「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

春の夢、潰える

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匿名ユーザー

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シンとレイラが間の抜けた追いかけっこをしている最中、とあるレジスタンスへユウナからの連絡が入った。
「おやっさん!ユウナのアンちゃんから伝令が来た!」
「なんて言って来た?」
歳若い男が部屋に飛び込んでくる。
ソレをリーダーと思しき初老の男が迎えた。
「『レジスタンス各位は市民を避難させるのと同時にバードクーベから一時脱出』だと」
「その為に、あのボウズがPGどもを引き付けてくれてる訳か」
アジトに窓はなかったが、シンへ外部スピーカーで説得?を続けるPG隊員の声が街中に響いている。
「どうする?」
「・・・若い奴を集めな」
「カチ込むんだな!」
「馬鹿かオメェは!」
そのまま頭を鷲掴んで髪をグシャグシャと掻き混ぜながら
「歳ぃ上のモンから死ぬってのが道理じゃねぇか」
対MS用RPGを肩に掛ける。
「テメェら若ェ奴らはカタギの人達を連れてココを離れろ。いいな、ケガァ一つさせんじゃねぇぞ?」
「でもよ」
「薔薇の連中は正直虫が好かねぇ。だがな、ユウナの野郎は信用できる。いや、俺はすることに決めた。ココで俺らレジスタンスが全滅さえしなけりゃ立ち直せる」

このレジスタンス以外でも、ユウナに信頼を寄せていた者は多かれ少なかれ決死隊を結成してシンのサポートに周る覚悟を決めた。
しかし、ユウナの思惑はこの時点で致命的に破綻した。
レジスタンスからユウナが獲得した信頼が、ユウナにとって最も望ましくない結果を招いたのは皮肉としか言いようがない。

EFとダストが対峙する。
シンは全身から脂汗が滲み出るような錯覚に襲われていた。実際は口の中までカラカラに乾ききっていたが。
「コニールが用意してくれた『抜け道』まで飛び込めれば・・・」
直線距離で150m。
「血のバレンタイン」以前に計画、途中まで建設され遺棄された大規模下水道のトンネルがそこにある。
寝そべったMSならトレーラーでギリギリ移送できるサイズだ。
『いざとなったら両腕切り離しちまえば楽々通れるよな』
『はっはっはっ、なにをいっているのかなシンくんは?』
『サ、サイが怖い・・・』
出発前の遣り取りを思い出してふと口が緩む。
『何が可笑しいんだ、シン?』
「いや、今のダストみたらサイが怒るだろうな、って思っただけさ」
『多分、これから卒倒するような情況になるから気にするな。俺は気にしない』
「レイは何時もソレだ」
知らずに苦笑する。と、肩に掛かっていた緊張がなくなったような気がした。
「ケンカに勝てないんなら、ケンカしなきゃいいだけだよな」
迷いなくダストを疾走させる。
残り100m。
しかし、EFは両手を下げたまま微動だにしない。
「馬鹿にされてるか!」
が、それに激昂はしない。今すべき事は「帰る」事だ。それ以外は些事に過ぎない。

遂にEFの間合いに入った瞬間、信じられない速度でサーベルが打ち込まれてきた。
「うおおお!」
シンの脳内で何かが弾けるような感覚が走り、瞬時に全方位に広がった感覚で周囲の状況を掌握する。
ダストの出来るギリギリの機動範囲を見ぬき、EFの攻撃を回避出来るルートを設定。
ゾン!
ダストの左肩アーマーが斬り飛ばされるが、EFの背後に回ることに成功、そのまま『抜け道』へ向けて全力で走る!
が、EFはシンとレイの想像を超える『化物』だった。
ダストが加速する寸前、ダストの右肩を掴む。ギチ、と言う異音と共に引き戻されるダスト。
「なん?!」
一瞬、シンは状況が判らなかった。そして、その一瞬の逡巡が、ダストの運命を決めた。
ゴギン!
右膝を裏から蹴り抜かれ、ガクリ、と後ろによろめく。そして、轟音と共にそのまま大地に倒れ伏した。
が、そのまま捕まるシンではない。
即座にスラスターを限界一杯使ってEFを跳ね除けようとする。しかし。
「馬鹿な・・・」
ダストの上に乗ったEFが、背部スラスターを使って耐えたのだ。
しかも、周りに噴射で被害を与える事なく。ダストのコクピット周りを損傷させず。
呆然とするシン。
『中のパイロット、これ以上は無意味です。投降して下さい』
シンを無力感が覆い尽くそうとした瞬間、
『シン、俺に考えがある』
レイの声が響いた。

押し倒したMSからパイロットが降りて来ると、ようやくキラは安堵の息をついた。
「良かった・・・とりあえず、これで目立った騒動は収まるね」
そのままパイロットに視線を送る。
「?」
その顔にどこか見覚えがある。記憶の隅に引っ掛かりを感じ、カメラをズーム。
「彼は・・・」
次の瞬間、無人のMSが跳ね起きた!

『俺もMSの操作は出来る。戦闘は無理だが』
レイの策とは単純明快なものだ。
「どう言うことだよ」
『サイに頼んで制御システムを組んでもらった』
レイはかつて、急造の制御システムを積んでダストを操作したことがある。
「二人して勝手に・・・」
『だが、今は役に立つ。取り敢えず、お前は投降しろ。お前がダストから充分離れたと判断したら俺はダストを起動させる』
「んで、どーすんだよ」
『有人MSが突然無人で動けば情況を混乱させられる。お前しか居ないと思っているからな。その瞬間をついて全力移動する』
「ヤツから逃げられる積もりかよ」
『俺が生身じゃない事を忘れるな。人体が耐え切れる以上の加速が使える』
「わかった。ただ、俺は自力で何とかするから、お前は真っ直ぐ『抜け穴』へ行けよ?」

不意をつかれ、もんどりうって倒れるEF。
そして、無人のはずのダストが走る!
「AI搭載機か?!」
「なんで有人機にAI積んでるんだよ!?」
その混乱に乗じてシンが路地に掛け込もうとした瞬間
ビシューン!
EFのビームライフルがダストの頭部と両腕を吹き飛ばした。
「レイ?レイー!」
踵を返してシンは走る。『相棒』の元へ。だが。
『シン!お前は来るな!』
ダストからシンを叱責するレイの声が響いた。
「ゆ、有人?!」
「だって、コクピットには誰も・・・」
『シン!俺から離れろ!急げ!』
「!」
その言葉を理解したのは、シンと、そしてキラだけだった。咄嗟に路地へと飛び込み対衝撃姿勢を取るシン。
そして、キラは。
「総員、対衝撃及び対閃光防御!」
叫ぶや否やダストをEFに抱えさせ、バードクーベの上空へと飛び上がる!
(ま、に、あえぇー!!)
一気に飛び上がると、そのままダストを力任せに放り上げ、ビームシールドを展開しながら必死に距離を取る。しかし。
ドゴォン!
かなりの近距離で自爆したダストの衝撃にそのまま叩き落され、建物を石畳を砕きながら墜落する。
「たいちょう・・・?」
ピクリとも動かないEFに隊員達が凍りつく。
「嘘!嘘ウソうそウソ!隊長が死ぬ訳ないわ!死ぬ訳がないじゃないの!」
レイラが半狂乱になる。
「落ちつけレイラ!」
「副長。指揮権を継承してください」
突然、ウノの通信が入る。
「ウノ!アンタは!」
「お前・・・」
「だいじょぶだよ隊長なら」
いつもの能天気な口ぶり。
「もっと酷い情況でも生還したんだし。EF、殆ど無傷でしょ?」
「ウノ=ホト。貴様の言う通りだ」
苦虫を噛み潰した表情で副長が続ける。
「我ながら恥ずべき事だ。己が役を忘れるとは。レイラ、シラヒ。両名は隊長をお救いしろ」
「え、あ、はい!」
「了解しました!」
「ウノ。貴様は私に付いてこい。他の者は周囲の哨戒だ」

「やった・・・やりやがったぞあの小僧!」
「キラ=ヤマトを墜としやがった!」
レジスタンスにその情報が伝わる。あたかも枯野に火が放たれるが如く。
そして、その焔は最悪の結果を導き出す。

「リーダー!」
バイクで市内を巡って情報収集したコニールが戻ってきた。
「良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞く?」
「悪いほうから聞こうか」
何故だろう。コニールにはユウナがひどく憔悴して見えた。
「ダストが自爆。シンは行方不明。救護所でそれらしいのを見た、って人も居たけどね」
「良い知らせは?」
「レイがダスト自爆させてEFにかなりの手傷を負わせたよ。他のレジ連中有頂天に・・・」
「今なんて言った!!」
「え?」
殆ど怒声に近いユウナの声にコニールが驚く。
「EFに手傷を負わせて・・・」
「負わせて?」
「他のレジ連中有頂天に・・・」
「なんてことだ・・・まだ市内に残ってるレジスタンスが居るのか」
そのままガックリと膝を着く。
「なんだよ。レイとシンがPGに一泡吹かせたんだぜ?もっと喜んでも・・・そりゃ、レイが居なくなっちまったのは辛いけど・・・」
「違う。違うんだよコニール」
よろよろと立ち上がるユウナ。
「このままだとバードクーベが本当の戦場になってしまうんだよ」

「よお!ユウナ!」
ユウナとコニールがバードクーベの中心部へ戻ると、主だったレジスタンスが勢ぞろいしていた。
「あんたんとこのボウズ、たいした野郎だぜ!PGの野郎を墜としちまうんだからな」
「・・・みんな、何してるんだい?」
静かに、何かを抑えるように話すユウナ。
「ひとまず退却するんじゃなかったの・・・?」
「退却だあ?」
「なに馬鹿言ってるんだよ」
遂にユウナがキレた。いきなり両肩を掴んで激しく詰め寄る。
「僕達レジスタンスと市民の『政治活動』なんだよ!今回の行動は!」
「よ、止せよ・・・」
「僕達は死ぬ覚悟なんか当の昔に出来てる!でも、この街の人たちは違うんだよ!」
「・・・」
「僕はオーブ生まれだ!オーブが二度焼かれたのを直接見たんだ!あんなのはもう沢山だ!」
その言葉に一同はハッとする。
「悪かった。で、俺らはどうすりゃいい?」
「全員に非武装を徹底させて。MSなんかもっての外だ」
「不味いな。何人かMSを持って来ちまった奴が居る」
「なら、即座に放棄させて。白旗揚げさせてもいい。動いてるのをPGに捕捉されたら・・・」
次の瞬間。離れた場所で爆発音が鳴り響いた。

「副長。MSが市街のあちこちから姿を現し始めてますよ」
副長へ同行しているウノから通信が入った
「テロリストめ・・・」
「住民がテロリストに協力してたんですかね?」
相変わらず能天気な口調だ。だが、既にそれを咎める積もりはない。その裏の意図を理解し始めているのだから。
「やむをえん。散開させて各自でMSを武装解除させるか・・・」
「テロリストが応じない時は?」
「MSの破壊もいたし方あるまいな」
「発砲の制限はどうします?」
「・・・制限は解除する。ただし、被害は最小限に留めよ!」
「了解しましたぁ」
言うや否やウノ機が飛び去る。

『テロリストの方々に通告します。即座にMSを放棄して武装解除に応じて下さい。でないと』
『でないとなんだってんだ!』
ビシュゥーン!
怒声と共にMSからビームが走る。
『ボウズだって気張ったんだ!』
『PGがナンボのもんじゃい!』
次の瞬間。ウノ機はフルバーストモードへ移行。MSを周辺の市街ごと吹き飛ばした!
『実力行使します、って言おうとしたんですけど・・・』

そして、そんな光景はバードクーベのあちこちで展開された。

「うう・・・ん・・・」
「隊長!」
「良かった・・・本当に良かった・・・」
キラが目を覚ますと、そこには心配そうに覗き込むシラヒと、ぼろぼろと涙を流すレイラが居た。
「二人とも、どうして?・・・今の状況は?」
キラが周囲を見ると、そこは既に、一面の焼け野原だった。
「どう言うことだ!」
「この街ぐるみでテロリストに協力してたんですよ。副長の判断でMSの破壊を・・・」
「何て事をしたんだ・・・これじゃ・・・これじゃ・・・!」
ガラン。ガラン。
そんな三人目掛け、石礫が投じられる。
「おまえたちのせいだ・・・おまえたちが来なければ!」
「あの子を返して下さい!」
ガッ!
そのうちの一つ、子供の拳大の石がキラ目掛けて飛んで来た時。ソレを身を呈して遮ったのはレイラだった。
割れた眉間から血が滴り落ちる。
その血を拭いもせずにレイラが立ち上がる。
「貴方達、何を言っているの?」
自分達が投げた石で人が傷付くと言うことを連想できなかったのだろう。
『自分たちも加害者になりうる』その「現実」を付きつけられ、周りを取り囲んでいた人々は息を呑んだ
「貴方達、自分達がどんな『選択』をしたかちゃんと理解していた?」
静かなレイラの言葉。だが、ソレに押されている。
「こういう状況になることを連想できなかったの?」
「そ、そんなこと言ったって・・・」
「被害者は何をしても加害者にならないと思ってた?『自分たちは苦しんでいる』だから何をしても構わないと?」
辺りを睥睨する。
「どんな形であれ、『戦争』で一番被害を受けるのは、一番弱い人たちなのよ?それなのに!」
絶叫する。
「どうして貴方達は誰かに任せるの!?自分で良く考えもせず!この人は・・・隊長はね!いっぱい、いっぱい大切な物を亡くして来て!」
知らずに涙が溢れる。
「それでも!みんなの笑顔を守りたいって!みんなを助けたいって!ボロボロになっても頑張って!」
「何をいってるんだ!」
「でも、貴方達は違う!他の誰かにつられて気分でテロの手助けして!それで酷い目に逢ったら『こんな筈じゃない』『誰かが悪いんだ』そんな泣き言ばかり!」
「じゃあ、アンタらは俺達の声を聞こうとしたのかよ!」
「声を上げなかったじゃないの!」
「ウソだ!俺達は何度も何度も声を上げた!でも耳を傾けなかったじゃないか!」
「そうだ!第一、俺達は別にご大層な事を言ってるんじゃない!ただマトモな生活をさせてくれって言っただけだ!」
「レイラ、行こう」
シラヒがレイラを押し留める。
「これ以上ココに居てもどうしようもない。隊長の傷の具合もあるし・・・」
キラの元に駆け戻る。キラがやつれて見えるのは怪我だけではないようだったが。
「隊長はEFのコクピットで休んでてください。そのケガで操縦は無理ですから・・・俺とレイラの機体で運びます」
「僕は大丈夫だから・・・」
「休んでて下さい!これ以上、隊員に心配掛けさせないで下さいよ・・・」
傷だらけの身体で起き上がろうとするキラに痛ましげにシラヒが告げる。

シンは、自分がベッドの上に寝かされている事に気付いた。
ぼんやりした頭で周りを観まわす。
消毒薬の刺激臭、そして自分の腕に巻かれている包帯。
(俺、アジトに帰ったのか・・・センセイが手当てしてくれたのか?)
「センセイ・・・」
「君、気がついたかい?」
無意識に口にした言葉に誰かが反応する。
と、シンの意識が急速に覚醒する。
センセイと思い込んでいたのは歳若い医師らしき男だった。
「ココは!」
慌てて立ち上がろうとした瞬間。全身を激痛が走る。
「か、はぁっ、はぁ、はぁ・・・」
「無理をしちゃいけないよ」
静かに、しかし有無を言わさない口調でベッドに戻される。
「君は右腕と左足を骨折している。単純骨折だが動ける状態じゃない」
周囲を見渡すと、簡易ベッドがズラリと並んでいる事に気付いた。
      • 当然、その上には負傷した者が横たわっている。
「なにが・・・起きたんですか?」
「・・・暴徒となった市民へPGが発砲したんだよ」
シンはその言葉に打ちのめされた。
「なん・・・ですって?」
「どちらが先かは判らない。いや、もう意味はないな。バードクーベが灰になったんだ」
次の瞬間。シンはベッドから跳ね起き、左足を引きずりながら出口へと向かう。しかし。
「何をしているんだ君は!」
背後から医師に羽交い締めにされる。
「俺は!俺は行かなくちゃならないんです!」
「馬鹿な事を言うんじゃない!誰か!誰か手をかしてくれ!」
医師の声に応じてスタッフが駆け寄り、シンを無理矢理ベッドへ押さえ込み、そして、鎮静剤の無痛注射を首筋へ打ち込む。
「俺は・・・おれは・・・」
そのままガクリとシンの頭が折れる。
「可哀想に・・・家族が心配なんだろう・・・」

ガルナハン首都、バードクーベ。
この都市はこの日、地図から姿を消した。

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