「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

懐かしく遠い場所・改訂版

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 なかなかこない情報への苛立ちが、十分すぎるほど募った頃。
 ようやくイザーク隊のもとに『ダスト』が第三特務隊を相手取って戦った際のデータが送られてきた。

 とはいえそれも現場の気象条件や周辺の地理といった、戦闘の詳細というには程遠いものがほとんどであった。
 雪上に残されていたという戦闘の痕跡も、化学データを伴わない映像だけではおおざっぱな推理の材料にしかならない。

 得られる情報を得ておかずに被害を拡大するのは、愚か者のすることだと二人は身に沁みて知っている。
 ダストだけではない、かのドーベルマンを倒したという機体のことも気になっていた。
 情報はできるだけ欲しいのが正直なところだ。


 舌打ちしながらも端末を操作していたイザークの動きが、一拍ほどの間止まる。
 やがて慌しく別のデータを呼び出し見比べた後、イザークはガンッとデスクに拳を叩き付けた。

「おいおい、どうかしたぁ?」

 また何か、腹に据えかねることでもあったのかと。
 ディアッカは、自身のめくっていた書類をデスクに置きながら尋ねた。

 けれど予想していたような愚痴の数々は吐き出されてこなかった。

 イザークは展開された画面を睨みつけるようにしばし凝視し、やがてガタリとディアッカに席を譲るように無言で立ち上がった。


 意を汲み覗きこんだディアッカは眉を寄せ、イザークの態度の理由を知った。

 そこには、雪に埋もれつつある瓦礫の姿があった。
 かつてナスル村と呼ばれたその集落に、残されていた破壊の痕は。

「特務隊によるもの、だろうな」

 激昂した声ならば聞きなれている親友の、抑揚を抑えようとして少しひび割れた声。
 無理も無い。
 上空から撮られたのだろう映像の一部を拡大すれば、崩れた建物から生える子供の足すらも見て取れた。


 軍人と軍人、国と国との戦いからやがて、ディアッカたちの戦場はレジスタンスを相手にしたものへと変わっていった。

 戦う者と民との垣根は次第に薄れ、潜在的な敵であった民が掃討に巻き込まれるケースも、けっしてこれが初めてではない。


 この件で今更に、戦うと決めた心が揺らぐことはない。ただ、やりきれない想いが残るだけだ。

 かつてイザークは難民の乗ったシャトルを落としていたことを知り、そしてそれを赦された。
 以来、彼の戦う理由の中心に根差しているものの存在を、ディアッカは知っている。

 それはイザーク自身の潔癖さと相俟って彼を戦場から逃さず、真の狂信へも逃げ込ませず、また今回のようなケースでは人一倍強い憤りや痛みを彼に与えるのだろう。


「被害の実態解明、補償に復興支援・・・管轄またがってる分、さぞかし遅れてるだろうねぇ?」

 こっちでも調べておきますか、とディアッカが口にしたのは質問というより確認だった。

 組織同士の連携の悪さはお互い身に沁みて知っていたし、対処を具申するにしても何にしても、現状を把握しないことには始まらないのだから。


 イザークは首肯した。

 迅速な救援の為にも、と。
 レジスタンスという脅威を取り除くことに、ディアッカにしてもイザークにしても躊躇いは感じていなかった。




 そして・・・・・






「・・・『やがて、その時は訪れた。
 彼らは民の命ごと、我らの地を焼き払ったのである』・・・か」


 ディアッカは皮肉な思いで諳んじる。



 『軍神』キラ・ヤマトの部隊がガルナハンの首都バードクーベを焼いた。



 それはディアッカ自身の負傷や自軍の不和により、ジュール隊が撤退を余儀なくされたその後のことだった。
 その報せは療養の床へ、ナスル村の調査を引き継いでくれていた部下から届けられた。

 “何か?”と問うような眼差しを送ってきた部下に、軽く肩をすくめる。

「いいや?思い出しちまっただけ。『歌姫』の偉大なる父君の、演説の一節さ」
「・・・そうですか」


 演説はこう続く。
『奪われた同胞の痛みを、残された者たちの嘆きを、我々はけして忘れない。
 忘れてはならない』と。

 かつて自治権を、そして自身の作り出したものをどうするか自分たちで決めさせて欲しいと自由貿易権を求め、勝ち取るための闘争を始めた地があった。
 訴えは退けられ、勢力は地下に潜り・・・搾取に抗おうとすれば武力による衝突は避けられなくなった。

 その地の名はプラント。
 数あるレジスタンス組織たちにとっては、成功した偉大なる先達。

 ディアッカが諳んじたのは、『血のバレンタイン』に関する有名な演説の一節だった。

 さもバードクーベの一件を指したものに聞こえるのは、時節柄というものだ。



「で、現地の詳細はイザークのとこにいってるわけ?」
「はい。部外秘扱いですので、こちらにはお持ち出来ませんでしたが・・・って、何やってるんです?」
「え?そりゃあ・・床払い?」
「なっ・・・・!」

 何を考えているんですか!?という悲鳴じみた声をあげる部下の前で、重傷者もといディアッカは軍服の上着を羽織った。

「何って言われても、MSに乗って戦うだけが仕事じゃないからねぇ?あ、そうそう」

 一つ、頼まれてくんない?
 『頼みごと』を耳打ちされて、部下は目を丸くした。




 復帰したディアッカに、イザークが机に叩きつけるよう寄越してきたのは詳細を伝える資料だった。

 惨状と言うより無い街角の様子に、ディアッカは思わず眉を寄せる。

「・・・・・・・統一連合は今回の件を、隠蔽することを選んだ」

 地を這うような声で、イザークが告げる。

「目撃した者、関わった者たち全て、これを口外することまかりならんと。
 民には・・・忘れろと」

 少しだけ揺れた語尾が、冷笑じみた笑みを帯びた。
 知っているのだ。彼らは、けして忘れまいと。

 かつて自分たちが感じた怒りや悲しみの記憶が、ガルナハンに生きてきた人々の今と重なる。
 そして強く胸のうちから湧き上がる怨嗟、その声すらも封じられたのなら。それは、どんなにか酷く(むごく)。


「それで、今回の件お咎めは無し、と」
「存在しない件で、誰が裁かれるっ!?」

 ざっと目を通し終えた書類を整えながら口にしたディアッカの言葉に、イザークが吐き捨てるように言った。
 まして加害者である部隊の責任者は『軍神』。
 その名を堕とすことを、選べる筈も無い・・・そうわかっていても納得できないのがイザークであったし、ディアッカもそれを知っていた。


 嘘の上に立つ、正義。経緯はどうあれ虐殺は、追認された。

 ついにここまできたとは思うが、衝撃で目の前が暗くなるというほどでもない。
 ただ静かに、やはりどこかで自分たちは間違えていたのだと、この現状に嫌でも認めざるを得ないだけだった。


(・・・それでも)


 言えばふざけるなと誰からも怒鳴られるかもしれないが、壊滅した街で声をあげる人々に、ちょっとした懐かしさと共にごく僅かな羨望を覚える。
 大切なものを失い虐げられ怒り、もう奪わせてなるものかと叫ぶ正義には、一点の曇りもないのだろう。

 ただ一番に守りたいと願っていたものから故郷から、今は隔たった場所に立ち。


(それでも、ここで投げ出すわけにはいかないでしょう?)


 今更にここで非力な個人に戻ることも、力を持ったまま外に出て組織ごと否定することも、できないわけではない。
 ただ、ディアッカにはそれを選ぶ気がないだけだった。
 根底には剣を取ることで守れたものへの自負がある。

 間違っていたと一度認めて向き合えば、それを正す為にこの場所からできること、たすけていけるだろうものが見えてくる。


「・・・・奴にコンタクトをとれ」
「それならもう、手配済み」

 イザークの言葉に、ディアッカは不敵に微笑んで応えた。

「フンッ、手回しのいいことだ」
「そりゃ光栄」

 『良心』アスラン・ザラを巻き込んで、変える為に、変わる為に。

 まだ自分たちには足掻けることがある・・・その認識が共通しているからこそ、二人とも胸を張って立っていられた。



 永遠の夢の中へも、大切なただ一つを守ると誓った幻想へも、もう戻れまい、と。
 一抹の寂寥を胸に、彼らは動き始める。


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー