突然降り出した、夏の夕立のような激しい雨にたたられて、全身濡れ鼠になったのが、昨日のことで、
すぐにシャワーを浴びたのだけど、私は体調を崩して寝込んでしまった。
ひときわ暑い猛暑に耐えてきた体のツケが、気温が変わって一気に吹き出したようだ。
一日おとなしく寝ていたら、なんとか元に戻っては来た。
窓の外をみると、秋雨とも言うべき雨が降り続いている。おかげで気温は大分下がっていて、過ごしや
すい。
夏の豪雨ではなく、シトシトいう擬音の表現がピッタリくるこの時期の雨。確実に季節は移ろいでいた。
家の中は静かだ。
母親は仕事で、今は家の中に私一人。
普段は私も学校に行っているから、日中は誰もおらず、こんな風に静かなんだろう。
”おい、佐々木、大丈夫か?”
キョンに学校を休むことを伝えたとき、心配そうな声で聞いてきた。
”帰りに寄るからな”
その言葉が、優しく、私の胸に響く。
もう少し休んでいよう。
横になった私の耳に秋雨の音が静かに聞こえる。
携帯の音で目を覚まして三十分後、キョンが家にやってきた。
「調子はどうだ」
「うん。もう大丈夫。一日おとなしくしていたから、明日は登校するよ」
「そうか。よかった。あ、それとこれは今日の授業のノ-トな。あんまり時は綺麗じゃないけど」
キョンが渡してくれたノ-トには、きっちりと授業の内容が記されていた。
「居眠りはしなかったようだね」
「さすがにな。真面目に聞いて、漏らさず全部書いたぞ」
「やれば出来るじゃないか、キョン」
私のために頑張ってくれたことが本当に嬉しかった。
「それと、これは見舞いの品だ。後で食べてくれ」
キョンが持ってきてくれたのは、私が大好きな星華堂のクリ-ムモンブランケ-キだった。新栗が出回る
この時期だけに作られる、口当たりが良い甘さのモンブランケ-キ。それが二つも入っていた。
「食事のあとにでもお母さんと一緒に食べろよ」
「待ってくれ、キョン。僕はあんまり食事が入っていなくてね。それに疲れを取るには甘いものが一番だ
し、せっかくだから、今すぐ食べたい」
「まあ、お前が好きなようにすればいいさ」
「君も一緒に食べよう。母親には後日、僕が買ってくるからさ」
キョンが入れてくれた紅茶とモンブランケ-キを並べる。とても美味しそうだ。
「そうだ、キョン。せっかくだから、病人の僕にケ-キを食べさせてくれないかな」
「へ?」
「頼むよ、キョン。ほら」
口を開けて、キョンの前に座ると、キョンは僕がやって欲しいことを察したようで、ケ-キを切り取り、フォ
ー国突き刺して、私の口の中に入れた。
「うん。甘くて美味しい」
キョンの顔が少しだけ朱色に染まっていた。
最終更新:2013年10月20日 17:26