339 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/11/29(水) 02:59:15


 時は流れて昼休み。
 授業を終えて、俺は早速席を立った。

「さてと……『また後でね』って言ってたよな、遠坂」

 朝方の遠坂の、別れ際の一言。
 あれは学校が終わった後に、という意味ではなく、昼休みに話があるから付き合いなさい、いやむしろ来なければ殺すわよ? という意味の合図なのである。……分かり合えるということって時として落ち込む。

 ともあれ、俺が廊下に出ると同時に、二つ隣の教室からも弁当箱を携えた遠坂が出てくるのが見えた。

「来たわね。とりあえず屋上に行きましょう。
 どうなるにしろ、話はそれからでしょ」

 俺の姿をみるなり、そう言ってくるりと背を向け、とっとと歩き出す遠坂。
 その後ろを少し間隔をあけてついていく。

「なぁ、なんでアイツがここに?」

 歩きながら、朝から思っていたことを遠坂に尋ねてみる。

「私だって知らないわよ。
 家に帰っても顔合わせないし、呼んでも出てこないんだもの」

 先を歩く遠坂は、振り返らずに言葉を返す。
 長いおさげが不機嫌そうに揺れている。

「まったく、どこで油売ってるかと思えば……一度問い詰めとかないといけないわよね」

「ほどほどにな」

 アイツが遠坂にどう絞られようと勝手だが、自分の知らない自分の傷が増えるのはあんまりいい気分じゃない。

「でも、どこにいるのかわかるのか?
 学校にいるかもわからないんだぞ?」

「居るに決まってるでしょ。
 私たちに会う気がないなら、そもそも学校まで出張ってこないわよ、アイツ。
 逆に言えば、居そうな場所を探せばおのずと見つかるって理屈になるでしょ」

「そういうものか? でも、アイツのいそうな場所って……」

「それもなんとなく分かってるわ。何とかと煙は高いところが好きってね」

「あー……それで屋上か」

 以前、大橋の上でアーチャーと話したときのことを思い出す。
 高いところを好むのは魔術師としての美点だと思っておけ、か。
 この赤い主従、どうせ立つなら高いところ、とでも示し合わせているのだろうか。

「……なんか失礼なこと考えなかった、衛宮くん?」

「いや、別に……っと」

 遠坂が更なる追求を行なうより早く、俺たちの脚は階段を上りきり、屋上へ続く扉の前までやってきていた。

「本当にここに居るのか……?」

 重い扉を引きながら、俺は疑念を拭えずにいた。
 なにせアーチャーが学校に居るという話自体、俺には信じがたいことにしか思えない。

「十中八九居るわよ。
 もし居なかったら、土下座してもいいわ」

「それは是非見たいもんだ」

 そして、硬い音を曳いて、屋上の扉が開かれる。

340 名前: 371@銀剣物語 ◆snlkrGmRkg [sage] 投稿日: 2006/11/29(水) 03:00:11


 果たして、奴はそこに居た。
 こちらの背を向けて、フェンス越しの風景を見下ろしている。
 その出で立ちは、戦装束のそれではなく、黒いシャツに黒いズボンの、いわゆる私服。
 それはつまり、今は戦う意志は――少なくとも全力では――無いという意思表示か。

「やっぱり。ここにいたのね、アーチャー」

 遠坂の呼びかけに、ゆっくりと振り返る。

「二人で連れ立っての登場か。
 半ば予想はしていたが、さて……」

 俺に対してか、それとも遠坂に対してか。
 アーチャーはそう独りごちると、自然な動作で腕を組んでみせた。

 ……氷室との一件以来、俺は人に会うたびに左手に目を向ける癖がついてしまった。
 だから、そのときソレを見つけたのは決して偶然ではなかった。

 アーチャーの左手、腕組みした指の隙間。
 そこに、もう見慣れた銀色の薔薇が光っていた。

「それで? 今日、姿を見せたのは一体何のためかしら?
 まさかその指輪を見せびらかしにきただけ、じゃないんでしょう?」

 遠坂の目にも、その指輪は映ったらしい。
 推し量るような言葉に、アーチャーは答えた。


α:「宣戦布告、というべきかな」
β:「とあるドールを追っている」
γ:「忠告だ、夜の新都には近寄るな」

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最終更新:2006年11月29日 19:32