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第6話「運命の魔剣士との邂逅(前後編)」

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C.E78/5/29 西ユーラシア自治区ですれ違うはずであった運命の糸が絡み合う。

たった1度触れ合っただけのか細い糸、それが新たな糸と共に太く紡がれるとは、その時は誰も思ってもいなかった。



5/31、西ユーラシア自治区にあるMSハンガーでは、司令部より伝達された明日6/1のA.M8:00より開始される掃討作戦の準備のために統一連合軍が各々の機体の最終メンテナンスに取り掛かっていた。


「っふぃー。終わったー。カーディオン、この後どっかで飯食いに行くか?」


「いい……」


「…あー。おっ、あっちにあんのはスカイホークじゃねえか。ありゃ確か、採用前に試しに他の国で使わせたらすごいボロ負けしたいわくつきの機体って話だぜ。珍しいから見てみろよ」


「いい……」


ルシオルの会話にカーディオンは応じず、淡々と機体プログラムの調整を繰り返している。

なおも話を切り出そうとするルシオルにフォスタードが後ろから方を叩いて止める。


「ルシオル~、今はそっとしてあげなよ~。今回の作戦はカーディオンにとってはきついことなんだからさ~」


「んー。そりゃ、そうだけどよう…。だけどこのまま引きずったままって訳にもいかねえし」


「そうなんだよね~。カーディオンって結構デリケートな部分あるしね。ありゃ昨日のことが相当堪えてるよね~」


2人は昨日の出来事を思い出す。



---5/30---



それは部屋を出たニール隊長が戻ってきて伝えた、指令部からの掃討作戦への出動要請から始まった。

カーディオンはひどく狼狽し、ニールに詰め寄る。


「どういうことですか、隊長!掃討作戦だなんて!」


「言った通りだ。明後日のA.M8:00より掃討作戦が行われる。私達の部隊もその作戦に参加することが決定された」


「テロを起こしたブルーコスモスは全滅して終わったのではないのですか!?それなのにどうして!」


掴みかからん勢いで詰め寄るカーディオンとニールの間にルシオルが割り込む。


「おいおい、カーディオン落ち着けって。らしくないぞ」


「隊長、わざわざ掃討作戦を行うということは、テロの他に何か不味い事でもあったんですか~」


ルシオルが押さえている間にフォスタードがニールに理由を聞く。


「テロの際に逃走した二人組みがブルーコスモスと敵対する他の武装勢力の可能性が浮上した。彼らが報復のために新たなテロを起こす危険性がある。司令部はそう判断したようだ」


「ですが何も町全域を攻撃する掃討作戦を行わなくても良いではないですか!ただでさえあのテロによって多くの死傷者が出て復興が遠のいたのに掃討作戦なんて行ったら、行ったら……」


また多くの人が死んでしまう。

カーディオンが言いかけた時、ニールがカーディオンの言葉を遮って話す。


「カーディオン……、お前の言いたいことは分かる。今回の掃討作戦がこの地域のためにならないということも。実際、今回の命令には反発も少なからず出ている」


「でしたら……」


「だが、私達は軍人だ。軍人は、上官からの命令は絶対でなければいけない。例えそれがどれほど非道で、不条理なものであってもだ…。そのために守るべき民衆に銃を向け、傷つけることもある。守るべき民衆から疎まれ、憎まれることだってある。それが嫌だからといって拒否することはできない、拒否してはいけないんだ。」


「……!!!」


カーディオンは気付いてなかった、いや、気付きたくなかった事実をニールから突きつけられて固まる。


「お前は優しい。しかしこの世界では、曖昧な優しさは弱さであり凶器だ。そう割り切れないといずれは、その優しさがお前を殺すことになる」


「……。申し訳ありませんでした、隊長……」


しばしの沈黙の後、カーディオンの口からか細く謝罪の言葉が漏れる。


「いや、良いんだ。こちらこそすまない。このようなことをお前達にさせることになって…」


ニールの言葉を最後に、その場は再び沈黙に包まれた……。



---5/31---



「それにしてもあんときのカーディオンの奴、様子が変だったな。普段は大人しい奴なのに」


昨日の出来事から思ったことを口にしたルシオルにフォスタードは自分の考えを言った。


「多分だけどさ~、一昨日見回りした場所に情が移っちゃったんじゃないかな~。ほら、逆境にもめげず頑張ってるの見ると自分と無関係なことでも上手くいって欲しいって思うことあるでしょ?」


「確かに無いわけじゃねえけどよー。ただそれだけって感じでもねえんだよなー」


「それだけじゃないって…、例えば?」


「いや、そりゃ分かんねえよ。ただ…何となくだ。それより問題なのはどうやってカーディオンを立ち直らせるかなんだよなー。フォスタード、何か良い手はあるか?」


ルシオルが頭を掻きながらフォスタードに聞く。


「時間があれば無いわけじゃないんだけどさ~、今回は時間が無いからね~。むしろ今回の作戦にカーディオンを出させない方が良いんじゃないかなーと思ってるよ~」


「出させないってお前な、昨日の話があったのに司令部からの命令を無視ってわけにはいかないだろ」


「命令無視なんかじゃないよ、ルシオル。君だってひょっとしたら今回の作戦に参加できなかったかもしれないだろ」


「俺が?……ああ、そっか!体ぶっ壊しちまったら命令を遂行しようがねえ、むしろジャマになっちまうから外してもらえるな」


「そういうこと」


「フォスタード、お主もワルよのう」


「いやいや、それほどでも」


二人が悪代官よろしくな悪い顔で小芝居に入ったあたりで後ろから声がかかった。


「二人とも何してるのさ……」


「ん?うぉ!カーディオン、いつからそこに!!!」


「ルシオルが命令無視云々って言ってるあたりからだけど。まさか、今回の作戦サボる気じゃないだろうね。そんなことしたらニール隊長に言いつけるよ」


カーディオンの普段と違う、抑揚の無い、冷めた声にフォスタードが慌てて弁明する。


「いやいやいやいや、僕らがサボるとかそういうのじゃないから。どうやって君を今回の作戦から外してもらえるかっていう話をしてたんだよ」


「僕を?何で?」


カーディオンの言葉はなおも冷たい。


「ほら、お前この間さ、今回の作戦にかなり反発してただろ。無理に出るよりもストレスだとか腹下したとかで体壊したことにして出ない方が良いんじゃねえかなって思ったんだよ」


「そう。でも駄目だよ。そんなことしたらニール隊長の評価が下がるじゃないか。短期間に部下二人が体調不良を起こしたとなれば隊長の管理能力に疑問符がつくよ」


「「あ”っ」」


二人は、自分達が考えた計画はそもそもカーディオンが受け入れないと話にならず、計画を実行したら隊長に悪影響を与える問題点に今更気が付いた。


「それに……」


自分達の考えなさに凹んでいる二人にカーディオンは言葉を続けた。


「それにもう良いんだよ、もう。割り切った…つもりだから……」


その時のカーディオンの言葉は先ほどまでの抑揚の無さとは別に、哀愁を漂わせる声だった。



戒厳令が敷かれていても人の口に戸は立てられないものだ。

統一連合軍が近々掃討作戦を行うという情報が細々と町に流れたが多くの人々は町を離れなかった。インフラは事前に停止されていたこともあるが自分や家族が怪我や病で動けない者、行く当てが無い者、死ぬならばこの地でという土地に愛着のある者が西ユーラシア自治区には数多くいたからだ。

そんななか、廃倉庫の前で老人が若者と口論になっていた。


「祖父ちゃん、こんなことしてねえで早く逃げねえと駄目じゃないか」


「お前は息子のところに行っていろ!ワシはここで統一連合の輩を迎え撃つんじゃ!」


「まだそんなこと言ってんかよ。相手は統一連合だぞ!?勝てるわけ無いだろ」


「あんな輩、所詮は烏合の衆にすぎん。戦場の踊り子(ウォーダンサー)たるこのワシが出れば奴らは震え上がり、尻尾を巻いて逃げ出すわ!!!」


「そりゃ昔っから散々聞かされた法螺話だろ!現実と区別が付かなくなるほどボケたのかよ、祖父ちゃん」


「ボケとらんわ!この阿呆が!!!お主にその話が本当だということを教えてやる良い機会じゃ。わしのラゴウートで奴らを全員追い出してやるわ!かっかっかっ!!!」


老人ことグレスゴリー=F=デルストスはそういうと倉庫のシャッターを開いて中に入っていく。


「あーもう。こんなことになるんだったらあんなガラクタとっととばらして売っぱらっとくんだった……」


祖父の性格を知っていながら何もしなかったことをグレスゴリーの孫は頭を抱えて後悔していた。



---6/1---



A.M8:00 統一連合による掃討作戦が開始された。

ムラサメ1機、スカイホーク2機、ウィンドランナー1機、ルタンド6機、ピースアストレイ6機、ウィンダム3機。総勢19機による3方向からの攻撃で、航空MSが町に空爆を行い、後方のMS隊が追従する。

カーディオンたちが乗る3機のウィンダムは正面の後方部隊であった。

ルシオルは機体を進めながらフォスタードと通信を繋いで、話していた。


「それにしてもよ、上も何考えてんだか。俺らの部隊だけ隊長を切り離して、隊長だけ爆撃の方にまわすなんてさぁ」


『爆撃の担当はスカイホークと隊長のウィンドランナー。確かにムラサメと比べれば爆弾とかの積載量は多いけどねぇ。それよりも、爆撃みたいなマイナスイメージは大西洋連邦に被せちゃえって感じなんじゃないの?』


「ったく、ひっでーよなー。」


二人が雑談しているところにカーディオンからの通信が入る。


『二人とも、気が緩みすぎだよ。作戦はもう始まってるんだから気を引き締めて』


「ああ……、悪い悪い。」


カーディオンのまだ冷たさが残る言葉に普段のカーディオンとは違うものを感じ、ルシオルは一抹の不安を覚えつつも謝る。

(こいつ、絶対無理してると思うんだよな。何かと自分の中で溜め込むし。根が真面目だとこうなるもんなのかねぇ……。)

自分が不真面目な奴だと自覚しているルシオルが考え込んでると、カーディオンが突然話しかける。


『ルシオル、なんか言った?』


どうやら頭の中で考えていたことが小声で零れていたらしい。ルシオルは慌てて弁明する。


「いや、ただこのまま何事も無く済めばいいなって思っただけだ」


『ルシオル~。僕らがそういうことを言うと決まってなんか起き……』


ルシオルをフォスタードが茶化そうとしたその時、一際大きな爆発が響き渡る。


「……。爆撃にしちゃ…ちっとばかりでかくねえか、あれ」


『そ、そうだよね……』


『違う、撃墜されたんだ!』



掃討作戦を指揮しているレーデ准将は飛行船「ストラリムジン」で高高度から爆撃の光景をゆったりと眺めていた。


「指示一つで他者を一方的に蹂躙できるこの快感。やはり掃討作戦というのは気持ちの良いものだな」


「ですが准将。何も自ら出向かわなくてもよろしいのでは」


愉悦に浸るレーデ准将に対して部下が進言するが、レーデ准将は溜息混じりに答える。


「全く、分かっていないな、君は。今現在起きている生の映像だからこその感動なのだよ。事前に撮影した映像ではその感動も半減してしまうではないか。私が楽しみにしているのは既に決まった結果ではなく、次に何が起きるのかということなのだよ。もっとも、私の予定を大きく逸脱しない範疇で、ではあるがね。それにだ、このストラリムジンには対ビーム加工を施してあるうえに通常のMSでは届かない高高度を飛行している。奴らは目の前の敵に気を取られて気付かんし、気づいたとしても攻撃する手段が無いのだよ。」


レーデ准将はそう言うと、再びモニターの方に目を向けた。

画面にはスカイホークが順調に町を爆撃し続けている様子が映し出されている。


「しかしまあ、ここまで無抵抗で一方的な展開ではつまらなくなってくるがね。」


そのとき、爆撃を続けていたスカイホークが墜落した。


「ん?いったい何が起きた?」


レーデ准将の問いにオペレーターは戦況の変化を報告する。


「どうやら町に潜伏していたテロリストによる攻撃のようです。現在確認されている機影は東部と中央部に1機ずつ、西部に4機です。先ほどの攻撃でイーストワン部隊のスカイホークがシグナルロスト、追従していたルタンド隊が交戦状態に入りました。同様にウェストワン部隊並びにセントラルワン部隊もそれぞれ交戦状態に突入しています」


「そうか。ならばイーストワンの支援にイーストツーを、ウェストワンとセントラルワンの支援にウェストツーとセントラルツーを向かわせろ。それと、待機させておいたスネイルを投入する」


「スネイルを…ですか?了解しました」


オペレーターはレーデ准将の出したスネイル投入の指示を戸惑いながらも実行に移す。


「こういうのが無くては面白くない。精一杯反抗する輩を圧倒的な力で蹂躙してこそ、最高の感動となる。スネイルの試験もできて嬉しいよ」



地上からイーストワン部隊のスカイホークに追従していたルタンド小隊は前方の倉庫から放たれたビームがスカイホークを撃ち抜いたのを確認していた。倉庫の爆炎が晴れて見えたのはガズウートの上半身であった。その胸部には踊り子のマークが刻まれている。


「何でこんなところにガズウート、いや、MSが!?」


「落ち着け。所詮は木偶の棒のガズウートだ。この距離なら容易く破壊できる」


慌てる隊員を小隊長が落ち着かせる。

格闘兵装を持たない遠距離支援機であるザウートタイプの機体にとって、近づかれることは死と直結する。

本来は弾幕を張って相手を近づかせるべきではないのにあのパイロットは自分達がここまで近づいているにも拘らず姿を現した。

よっぽどのど素人か馬鹿か、あるいは自殺志願者なのだろうと小隊長は侮っていた。

それが誤りであったことはすぐに身をもって知ることとなる。


「っけ、踊り子のエンブレムなんかつけやがって。デブの踊りなんか見たくもねえんだよ。とっとと消えろ!!!」


建物がジャマで一直線に接近することはできないがガズウートの鈍重さを考えれば接近せずとも今の位置からビームライフルを撃つだけで事足りる。

そう思って放った一撃は虚しく空を切ることとなった。ガズウートらしからぬ俊敏な動きでかわされたのである。


「あれがガズウートの動きか!」


小隊長も焦ってビームライフルで撃つが1発も当たらず、反対にガズウートのビーム砲で僚機のルタンドが撃ち抜かれて爆散する。

ルタンドの視界からガズウートの下半身を隠していた建物が外れる。そこでその小隊長は信じられないものを目の当たりにした。

そのガズウートは、上半身こそはガズウートのものであったが本来あるべき下半身が無く、代わりにラゴゥのボディーが存在した。


「隊長!何なんですか、あれは!!!」


「私に聞くな!分かるわけないだろ!」


残った2機もひどく混乱している間に、ガズウートを背負ったラゴゥが間を通り抜け際に展開したビームサーベルで両断され、爆発の中に消えた。



ルタンド小隊を瞬く間に屠ったグレスゴリーはガズウートを背負ったラゴゥ、通称ラゴウートを駆って上機嫌であった。


「かっかっか!見たか、統一連合の有象無象どもよ!これがワシの自信作、ラゴウートじゃ!!!これから戦場の踊り子(ウォーダンサー)が主らを1機残らず叩きのめしてやるから覚悟しておれ!行くぞ、ラゴウート!!!」


グレスゴリーは新たな獲物を探すため、機体のアクセルを全開に吹かして突っ込んで行った。蛇足だが、全周波通信で流していた先ほどの口上は、ラゴウートの通信機の故障で周囲に全く伝わっていないことを彼は知らない。



シンはムラサメとピースアストレイ3機の小隊と対峙していた。

3機のピースアストレイが統率された動きでシンのシグナスに向けて一斉にビームライフルを放つ。動きの様子から無人機であろう。

シンはその射撃をかわしながら初撃で指揮官であろうムラサメを墜とせなかったことを歯噛みする。

本来、対暴徒用として運用される無人のピースアストレイは指揮官機からの命令を受けることによって対MS戦を可能としている。逆に言えば指揮官機さえ撃墜すれば無人のピースアストレイは対MS戦においては無力に等しくなる。


「クソッ!レイがいないとここまで精度が落ちるのかよ。だったら!」


相方の不在に愚痴をこぼしながらシンはシグナスのスモークディスチャージャーで煙幕を展開した。



ムラサメのパイロットはシグナスが交差点に向けてスモークディスチャージャーを展開して突入するのを確認する。


「煙幕か。逃げる気だろうが、そうはさせん!」


交差点の分岐点を煙幕に隠れて逃げる。そう読んだムラサメのパイロットはピースアストレイにその逃走ルートを塞がせたうえでビームライフルを掃射するようコマンドを送り、自身も残るルートにライフルを向ける。

後は出てきたところを撃ち抜くだけ。とっとと結果を出して、こんな辺境に左遷した奴らを見返して、そして悠々と本国に返り咲こう。

そう考えていたパイロットの読みは呆気なく崩れることになる。

煙幕から放たれたビームに反応の遅れたピースアストレイの1機が胸部を撃ちぬかれ、爆散する。

さらにムラサメのパイロットが新たなコマンドを送る前に煙幕からシグナスが対艦刀を構えたまま出てきてもう1機に振り下ろし、両断する。

コマンドを受けた残る1機がビームサーベルを抜いて切りかかろうとしたが、それよりも速くシグナスが腰から取り出したビームサーベルに胴体を切り落とされた。

指揮していたピースアストレイがわずかな間にたった1機のシグナスによって全滅した。

その事実にムラサメのパイロットが驚いている間に、シグナスは煙幕の中に再び入っていく。

今度はいつ・どんな攻撃をしてくるのか、ムラサメのパイロットには分からない。今までマニュアル通りにしかこなして来なかった彼が唯一つ分かったことは、このままだと自分は死ぬことだった。



展開した煙幕の中でシンはビームライフルの照準をムラサメに定める。

煙幕の影響で若干狙いがつけにくいが問題は無い。後は引き金を引くだけ、容赦はいらない。

シンがトリガーを引いたとき、ロックオンされたことを示すアラームが響いた。

思考より先に反射的に機体を動かしたために狙いがずれ、ビームはムラサメのライフルを撃ち抜くにとどまる。


「ミサイル!?くそっ、増援か!」


煙幕を抜け出し、シンの目に映ったのは小型の戦闘機を思わせるミサイルであった。

あんなサイズのミサイルをまともに受けたら追加装甲を持つこのシグナスでもひとたまりも無い。

シンはシグナスのバルカンで撃ち落とそうとするがそのミサイルは弾幕をバレルロールで華麗にかわして接近してくる。

ただ撃っても当たらないと分かったシンは、2発目のスモーク・ディスチャージャーで展開した煙幕の中にミサイルを誘導してセンサーを殺し、左腕のスレイヤーウィップで絡めとったシールドに衝突させることでようやくその攻撃を防いだ。

大型ミサイルを防いだのも束の間、シグナスのレーダーがムラサメと異なる、大西洋連邦のシグナルを出す機体の接近を知らせていた。



「っく、やはりシブーだけでは無理があったか。本来ならヴェスペも欲しかったところだが」


今回のウィンドランナーは両翼のマウントラック全てに爆撃用の爆弾を搭載しており、普段の装備は全く無い状態であったことをニールは歯噛みした。両翼に装備するものはまだ良い、しかし両腰に装備する誘導ミサイル「カズー」まで命令で爆弾に換装させられていたのは本当に痛かった。

いくら精密性と自立回避能力に秀でた対地対艦ミサイルである「シブー」であってもただそれだけで使うのではその効果も大きく薄れてしまう。

せめて他のミサイルもあればと思いながらも両翼に抱えた爆弾を切り離し、機体をMS形態にしてムラサメに通信を繋ぐ。


「こちらは大西洋連邦所属、ニール=アスカロン大尉。敵機撃墜に協力する。返答を求む」


『こちらは先の戦闘でピースアストレイが全滅した。本機も被弾している!増援を呼んで来るから貴官は足止めを頼む!』


ニールの問いかけに対してムラサメのパイロットはそう言うと、その場を離れていった。

有無言わせぬ返答にニールは驚きこそしたがシグナスが追いかけようとしているのを確認し、ビームライフルで牽制する。

〈できれば、生きているうちに増援が来てくれると良いんだがな。〉



大西洋連邦のウィンドランナーを置いて逃げていくムラサメを見てシンが呟く。


「何だよアイツ、逃げやがった。オーブも落ちたもんだな。」


自分が知っているオーブ軍は、戦いで敵前逃亡するような者はいなかった。

心の奥底ではそう信じていただけに、裏切られた感じがして無性に腹が立つ。

落ち着いて考えれば増援を呼びに言ったと考える方が妥当なのだが、いらついているシンにはそのような考えよりも逃げたという印象の方が大きかった。

逃げたムラサメを追いかけようとするが、ウィンドランナーのビームライフルがシグナスの前の地面を穿つ。


「んだよこいつ、ジャマをするなー!」


シンはビームライフルで反撃するがニールのウィンドランナーにことごとくかわされる。

〈こいつ、さっきの雑魚とは違う!〉

頭に血は上っていても、パイロットとしてのシンの本能がわずかな間に相手がエース級の腕であること、だがそれもあのキラやアスランのような圧倒的な実力は持っていはないことを見抜く。

自分がここまで手こずっているので、自分の腕が鈍っているのかと不安になるがすぐにその原因に思い至った。

それは、相手がこちらを撃つ際に射撃体勢に入っていないことだった。

口で言えばどうということは無い様に思えるが、射撃戦において反撃の大きなチャンスである、射撃体勢という隙が無いということは、こちらが攻撃する機会が大きく減ることを意味している。

相手の狙いが甘ければ時間の浪費以外に大して意味はないのだが、目の前のパイロットは下手なパイロットが狙って撃つよりも精密に攻撃してくる。

しかも、格闘戦に持ち込みたくても空を飛ぶウィンドランナーのパイロットもそれは分かっているようで接近してこない。

〈こりゃ長くなりそうだな……〉

シンが長期戦になると思ったその時、出撃前にコニールから渡されていたインカムに通信が届く。


「コニールか、町の人たちの避難は終わったのか。悪いけどすぐには行けそうにも……」


『シン!……早…来…!!!……』


聞こえてきたのは悲鳴にも似たコニールの、助けを呼ぶ声であった。コニールが叫んだ台詞は激しいノイズの所為で途中から聞き取れなくなり、通信も途絶える。


「コニール!何があったんだ、コニール!!!」


シンはその通信記録からコニールの位置をシグナスに割り出させる。

今、自分たちは統一連合の掃討作戦で追われている身。その一人である自分がこの機体に乗っていることを知らず、もう一人を見つけたとなればそちらの方へ行くのは十分ありえることだ。そうなれば危険なのはシグナスで統一連合への囮となる自分ではなく、MS相手に戦う術を持たないコニールのほうなのは明らかなはずであった。

〈畜生。何でそんなことにも気が付かなかったんだ、俺は!〉

シンは愚かな自分に怒りを覚えつつ、残り1発のスモーク・ディスチャージャーで煙幕を展開した。今、目の前にいるウィンドランナーを少しでも引き離してコニールの下へと向かう為に。



<来るか……>

シグナスが煙幕を展開したのを見て、ニールは相手の攻撃を警戒を強める。

周囲の大破したピースアストレイから、あのシグナスには相当の手練が乗り込んでいることは分かっている。下手に接近すると思わぬ一撃を受ける危険性があった。

そこでニールは両腰に残しておいた爆弾を煙幕の中に落としてシグナスを炙り出すとともに、その爆風で煙幕を一気に晴らす。

そして、ニールは煙幕から出てきたシグナスをウィンドランナーをMA形態で追うが、シグナスはホバー移動で滑る様に走りながら、こちらを向いてバルカンとビームライフルで追いかけるウィンドランナーに応戦する。

〈あの動き、本気で逃げているようには思えん。私を誘っているのか?だかどこに?どちらにしろ、これ程の手練をここで逃してしまったら後々大きな厄災となる。逃がすわけには行かない!〉

相手の思惑がわからないニールであったがかまわずシグナスに向けてビーム機関砲とビームライフルを掃射する。

その攻撃をかわしながら下がり続けていたシグナスだったが、突然全力で前進した。

追いかけていたシグナスを一気に追い抜く形となり、ニールはウィンドランナーをMS形態に変形させて制動をかける。その時、ウィンドランナーの大きな爆発音が響いた。

一体何が起きたのかと振り返るが、爆発跡にもその周辺にもシグナスの姿は見当たらない。

そんな中、機体のアラームが頭上からの敵の接近を警告する。ニールはまさかと思いながら上部のモニターを見やる。

そこには追加装甲を脱ぎ捨てて身軽になったシグナスの姿が映し出されていた。

ニールは爆発が起きた場所に何があったかを思い出す。

〈確か、私はあの近辺に邪魔な爆弾を破棄したはずだ。まさかそれが爆発せずに不発弾として残っていたのか。奴はそれを知ってここに誘導して爆発を機体が跳ぶ際の浮力に利用したのか。〉

シグナスは既に右手に対艦刀を持って斬りかかりに来ている。

初動で遅れてしまったために、ビールライフルで撃ち落とすことも、かわすこともできない距離にまで近づかれてしまった。ならばとニールはシールドに内蔵されたビームソードを展開してシグナスに体当たりを仕掛ける。

シグナスとウィンドランナーが空中で激しくぶつかり合う。


「この機体を、ウィンドランナーの力を甘く見るな!」


ニールは叫びながらブースターを踏み込んでシグナスに押し切られないようにしながらシールドの湾曲でシグナスの軌道を無理矢理ずらす。従来の航空MSと比べて大型で、パワーがあるウィンドランナーだからこそできたことであった。もしこれをムラサメでやろうとしたら、そのまま押し切られて両断されていただろう。

そのまま地上に落下するシグナスの落下予測地点に向けてビームライフルを撃つ。しかしシグナスは本来の軌道を取らずにウィンドランナーの下へ潜り込む様な軌道を取り、かわした。

突然、ガクンっと機体に重りでもついたかのような感覚に襲われる。見ると、ウィンドランナーの左足にシグナスの左腕から伸びるスレイヤーウィップが絡み付いていた。

シグナスはそのスレイヤーウィップ支えに落下の軌道を変え、着地の衝撃を殺したのだ。


「っく、それならば!」


ニールは咄嗟にスレイヤーウィップが絡みついたウィンドランナーの左足をビームソードで切り落とす。決して無視できないダメージだが高周波パルスで機体そのものが破壊されるよりはずっとマシだ。

切り落とされた脚部に高周波パルスが流れ込んで赤熱し、数瞬遅れて爆発する。

急激な重量変化で崩れるウィンドランナーの体勢をニールが立て直しているうちに、地面に着地したシグナスは見る見るうちに離れていった。



「助かった…のか」


逃げられた、ではなく助かった。無意識にそう言っていた自分にニールは少なからずショックを覚えていた。自分ではあの手練を討ち取れない。その事を自覚してしまったからだ。

追う気であれば追いつくことも可能だろう。だが、その後討ち取ることができるのか?敗北を自覚してしまった自分で。


「あんな自爆覚悟の手段で攻撃してくるとはな。正気の沙汰とは思えん……。このダメージでは残念だが、一度帰還したほうがよさそうだな。奴が向かった方向は…ウェスト1が展開しているエリアか。……ウェスト1?不味い!ウェスト1にはセントラル2が支援に向かっている!このままでは挟み撃ちに!」


部下に迫る危機を感じ取ったニールは損傷を抱えたままのウィンドランナーをMA形態に変形させ、既にかなり離されているシグナスの後を追いかけた。



シグナスから増援を呼ぶと理由をつけて逃走したムラサメのパイロットは、他の部隊が集中していたウェスト1へ機体を走らせていた。


「ここまで逃げりゃあの化け物もすぐには来れないだろう。さてと、一応増援を呼びに行った事になってるからな、確か他の部隊が指令でここら辺に……」


ムラサメのパイロットが見つけたのは、大西洋連邦に所属する3機のウィンダムであった。

〈セントラル2か。確かあの化け物を足止めしている機体も大西洋連邦だったな。丁度良い。あいつらならあの化け物にやられても俺に迷惑がかからねえ。〉

ムラサメのパイロットはセントラル2に通信を繋ごうとする。

しかし、それがカーディオンたちに届くこともムラサメのパイロット自身それを知ることもなく、センサーの範囲外からコックピットを撃ち抜かれ、沈黙したまま力無く落ちていった。



シンに悲痛の通信を繋ぐ少し前に遡る。住民の避難を進めていたコニールは目の前の老婆の説得に四苦八苦していた。


「逃げないと駄目じゃない、おばあちゃん。ここは危険なのよ。」


「嫌じゃ!ワシはここで息子が戻ってくるのを待つんじゃ!」


目の前の老婆は先ほどからこの調子でここに残ると言って聞いてくれない。町への攻撃はもう始まっているから急がないと老婆だけでなく自分の身も危ない。

そう感じたコニールはなおも説得を続ける。


「統一連合がすぐそこまで来てるのよ!おばあちゃんが死んじゃったら息子さんとも会えなくなるじゃない!だからお願い、早く逃げて!」


「息子はあの建物の中にまだいるんじゃ!ワシが待ってやらんと、待ってやらんと……」


「あの建物って……」


老婆が指差した先にあったのは建物ではなく、無造作に残された瓦礫の山であった。

この周辺にはまだ爆撃されていないことを考えるとおそらくは90日革命、あるいはそれ以前に倒壊したものかもしれない。

コニールはそれが何を意味しているのかを理解した。目の前の老婆はその現実を受け入れられず、息子さんがひょっこりと戻ってくることを願っていることも。

その時、近くで爆発音が聞こえる。爆撃が始まったのかとコニールは思ったが、それは統一連合のムラサメが墜落した事による爆発であった。

〈ひょっとして、シン?でも今は中央部で統一連合を引きつけてる筈なのに……。どうして〉

コニールが振り返ると、それぞれ長距離射撃・重武装・重装甲の改造を施された3機のジンとザクが姿を現していた。

コニールはその中でも、ザクファントムの肩に刻まれたエンブレムに戦慄する。

〈あの黒い鯱のエンブレムって確か……、黒鯱のマーレ!!!何であいつがこんなところにいるの!?〉

マーレ=ストロードの名はレジスタンスの間でも有名であった。統一連合の船や商船、果ては無関係な民間船すら襲撃して全てを破壊し、奪い取る悪名高きマーレ隊のリーダーにしてレイヴェンラプター師団における対MS戦のレコードホルダー。そして、かつてザフト時代にシンの同僚としてアビスの正式パイロットにも選ばれたザフトのエースパイロット。

統一連合によってレイヴェンラプター師団が壊滅状態になった後は行方不明だったという話はコニールも聞いていたが、まさかこんなところで遭遇することになるとは思っても見なかった。

〈町を守る……わけないわよね。シンに伝えなきゃ!〉

コニールが老婆の手を掴んで走り出すのと、マーレたちが統一連合に攻撃を仕掛けたのはほぼ同時だった。


「シン、シン!!!」


コニールはシンに何度もインカムで呼びかけるが、雑音が激しくて全く届く様子が無い。

マーレたちと統一連合はそのようなことはお構いなしに戦闘を行っていた。いや、戦闘というにはあまりにもマーレたちが一方的であったからただの暴力といっても言い。物量では統一連合が勝っているにも拘らずだ。

スペックでは上回っているはずのルタンドたちでさえ防戦一方で、無人機のピースアストレイにいたっては始めの砲撃で2機とも葬られている。ウィンダム達も1機がジンのスナイパーライフルで右腕を砕かれた。


「シン!お願い、早く来て!!!このままだと……」


その時、マーレのザクファントムにビーム突撃銃コックピットを撃ちぬかれたピースアストレイが爆発せずにコニールのほうへと倒れ掛かってくる。

今の位置では老婆と一緒には、いや、一人であったとしても逃げることができない。

〈そんな。私、ここで死ぬの!?嫌、嫌!〉

目前に降りかかる死の恐怖に体が動かなくなってしまうコニール。しかし数秒後に来ると思っていた終わりは鈍い金属音、そしてその数瞬後に響く建物が崩れる音と舞う砂埃に変わっていた。

それは自分たちを狙っているはずの統一連合のウィンダムが、倒れ来るピースアストレイをシールドで弾き飛ばして自分たちを守るという天地がひっくり返ってもありえないと思っていた光景であった。

〈どうして、統一連合が助けるの?狙いは私達だったんじゃないの!?〉

困惑するコニールを他所に2機の他のウィンダムがサポートに回ってマーレたちの攻撃を食い止める。

そして目の前のウィンダムのコックピットが開きパイロットが出てくる。パイロットの台詞にコニールは再び驚かされることとなる。


「コニールさん……。僕です…カーディオンです……」


「カーディオン……。あなたが……そんな…」


縁があったらまた会おう。彼にそう言ったコニールであったが、まさかこのような形で再会することになるとは考えてもいなかった。

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