「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第16話「世界の裏側で」Bパート(原案)

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統一連合に反抗するレジスタンスたちのリーダーが一同に会すことは稀有な事である。何故かというと密接な協力関係を築いてはいるものの、連絡や調整は通信ないし伝令を介しておこなうことがほとんどだからである。

活動そのものを秘密裏に行わなければならないことが第一にある。さらには組織が脆弱であるため、リーダーが集ったところを敵に狙われて一網打尽にされる危険性は取れない、という理由もある。それでもきわめて重要な決定を下すために、直接に話し合う機会はある。季節は決まって冬。政府軍の活動が沈静化する時期だ。

吹雪の只中。ローゼンクロイツのアジトの一つにてその会合は行われていた。

ローゼンクロイツのリーダー、ミハエル=ペッテンコーファーを始めとして、東ユーラシアを拠点として活動する主だったレジスタンス組織の長たちが顔を並べている。その中には当然ながら、ロマやラドル艦長の姿もあった。

そして彼ら――ロマとラドルを除いた――は、最大勢力である組織の長という事もあり、議長を務めるミハイルから挨拶もそこそこに放たれた言葉に己の耳を疑うことになる。


「今回集まってもらったのは他でもない。稼動まで秒読みに入ったコーカサス州の大規模地熱エネルギープラントを、レジスタンス勢力を糾合の上、全面攻勢をかけて奪取。その成功を交渉材料として、東ユーラシア政府に対して各州の自治権拡大を迫る為、再び力を合わせる時が来たのだ!」

ミハエルは続ける。

「確かに彼我の戦力差は明白だ。東ユーラシア政府のみならず、統一連合の国防軍が投入されるとあっては我々レジスタンスの戦力を全てかき集めても、何倍もの戦力差が生じるのは確実だ。だが、エネルギープラントを攻略するならば今を置いて他はない。プラントが正式に活動すれば、そのエネルギー供給によって政府の力は増大する。敵が強くなるのを見過ごす理由は無い。それに統制の取れていない政府軍や治安警察の一部隊と違って、正式に投入された国防軍を撃退できれば我々レジスタンスの存在を東ユーラシア政府も無視できなくなる。」


そこまで言うと一旦、言葉を区切りロマを見るミハイル。それにつられて、自然とロマに注目が集まる。


「また、皆も知っての通りリヴァイブの諸君が悪名高き地上軍第三特務隊を撃破したことで、今後は政府軍も国防軍もレジスタンスに本格的に対応するようになるだろう。時間が経てば経つほど、相手方に周到に準備をする余裕を与えることになる。重ねて言う!エネルギープラントを攻略するならば今を置いて他はないのだ、春になる前に決着をつける必要があるのは言うまでも無いだろう」


ミハエルの説得をもってしてもなお不安感を払拭しきれない面々。だがそれも予想の範疇なのかミハイルに焦りは見られず、むしろふてぶてしい笑みを浮かべ周囲を一瞥すると続ける。


「リスクが高いと皆は思われるかもしれない。だが、勝算が無いわけではない。何故なら今の季節は冬だ。国防軍も訓練は積んでいるだろうが、厳冬期における戦いはレジスタンスの方に一日の長がある。しかも戦場は我らが普段活動している、いわば自分の庭のような場所だ。対する国防軍はここの地理には疎い。そして、ここが一番肝心なところだ。これはミッドガルド師団の同士が得た情報なのだが……」


ミハエルが手元のスイッチを入れると、背面のスクリーンに映像が浮かび上がった。統一地球連合軍の制服を着た、将校と思しき人物達がそこに映し出される。


「国防軍総司令官はイエール=R=マルセイユ中将。そして副司令官はカリム=ジアード……『中将』?」


映像が出てすぐ、出席者の一人が疑問を口にした。疑問に思うのも無理も無い。一つの作戦において、司令官と副司令官が同じ地位の者を据えるなど普通はしない。上意下達が基本の軍隊にあって、こんな人事を認めたら命令系統がむちゃくちゃになってしまうからだ。

その言葉に、わが意を得たりとばかりにミハエルが答える。


「そう思うのも当然だ。しかし、これは嘘でも何でもない。現在の国防軍は二つの派閥に分かれているのだ。しかも、かなり深刻な権力抗争の真っ只中にあるらしい。これはその抗争が飛び火した結果なのだが、実はまだある」


続いて映された東ユーラシア政府の軍司令官の顔写真を見て、一堂はあきれ返った。


「ダニエル=ハスキル、だと? 何でまたあいつが……」


ダニエル=ハスキル少将とは、レジスタンスたちから『疫病神』という渾名を付けられている軍人だ。しかし彼は、指揮もモラルも能力も低いレベルの東ユーラシア政府軍の中にあって、かなり有能な部類に入る。

そんな彼だが、なぜか戦闘では勝ち星に恵まれない。

ハスキル自身はほとんど軍功を上げた事はない。上げられるだけの力は十分に持ち合わせているはずなのだが、なぜかいつも勝利の寸前まで行きながら勝ち星を逃してしまう。
それは彼の上官がハスキルの進言に耳を貸さずに暴走した結果であったり、不意の天候の悪化による援軍の遅延だったり、色々な理由からだ。

そんな彼が作戦に関われば放っておいても相手は足並みは乱れ、勝手に自滅してくれる。故に『疫病神』。


「どうやら疫病神のハスキル殿は、死に体の東ユーラシア政府に見切りを付けて統一連合に尻尾を振ることにしたらしい。色々と手を使って、今回の遠征軍にアドバイサーとして参加する手はずを整えたそうだ。あの男が敵にいる。これが何を意味するかは、自明のことと思う」


『疫病神』であるダニエル=ハスキルが敵方にいる。しかも中枢に。そんな人事が堂々とまかり通るほど、今回の東ユーラシア軍と遠征軍の意思統一は図れていない。


「我々の力を知らしめる時がやって来たのだ!」


もしかしたら、勝てるのかもしれない。あの統一連合軍に。

そんな思いが出席者の表情からこぼれている。場の空気が変わり始めたのをミハエルとロマは感じていた。



会議の終わった後、レジスタンスのリーダーたちはそれぞれの本拠地に帰還した。ただし、リヴァイブから参加したロマとラドルは、ローゼンクロイツともう少し話をするために居残っている。
二人にあてがわれた部屋で、ふるまわれたコーヒーに口をつけると安堵したように天を仰ぐロマに、ラドルがそっと耳打ちする。


「上手くいきましたね」


ロマはうなずいた。実は今回の議案はロマの考えだったのだ。それをあえてミハイルに語らせたのには理由がある。提案したのがロマであったら、「新参の弱小組織のくせに、地上軍の精鋭部隊を運良く倒したからといって調子に乗るな」と鼻で笑われるのは目に見えていたからだ。それでなくともリスクの高い作戦に反対の声を上げる者も多いだろう。だからこそ、このアイデアはミハエルの口から語られなければならなかったのだ。

最盛期と比べ弱体化しているとはいえ、ユーラシアレジスタンスの最大勢力であるローゼンクロイツの看板は裏の世界では未だに大きな力を持つ。

ロマはあらかじめミハイルを口説く事でその看板を借りる事にしたのだ。

その証拠に会議の席上、反対意見に対してミハエルが冷静に説いた言葉は、ロマがミハエルを説得したときのそれと殆ど変わっていなかった。




「しかし、いいんですか。エネルギープラントの攻略の作戦を立案したのは貴方なのに。このままでは、ローゼンクロイツに手柄を殆ど持っていかれますよ?」


ラドルが指摘するも、ロマは笑って答える。


「いいんですよ。僕が音頭を取ったところで誰も付いてきはしません。ミハエルは有能で人望も厚い人物だ。神輿に担ぐなら彼のほうがはるかに適任ですよ」


ロマの言葉には全くよどみが無い。自分の功を誇ることなどまったく興味が無いとばかりの態度だった。ロマの過去を知る人間が見れば、あの頭は切れるが目立ちたがり屋で独占欲の強いセイラン家のボンボンがこうまで変わるものかと、感嘆を禁じえないだろう。


「参謀としての地位は確保しましたから、作戦がまったく僕達の手を離れたわけでもないですしね。それに今回のアイデア料代わりに、ローゼンクロイツから援助物資をかなりもらえることにもなりましたから。うちやラドル艦長のところのパイロットたちも、今回は充実した装備で戦いに臨めそうです。このまま良い春を迎えたいものですねぇ」


にっこりと笑うロマに、ラドルは感心することしきりだった。ここまで首尾よく計画を推し進められるロマの手腕には脱帽するばかりである。

もっとも、後日手料理を振舞われたことで、ラドルのロマに対する評価は四割ほど減る羽目になったのだが。




「ようやく・・・・・・ようやく、ここまで来たぞ、アルベルト」
独り言は静かに響いた。
外の活気と比べると、ミハエル=ペッテンコーファーの部屋は、喪に服しているかのようにひっそりとしている。
死者に語りかけるなど、自分らしくもない。
自嘲しながら、どこか冷めている己の気持ちに気がついた。
本来ならばもっと興奮してもいいはずだ。ユーラシアに散らばるレジスタンスが決起し、統一地球圏連合打倒の旗印を掲げる。このガルナハンで雌雄を決するのだ。
いや、そもそも我ながら冷めた性格であることは承知している。
部下や他のレジスタンスが猛り、気勢を上げている傍で、ミハエルはじっと彼らの心の内を観察していた。
ロマ=ギリアムという得体の知れぬ男に連れられてここまで来た。
今、最も名を上げているレジスタンスのリーダーなだけあって、頭は切れる。目の前の戦いだけでなく、かなり先まで読んで行動しているようにも見えた。
仮面で顔を隠しているため、幹部たちは彼を信用していない。ちょっと智恵が回り、口が達者なだけの、怪しい男だと思われている。だが、ミハエルは少し違った。全幅の信頼をおいているわけではないが、彼の言うことには嘘はないと考えていた。
部下にできるなら欲しいが、まあ、無理だろう。リヴァイブの結束は固かった。それなら、後々邪魔な存在となる前に消してしまった方がいいかもしれない、とミハエルは考え始めていた。



こういうとき、あなたならどうするだろうか。
一人の男の顔を思い浮かべた。
アルベルト=ウルド=メルダース。冗長な名前がここまでしっくりくる人物はなかなかいないだろう。
あの日、翌日にもオーブ軍が侵攻してくるという状況で、二人は別れた。
既に主力部隊は撤退をすませ、ミハエルたち幹部も脱出を図るに際して、アルベルトは独りモスクワに残ると告げたのである。
責任をとる、と彼は言った。
リーダーならば、無関係な人々を巻き込んだ責任、敗北した責任を、とらなければならない、と。



確かに敗北の直接の原因は、アルベルトのミスにある。
配下の急進的な一組織が、和平を目前にして統一連合との徹底抗戦継続を訴えてきたのを、歯牙にもかけず放置しておいたのだ。
路線自体はそれでよかったし、大多数の賛同も得ていた。しかし後のフォローが足りなかった。世の中には理性的に物事を考えられない、損得勘定のできぬ人間がいるという事実を、頭脳明晰なゆえにアルベルトは失念していた。
結局アルベルトの目が届かぬところで、その組織が先走り、ローゼンクロイツ管理下のMSを奪取した挙句オーブの和平派を爆撃に巻き込み、死亡させると言う暴挙を招いてしまったのだ。
せっかく理想的な形で終結しそうだった革命は、最悪の結末を迎えることになった。



責任は後でとればいい。犠牲には勝利で報いればいい。ミハエルは説得した。けれども、アルベルトは頑として譲らなかった。普段は優柔不断なくせに、妙に頑固なところがあるのだ。
彼の最期の言葉はまだ耳に残っている。
『我々は、あの無責任な東ユーラシア政府の連中と同じになってはならない。この戦は負けだ。しかし終わりじゃない。敗戦の責は全て僕が負う。ローゼンクロイツが負わなければいけないのはユーラシアの人々の思いなのだから。
―――さて、ミハエル。リーダーとして最後の命令を下す。残存部隊を率いてシベリアまで撤退。そこで体勢を立て直しつつ、時機を待て。いいね』
大企業のボンボンで、世間知らずのろくでなし。だが、自分にはない、包み込むような温かさをもった人だった。彼がいるならば何を敵に回しても勝てそうな気がした。他の者たちにとっても同じだったろう。
シベリアで、ミハエルは自分がリーダーに向いていないことに気づかされた。



「失礼します。セーヴァです」
「ああ、入れ」
静寂を破って部屋に入ってきたのは若い男だった。
セーヴァは90日革命の後から入隊した者であるが、有能で、ミハエルの片腕となっていた。
といっても、ほとんどのことが一人で出来てしまうミハエルには、秘書兼相談相手、といったところだろうか。
「ギリアム氏がそろそろ作戦の詰めについて話し合いたい、と」
「・・・・・・・・・そうか」
ミハエル=ペッテンコーファーは頭を切り替えた。
死者は何も為さない。彼の頭に浮かぶのはこれからのことだけだ。
「セーヴァ、君は我々が統一連合軍に勝てると思うかね」
「当然です。こちらは士気高く、地の利もあります。リヴァイブの勝利で、我々にとっては追い風が吹いている状態でしょう」
「そうだろうか。正直な意見を聞かせて欲しいのだ、私は」
じろりとミハエルはセーヴァに目を向けた。
「……わかりました。兵数・武装の差は絶対的です。そう簡単に覆せるものではありません。幸い、統一連合軍でまともに戦意があるのはモビルスーツ隊だけのようですから、戦力の集中はしやすいでしょう。緒戦で勢いをつけられると厄介なことになると愚考いたします」
「なるほどな」
ほぼ彼が考えていたことと同じだ。
問題は、敵の指揮官がどう動くか。大軍の利を生かしてじりじり締め上げてくるか、遮二無二攻め込んでくるのか。ミハエルにとっては前者の方が都合が良いのだが。
それに、モビルスーツ隊の中には気になる名前もあった。イザーク=ジュールである。前二回の大戦で多数の戦果を挙げた名パイロット。何事にも手を抜かない軍人だと聞いている。厄介な強敵だ。
しかし、彼の上官たちはどうだろうか。
「うちの軍についてはどうかな。何か気になることはあるかね」
「リヴァイブのモビルスーツ部隊は精強ですね」
そうだ。
少数であるが、リヴァイブのモビルスーツ部隊は他のレジスタンスと比べて図抜けていた。
この戦いの要がモビルスーツとなることは間違いない。
できることなら、引き抜いてローゼンクロイツの直属にしてしまいたいくらいだ。
特にドム=クルセイダー三機を撃退したと言う、あの凄腕パイロット……
「シン=アスカには会ったか?」
「いえ、今日はギリアム氏は彼を連れてきていないようでした。前に一度別件で見かけたことはありますが。それほど、どうという印象も」
あのキラ=ヤマトを正面から打ち破った唯一の男。
しかし、その後アスラン=ザラに敗れている。ミハエルは風評が誇張されすぎていると感じていたが、第三特務部隊をたった一人で倒した腕前は並ではない。
戦略は、彼を中核として考えるべきだろうか。
どちらにしろ、手駒として、一度は見ておく必要がある、とミハエルは考えた。




「ところで、セーヴァ。ギリアム氏はまだ考えを変えるつもりはないのだろうか」
「どうやらそのようです」
ミハエルが言ったのは、戦後処理についてのことだった。
彼とロマ=ギリアムは戦勝後の方針について意見を対立させていたのだ。
「まったく馬鹿げていると思わないかね。東ユーラシア政府とコーカサス州独立を話し合うなど、成功するはずがない。彼らがどれだけ狡猾で薄汚いペテン師か、私はよく知っている」
ロマは、統一連合軍との戦いに勝利した後、占拠した地熱プラントを交渉材料として、東ユーラシア政府にコーカサス州独立を要請するつもりでいる。
レジスタンスに占領された地域を抱え込むより、切り捨てて独立させてやった方が得だ。政府がそう考え始めているだろうことを根拠としていた。
一方ミハエルの考えは、勝利の余勢にかってユーラシア全土を席巻し、西ユーラシアまで併合。ユーラシアを手に入れたら統一地球圏連合と講和し、それぞれの地域に高度自治を保障した、ゆるやかな連邦体制を敷く、というものだった。もし、統一連合が和平に応じなければ、世界各地のレジスタンスに呼びかけて、統一連合との全面戦争も辞さない構えである。
九十日革命での挫折が、ミハエルの態度を硬化させているとも言える。適当なところで和平を求めても、どうせ身内から反発者が出て和平をぶち壊しにするか、統一連合が些細な部分をついて再びユーラシアを蹂躙するのが関の山だと思っているのだ。やるなら徹底的に、妥協はなく、これがミハエルの基本姿勢だ。
ロマはこれに対し、戦火を広げすぎる・戦線が伸びきって崩壊する可能性が高いと、反対していた。



「仕方ないな。これはまた後でじっくり話し合う必要がある。まずは、目の前の戦いからだ」
ミハエル=ペッテンコーファーは立ち上がった。
そうだ。
とにかく、この戦いに勝たなければ何も始まらない。
ふと、彼の目に、夕陽の射光が反射した。
銀製の懐中時計だった。蓋には十字架を背にした薔薇が刻まれている。
ローゼンクロイツが発足したとき、といってもまだ30名ほどであったが、アルベルトがメンバーに贈ったものであった。
あれはいつのことだったろうか。
それほど経っていないはずなのに、随分昔のことのように感じてしまう。
しかし、あの男と語り合った志は、今も何ら変わらない。アルベルトは、自分の胸のうちに生きている。同じ夢を分かち合った友には別れなどないのだ。



「征ってくる」
もう一度だけ、亡き友の笑顔を思い浮かべ、彼は部屋を出た。



後世、この時点で指揮権をミハエルに譲ったロマの選択ミスを指摘する人間もいるが、それは後出しの理屈と言うものであろう。

大勝利に酔ったミハイルの暴走、急変する西ユーラシア情勢、それが東ユーラシアにもたらした深刻な難民問題……そして、ピースガーディアン。

すべてを見通す全知全能の神ならばまだしも、未来に待ち構える、悲劇的な光景を予測できるものなど、この時にはいるはずもない。

その先に待つものが悲劇であろうと喜劇であろうと、人々はそれぞれの地で、それぞれの思いのもとで、ただ淡々と日々を送るのみだった。

そして、やがて迎える春を、人々は心に深く刻み付けることになる。

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