「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第22話「その名はストライクブレード」Dパート

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匿名ユーザー

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 必死に逃げ回っていた努力も実らず、とうとうストライクブレードに追い詰められるシホ機。攻撃の届く間合いに入ったと見るや、相手は対艦刀を上段に構え、そのまま一気に振り下ろす。

「……こんなところで、やられるものですか!」

 とっさにライフルから対艦刀に武器を持ち替え、シホは両手で持った対艦刀を真横に頭上で構える。

 敵の渾身の一撃をかろうじて受け止めるシホ。すさまじい衝撃にシグナスの関節部は悲鳴を上げた。

 だがパワーの差は歴然としており、両手どころか全身で支えられたシグナスの対艦刀を、ストライクブレードは片手一本で押し込んでゆく。互角どころか、徐々に圧されているのは明らかにシグナスの方だった。

 このままでは、対艦刀ごとシグナスが押し潰されるのは目に見えてた。必死に相手を跳ね返し体勢を取り直そうとするシホだったが、それを敵が許すはずも無い。

「捕まえたな。これで終わりにさせてもらう」

 イザークはスロットルを全開にしようとする。

 動きを止めた二者は、相手の機体を凝視し、その瞬間、二人が同時に気づいた。

 シホはブルーとシルバーを基調とした相手の独特な機体色と、対艦刀に彫られたYJのイニシャルに。

 イザークは相手の肩に彩られた鮮やかなホウセンカの絵柄に。

「まさか……貴方はイザーク隊長?!」

「もしやシホ、シホ=ハーネンフースか!」

 その言葉を契機に、一旦両者が離れて間を取る。すぐに気を取り直したのはイザークの方だ。ライフルを構えてビームを放つ。それを避けつつ、シホは全周波で回線を開き、必死に呼びかけた。

「イザーク、イザーク隊長ですか! 答えてください! 」

 イザークはシホの言葉に応じた。ただし、少なくとも表面上は特段の感情も込めず。

「やはりシホだったか。反政府組織に身を投じたといううわさは聞いていたが、まさかこんなところで会うとはな」

 その淡々とした物言いに、逆にシホは激情を掻き立てられる。

「隊長こそ……なぜ、なぜプラントの、いやプラントだけでなく、多くの国々の独立を踏みにじるような統一連合に手を貸すのですか! 」

 かつての部下からの非難の言葉に、イザークは動じた風も無く、今までどおり容赦ない攻撃をシホに浴びせる。それでもシホはイザークに思いのたけをぶつけ続けた。

 シホ……彼女にとってのイザークは歴戦の勇者であり、尊敬する上官であり、そして憧れの男性であった。

 士官アカデミー時代からとどろいていた勇名。はじめは、最高評議会議員の家系に連なるお坊ちゃま、と偏見の眼で見ていたシホだったが、実際に同じ部隊に配属され、部下として行動をともにするにつれ偏見は消えうせた。

 卓越した戦闘技術、気丈で正義感の強い性格、部下に対する厳しくも暖かい指導。それらすべてがシホにとっては賞賛と憧憬の対象だった。

「お前の戦い方は、まるでホウセンカが弾けるようだな」

 とある戦闘の後、イザークにかけられたその言葉こそが、彼女が自身のトレードマークを決めたきっかけであった。それほどまでに、シホの人生においてイザーク=ジュールという人間は重要な位置を占めていた。

 そのイザークが支持するラクス=クラインだからこそ、一度はシホも従おうとしたのだ。

 第一次の大戦後に姿をくらまし、その後突如現れたかと思えば最高評議会議長を武力で倒し、その後釜に座ったラクスの行為。そして独立を目指して戦っていたはずのプラントはオーブに併合された。こういった一連の流れに釈然としなかったものを感じつつも。恒久的な平和の礎を築くためには不可避の行為なのだと無理やりシホは自分を納得させていた。

 しかしその後、統一連合が発足し、プラントのみならず諸国を徐々に制圧するにいたり、シホの不審は頂点に達し、彼女はプラントを去った。もうラクス=クラインのやり方、そしてイザークを含めそんなラクスを支持するプラントには付いていけない、と。

 だからこそ、再会したイザークに問いかけずにはいられなかった。

「貴方も、プラントの自由と独立のためにZAFTの一員として戦ってきたはずです。なのになぜ、それを奪い去ったラクス=クラインの手先となっているのですか! 」

 彼を尊敬していたからこそ、その行動が許せない。浴びせかけられるシホの糾弾にも似た疑問。だがそれにイザークは答えることはない。

「……言いたいことはそれだけか? 」

「な、何ですって! 」

 酷薄とも言えるイザークの態度だった。彼は、かつての部下に容赦のない攻撃をくわえつつ、その糾弾を一蹴してみせる。

「どのような主義主張を唱えても構わんが、今の俺とお前は敵同士だ。敵を前にして激情にとらわれるようでは、軍人失格だな。ましてやお前たちの陣営は今危機に陥っている。個人的な感情をここでぶちまける余裕などあるのか? 」

「う……! 」

「軍人ならば、例えどれほどの思いが胸にあろうとも、冷静に行動し、目の前の敵を倒し、作戦を遂行することだけを考えろ。

 俺はそう教えたはずだが。どうやらお前は理解していなかったらしいな」

 もはや対話は不要と、イザークはさらに苛烈な銃撃をシホに向けて放つ。避けきれない一発がシグナスの脚部をかすめ、ホバーユニットの一部を溶解させた。

「先刻よりも状況は悪化したな。さあ、どうする? 」

 遠距離攻撃の手段を失ったシグナスとの距離を再び詰めようと、イザークはホバーを全開にした。シホもそれにあわせ距離を取ろうとする。しかし、その動きは、ホバーへのダメージだけでなく、搭乗者の精神的動揺を反映してか、今ひとつ精彩を欠いていた。






 ミサイルがスレイプニールの横腹にまともに着弾した。機関部への着弾こそ免れたが、大きな風穴が開く。煙の向こう側に、倒れて動かぬ乗員の姿が見えた。

「畜生、畜生、畜生! 」

 少尉は叫ぶ。これ以上犠牲者を出してなるものかと、次にスレイプニールに迫ってきたビームの砲撃を、バックラーを構えて正面から受け止めた。

「馬鹿野郎! 無茶するな! 」

 大尉の叫びもむなしく、バックラーはビームの熱量を受け止め切れず、過剰分のエネルギーはシグナスの両腕にまともに襲い掛かった。

 爆発が起こり、少尉のシグナスは地面に倒れこむ。両腕の肘から先がきれいさっぱり無くなっていた。

 一瞬、背筋に冷たいものが走った大尉だったが、コクピットがほぼ無傷なのを認めてほっと胸を撫で下ろす。

 しかし少尉の安否を確認している余裕は無い。大尉のシグナスも、スレイプニールをかばいながらの戦闘で全身傷だらけなのだ。

「中尉! そっちはどうだ! 」

「機体はまだ平気です。しかし銃の方が持ちそうにありません。連射で放熱が追いつかない。警告ランプが点灯し続けています! 」

 そう言いながらも中尉は、砲身が溶けても構うものかとばかりに連射を止めようとしない。

「尻尾を巻いて逃げ出したいところだが、それすら許してもらえそうもねえな。
くそったれ! 」

 窮地には慣れているはずの男たちの顔からも、余裕はとうに消え去っていた。






(リーダー格の奴さえ倒せば、まだ風向きが変わるチャンスはあるはず! )

 シンは柳に風の如き動くディアッカ機に苦しめられながらも、ようやく接近戦が可能な距離まで近づこうとしていた。

「今まで散々痛めつけてくれたな。たっぷりお返しをしてやるぜ! 」

《油断するな、シン。このままやすやすと倒されてくれる相手じゃない》

 しかしシンはレイの警告も耳に入らない様子だった。対艦刀を抜き放ち、今にも飛び掛らんとするダストガンダム。

「おやおや鬼気迫る形相、って感じだねえ。そんじゃまあ、イザーク、後は任せるわ」

「よかろう。選手交替だ」

 イザークはそれまで一心不乱に追いかけていたシホ機から、不意に軌道をそらせて、明後日の方に進路を向ける。

 それは見事な連携だった。

 シホを追い詰めるイザーク。シンに追われるディアッカ。二人は互いの位置関係を把握しつつ、絶妙のコンビネーションで、少しずつその距離を近づけていた。シンとシホには意図を見破られないように。

 そしてタイミングを図るや、一気にスピードを上げ、双方の位置関係を入れ替わらせたのだった。

「イザーク隊長……逃げるつもりですか! 」

「その言葉、負け惜しみにしかならんな」

 なるほどシホに絶叫している暇などなかった。いままで必死に距離を開いて戦おうとしていたのにもかかわらず、今度は遠距離を得意とする敵を相手にしなければならなくなったのだ。

「さあ、思う存分撃ち合おうぜ! 」

 しかし、気持ちの乱れもあってか、なかなか戦い方のリズムを切り替えられない。今度は、シホがディアッカの射撃に苦しめられる番だった。






 そして、危機的な状況はシンも同様だった。

 接近戦を得意とするのはシンもイザークも変わらない。しかし、意図して攻撃対象を変えたイザークに比較して、シンは今まで逃げる相手を捕まえるべく動き続けてきたために、いきなり接近戦を積極的に仕掛けてくる相手への変化に対応しきれない。

「どうした! 第三特務隊を倒した実力はこの程度か! 」

 イザーク機は左腕をダストガンダムに突き出した。その腕に供えられたのは、禍々しい鋏状の武器、ストライクブレードの近接戦における必殺技、デストロイ・バイスである。

 強力な万力とも言えるそれは、PS装甲すら押し潰してしまうほどの破壊力を持っている。まともに食らえば、機動性を重視した軽装甲のダストガンダムなど、一捻りにされてしまうだろう。

《左後方、対艦刀は捨てろ!》

 レイの指示にシンは従った。重い対艦刀を捨て、全力で左後方にバックステップする。それが功を奏し、ダストガンダムはデストロイ・バイスの牙をかろうじて免れた。ただし、対艦刀を犠牲にして。

 哀れ柔らかいアルミのように捻じ曲げられ、無用の長物となった対艦刀を放り投げると、イザークはダストガンダムに一歩一歩近づいていく。

「獲物はなくなったな。さあ、これからどうする? 」

 シンの口の中が乾いていた。リーダー格を倒して流れを変えるどころか、追い詰められているのはシンの方だった。

 それでもシンは気力を振り絞る。

「こんなところで……こんなところで終わってたまるか! 」

 ダストガンダムは対艦刀の代わりとばかりにビームサーベルとアーマーシュナイダーを両手に持ち、イザークに飛び掛る。イザークは対艦刀を正眼に構えそれを迎え撃つ。

「むう? 」

 しかしダストガンダムは切りかかりも、突きかかりもしてこなかった。代わりに放ったのはスレイヤーウィップだ。ウィップはシンの狙い通りストライクブレードの対艦刀に絡みついた。

「捕まえた! 」

 シンはそのまま相手を全力で引きずり回し、バランスを崩したところに攻撃を仕掛けるつもりだった。だが……

「俺に奇策は通じない! 」

 イザークのストライクブレードが跳んだ。

 相手の動きに抵抗するのではなく逆に利用する。イザークはダストガンダムが自機を引っ張る力に逆らおうとせず、あえてその方向に機体を走らせた。

 言葉にすれば簡単だが、シンが操るダストガンダムの動きを正確に見極め、それに即座に対応しなければ可能な行為ではない。しかしイザークは難なくそれをやってのけ、ダストガンダムに肉迫すると、対艦刀を突き立てた。

「うわあっ! 」

 かろうじて避けたシンだったが、腕までは間に合わない。イザークの一撃をまともに受け、ダストガンダムの左腕はスレイヤーウィップごと切り落とされ、雪上に無残に放り出された。

 ダストガンダムはそのまま地面に膝を付く。イザークの斬撃の勢いを殺しきれず、負担のかかった脚部や腰部にダメージが残ってしまったのだ。

《油圧系統にトラブル発生。立位姿勢の早期回復困難。シン、機体を捨てての脱出も検討しろ》

 レイの言葉はシンの耳に届かない。もはや急ぐ必要もないのだろう。止めを刺すのに慌てることもなく、ゆっくりとダストガンダムに近づいてくるストライクブレードにすべての意識は注がれていた。

(俺は……負けるのか? マユや父さんや母さん、ステラ、ルナ、レイ、ミネルバの皆の仇もとれずに、こんなところで朽ち果てるのか?)

 死を間近に感じているのはシンだけではない。スレイプニールは度重なる被弾にとうとうエンジンを停止させた。大尉と中尉のシグナスももはや弾が尽き、少尉のシグナスは倒れたまま、シホはディアッカの銃撃で満身創痍の状態だった。

 リヴァイブは今まさに壊滅せんとしていた。






 ふと、ストライクブレードの脚が止まった。

(くそ、なぶり殺しにでもするつもりか! )

 シンの予想は外れた。イザークのストライクブレードは少しの間静止していたが、急にきびすを返すと、ダストガンダムに背を向けてその場を去る。去り際に右腕を頭上に大きく掲げ、信号弾を天空に放った。

 信号弾が光を放つと、それを合図にイザークだけではなく、ディアッカ機も、バクゥの一団も、崖の上のマサムネたちも、全員が撤退しはじめた。

「何でだ? 何でとどめを刺さない! 」

 シンは叫ぶ。だがイザークたちがそれに答えることはない。

 吹雪がなお止まぬ中、白い景色の向こう側に消え行くイザーク隊を、ただリヴァイブの面々は呆然としながら見送るだけだった。

 自分たちがかろうじて命を拾ったという事実を喜ぶ余裕もないままに。

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