「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第12話「トライ・シフト」アバン

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澄み切った青空より降り注ぐ陽光は、誰にでも注がれる――陽光を体全身で受け止め、元気一杯に遊び回る子供達にも、(我ながら陽光の下を歩くのは違和感が有るな……)と思えるゲルハルト=ライヒにも。
そこは、地上の楽園を模した庭園――そう言えば良いのだろうか。

綺麗に狩り揃えられ、手入れが行き届いた観葉植物。
女神を模した石像、その手に持つ瓶から――その女神の顔は良く見ればラクス=クラインの顔に見える――水が注がれる様になっている噴水。
良く餌を与えられ、人に懐いている手乗りの鳥達。
自然を邪魔しない様に流れるヒーリングミュージック……そのどれもが“贅を尽くした”とは言わさない、しかし“贅を尽くされた”庭園だった。
その庭園の広場では、子供達が走り回り、遊びに興じている。
ラクス=クラインとキラ=ヤマトが引き取った戦災孤児達だ。
子供達は自らに降り注ぐ幸運を理解もせず、健やかに遊んでいる。
そうした歪みをライヒは気付くから、苦笑する。

(……ここは、歪みだ。住人は人並み以上の幸せを与えられているからこそ心から笑える。それを見て、微笑む者も又……。)

ここ、キラ=ヤマトとラクス=クラインの別邸。
通称『歌姫の館』だ。

規模としてはほぼ城と云って差し支えは無いほどの宮殿で、別邸とは銘打ってあるもの、事実上本宅のようになっている。
この『歌姫の館』は、キラとラクスが“公務を忘れて、プライベートをのびのびと過ごせる場所”としてカガリ=ユラ=アスハの命によって発注されたものだ。
本邸は政府機関の直ぐ近くにあるのだが、ピースガーディアン事務所も本邸内部に存在し、そのため本邸は実質政府機関の様になってしまっている。
そこで二人のために新たに発注したのであった。

さて、その様な所にライヒが来る――それは気付く者なら気が付く、珍事ではある。
別邸は公務を持ち込まず、それが原則であるからその存在自体が“公務”である様なライヒが来る事はまず有り得ない筈だったのである。
実のところ、ライヒ当人も「恐らく生まれてから死ぬまで足を踏み入れる事は無いだろう」と部下の前で言った程だ。
とはいえ――キラ=ヤマトの招集となれば行かざるを得ない。
ライヒは手に持っているブリーフケースの中身をそれとなく気にしながら、木漏れ日が降り注ぐ通路を、キラの私室に向かって歩んでいた。


「お忙しい所を呼び出してすいません。ライヒ長官」

キラ=ヤマトは朗らかに笑うとライヒを出迎えた。
その物腰はあくまで低く紳士的。
そうしていると、とても“軍神”と呼ばれ、一人で戦局を引っ繰り返す男に見えない。
しかしこの男はまぎれもなくラクス=クライン、カガリ=ユラ=アスハに次ぐ世界第三の地位にいる者なのだ。

「いえ、キラ様の御呼び出しでしたらいつでも。……ところで奥方様はご不在で?」

一方のライヒも、礼節をもって答えた。
公の場で無ければラクス=クラインの事を“奥方”と呼ぶ位の事はする。

「ええ、今日はザラ婦人とカガリの三人でお茶会ですから。……そういう席に、夫は無粋なだけですよ」

苦笑しながらキラ。
これにはライヒも苦笑する。
自らも経験の有る事だからだ。

「夫の愚痴は、そう言う所でしか申せませんからな。なに、円満の秘訣ですよ」
「そう言う事です。……今日はそんな訳で、お茶も僕が入れる事になりますね。あいにくの不手際だけれど、許して欲しい――ライヒ長官」

そう言って、キラはさっさとお茶の支度をする。
ライヒは、静かに返した。

「我らが“軍神”のお茶――批評など出来ようも有りませんよ」


キラの入れたお茶――特に変哲の無いハーブティを嗜みつつ、ライヒはキラに頼まれていた資料をブリーフケースから出すとテーブルの上に出す。

「……何時から、ご存じで?」

含みを持たせて、ライヒは問う。
テーブルの上の資料は“キラ=ヤマトに関する戦闘時における脳波測定分析結果”というタイトル――言ってみればキラという“軍神”を調べた結果、という事だ。

「貴方なら、僕の事を調べる……そう思っただけです」

相変わらず朗らかにキラは答えた。
そんなキラに、ライヒは胸中に冷や汗をにじませる。

「流石は、スーパーコーディネイター……という事ですか」

今、キラはその分厚い資料をぱらぱらと目を通す様に捲っていく。
だが、ライヒは知っている――たったそれだけの事でキラという人間は内容を細部まで理解出来る事を。
ほんの五分も立たずに、資料はテーブルに置かれる――理解は完了した、という事だ。

「……貴方の意見を聞かせてくれますか、ライヒ長官」

言葉使いはあくまで丁寧で静か。
しかしそれは命令に他ならなかった。
だがライヒとて反骨精神位は持ち合わせている。

「その前に……何故今回は奥様が同席されていらっしゃらないのですか?」
「僕がまず知るべきだと思ったので」

そこには強い意志が込められていた。
今までライヒはキラ=ヤマトという人間にある一定の評価しか下していなかった――即ち“ラクス=クラインに絶対的な忠誠を捧げた騎士”であり、言い換えれば“判断は全てラクス任せ”の“最強の兵士”である、と。

(……傀儡では無いと云う事か。油断していた、という事も有るが……)

こうして対峙してみて、改めて解る事もある――キラ=ヤマトという人間の特異性を。

(本質を理解する――というより、外部からの情報を同時並列に分析出来る人間が、恐るるに足らぬ人間で有る筈は無い、という事か……)

ライヒの内心を見透かしたかは解らないが、キラはクスリと笑う。

「僕は、自分を知りません――知っておかなければならないと思うのは、傲慢では無いと思うんです」

やはりこの男は“化け物”だ、とライヒは畏怖する。
判断が子供っぽくも、決して油断の出来ぬ“化け物”。

……成長する“化け物”という存在に他ならない――。

だがライヒはあくまで平静を装い、先程のキラの質問に答える――今この場では、誠心誠意応えてみせる事で。

「……その資料を纏めると、キラ=ヤマト様。貴方様は――特に戦闘時における貴方様は、“第八世代コンピュータ”に最も近いと申し上げる事が出来ます」
「…………」

“プロジェクト=コーディネイター”。
かつてジョージ=グレンが提唱したプラント政府が決定的に連合政府と決裂した契機となった計画。
それは、“宇宙という過酷な環境下に於いて最大限の実力を発揮する事の出来る、生まれながらのスペシャリストを作成する”という、“人体の禁忌”に真っ向から立ち向かうものだった。
当然、ブルーコスモスの例を挙げるまでも無く反対意見は多岐に及んだ。
が、ジョージ=グレンは“プロジェクト=コーディネイター”を全力で推進。
モデルケースとなる人間を造り出し、そして改良に改良を重ねていった。
……そして、その最終結果として生み出されたのがスーパーコーディネイター“キラ=ヤマト”である。

既にその計画は抹消され、関連文書も細心の注意の元に抹消された。
もう一度、スーパーコーディネイターを生み出す事が出来ない様に。
何故、その様な事が行われたのか。
国家プロジェクトとして推進されたものが、その国家そのものから危険視され抹消されるまでに至ってしまったのか――それは現在に於いても全くの謎である。
だが、推論をする事は出来る。
……彼等の目指した“コーディネイター”とは何なのか、そしてその中で“スーパーコーディネイター”として別枠で登録されたキラ=ヤマトとは何なのか。
――それは、イコールで結ばれる事である。

「コーディネイターとは、“様々な環境下で最適な行動を行える様に創られている”と定義をするのであれば、一つの結論は出てきます。……それは、“人間をコンピュータの様に創り上げる”という事です」
「…………」
「例えば、人間には“雑念”は存在します。しかし、コンピュータには“雑念”は存在しません。与えられた状況、環境下に於いて最大の能力を発揮するべく“演算”するのみです。……これを兵士、軍人に置き換えれば“自動的に、最も効果的な手段で戦える兵士”となる訳です」
「…………」

キラは、何も答えない。
だが、ライヒには解る――今のライヒの言葉が実感としてキラに感じられているという事が。

「人間の思考をコンピュータに置き換える試みは、モルゲンレーテでも行われています。あれは、疑似人格と云うべきものではありますが……。しかし、こうした技術がここ数年で飛躍的に向上した事は疑うべき事象でもあります」
「……“プロジェクト=コーディネイター”の技術が流出していると云う事ですか?」
「間違いは無いでしょう」

ライヒがそう締めくくると、キラは黙り込んでしまった。
ややあって、ライヒが退席の意を伝えてもキラは何か、考え込んでいる様だった。
お互い挨拶もおざなりに、ライヒは退席した。


またも木漏れ日の廊下を歩きつつ、ライヒは思う。

(――コーディネイターが疑似コンピュータだとしても、“軍神”の異常な強さは全てが説明出来る訳では無い。遺伝子情報に、戦闘記録を添付する……? そんな事が、出来る筈も無い。だが……)

ライヒはふと、上を見上げる。
差し込んでくる日差しを、掌で遮りながら。

(人の柔軟性、機械の正確さ。それが合成されるのならば、“軍神”の強さもある程度理解も出来る。――ドーベルマン。お前は、勝てると思うのか……? 我々が戦わねばならぬのは、想像も付かない“人”か“機械”かすらも判別出来ぬ、紛れも無い“恐るべき化け物”なのだぞ……?)


ライヒは子供達の笑顔を見ながら、別邸を後にした。
……しかし、心持ちは全く健やかでは無かった。

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