あぁ~、これか?これが大きな力か?そうだよな、コレだよな……
なんだかヤバイ感じだよな……

今や普通の人間であるジュンでさえソレは感じる事ができた。
余りにも異質、あまりにも巨大で、圧倒した存在。
それが何なのか解らないが、これだけは言える。
それは全てを超越した存在。

「おい、翠星石、これヤバイのか?」
「ヤ、ヤバ過ぎですぅ~、たぶん有栖神社の神様ですよぉ~~」

いつの間にか2人は互いの体を密着させ、震えだしていた。
これから何が始まるのか、予測すらできない。
ピシッ、氷が割れるような音が部屋の中で3~4回ほど短く響く。
その後、ジュンのベッドに敷いてある布団がモコッと盛り上がった。

おぉぉぉぉ~~ヤバイぃぃ~~ッ!!
き、ききき来たですぅ~~、来やがったですぅぅぅ~~ッ!!

恐怖のため2人は盛り上がっていく布団から目が離せない。
その布団は今や人間の大きさまで盛り上がっている。
まさに布団の中に人が入ってそのまま立ち上がったようである。
そしてゆっくり布団がズルズルっと落ちていき、中から長い髪の少女が姿を現せた。

「おっ、おぉぉお~、お前は誰だ……?」

震える声で少女に声をかけるジュン。それに対し少女はゆっくり答えた。

「…私は…木花知流姫神……薔薇水晶……です…」

コノハナチルヒメノカミ……? 薔薇水晶……?本当に神様が来たぞ、どうするんだよ?

「…木花咲那姫神とは…友達です……エヘッ」

コノハナサクヤヒメノカミ……?誰だよソレぇ?つーか笑ったぞッ!!
おい、翠星石、僕はどうしたらいいんだよ?

ガタガタと震える翠星石に小声で聞くと、帰ってきた答えは一言、
知らんですぅ~だった。

そんなジュンと翠星石をよそに彼女は話を続けた。

「……今日は祠を……掃除…ありがとう……お礼に予言をします…」

えっ、祠の掃除、お礼…なんだか悪い感じじゃないな。
それに見た感じ可愛い女の子じゃないか……。
それに予言ってなんだろう?

「……2丁目の…八百屋さんに……」

2丁目の八百屋さん?すぐ隣じゃないか、なんだ?火事でも起こるのか?
それだと僕の家もヤバイぞッ!!

「……2日後……新鮮な白菜が…入荷します……トマトも2割引…エヘッ…また……遊びにきます……エヘヘッ…」

そういい残すと木花知流姫神、薔薇水晶と名乗った圧倒的な力を持った存在は跡形もなく消えた。
しばらく呆気に取られ何も言えなくなったジュンはやっと口を開いた。

「おい、翠星石、今の本当に神様なのか?お前の仲間じゃないのか?」
「なんだか知らねぇですけどぉ~やっつけれそうですねぇ~~」
「また遊びに来るって言ってたな……」
「言ってたですねぇ~~」

翠星石だけでも手が一杯なのにその上あんな得体の知れない神が来ることに、頭を抱えたジュンは笑うしかなかった。

                    *

「ほら、どうしたですぅ?元気がないですよぉ~」

元気なんてあるわけないだろーッ、土曜の夜は変な神様が来たし、日曜日はまた朝から死に場所探しだし、その夜はまぁ~た朝方まで騒いで寝れなかったし、翠星石が来てからロクに寝てないよッつーか、なんで幽霊は夜中になるとあぁもテンションが上がるんだよ?

普通でも憂鬱な月曜の朝が寝不足と疲労のため、いつも以上に気が滅入る。
登校するジュンの体はマラソンでも走った後の疲れた足取りに近い。
しかも、追い討ちをかけるように散歩中の犬などは、ほぼ100%に近い確率でジュンに向かって吠え立ててくる。
それは犬やネコなどは人間には見えない霊体をかなりの割合で察知することができる。よってジュンにではなく翠星石に向かって吼えているのだ。

「おい、翠星石、ちょっと離れろよ、お前と一緒に歩くと犬が飛び掛ってきそうになるんだよ」
「犬っコロなんか無視すればいいのですぅ~」
「そりゃぁ、子犬とかネコならいいよ、でも日曜なんかシベリアンハスキーに追いかけられたじゃないか~ッ」
「そんなの飛べば楽勝ですよぉ~、何にも怖くないですぅ~」
「おい、僕は生きた人間だぞ、飛べるわけないだろ」
「じゃ、お前も死ねばいいですぅ~、死んだら飛べるから楽ですよぉ~」

クッ……死ねなんて言ってきたぞ、こいつ地縛霊とか言いながら本当はタチの悪い悪霊なんじゃないのか?強制的にお払いしてもらおうかな?
でも有栖神社は止めたほうがいいな、神様があんなのじゃ無理だろうな…

土曜の夜に現われた木花知流姫神、薔薇水晶と名乗った存在を思い出すと、どうも頼りない感じがする。
見た所、年齢は小学生くらい、無邪気な笑顔でニコッと笑う神様など聞いたことがない。

あれって本当に有栖神社の神様だったのかなぁ~?

そんな疑いを感じながら校門までくると、後ろから巴の声が聞こえた。

「おはよう~桜田くん」
「あぁ、柏葉か、おはよう」
「どうしたの?なんだか顔色よくないね?」
「明け方まで起きてたから、寝不足なんだよ」
「ふぅ~ん、読書とかしてたの?」
「うん、翠星…い、いや、ゲームをしてたんだよ…なぁ、所で有栖神社の薔薇水晶ってどんな神様なんだ?」

危うく翠星石のことを言いかけ、慌てて話題を変えるが、やみ雲に変えるのではなく、有栖神社に祀られている神様のことを聞く。
そんな予測しなかった質問に少し驚きの顔を見せた巴だが、すぐにニコリと微笑む。

「桜田くんって、そんなのに興味あったの?」
「まぁな、有栖神社って家の近所だし、秋祭りなんかよく行ってたし、それに柏葉のお爺さんって神主なんだろ?知ってるかなって思って」
「う~ん…小さい頃に御神体を見たことがあるけど」

そう言うと巴は靴を脱ぎ、上履きに履き替えながら話を続けた。
有栖神社に祀られている紫色をした巨大な水晶。
それを薔薇水晶と言い、かなり古い神様らしく、いつ頃からあるのかも曖昧のようだ。
ただ、言い伝えによると霊峰、富士山となにやら関係が深いらしいことしか解らない。
その薔薇水晶のご利益は邪気や病魔を祓ったり、時には有難いお告げなどをしてくれるらしい。
そこまで聞いたジュンは顎に手をやり、う~んと小さく唸りながら考えた。

有難いお告げなんて近所の八百屋に白菜が入荷するとか、トマトが安いとかしか言ってなかったぞ……それのどこが有難いんだよッ?
でも、薔薇水晶って別名だよな、その前に何か名前を言っていたよな?
確か……このはな…このはなちるひめのかみ……だったかな?
ちょっと調べてみようかな?

教室の入り口まで来たジュンは巴に用があるからと言い残し、パソコンがある視聴覚室に行く。

「お前、あの柏葉って女と仲がいいですねぇ~もしかして、す、好きなのですかぁ~~?」

パソコンのモニターを見ているジュンのそばで翠星石は少し横を向きながら視線の端にジュンの顔を捉えつつ、モジモジとしながら聞く。

「別に、そんなんじゃないよ」

ジュンはモニターを見つめ、キーを打ちながら言う。
いっけん無愛想な言い方にも聞こえるが、その言葉を耳にすると翠星石の頬はほのかに赤みが差し、小さなえくぼができる。

「そ、そ~ですよねぇ~、あんな小娘なんかチョチョ~イのポイッて感じですぅ~~」
「はぁ? 何の話なんだ?」
「なっ、な、なな何でもねぇですぅ~、こっちの話ですぅ~~!!それよりもいい天気ですぅ~、お昼寝タイムにはもって来いですぅ~」
「ん? 変なヤツだな……」

両手をブンブンと振り回したかと思ったら、すぐに窓を通り抜けて出て行く。
そんな翠星石に首をかしげ、モニターに視線を戻す。

「あっ、こ、これか…?」

『このはなちるひめのかみ』で検索をかけたモニターに日本の神々の名が記されたサイトが出てくる。
左から右へ眼球を動かし、文字を追っていくジュン。

『このはなちるひめのかみ』って『木花知流姫神』って書くのかぁ?
なになに、えぇ~っと、富士山の神とされる木花咲那姫神(このはなさくやひめのかみ)と対の神……または同じ神の別の面を表した神とも言われているぅ~~??なんだよソレ?って確か薔薇水晶が部屋に来たときに木花咲那姫神と友達って言ってたな~、それに柏葉も富士山と関係があるって……
あの変な神様ってもしかして凄いんじゃないのか?

ジュンはサイトを見ながらゴクリと唾を飲む。
にわかに信じられないと思いながらも、どこかで信じている自分に気付く。
そんな矛盾した思いにジュンは初めて薔薇水晶を見た時のことを思い出してみる。

見た目は可愛い感じの女の子だったよな、笑った顔なんか僕より幼い感じがしたし……
でもパワーって言うのかな?オーラって言うのかな?
とにかく存在自体が僕みたいな素人でも解るくらい圧倒的だったよな、幽霊の翠星石がビビッてたくらいだから……あんがい本物かも…

薔薇水晶のことを考えていると知らぬ間に授業開始のチャイムは鳴り終わっていた。
それに気付いたジュンは一瞬あわてたが、遅刻するくらいなら1時間目はサボッてしまえとばかりに、今度は翠星石に関する幽霊のことを検索し始めた時、ガラッと視聴覚室のドアが開く。
先生が入ってきたのかと思ったジュンはとっさに机の影に身を潜める。

「んも~、真紅が紅茶をゆっくり飲むから遅刻したの~」
「朝は優雅にするものよ、レディーは慌てたらイケナイのだわ」
「うゅ~、そのせいで遅刻なの~」
「そんなに他人を責めてはダメよ、私が遅刻したおかげで退屈な1時間目を静かな視聴覚室で過ごせるのだから、感謝しなさい」
「それはただのサボリなの~~」
「じゃ、貴女だけ今から授業に出れば?」
「それはイヤなの~、ヒナも視聴覚室で寝るのぉ~」

真紅と雛苺の声を聞いたジュンは見つからないようにそっと2人を盗み見る。
長い金髪をツインテールにした真紅とピンクのリボンが目立つ雛苺。

なんだよ、先生かと思ったよ~、この2人もサボリかよ~~って、あのピンクのリボンって有栖神社で見た子じゃないのか?




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最終更新:2007年03月12日 22:57