「ユウナ!……ユウナあぁ!」
「ぶっ!?」
「ぶっ!?」
深夜の主席官邸の主席寝室。
鉢合わせた直後、カガリの拳がユウナの顔面に叩き込まれた。
そう、殴ったのだ。
枕元のハンドガンには指一本触れないまま。
華奢なユウナの身体が面白いくらい仰け反って、柔らかい上質の絨毯に転がる。
鉢合わせた直後、カガリの拳がユウナの顔面に叩き込まれた。
そう、殴ったのだ。
枕元のハンドガンには指一本触れないまま。
華奢なユウナの身体が面白いくらい仰け反って、柔らかい上質の絨毯に転がる。
「か、カガリ、あんまり名前呼ばないでくれるかな。マスクつけてる意味無いじゃない」
「あ、ごめん。……じゃなくて!! 無事なら無事で、なぜ連絡しない!」
「それはええと、って君も論点ズレてないかい?」
「あ、ごめん。……じゃなくて!! 無事なら無事で、なぜ連絡しない!」
「それはええと、って君も論点ズレてないかい?」
よろよろと立ち上がり、仮面のズレを直すユウナ。
近くの光源は読書灯のみ。
暗がりの中、かつて力を合わせるべき存在だった2人が向かい合う。
近くの光源は読書灯のみ。
暗がりの中、かつて力を合わせるべき存在だった2人が向かい合う。
「……どういう事か、説明してくれるんだろうな。何故、お前が……」
「テロリストの一員として活動してるか、って?」
「そうだ! どうして世界が平和になろうとしている時に、こんな事を……!」
「テロリストの一員として活動してるか、って?」
「そうだ! どうして世界が平和になろうとしている時に、こんな事を……!」
ユウナの仮面に空いた両目にあたる部分が淡い光を放った。
カガリの瞳を見つめ、視覚矯正装置が働いたのだ。
カガリの瞳を見つめ、視覚矯正装置が働いたのだ。
「……本当に、そう思ってるかい? 今君たちがやっている事は、平和に繋がる、と?」
「ッ!でなければ、何故PGを組織できる! 資源を統制できる! 何の為に……今も犠牲を出し続けられる!」
「ッ!でなければ、何故PGを組織できる! 資源を統制できる! 何の為に……今も犠牲を出し続けられる!」
一瞬言葉に詰まった後、血を吐くようにカガリが叫んだ。琥珀色の眸が震える。
「カガリ……」
「仕方ない……!仕方ないんだ! 自分達の思い通りの平和しか受け入れられないという者がいる限り、戦争は無くならない! 彼らを抑える為には力が必要で……!!」
「仕方ない……!仕方ないんだ! 自分達の思い通りの平和しか受け入れられないという者がいる限り、戦争は無くならない! 彼らを抑える為には力が必要で……!!」
拳がきつく握り締められる。解っているのだ。
自分が今何をやっているのか、それが何を生み出し、どのような行き先を示すのか。
だがやるしかない。
今や彼女は世界の支配者。
武力によって各国を黙らせてしまった以上、急激な方針転換は秩序の崩壊に繋がる。
そしてその為に、彼女は最も大切な者の1人を贄に差し出さねばならない。
望まぬ力を押し付けられ、心を磨り潰されてしまった『軍神』を。
自分の、ただひとりの弟を。
自分が今何をやっているのか、それが何を生み出し、どのような行き先を示すのか。
だがやるしかない。
今や彼女は世界の支配者。
武力によって各国を黙らせてしまった以上、急激な方針転換は秩序の崩壊に繋がる。
そしてその為に、彼女は最も大切な者の1人を贄に差し出さねばならない。
望まぬ力を押し付けられ、心を磨り潰されてしまった『軍神』を。
自分の、ただひとりの弟を。
「カガリ……僕はさ、以前失敗したよ。君も知っている通りにね」
「私だって失敗した! オーブの理念を貫いて、大勢を死なせてしまった! けど失敗は修正するしかない! そこから逃げ出してしまっては、何も……」
「君には、それが出来た。僕には、それが出来なかった」
「そんな事は無い!!」
「あるんだ。君がアスハで、僕がセイランだったから。オーブの氏族は代々、意思統制をやりやすくする為に、アスハ家を過剰なまでに祭り上げてきたんだ。だから誰もが君を受け入れ、僕を弾き出しただろう。いやあ、兵士に殴られた時は安心したよ。あそこで君と僕が対等な立場で敵対したら、状況はより悪化していただろう」
「私だって失敗した! オーブの理念を貫いて、大勢を死なせてしまった! けど失敗は修正するしかない! そこから逃げ出してしまっては、何も……」
「君には、それが出来た。僕には、それが出来なかった」
「そんな事は無い!!」
「あるんだ。君がアスハで、僕がセイランだったから。オーブの氏族は代々、意思統制をやりやすくする為に、アスハ家を過剰なまでに祭り上げてきたんだ。だから誰もが君を受け入れ、僕を弾き出しただろう。いやあ、兵士に殴られた時は安心したよ。あそこで君と僕が対等な立場で敵対したら、状況はより悪化していただろう」
言った後、ユウナは耳元の通信機に指を押し当てる。
何事か囁いた後、カガリに笑いかけた。
何事か囁いた後、カガリに笑いかけた。
「ユウナ……」
「僕はさ、君たち統一連合の目が届かない場所から、少しでも世界を良く出来ないかな、って思ってるんだ。それが僕の償いだと思ってる。……償えればの話だけどね」
「なら話しをしてくれ! そちらの意見を聞かせてくれ!」
「もう話したし、意見は言った。でも必要なかった。君も、ちゃんと考えててくれたから」
「なら話しをしてくれ! そちらの意見を聞かせてくれ!」
「もう話したし、意見は言った。でも必要なかった。君も、ちゃんと考えててくれたから」
官邸のあちこちから、甲高い炸裂音が断続的に響く。
リヴァイブのメンバーが持ち込んだスタングレネードだ。
撤退の合図でもある。自身も、懐から筒状の物体を取り出した。
リヴァイブのメンバーが持ち込んだスタングレネードだ。
撤退の合図でもある。自身も、懐から筒状の物体を取り出した。
「君と話せて良かったよ。良い意味で変わってないって解ったし、ひょっとしたら、悲しい結末を変えられるかもしれないって解ったから」
「待て! まだ話は!」
「髪を伸ばせ、なんて言ってごめん。そのままでも、君は充分素敵だね」
「なっ!」
「待て! まだ話は!」
「髪を伸ばせ、なんて言ってごめん。そのままでも、君は充分素敵だね」
「なっ!」
ユウナがピンを抜き、グレネードを絨毯の上に投げる。
思わず抗弁しかけたカガリが咄嗟に顔を庇い、ベッドの陰に飛び込んだ。
思わず抗弁しかけたカガリが咄嗟に顔を庇い、ベッドの陰に飛び込んだ。
「それじゃあ、さようなら」
「ユウ……」
「ユウ……」
凄まじい音と閃光が寝室に荒れ狂い、納まった時、室内にユウナの姿は無かった。
開かれた窓から吹き込んだ風に、カーテンが揺れていた。
開かれた窓から吹き込んだ風に、カーテンが揺れていた。
「御無事ですか、アスハ主席! お怪我は!」
「……大丈夫だ」
「……大丈夫だ」
ようやく寝室に踏み込んだ兵士が、カガリの肩に触れる。力なく首を振る彼女。
「何よりです。現在、全力で侵入者の追跡に当たっております」
「解った……少し1人にしてくれ。着替えなければ」
「ハッ」
「解った……少し1人にしてくれ。着替えなければ」
「ハッ」
慌しく無線で指示を出しつつ走り去る兵士がドアを閉めれば、カガリは乱れた寝着のまま両手で顔を覆う。
肩が小刻みに震え、嗚咽が漏れた。
肩が小刻みに震え、嗚咽が漏れた。
「すまない、ユウナ……すまない……キラ。私は……私は、誰も……」
寄せて消える遠い波の音が、静寂を取り戻した寝室に響いていた。