70-186『HIDE & SEEK』1

ハルヒは久々に学校を休んだ。
理由は至ってシンプル。腹を出したまま寝てしまい、見事にお腹を壊したからだ。
己の迂闊さに舌打ちしながら、母親作製のレモネードをちびちびと飲む。
失恋。
ほんの少し素直になれば……とも思うが、それ以上に思うのは、これまで自分と一緒にいてくれたキョンに対する感謝だ。
思いを噛み砕き、整理していく作業に終始するのに、この休みは良いのかも知れない。

それなら最初に言ってくれよ、という思いも否定はしない。
あんな冴えないのに、あんな綺麗な人が友人……いや、想いに気付かないだけの人がいるなんて思いもしなかったし、当然の如くフリーだと思っていたわけだ。
思い出を反芻する事により、出てくるのはやはり、自分のキョンへの好意。
「……やーっぱ、やめた。」
ハルヒは口唇を持ち上げる。
気持ちに嘘をついて全部無かった事になんて、やっぱり出来やしない。

「好き、って気持ちを見付けた以上、隠すのは無理よね。
あたしはあたしに出来る事をやるだけよ!」

例え振り向かなくてもいい(無論それに越したことはない)。自分の願いは、あの『夕日の約束』なのだ。

同じ頃。全く同様の理由で学校を休む佐々木。
「…………」
考えれば考えるだけ、ネガティブな思いしか浮かばない。
恋の成就の先に待ち構えていた、まさかの困難。人は神たり得ないが、神に等しい能力を持った少女が恋敵。
その気になれば、全てを破壊してしまえる『破壊神』が相手なのだ。
彼女の恐ろしさは、春の事件でよくよく知っている。世界を真っ二つに割れる存在なんていう物騒な存在。そして。
彼女が知らないうちに相手を『存在ごと葬り去る』力の持ち主だという事。
どんな理由があるにせよ、藤原が戻って来たのはそれこそ奇跡だろう。
第一が、ここまで彼女に気を使わないといけない理由は何だろうか。それに。彼女にしてみると全て『無自覚』。
『無自覚』に自分やキョンを消し去る事も可能。だからこそ人は彼女を崇め、恐れる。

アンフェア過ぎる。それこそ狂った世界じゃないか。結論ありきの世界で、自分は何をせよと?

「うまく隠しているつもりなら、それを見付けて突き付けてやるだけさ。」

一寸の虫にも五分の魂。虫けらにも虫けらの意地がある。

例え敵わなくても。儚く叩き潰されるのが運命でも。せめて一矢報いてやる。それがこの『Virtual Insanity』に対する、報復だ。


「キョンくん、お茶です。」
「すみません、朝比奈さん。」
本日は、ハルヒが病欠。そして古泉も長門も欠席だ。
団室では朝比奈さんと二人きりという、神に感謝したくなる僥幸を味わっていた。
オセロをしながら時間を潰す。相談したくても、朝比奈さんの未来の事情を知るから、それが出来ないんだよな……。
朝比奈さんは、俺の視線に気付いたのか、笑顔を見せてくれた。
屈託ない微笑み。天使とはこの人の事だろうな……うん、すまん、佐々木。
「今日の朝、橘さんが来てましたよ。」
「橘が?」
珍しい来客もあるものだ。
「ええ。いきなり『お前なのですー!』って言いながら、私の胸をがばー、っと……。」
「が、がばー、ですか……」
な、なんとうらやまけしからん!同性だからといって、そこまでオープンなんだろうか。
というよりは、あいつレズの気でもあるんじゃないか?佐々木に付きまとってるし、その上で朝比奈さんの特盛を鷲掴みとは。

「レズじゃないのです!古泉さんもガチホモじゃないのですよ!」
「確かにその通りですが、唐突にどうしました?」
「いえ、何だかディスられた気がするので。」

ハルヒから電話が入る。明日の土曜日は、不思議探索をするらしい。
『あんたは佐々木さんを連れてくること!おーばー。』
「おーばー、じゃねぇよ馬鹿!佐々木にも佐々木の都合が……って、おい!」
ったく、お構い無しは変わらんな!こっちは日曜日に佐々木が起こす行動が恐ろしくて敵わんというのに。
「ふふ。何だか嬉しいですね。」
「何がですか?」
朝比奈さんは、安心したように微笑む。
「涼宮さんとキョンくん。なんだかんだといって、いつも通りじゃないですか。」
「……ハルヒが気を使っているんですよ。」
これは、本心。
あいつはなんだかんだいっても、根はまとも……かどうかはわからん……ん?メール?
『閉鎖空間が発生するようなモノローグは避けてください。』
……きょうびはモノローグまで監視されるのか?

「あいつは、こっちにいらない気を回されたくないんでしょうね。
それに、佐々木と付き合っているからといって、何もSOS団関連を拒否する理由はない。だから、俺はあいつに対する態度は変えませんよ。
これからも腐れ縁として、あいつとは続いていくんでしょうが。」
「……私も、皆といつまでも一緒に居られたらいいと思いますよ。」
「……そう、ですよね……」

一人だけ時間の流れが違う人。朝比奈さんは、それだ。
……ただ、あの唐変木ならそんなもんねじ曲げて、無理矢理見つけ出しそうな気もする。
いずれにせよ、今の問題は佐々木だ。
あいつにしても、すぐに隠れちまうからな。探して見つけてやらねぇと。

こうして小さな違和感を残し、団活は終わった。

To Be Continued 『HIDE & SEEK』2

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最終更新:2013年04月29日 13:39
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