「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第17話「導かれし大地」アバン(原案)

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 この世の中で誰にでも平等なものを二つ挙げよ――そう問われれば、ソラ=ヒダカはこう答えるだろう。“時と自然”と。
 今、ソラの頬を風がそよいでいく。それは心地良いもので、そうしたものを感じる時、ソラは思う――生きていて良かったのだと。
 人が優しくなれるのは、人が嬉しくなれるのは――そうした時の気持ちを伝える術を知っているからだと、孤児院の先生が何時か語った事がある。ソラは確かにそういう風に感じる事が良い事なのだと、様々な経験を通じて知った――遠く、ガルナハンの地で。
 温かな木漏れ日、優しくそよぐ風――あらゆる生命に満遍なく降り注ぐ自然の息吹。それは世界そのものへの自然からのメッセージと言って良いだろう。それを感じる事は正しい事なのだとソラは思う。
 「……ねえ、ターニャ見て。ここが――」
 ソラはそこで一息つくと立ち上がり、遠くを見据えた。遙か彼方の水平線、青い空と白い雲、温かな日差しに照らし出された広大な都市――オーブ、オロファトの街並み。
 「――私のふるさと、生まれ故郷。貴方と約束した場所だよ……」
 ソラが大地に埋めた花が、さわさわと風に揺れる。それは、まるでターニャが喜んでいる様にソラに感じられた。


 「オロファトの展望公園に行きたい、と言い出した時は何かと思ったが……」
 アスラン=ザラはそんなソラの様子をサングラス越しに眺めていた。遠目で見てもソラの感情の起伏は良く解る――情感の豊かな子だと思う。笑い、泣き、そして――その様な子が苛烈な戦場を生き延びたのかと思うと、アスランとてやるせない気持ちにもなる。そこで如何なる運命がソラを襲ったのか――それは、戦場に生きた者だけが共有する記憶。忌まわしく、狂おしく、そして忘れられない思い出の数々。大の大人ですら号泣する苛烈なる場所――そこを経過して尚、あの様に笑う事が出来るのは一種の奇跡だと思えるのだ。
 アスランはサングラスをかけ直すと、瞑目した。彼女を助けた運命の数々に、感謝したいと自然に思えたから。


 ソラ=ヒダカを巡る環境は段々と平静を取り戻しつつあった。しかし、それは世間的なところだけで、当のソラの周囲は未だ激動の渦中だった。それというのも、

 『ソラさん、私と友達になって頂けませんか?』

 ……等と、事実上の最高位に居る“歌姫”に言わしめさせたからである。
 実のところ、ラクスという人間は、滅多に周囲に近しい人間を増やさない事で知られていた。それこそキラやアスラン、カガリ等の近しい人間しか側に寄る事を許さず、どんな権力者が恭順の意を示しても側近く寄る事すら出来なかったのだ。それを出会って数日にもならない人間が為し得てしまった――それは権力の中枢に是が非でも近づきたい人間からすれば驚天動地の出来事なのである。
 それにより何が起こったかというと、“ソラに近づこうという人間”が激増した。ここ数日というもの、ソラとラクスが二人だけで語りあう姿は何度か目撃されており、しかもそれは非常に親しげなものであった。その様な者達に、“ソラ=ヒダカ”という少女は最強のカードとして認定されたのである。
 そして、堪らないのはアスランである。かつてメイリンもまた一時はそのような状況に追い込まれた事があり、そのせいで一時期は公務に支障が出た程だ。そして、そうした状況を看過出来る様な人間性はアスランにはなく、他人任せにも出来ないのがアスランだった。最近はカガリの護衛も治安警察の敏腕と名高い“灰色熊”エイガー=グレゴリーが取り仕切っており、またエイガーの仕事ぶりはアスランにも安心させる程の手腕ではあった。……要するに手持ち無沙汰であったアスランは暫くの間ソラの護衛を買って出たのである。
そもそもが“統一地球圏連合近衛総監”という仰々しい肩書を抱いてはいるが、実際の業務と云えば“有事に即応し対応する部署”としか明記されていない。無論“有事”の際に『仕事が忙しい』では話にならないので、それはそれで正しいのだが……ピースガーディアンが“歌姫の私兵”と揶揄されるのならば、近衛師団は“カガリ姫直属の私兵”と揶揄される由縁である。ここ最近行っていた各国の情勢視察行脚も、本来はカガリ当人が「やりたい!」と騒ぎ出したのを「じゃあ俺がやる!」と言ったせいでやる羽目になった仕事である。この辺、考え出すと当のアスランですら頭が痛くなってくるのだが……。
 ともあれ、アスランとしてもソラがあの様に笑えなくなるのは見たくない。まして、権力の道具とされるのも見たくない事だ。そして更に、ラクスがあの様に朗らかに笑う姿をアスランは最近まで見ていなかった事に驚かされた。それはかつて婚約者であったという事実も相まって、アスランを打ちのめした材料だった。
 様々な要因が後押しした、という事もあるだろう。とはいえ、アスランがソラの護衛を買って出たのに、おそらくはこの想いも有ったのかもしれない。
 “これからの時代に、この様な少女は必要なのだ――”と。


 ……暫く経って、ソラが帰ってくるとアスランは車のドアを開けて出迎えた。車の中に居る物体が跳ね回り始めたからだ。
 《ソラー! オソイー!》
 ぴょんぴょんと、空色のハロがソラの元へ跳んでいく。その仕草は、確かに人を和ませるものだろう――少々、五月蠅いが。
 「ただいま、ハロ」
 少々辟易した様子があるが、跳んできたハロを優しく抱きしめるソラ。
 《ドーシテオイテッタ! サビシイゾ、プンプン!》
 ……創造主が「そんな言葉インプットしたか?」とぼやく。ソラも苦笑するしかない。
 「ご、ごめんねハロ。今度は連れて行くから……」
 《必ズダゾ!》
 なおも拗ねる(?)ハロに、見かねてアスランも言う。
 「その辺にしてやれ、ハロ。余り五月蠅いと、マイクにテープを貼り付けるぞ」
 《ソレハ嫌。ソレハ嫌―!》
 「だったら、大人しくしろ。……さ、ソラも乗ってくれ。もう昼だしな」
 「あ……もうそんな時間なんですか」
 言いながら、ソラは助手席に座る。早速その膝に“我が席得たり”と鎮座するハロ。何となく苦笑しつつ、アスランは運転席に座る。
 「今日は何を食べに行くかな。ソラは何が良い?」
 車のナビを操作しながら、アスラン。ソラは何となく辟易した顔だ。
 「……ここ数日、ずっと高級レストラン通いって……」
 本来のソラにとっては、それだけで驚天動地である。如何に今の自分の感覚が麻痺しているのかが解る瞬間だ。……とはいえ、驚きっぱなしでは体が持たないだろうが。
 (今、占いの本読んだらどんな事書いてあるんだろ……?)
 考えられるのはそんな下らない事だけだ。とはいえ、それがソラという人間だという事は、自分でも知っている。そうした考え方は安心するものである。

 ――その時、ソラの携帯電話が鳴り出した。
 「……誰? ハーちゃん?」
 ディスプレイに映し出された情報を見て、それがソラの二人の親友の片割れ、ハナ=ミシマからの電話であると直ぐに解る。しかし……何かがおかしい。
 「今、まだ授業中の筈なのに?」
 メールならまだ解る。しかし、授業中に電話をしてくる程ハナももう一人の親友、シノ=タカヤも非常識ではないはずだ。ソラはそれを知るから、怪訝に思う。
 「とにかく出てみた方が良い。緊急の可能性もある」
 「は、はい」
 アスランにそう促され、ソラは電話を取る。――聞こえてきたのは、ハナからの越えも荒い、悪い知らせだった。
 「大変よ、ソラ! シーちゃんが居なくなったのよ!」

 この世に運命の神が居るのなら――その采配はこの日、再び切られた。ソラは、未だ近づいてくる軍靴の足音を聞き取る事が出来ないで居た。





 ――闇夜の中を、貨物船が進む。それは、別にありふれた光景で何ら不自然な事は無い。ただ、船長であるトマスの顔にはありありと“不自然”が滲み出ていた。
 「落ち着きませんな、船長」
 トマスより十歳は年長の副長は落ち着かない船長をじろり、と見据える。副長と船長、この二人を並べるとどうしても副長の方が人間として存在感が出てしまう――それはトマスにはコンプレックスな事だ。
 「……嫌味なら聞かんぞ、ヘイズ」
 爪を噛みながら、トマス。ヘイズと呼ばれた副長は肩を竦めた。
 「嫌味と取るか諫言と取るか、そこに人間性は表れると先代は仰っておりました。即ち……」
 「嫌味なら聞かんぞ、と言ったぞ!」
 バン、とデスクを叩く。無作為に置かれた数々のトロフィーが揺れ、倒れそうになった。そのどれもが先代の船長であるトマスの父が受賞したものだった。その様をみて、ヘイズは嘆息する。
 「解りました、もう申し上げる事はありません。……しかし、一つだけお教え願いたい。第三船倉の積荷、あれは一体何なのですか?」
 副長が積荷を知らない――それは紛れも無く異常事態だ。しかし、船長であるトマスの返事は短かく、不機嫌なものだった。
 「……下がれ」
 一瞬ヘイズは鼻白んだ――だが、敢えて食い下がる。
 「それに、あの“護衛艦”とやら――我々は食料などの生活必需品のみを取り扱う運送屋であった筈。あの様な護衛艦を付けられる謂われは有りません。まさか船長、武器を……」
 そんなヘイズを黙らせたものは、やはりこの一喝だった。
 「下がれと言ったぞ!」
 もう一度バァンとデスクを叩くトマス。ヘイズは無言で一礼すると、船長室を出て行った。ヘイズが出て行った後、トマスは酒のボトルを取り出すと一気に煽る。
 「……オヤジの代とは違うんだ。俺は一気に成り上がってやる、見てろよ……!」
 暗い欲望――ともすればそれは周囲をも燃やし尽くす類の。トマスは未だ、その危険性に気が付いていなかった。


 暗い世界――その更なる深淵。水底に潜む者達が蠢き出す。
 「アズマ隊各機へ、“お客さん”がお目見えだぜ」
 『サーカス了解。俺はどっちを?』
 『ウェイブ了解。右でしょ、順当に』
 アズマはレーダーに目をやると、“お客さん”の様子をもう一度確認した。貨物船が一つ、その他――おそらく戦闘艦――が二つ。水雷戦の場合、初期攻撃が全てと言って過言ではない。魚雷の雷速はミサイルと違って遅い以上、初手で全てを撃つのが重要なのだ。ややあって、アズマは部下二人に指示を出す。
 「サーカス機は右舷より、ウェイブ機は左舷より五月蠅い奴を黙らせろ。俺は下方から近づいて足を止める。……派手にやれよ」
 『了解』
 『了解。サーカス、良かったわね。“派手”で良いってさ』
 『抜かせ。化粧濃いんだお前は』
 『なんですって! ジャグリングしか出来ない能無しが偉そうに!』
 しかし、彼等はそんなノリではあったがこの海域では恐れられる存在ではあった。ローゼンクロイツの下部組織である彼等は、その運用するモビルスーツの形状から、この様に呼ばれていた――“海坊主”と。


 水面に水柱が立ち始める。既に戦闘は始まっていた。サーカス機が放った魚雷と、それを防ぐ魚雷の激突――それが号砲となって辺りに火花が散っていく。
 ドレッドヘアのサーカスは口笛を吹きながら、護衛艦との距離を詰める――火砲と魚雷を避けながら、というのは難しい事の筈だが、サーカス自身の腕前と“海坊主”の性能が後押しをしていた。
 「良く鳴く犬は弱い犬、ってね……」
 護衛艦の上には、モビルスーツの姿もあった。ルタンド――統一地球圏連合では最もポピュラーな汎用機だ。ルタンドはひとしきり射撃してきたが、遠くて当たらないと見るや海中に身を投じる――水中戦を挑む腹だ。それは、サーカスにとっても望むところである。
 「海坊主相手に水中戦をやろうってか!?」
 サーカスに、自然に笑みが漏れる。鴨が葱を背負って来た様な気分にもなる。とはいえ、ルタンドの性能はサーカスとて知っている――油断すれば危険なものは持っている相手だ。
 「……油断しなきゃ、良いだけだけどなっ」
 水中戦では、相手を目で追ってはいけない。水の揺らぎが、泥が視界をどうしても狭めてしまう。そこに、水中戦の難しさがあるのだ。……そして、それを克服するのは“慣れ”しかない。地形への習熟が、そのまま強さとなる――水中戦とはそうした側面があるのである。
 サーカスは機体を潜らせると、水底近くから一気にルタンドに近づいていく。ルタンドは何とかサーカス機にライフルを撃ち込もうと足掻くが、その度に水底を掻き混ぜてしまい、更に狙撃精度を下げてしまう。――そして、その事に気が付いた時には。
 「もらいっ!」
 サーカス機のアームクローが、ルタンドを捉える。一息で胴体部を貫かれ、ルタンドは一瞬で無力化されていた。


 ――戦況は、一方的だった。
 海坊主という機体が持つスペック、“海坊主”という組織が持つ結束力、そして水中戦というアドバンテージ――全てが相手側が勝っていた。
 右舷に居た護衛艦はあっさりと魚雷を食らって撃沈され、左舷の護衛艦は、たった今艦橋を破壊されて無力化されていた。
 「こんな……こんな筈では……」
 トマスは、恐れていた。統一地球圏連合からの内々の依頼――報酬は望むままの、出世街道を約束されたかの様な仕事。古株のヘイズの諫言など聞く気にもならなくなる大仕事であった筈なのに。
 「きゅ、救難信号を……!」
 (こんな所で死ねるか! まだ、俺にはやりたい事が……!)
 しかし、そんなトマスの思いはあっさりと否定された。またしてもヘイズによって。
 「救難信号なぞ、無意味です。よりにもよってローゼンクロイツの活動地域で、護衛部隊に統一地球圏連合の部隊なんぞが居ては言い訳のしようもありません。……我々は、皆殺しです」
 ヘイズの声音は、こんな時でも平静だった。……紛れも無くそれが真実であったから、尚更。
 「だ、黙れ! 俺は、俺は……!」
 そう喚き続けたが、もはや理解せざるを得なかった――自分が間違ったのだと。
 最後の否定は、緑色のモビルスーツからの攻撃によって行われた。悲鳴を上げる暇も無かったのは、まだしも救いだったろう。


 『……有ったわ、隊長』
 ウェイブからの通信に、アズマは胸を撫で下ろす。
 「一応、傷は付けないようにしていたが……無事で良かった」
 それは、トマスの貨物船の第三船倉に搭載されていた積荷――統一地球圏連合が護衛まで繰り出しても守りたかったものである。
 『なんだってんだよなぁ、そんなモンが価値有るのかね?』
 サーカスのぼやきに、ウェイブが反論する。
 『なきゃ困るわよ。それなりに苦労はしたんだからね』
 それは、ウェイブ機だけでも持ち上げられるサイズのものだった。それを守る様に、アズマとサーカスは付き従う。
 「ズールに向かうぞ。ローゼンクロイツのお歴々がお待ちだからな……!」
 海坊主達はあっという間に暗闇の中へ消えていった。来た時と同じように。……闇は、何一つ世界の事を語ろうとはしなかった。

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