俺達のいる目の前で、若い親子連れが、仲良く遊んでいた。小さな姉弟らしき女の子と男の子を見守る夫婦。
ここの公園は遊具施設も多く、芝生が広く貼ってあり、桜や落葉樹も多いので、家族連れが多い。
あの親子の姿はいつか俺に訪れる未来の姿かもしれない。
時計を見ると、集合時間まであと15分ぐらいである。そろそろ戻ったほうがいいかもしれない。
「行こうか、涼宮」
俺達はベンチから身を起こした。
「ねえ、キョン。人を好きになるってどういう感じ?」
戻り道、涼宮が俺に聞いてきた。
「どうって、涼宮、お前、誰か好きになったことがないのか?」
「ないわね。あたしは恋愛は精神病だと考えているから」
その言葉に、俺は思わず笑ってしまう。
「・・・・・・何笑っているのよ」
「いや、昔のことを思い出したんだ。佐々木から同じ言葉を聞いたことがあって」
「佐々木さんがあたしと同じ事を言ったの?」
「ああ」
人を好きになるという感情は、人間の通常の精神状態とは大きく異なる。普段では考えられないことをしてしま
うという行動が恋愛中に見受けられるのは、根底には変化した精神状態があるからだ。
その意味において、佐々木や涼宮が言った言葉は間違いではない。
「これだ、ということは出来ないな。ありふれた回答だが人それぞれだ。好きになった奴のことがきにかかるとか
、あるいはその人のために役立ちたいとか、いろいろ思うんだろう。そして、その気持ちは人に変化をもたらす」
「どんな変化?」
「そうだな、全部が全部てわけじゃないが、自分を変えようとする。おしゃれして外見や服装が変わったり、あるい
は内面が変化したりする」
「内面の変化?」
「考え方だよ。いい方向にかわることもあれば、悪い方向にかわることもある。昔読んだ漫画のセリフじゃないが、
恋愛の形が綺麗なハ-ト形とは限らないからな」
俺の話を聞いて、しばらく涼宮は沈黙していた。もうすぐ、集合場所の公園に着こうとした時、再び口を開いた。
「キョン。佐々木さんのことをあんたは大切な存在といったわね。鶴屋さん経由で国木田くんから聞いたけど、
中学時代と今のあんたは随分違うって。それは佐々木さんを大事に思う心があんたに変化を促した、そう考えて
いいわけね」
俺の足が止まった。
秋風が俺の顔を撫でて、俺は首を盾に振った。
「涼宮、多分お前が言うことに間違いはないと思う」
集合場所の公園に来ると、すでに佐々木とSOS団の団員達はそこに来ていた。
「早かったな」
「何、我々も今来たばかりですよ」
古泉はそう言って、声をひそめて言葉を続ける。
「実を言えば、こちらの方はずっと喫茶店で話しをしていただけなんですよ。涼宮さんにばれたら、怒られますけど」
おもわず、俺は笑ってしまった。
「ハルにゃん、何か収獲はあったかい?」
素知らぬ顔で、鶴屋さんは涼宮に訊ねる。
「一応、興味深い物があったわ。まあまあの成果ってところかしら」
涼宮はなぜか俺の方を見ながらそう言った。
「こちらもまあまあってとこかね。いいものがみつかったっさ」
鶴屋さんは佐々木を見ながらそう言った。
「もうちょっと時間があるわね。もう一度くじを引いて、不思議探しに行くわよ!」
本日二回目の、涼宮特製の爪楊枝くじを引く。今度の当たりは誰なのか。
「また、あたしね!」
なんと、二回目の当たりも涼宮である。もう一人の当たり、涼宮とペアを組むのは誰なんだ?
「今度は僕らしい」
佐々木の手には、当たりの爪楊枝が握られていた。
古泉と鶴屋さんの笑顔が少し引きつっていた。朝比奈さんが、心なしかソワソワしている様に見える。
「それじゃ、今度は四十分後にここに集合ね」
「じゃあ、キョン。行ってくるよ」
佐々木と涼宮は、俺に手を振って、公園を出ていった。
「よりによってあの二人の組み合わせとは……」
「えらい事になったにょろ」
「だ、大丈夫ですよね」
SOS団の団員は一様に頭を抱えていた。
何を一体心配しているんだ?
「いえ、その……」
珍しく古泉が歯切れが悪い。さわやかスマイルが消えていて、少し不安げである。
「ま、まあ、古泉君。今すぐどうのこうのというわけではあるまいよ。ここは成り行き任せでいくしかないっさ」
鶴屋さんの声にも珍しく焦りの様な物がある。
「そ、そうですよね。な、何も心配する事は無いと思います」
朝比奈さんは自分に言い聞かせるように言った。
ところで、古泉。四十分という中途半端な時間、どうやって過す?
「……随分落ち着いていられますね」
さっきから何をあせっているんだ?
「あ、いえ……その……すいません、ぶしつけな事を聞きますが、貴方は佐々木さんの事をどう思っておられます?」
何だ、いきなり。えらく唐突だな。涼宮にもさっき同じ事を聞かれたんだが。
「涼宮さんが?」
ああ。だから答えたよ。俺にとって、佐々木は大切な、大事にしたい存在だとな。
「そ、その言葉を聴いて涼宮さんはどの様な反応を?」
別に変わった反応はないが。
「そうですか……」
古泉は、少しほっとしたような表情になる。
それより、古泉。おまえは涼宮との仲はどうなったんだ?人の事を心配しないでいいから、お前はどうなんだよ。
「へえ、古泉君。古泉君はハルにゃんの事が好きなのかい?」
鶴屋さんがにやにや笑いながらそう言って、古泉はやぶへびだ、と言う様な顔をした。
最終更新:2013年03月03日 02:29