「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第15話「激動の世界」Aパートその2

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今の自分が置かれている境遇。それについて、ソラの頭の中には一つの言葉しか思い浮かばなかった。
(信じられない)
円卓を囲み、紅茶を片手に親しげに語らう若者たちの輪の中にソラはいた。
正面に座るのは平和の歌姫にして、統一連合の象徴であるラクス=クライン。
その左隣には、世界の守護者にして、最強のMSパイロットである軍神キラ=ヤマト。
キラのさらに左隣には、統一連合首席、現政権のトップであるカガリ=ユラ=アスハ。
ラクスの右には近衛師団団長、キラ=ヤマトに唯一匹敵するパイロットとして名高いアスラン=ザラとその妻が座っている。
テレビでしか見たことの無い(正確に言うとカガリとメイリン以外には直接会ったことがあるのだが)、雲上の人間と思っていた人たちが確かにソラの眼前にいる。
彼女たちはお互いに気の置けない会話を交わしつつ、時にソラに微笑みかけ、その体調をいたわり、あろうことか紅茶のおかわりを注ぎ、お茶請けのクッキーを勧めてくれているのだ。
(何で私、ここにいるんだろう?)
ハロが膝の上で憎まれ口を叩いているが、それはソラの耳には届いていなかった。

これよりほんの少し前……サナトリウムの中が急に慌しくなり、職員が青い顔をして駆け回っている理由をいぶかしむ間もなく、ソラは中庭まで連れてこられた。
「今から、貴方に会いにお客様が来ます。くれぐれも、粗相のないように」
病院長からそう言われても、いったい誰が会いに来るのかソラにはまったく予想が付かなかった。孤児院の友達か、学校の教師、それにジェスくらいしか、訪れる人間の心当たりはない。 
しかし彼らに対して「粗相のないように」とは不自然である。
結局訳も分からず、ハロを抱えながら来客を待つソラの前に、その客が現れたのである。
ああアスランさんだ、と開きかけた口がそのまま閉じなくなってしまう。
こめかみを押さえるアスランの後ろから次々と、とんでもない客が続いてきたからだ。
「サナトリウムとは、こういう風になっているのですね。私も一度入ってみたいですわ」
「……療養のための場所だから、調子が悪くないと入れないよ」
「激務で倒れたら、私は入れるかな」
「冗談でも、そのようなことはおっしゃらない方が」
彼女らはソラに近づき、自己紹介をしながらその手を差し出してきた。機械的に握手を交わしながらも、ソラの目は宙をさまよい、口は酸素不足の金魚のように大きく開いたままだった。
それを見て、今回は卒倒しなかっただけマシか、とアスランは胸中で呟くのだった。

「あらあら、何か沈んだ顔をしていますのね?」
不意にかけられた言葉で、ソラは我に返る。
「あ、は、は、はい、ラ、ララ、ラクス様!」
「はい、ソラさん。あらためて、今日はお会いできて、うれしいですわ」
「はは、はい!こちらこそ」
「あらあら、ごめんなさい、親しくも無い人にいきなり押しかけて来られては、緊張してしまいますよねぇ」
緊張しているポイントが明らかに違うよ、と他の四人は一様に思ったが、ラクスは気にも留めずにソラのカップを手にとる。紅茶を注ぎながら、さらにソラに語りかける。
「さあ、緊張を解いてくださいな。いきなり押しかけて来られて迷惑でしょうが」
「そ、そんなことありません。ほ、本日はお越しいただき……」
ソラの様子を見て、ラクスは軽く息をつき微笑んだ。そして紅茶を一口すする。
「ソラさんもどうぞ」
「は、はい、ありがとうございます」
ソラは一口紅茶を飲んで、少し驚いた。少し柑橘系の甘さが口の中に広がったのだ。
「あら。お口に合わなかったかしら? ちょっとラズベリージャムを入れてみましたの。ロシアンティですのよ」
「ロシア……」
「キルギス……ソラさんのいたところの近くの飲み方だそうですよ」
「ガルナハンの……」
ソラはもう一口、紅茶を口にした。口の中に淡い甘さが広がる。同時にガルナハンでの経験が頭の中に駆け巡った気がした。
自分の作った豆とジャガイモのスープをみんなが喜んで食べていたこと。
その後の硝煙の香り。
嘘に塗り固められた報道。
白銀の世界。
食べ物とも思えないものを口にしながら飢えをしのぐ人々。
……ターニャ……。
ソラのほほを一筋の涙が伝った。あまりに凄惨な世界。あまりに過酷な現実。あまりに悲しい別れ……。
ソラの涙はかれることなく流れ続け、いつしか口からは嗚咽が漏れ始めていた。
 他の面々が、いきなり泣き出したソラをどう扱ってよいのか考えあぐねている中で、ラクスは一人、すっと立ち上がり、ソラのもとに歩み寄った。
「……とてもつらかったんですのね……」
ソラは答えられなかった。ガルナハンでの別れは、ソラにとって人生ではじめての「別れ」であり、ターニャとの別れは二度と会うことの出来ない「死別」であった。
二度とは戻らない時。それは後悔などという生易しい感覚ではなかった。
あえて言うのなら、それは憎しみだった。
人が人を殺さなければ殺される現実への。
人が人をだまさなければ生きていけない現実への。
そして、それを知っても何一つ出来ない自分自身への憎しみだった。
「……私……何も知らなかった……。何も出来なかった……。みんな……みんな必死に生きていたのに……」
「ソラさん……あなたはとても優しい子ですのね……」
ラクスはソラをいつくしむように見つめ、そっと手を肩に置いた。
「世界中の人々があなたのようなら、世界はすぐに平和になるのでしょうに……」
ラクスの手のぬくもりが肩を通して体中に広がっていくような感覚にソラは満たされていった。あまりにもやさしいそのぬくもりは辛い現実から守ってくれているように感じられる。
(……ターニャ……)
その大いなる守りに守られながら、ソラは泣き続けた。一生のうち、これほど人に甘えてなくことが何度あるだろうか。
何も出来ない自分が人に甘えることに嫌悪感を覚えながらも、ソラの涙はとめどなくあふれ続けた。
「……あそこには……ガルナハンにはこんなにおいしい紅茶なんてありませんでした」
泣きじゃくりながらソラは自然と語り始めた。
まるで、それは母親に悲しいことを報告する子供のようだった。
「食べるものもほとんど無くて……寝てるとすぐに戦いになって……」
「………」
「それでも、みんな必死に生きていて……明日死ぬかもしれないのに、私の作ったスープをおいしいって言ってくれて……」
ソラはとまらなくなる自分の思いをそのまま言葉にした。
「ラクス様……なんで……なんで世界はこんなに血みどろなのに、わたしはこんなところに、こんな人から優しくされていいんですか?」
 ラクスはたまらなくなりソラを抱き寄せる。ソラもそれに逆らわず、その身を預ける。
キラもアスランもメイリンも押し黙っていた。戦いの悲惨さを目の当たりにして神経をすり減らせば、人のぬくもりを求めたくなる。その経験は皆が等しく持っているものだったからだ。
カガリなどは、すでに目を潤ませて、必死に涙をこらえている状態だった。
そしてラクスは、ソラに優しく語り掛ける。
「ソラさん……。あなたは……今のままのあなたでいてください」
ソラははっとした。
(ソラ―――あんたはそのままで居てくれ。そのままで―――)
あの人の言葉が頭の中に響き渡った気がした。
いつしか涙は止まり暖かなラクスのぬくもりに包まれたソラがいた。記憶はまったくないが、まるで母親の胸に抱かれている幼子の頃のような感覚だった。
(今のままの自分……)
 何度も……何度もソラはその言葉を心の中で繰り返した。

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