70-207『HIDE & SEEK』4

「佐々木さん。単刀直入に言うのです。」
「あなたも大概にしつこいのね、橘さん。」
繰り事と、物別れ。感極まった橘が泣き、罪悪感に駆られる佐々木が橘をなだめすかして追い返す。
この二日間のルーチンワークだ。
「佐々木さんに接触して、いらない事を吹き込んだのは未来人なのですね?」
が。本日は、何か違うようだ。
「いや?あの人には、丁重にお引き取り願ったわ。」
くそったれ。そうと伝えた。だが。彼女の言葉が軛になっているのは事実だ。
その言葉を言った事で、橘には肯定の意味にしか取らないだろうが。
「接触はあったのですね?」
「言葉の通りよ。」
「(…………)」
橘は言葉を紡ぐ。
「佐々木さん。キョンさんは、佐々木さんを守ると言っているのです。」
「守る、ね。」
果たしてどういう手段で?ハルヒを振った事により、キョンの立場自体が相当に危ないのに?
「では、橘さんは私達二人が心中するのが良いのかしら?
涼宮さんが『望めば』私もキョンも消滅。私は嫌よ。一人で消えるのも、二人で消えるのも。
とあれば、私が消えてしまえば涼宮さんは、キョンを消す事はなくなる。」
「(…………)」
「それに。彼女が『望む未来』に成り立つ未来がある。その結果が、あの未来人。私の望む未来から生み出される未来って、何かしら。」
「(あのバカは、危険性のみをあげつらい、その観点のみで見ると絶対に危険な奴ではあるな。)」
「(そこは反論出来ない。)」
「(ま、こいつが怖がっている事はひとつさ。)」
「(…………?)」
「私にしてみると、キョン程に彼女を信用出来ない。寧ろこないだの件を考えると、不信感を強めたといっていい。
世界を守る為に、皆が彼女に捧げないといけないものって何かしら?」
演説を打つ佐々木に、影は影は防音シールドを切ると一言だけ言った。

「お前が怖いのは、ハルヒじゃない。自分の変化だ。」

佐々木達は、何かと部屋を見渡すが誰もいない。
「だ、誰?!」
セーラー服の影は、ドアを開ける。そして影を引きずり出す。
影は、去り際に

「ジョン・スミス。」

とだけ言うと、セーラー服の影に引きずられて去っていった。


「……何だったのかしら。」
「キョンさんそっくりの声でしたよね……」
侵入者が去った佐々木の部屋。
押し問答の末、佐々木は橘に「あなた刑事か検察官が向いているわ。」と言い、渋々ながら自分の気持ちを吐露した。

「……正直、怖い。私はキョンを好きになりすぎている。」

それだけに、マイナスのイメージが強くなり、誰かを思うだけでこうして眠れない日を過ごす。
こうした悶々とした感情と、その爆発。それがこの結果でないか。
「物分かりよく、諦めてしまえば楽になる。春はそう思ったんだけど……」
思いが通じ、膨らんでいくに従い。独占欲が頭を占め出し、その『独占』すら許されないと分かると。
彼を思う人間が、自分一人でない。そう理解すると。

「自分がなんだか、分からなくなってしまうの。」

こんなものは、自分のキャラクターではない。
彼の中の自分を守る為に、必死にやって、でも出来なくて。

「……よくは分からないのですが……私は、キョンさんと向かい合うのが一番だと思うのです!
キョンさんは、どんな佐々木さんだってそのまま受け入れてくれるのです!」
根拠なんてない。しかし、何故か自信がある。そう言いたげに、橘は胸を張った。

「……そうあれば、いいんだけどね。」

変わり者の自分でなく、『仮面』のない自分。それを受け入れてくれるとは限らない。
『諦念』とは。『傷付きたくない』事にも繋がる。仮面を被るのも、その『痛み』からの防衛だろう。
傷を恐れない強さ。そこに憧れ。

同じだけ恐れた。

キョンから佐々木にメールが入る。明日の不思議探索とやらに招待されたらしい。
行く旨を伝え、携帯を閉じる。

早く見つけて。
見つけて。ここにいるから。

意気揚々と帰る橘を見送り、佐々木は一人、溜め息を溢した。

To Be Continued 『Cross Road』

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年04月29日 13:42
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。