E112発行)前文より

かつて、人類が地球周辺のみを生活の場としていた頃の、人類初の人類統一政府の成立と崩壊を指して

「賢者を気取る愚か者のお仕着せの平和を、乱暴者が『やり口が気に入らない』と拳で叩き壊した」
「結局、人類が『自分は人類だ』と言う自覚を持つには幼稚過ぎた」
「真の意味で『人類が一つになる』と言う理想への険しい道を歩み始めた、記念すべき第1歩」

等の評がある。

それらは、ある意味に置いて全てが正しいのだろう。
だが、同時にそれらは一面しか捉えていないとも言える。
ラクス・クラインは確かに平和と安定を生み出したし、リヴァイヴを始めとするレジスタンスは不平等の是正の切っ掛けを作った。
だが、同時に彼らは無数の死体の山を築き上げたのも事実である。

「平和な世界」を求めて死体を大量生産する。
人類の業がいまだ抜けきっていない時代と言えばそれまでなのだが、果たして、他の選択肢は無かったのだろうか?
本書ではその点について検証してみたい。


1 何故、ラクス・クラインは世界を統一できたのか

一言で言ってしまえば「他に誰もやろうとしなかった」と言うことである。
確かに、世界から国境と言うものを無くせば「国同士の争い」は無くなる。
このアイデア自体は誰でも思いつく。
同時に、このアイデアは実現不可能である、と言う事も。

個人レベルでの利害の調整も至難な「人類」と言う種に、その個人の集合体である「国家」同士の利害調整をスムースに行い、一つにまとめる事など誰が考えても不可能で有った。
しかし、ラクス・クラインは不幸にもソレを成し遂げてしまった。
これが、後々まで続く禍根になるとは想像も出来ずに。

ラクス・クラインが統一政府を樹立できた理由は二つ。
一つはラクス・クライン個人のカリスマによる。
もう一つは時代の流れがソレを許したことだ。

ラクス・クラインには「私人」と言う概念が無かった。
この様に分析する者は多い。
彼女は常に「他者の為」に行動しており、自己の保身や欲求の為にその権力を乱用することは無かった。
ソレが必ずしも正しい結果を産むとは言えなかったのは当然のことだが、少なくとも彼女自身は腐敗しなかった。
確かに、反対論者を苛烈に弾圧したが、それとて最大多数の人々の平和で安定した世界を守る為であり、それ以上の意味は無かった。

人々はその献身的な姿に心打たれ、自らも居住まいを正したものだった。
が、彼女の問題点はその「私人と言う概念を持たない」点に集約される。
彼女自身の「他人の為に尽くす」と言う姿勢そのものは問題では無い。
むしろ、美徳と呼ぶべきだろう。

しかし、その姿勢を他者に強要した瞬間。ソレは紛れも無く害悪と化す。
彼女が意識してそれを強要したと言う記述は存在しないが、彼女の考えていた「完全な恒久平和の実現された世界」は「全ての人間が他人の為に尽くす世界」だったのでは無いだろうか?

あらゆる人間が、自分より他者を優先するよう行動すれば、各自が自己の欲求を満たす為の争いはそもそも生じない。
それは過去存在した仏教の「悟り」に近い状態だろう(宗教関連についての情報はかなり失われているので確証はとれないが) が、かつて「悟り」に至るまでの道程は、長く険しい修行とされ、それでも大多数の者が脱落するとされた。

要するに、「私人」が残っているうちはどう足掻いても他人の為より自分の為に生きてしまう。
しかし、ラクスはなまじ「私人」を持たなかった為にその葛藤を理解できなかった。
抵抗勢力が「平和を乱す悪」としか認識できなかったのだ。
「公人」を終生持ち得なかったカガリ・ユラ・アスハとは対称的であると言えよう。

短期間で二度の世界大戦(しかも1度は人類自体が滅びかけた)が有ったところへユニウス7落下の影響による未曾有の食糧危機。
この人類が今だかつて経験したことのない災難に対し、もはや国家のエゴを突き通せる状況ではなくなったのも統一連合結成の追い風になった。
団結して生き延びるか、自己の利益を確保して共倒れになるか。
この選択に対し、人類は団結して生き延びる道を選んだ。
ただし、あくまで一枚しかない毛布を人数分に切り分けて寒さをしのぐのではなく肩を寄せ合って一枚の毛布で暖を取る選択をしただけで、全員が隙あらば自分だけで独占しようと思っていたが。

ソコへ、ラクス・クラインは「プラント」と言う羽布団を持ちこんだ。
最初に毛布を皆で使うことを提案したオーブは布団の中央にいた為、その恩恵に十二分に与れたが、外様の国々は背中を底冷えする夜風に晒していた。

端に追いやられた国々は怒りの声を上げたが、羽布団の中の国々はそれらを「平和の敵」と声高に断じた。
そして、ラクス・クラインにもっと温かく、もっと快適にして欲しいと懇願し、その対価として分厚いコートと暖かな帽子、そして、外敵から身を守る銃を与えたのだ。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー