量子コンピューターによってシミュレーションの精度が現実に近くなったC.Eの世界においても現実での模擬戦はいまだ行われている。なぜなら、実戦にはシミュレーションではありえないことがあるからだ。
弾詰まりなどの突然の故障がその一例である。実戦方式の訓練はそういったトラブルの前兆を察知・対応する能力を身につける上では必要不可欠である。
また、模擬戦であってもまかりなりにも実戦である以上、負傷・死亡する危険性も存在する。死ぬことが決して無いシミュレーションだけでは新兵は基礎能力は向上できてもどうすれば生き残れるかという命の駆け引きの能力が磨かれない。
第2次汎地球圏大戦、そしてオーブ・大西洋連邦戦争の折にはその点が軽視されてシミュレーションによる訓練が主流になった結果、多くの素質ある新兵を失うこととなった。
そのため、C.E75、大西洋連邦は訓練法を改め、実戦形式の訓練を中心とするようになった。
そのため、C.E75、大西洋連邦は訓練法を改め、実戦形式の訓練を中心とするようになった。
C.E77.9.16、大西洋連邦軍本土のとある空軍基地では今日もMSによる模擬戦が行われていた。模擬戦ではビーム兵器はサーチライト程度の出力に落とされ、実弾兵器にはペイント弾が用いられている。
今回の訓練はニール大尉の駆るウィンドランナー1機対部下達の駆るジェットストライカー装備のウィンダム3機による空中戦だった。
GAT-ウィンドランナーは大西洋連邦が戦後に開発しC.E77/2/15、プレジデントデーにロールアウトされた重巡航制空宙MSで、マウントラック用の主翼と空力翼からなる4枚の翼が特徴である。
その変形機構がザフトのAMA-953バビに酷似している事から反コーディネーター団体から「コーディネーターに迎合するのか」などといったいわれのない非難を受け、一時期は開発メーカー共々グループ内で破壊対象に指定された経歴もある。
「くらえ!」
新兵の一人、ルシオル少尉の駆るウィンダムからシールド部の多目的ミサイル「ヴェルガー」が発射される。
ニールはその攻撃を右へかわして言った。
ニールはその攻撃を右へかわして言った。
「ルシオル。その武装は単体ではMSには当てにくい。威力にだけ目を向けずに状況にあった武装を使え。それと、仲間ともちゃんと連携を組め。今回はおまえが指揮を執っているんだぞ。おまえが指示も出さずに突っ込んだらチームとして機能しないぞ。」
「っち、分かりやした。」
「っち、分かりやした。」
ルシオルがちいさく舌打ちしながら不機嫌そうに返事をすると、フォスタード少尉からの通信が入った。
「舌打ちは駄目だろ~。隊長があの人だからお咎めなしだけど、他の人だと上官侮辱で営倉送りになるかもしれないんだからさ~。」
フォスタードのねちねちとした口調はルシオルの機嫌をいっそう悪くした。
「あんだと!!テメエから落されてえか!フォスタード!」
「はっはっは、そんなことしたら本当に軍法会議もんだよ~。ちょっと考えれば分かるだろ~。」
「てんめえ!」
「はっはっは、そんなことしたら本当に軍法会議もんだよ~。ちょっと考えれば分かるだろ~。」
「てんめえ!」
ルシオルが本気でキレかけたところでカーディオン少尉が止めに入る。
「落ち着いてくださいよ、ルシオル。今は同じチームなんですから。それとフォスタードも煽らないでくださいよ。」
「んあぁ!テメエは黙ってろ!カーディオン!」
ルシオルがカーディオン言い放ち、ビームライフルをフォスタードへ向けようとしたところで3機からアラームが激しく鳴り出した。
「うるっせえ!一体何なんだよ!」
「あらら、隊長に撃ち落されちゃったみたいだね~。それも、コックピットを一撃だよ。」
「そんな~。」
「あらら、隊長に撃ち落されちゃったみたいだね~。それも、コックピットを一撃だよ。」
「そんな~。」
ルシオルが確認するとフォスタードの言ったとおりコックピットを破壊されたことを示すアラームだった。
今回の訓練は最初にルシオルがミサイルを放っただけで後はただの言い争いで終わってしまっていたのだった。
今回の訓練は最初にルシオルがミサイルを放っただけで後はただの言い争いで終わってしまっていたのだった。
(何をやっているんだ、あいつらは。)
ニールは呆れながら地上へ降りていった。
地上でニールが3人を一喝した。
地上でニールが3人を一喝した。
「おまえら、何を遊んでいる!もしこれが実戦だったら全員戦死、それも無駄死にだぞ!気が緩みすぎだ!」
隊長からのお叱りを受けて3人はうなだれていた。特にうなだれているカーディオンにニールが言った。
「カーディオン、今度はお前がチームの指揮を執ってみろ。」
「っはい?」
「っはい?」
隊長の予想だにもしなかった一言にカーディオンはおもわず間抜けな返事をしてしまった。そして、それは他の二人にとっても同様であった。
「っちょ、隊長待ってくださいよ!なんでこいつなんかにやらせるんですか。」
「それに次は僕の番じゃないですか。それなのになんで僕が飛ばされて彼が指揮を執るんですか。」
「それに次は僕の番じゃないですか。それなのになんで僕が飛ばされて彼が指揮を執るんですか。」
ルシオルとフォスタードがニールに訴えると、ニールは答えた。
「ルシオル、おまえはさっき指揮官の担当でありながら指示も出さずに勝手に突っ込んだ。指揮官としてはあるまじき行為だ。フォスタード、お前はルシオをからかってばかりで協調性が見られない。そんな奴に指揮を任せられん。分かったら早く準備しろ!整備が終わり次第、訓練を再開する。」
ニールはそう言って の方へと歩いていった。
上官がその場を離れていった後、ルシオルはフォスタードに詰め寄った。
上官がその場を離れていった後、ルシオルはフォスタードに詰め寄った。
「テメエのせいだぞ、フォスタード!」
「おやおや、自分の失敗を他人のせいにするのかい?まったく、これだから単細胞は困るよ。」
「んあぁ!上等だ!さっきの続きといこうじゃねえか!ぶっ潰してやる!」
「おやおや、自分の失敗を他人のせいにするのかい?まったく、これだから単細胞は困るよ。」
「んあぁ!上等だ!さっきの続きといこうじゃねえか!ぶっ潰してやる!」
ルシオルがフォスタードに殴りかかろうとしたとき、カーディオンがルシオルを羽交い絞めにして押さえ込みながら言った。
「あーもう!だから落ち着いてってば、こんなんじゃいつまでたっても変わんないよ。ケンカは訓練が終わってからでもできるからさ、今は訓練に集中しようよ。」
「僕はケンカしてるつもりはないけど、その通りだね。結果を残せずに終わったら後が怖いしね。」
「っちぃ!しょうがねえなぁ。分かったよ。んで、俺は何すりゃ良い?」
「僕はケンカしてるつもりはないけど、その通りだね。結果を残せずに終わったら後が怖いしね。」
「っちぃ!しょうがねえなぁ。分かったよ。んで、俺は何すりゃ良い?」
ルシオルもどうにか落ち着いたらしく、カーディオンの話を聞き始めた。
「あのね、まずは……」
3人の作戦会議は訓練開始のアラームがなるまで続けられた。
「これで、良いんだよな……。」
ニールはウィンドランナーを見上げて呟いていた。機体を整備していたメカニックには彼が何を言っていたか聞こえなかったし、聞く気も無かったので作業を続ける。
ふとあのときの惨劇を思い出す。
オペレーション・リヴァイアサンでプラント制圧に向かったあのときを。
(あれからだな、仲間の死が恐ろしくなったのは。俺のせいで信じてくれた部下を死なせてしまった。そして、親友でも会ったコロナも……。俺が、俺があいつを、フリーダムを見誤らなければ!
もうあんなのはごめんだ!もう、仲間を誰も死なせない!絶対に!)
もうあんなのはごめんだ!もう、仲間を誰も死なせない!絶対に!)
「ニール大尉、ウィンドランナーの整備、完了しましたよ。」
メカニックが感傷に浸っていたニールに言った。
「ああ、分かった。」
そう言うとニールはウィンドランナーに乗り込み、左腕につけた装置のボタンを押す。訓練開始を3人に告げるアラーム装置である。
(さて、次はマシになっているといいな。)
そう思いながらニール機は空へと飛び上がっていった。
訓練が開始され、最初にニールは、3人の様子を見た。先ほどとは打って変わって隊列が新兵なりにはちゃんとできていた。
(まだ甘いが、まあ、さっきと変わっていなかったらこの先色々と考えないといけなかったからなよしとするか。)
ニールはそう思いながらまずは3人の出方を見てみることにした。
すると、ルシオルのウィンダムが前に進み出てきた。
「いくぜー!」
ジェットストライカーのマウントラックに装備した空対空ミサイルを一斉に発射してきた。
それに合わせてカーディオンはビームライフルを撃ち掛け、フォスタードがシールドを掲げて接近していた。
それに合わせてカーディオンはビームライフルを撃ち掛け、フォスタードがシールドを掲げて接近していた。
(さすがに先ほどと同じことはしないか。ちゃんと連携も取っている。)
その策にあえて乗ってやることにした。つぶすのは簡単だが彼らの自信を失わせるわけにはいかない。自信は能力に大きな影響を与えることがあるからだ。
ニールは機体をMA形態に変形させて上空へ上昇し、ミサイルを引きつけてから急旋回してミサイルを振り切った後にフォスタードに向けて4発のカズーを2方向から包み込むように撃ち込む。
フォスタードは12.5mmCIWSをばら撒いてミサイルを撃ち落そうとしながら突っ込む。
CIWSを掻い潜ったミサイルがシールドの死角となる右側からフォスタードへと向かう。それをカーディオンがCIWS、ルシオルがビームライフルで撃ち落す。
(ほう、1発も受けないで全て防いだか。さすがに過小評価しすぎたな。それに、フォスタードへのアシストも上手くできている。)
ニールは感心しつつもビームライフルとカズーをカーディオンとルシオルに撃ちながらフォスタードに接近する。
フォスタードもシールドを掲げ、ビームサーベルを引抜いて接近する。
二機が交錯する。
ニールは至近距離で右腰部のカズーをフォスタードに撃ち込む。
二機が交錯する。
ニールは至近距離で右腰部のカズーをフォスタードに撃ち込む。
フォスタードはそれをコックピットに受けつつもビームサーベルがウィンドランナーのコックピットを切り裂いたはずだった。だが、撃墜のアラームが鳴ったのはフォスタードのみだった。
「そ、そんな~。コックピットに当たったはずなのに。」
「フォスタード、てめえ、何やってんだよ!」
「2人とも、落ち着いて下さい!今は態勢を立て直さないと。」
「フォスタード、てめえ、何やってんだよ!」
「2人とも、落ち着いて下さい!今は態勢を立て直さないと。」
困惑するフォスタードに対して思わずルシオルが怒鳴る。それをカーディオンが止めに入る。あの時と同じ状態になってしまっていた。
(こいつら……、少しはできるようになったかと思えば一旦崩れるとまたこれか。)
ニールは呆れながらビームライフルを残る2機に撃つ。
だが、今度は間一髪のところで気づいて2機とも直撃は避けていた。
しかし、ルシオル機は右腕に、カーディオン機は左足に命中しており、その部分が使用不能となっていた。
だが、今度は間一髪のところで気づいて2機とも直撃は避けていた。
しかし、ルシオル機は右腕に、カーディオン機は左足に命中しており、その部分が使用不能となっていた。
「おい、やべえぞ。こっちは右腕をやられた。そっちはどうだ。」
「こっちは左足が動かない。ルシオル、プランDでいくよ。」
「こっちは左足が動かない。ルシオル、プランDでいくよ。」
ルシオルは指示を受けるとシールドを掲げてニールにへと突進した。その後ろに続く形でカーディオンも突進する。
ニールは何を考えているかがなんとなく分かっていたがそれでもかまわずにMA形態のまま接近する。ルシオルはシールドのミサイルをニールにへと発射した。
ニールは4枚のウィングを動かして左へ回転しながらミサイルを避け、左腰のカズーをルシオルに撃ち込む。
そして、ビームライフルをカーディオンのいるであろうルシオルの後方に向ける。しかし、そこにはすでにビームサーベルを振りかぶろうとしているカーディオンの姿があった。
(やはり、至近距離からのルシオルのミサイルで回避方向を限定し、先回りしていたか。)
ニールのビームライフルがカーディオンを捉える直前にカーディオンのビームサーベルがニールのウィングランナーを袈裟切りにした。
だが、ウィンドランナーから撃墜のアラームは鳴らず、逆にカーディオン機の左腕を撃ちぬかれる。
だが、ウィンドランナーから撃墜のアラームは鳴らず、逆にカーディオン機の左腕を撃ちぬかれる。
「そんな、なんで……!」
「悪くはなかったな。だが、機体の能力をもっと知っておくべきだったな。」
「っへ?それって……。」
「悪くはなかったな。だが、機体の能力をもっと知っておくべきだったな。」
「っへ?それって……。」
ニールはそう言うとMS形態に戻ってカーディオン機をビームライフルで撃ちぬいた。カーディオンのコックピットに撃破を示すアラームが鳴り響いた。
訓練が終了し、ニールが地上に降りるとフォスタードが詰め寄ってきた。
「隊長~、どういうことなんですか~。さっきの訓練で僕は確かにビームサーベルで隊長を切ったはずなんですよ。それなのに、どうして撃破されていないんですか~。」
「それはだな……」
「ただ当たってなかっただけだろ。」
「それはだな……」
「ただ当たってなかっただけだろ。」
ニールが説明しようとしたところいにルシオルが割り込む。
「いや、だがらな……」
「い~や。そんなはずは無い。絶対に当たってた。」
「っへ、それはテメエの目が節穴だからだろうが。」
「あのな、……」
「何だって~!!!君と一緒にしないでもらいたいね~!」
「あんだとぅ、やろうってのか。」
「貴様ら!!!!!!少しは人の話を聞けーーー!!!」
「い~や。そんなはずは無い。絶対に当たってた。」
「っへ、それはテメエの目が節穴だからだろうが。」
「あのな、……」
「何だって~!!!君と一緒にしないでもらいたいね~!」
「あんだとぅ、やろうってのか。」
「貴様ら!!!!!!少しは人の話を聞けーーー!!!」
ニールは喧嘩し始めていた2人を一喝する。
「っえ、ご、ごめんなさい。」
やっとニールのところに来たカーディオンは何がなんだか分からずに思わず謝ってしまった。
「フォスタード少尉、お前は俺に聞きたいことがあるんじゃなかったのか。それとルシオル少尉、人が話そうとしているときには割り込むな。」
ニールは二人を叱ったあと、一息ついてからカーディオンに聞いた。
「ところでカーディオン少尉、訓練で言った言葉の意味はわかったか?」
「えっ?えっと、機体の能力ですね。たぶん、ウィンドランナーにはビームサーベル無力化する何かがあるのだと思います。だからフォスタードや僕のウィンダムのビームサーベルが効かなかったのだと思います」
「えっ?えっと、機体の能力ですね。たぶん、ウィンドランナーにはビームサーベル無力化する何かがあるのだと思います。だからフォスタードや僕のウィンダムのビームサーベルが効かなかったのだと思います」
カーディオンは訓練の状況から考えられる意見を述べた。ニールは答える。
「まあ、おおむね正解だ。正確に言うならばビームサーベルの形成を阻害する力場を翼の先端から展開しているんだ。」
「あ、ありっすか。そんなの。」
「じゃ、じゃあ、ウィンドランナーにはビームサーベルとかは効かないっていうことですか。」
「あ、ありっすか。そんなの。」
「じゃ、じゃあ、ウィンドランナーにはビームサーベルとかは効かないっていうことですか。」
ニールの返答に対してルシオルとフォスタードが唖然としながら言った。
しかし、ニールは首を横に振りながら答えた。
しかし、ニールは首を横に振りながら答えた。
「いや、そうとも言い切れないんだ。あの装備は稼動させるのに電力をかなり食うし使っている間はこちらもビームサーベルの類を使えないという欠点もある。それに、ビームライフルなどには使っても効果が無い、近距離専用の装備なんだ。」
ニールはそう言うと、カーディオンのほうに向き直って聞いた。
「ところで、先ほどの訓練での作戦についてだが、基本的なものでできていたな。」
「あ、はい。限られた時間の中では複雑なものはまだ無理だと思いましたので、簡単なものをいくつか用意しましたが、何かだめなところがありましたか。」
「いや、決して悪いというわけじゃない。基本は大切だからな。むしろ良いほうだ。」
「ありがとうございます!」
「だが……」
「いや、決して悪いというわけじゃない。基本は大切だからな。むしろ良いほうだ。」
「ありがとうございます!」
「だが……」
ニールは喜んでいるカーディオンに釘をさした。
「あれでは囮になった機体が高い確率で撃破される。兵士はゲームの駒じゃないんだ。もっと生き残ることを優先しろ。」
「あっ……、申し訳ありませんでした!ご指摘、ありがとうございます!!!」
「あっ……、申し訳ありませんでした!ご指摘、ありがとうございます!!!」
ニールはカーディオンが立てた作戦に対する評価を言った後、3人に言った。
「今日の訓練はここまでだ。各員、体を休めておけ。それでは、解散!」
「「「了解。」」」
「「「了解。」」」
3人が宿舎にもどって行くなか、ニールはまだウィンドランナーを見上げていた。
(コロナ、俺はこいつらを育て上げてみせる。どんな状況でも絶対に生き残れるパイロットに。)
決意を胸に、ニールは歩き始めた。