361 名前:名無しさん@秘密の花園 本日のレス 投稿日:2009/07/08(水) 09:08:41 Un51mXhc

「暑いわ…」
街を歩いているだけで汗が噴き出してくる。
もう九月だと言うのに、真夏のような日差しが降り注いでいて思わず暑い、と口に出してしまう。
熱かった高校生活最後の夏も終わり、私は麻雀部を引退した。
主将を華奈に引き継ぐときは、お互い号泣し過ぎて、みんなに笑われてしまったわ。
久保コーチに労いの言葉をかけて頂いてまた泣いて…
いろいろな事があったけれど、本当に楽しかった3年間だった…




ーー高校3年生の9月ともなると本格的に進路について考えなくてはいけない。
私は進学しようとは思っているけれども、まだはっきりとどこに行くとは決めてはいない。
もちろん麻雀は続けるけど…

そう考えた時にふとある人の事が頭をよぎる。

上埜さん…いえ、今は竹井さん、とお呼びした方がいいのかしら?
3年前に出会った時、私の目をきれいといってくれた人。

風越に入学してからは、それほど思い出すこともなかったけれど。

県予選で3年振りに再会してから、度々想うことがある。
もしまた会うことができたならー

そう思った刹那、後ろから声がした。




「あら?あなたは…風越の…」
「あ…」


「それにしても、こうしてまた出会えるとは思わなかった。」
「ええ…とても嬉しいわ」
立ち話もなんだからよかったらお茶しない?という彼女の誘いに乗り、私達は近くの喫茶店に来ていた。
私は暑さのせいか、う…竹井さんに会えた嬉しさかわからないけど、少し気分を高揚させながら冷たいお茶で渇いた喉を潤す。


「あれからね…あなたの事思い出したの。こんな綺麗な子に出会ってたのに忘れてたなんて私もどうかしてるわ」
「…っ!そ、そんな綺麗だなんてっ…」
「あら、冷静そうなあなたでも慌てる事があるのね。可愛い所もあるじゃない」
「え、か、…からかってるのね…」
「案外本気かもよ?」
「もう…」
不思議な人。どこか飄々としていてつかみどころのない人だわ。



それから私達はたくさんの事を話した。
麻雀の事、学業の事、進路の事…
まるで止まっていた時間が動きだすように。

「福路さんは進路どうするの?」
「私は進学しようと思うの。麻雀も続けるわ。あなたは?」
「私も同じ、かな」



風越でこの人と一緒に麻雀出来ていたらー
最近、そう思う事が何度もあった。
もう後悔はしたくないー
そう思ったとき、私の口は勝手に言葉を紡いでいた。


「もし、よかったら私と同じ大学に行かないかしら?」
「え…?」
彼女の目が丸くなる。
「あなたと一緒に麻雀がしたいの。…だめかしら?」
じっと彼女を見つめる。
了承してくれるだろうか…
「…そんなまっすぐな目で見つめられちゃね、前向きに考えとくわ」
そう言って彼女は私に笑顔を向けてくれた。
…私に言わせればあなたの笑顔の方がずっときれいよ。
「ありがとう。…あら、もうこんな時間…」
楽しい時間はすぐ過ぎてしまうもの。
いつの間にか帰宅しなければならない時間になっていた。
もうちょっと勇気をだしてみよう。
「またこういう風に会ってもらえ…」
私が言い終えるより先に言葉が返ってくる。
「ええ、もちろんよ。今日はすごく楽しかった。」



私達はその後お互いの連絡先を交換し、帰路についた。
携帯電話って難しいのね…





楽しかった今日一日を終えて、ベッドの上に横たわる。
彼女の笑顔を思い出す度に自然とこちらの顔も綻ぶ。
こんな所、誰にも見せられないわね…
もし一緒の大学に行って同じ時間を過ごす事が出来たならー
そんなことを考えながら私は深い眠りについた。





数時間前ー
「なんや、随分ご機嫌じゃのう」福路さんと別れてからの帰り道、偶然にもまこと出くわし、帰り道を共にしている。
「ええ事でも、あったんか?」
「うん…素敵な出会いがあったからかな?」



あれから数ヶ月が経った。
話し合って結局二人とも同じ大学に行くことに決めた。
幸い学力的には特に問題はなかったので二人揃って推薦で合格することが出来た。
本当に良かったわ…





でも悩ましい事が一つだけ。
竹井 久さん。

彼女についての事。
あれから彼女とは連絡を取り合って一緒に勉強したり、お茶をしたり、とても幸せで楽しい時間を過ごす事ができた。
でも、その幸せな時間が増えるに比例して、彼女への想いが募るばかり。
その「想い」が“友達”の域を超え、恋人になりたいというようになったのはいつ頃だったかしら。
彼女の事を知れば知るほど好きになっていく。
到底叶うはずもないのに…
そして私は携帯電話を開いた。
そこに映るのは彼女との大切な思い出ー





「…あなた相当な機械音痴みたいだけど携帯はちゃんと使えてるの?」
「え、ええまあ電話くらいは…」
「今時珍しいわね…じゃあ後ろに付いてるカメラは使ってないのね…」
「はい…」
「…よし!じゃ、こっちに来て」
「え…?」
「これをこうやって…じゃ、撮るわよー」
「え、え?」


彼女はとびきりの笑顔。
私は肩を抱き寄せられたせいか少し顔を赤らめている。


気が付くとと画面の上にぽたぽたと雫が落ちていた。


「…ぐすっ…わたしがっ…好きに…なら、なければ…友達のままで…いれるのにっ…どうしてっ…」




もしこの想いを知られてしまったらどうなるか。
そんなことは私にもわかる。
きっと軽蔑されて、距離を置かれてしまう。そうなったら私、どうにかなってしまうかもしれない。





「そうよ…私が我慢すれば…このまま…楽しくっ…過ごせるのっ…」
そうだ。全ては私が我慢すればいいの。
そうすればきっと楽しくー





ーそう決意して、眠りにつこうとしたのに。

「どうすればっ…いいのっ…」
一度決意したはずなのに10分もしない内に簡単に揺らぐ。
また涙が止まらない。本当に…どうすれば…



その時、携帯電話からメールの受信を告げる音が鳴った。





「今度の日曜日、良かったら会えないかしら。」
彼女らしい要件だけを伝えた短い文面。
会いたい…けど会いたくない。
私は矛盾した思考を抱えながら数巡考えた後はい、と短く返事を打ち、彼女に返信した。




会って今まで通りの私でいられるかしら。
わからないけど、でも、これ以上逃げてはいけないわ。


気付けば、外から朝の陽が差し込んで来ていた。

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最終更新:2009年07月11日 16:03