ただその翼は、姫を解き放つ為に(その一)
──思う所は有りました。今でも、無いなんて言ったら嘘です。それでも
あの娘に笑顔を灯したい。哀しい呪いから、彼女を解き放ってあげたい。
そんな、あたしの“大切な人”の願い……叶えたいのが、あたしの──。
あの娘に笑顔を灯したい。哀しい呪いから、彼女を解き放ってあげたい。
そんな、あたしの“大切な人”の願い……叶えたいのが、あたしの──。
第一節:奇策
燃える様な太陽が、落ちました。冷たい夜に、あたし・アルマと“妹”の
ロッテちゃんとクララちゃんは、戦闘態勢を整えます。マイスターの手を
気遣って、あたし達が自分で出来るチェックや調整は個人で行いました。
ロッテちゃんとクララちゃんは、戦闘態勢を整えます。マイスターの手を
気遣って、あたし達が自分で出来るチェックや調整は個人で行いました。
「足のモーターは大丈夫ですか、ファフナー?モリアンの駆動率は……」
『グルォッ!!』
『No problem(全身のチェックを完了しました)』
『グルォッ!!』
『No problem(全身のチェックを完了しました)』
もちろんこんな夜分遅くに、マイスターやあたし達が神姫センターへと
出かける事はありません。ここはMMSショップ“ALChemist”……そう、
あたし達の“家”でした。勝手知ったるこの場所が、輪舞の会場です。
出かける事はありません。ここはMMSショップ“ALChemist”……そう、
あたし達の“家”でした。勝手知ったるこの場所が、輪舞の会場です。
『Yes,sir(弾薬の貯蔵は十分です)』
「御苦労様ですの、フィオナ♪ウィブリオの飛行システムも順調っ!」
『キュイン♪』
「御苦労様ですの、フィオナ♪ウィブリオの飛行システムも順調っ!」
『キュイン♪』
踊る相手は、ロキちゃん。残酷で横暴な運命に翻弄されている姫様です。
彼女を救いたいのは、マイスターの願い。そして……それを叶えたいのが
あたしの“欲望”なんです……その筈、なんです。だから今は、ひたすら
準備に励みます。ヴァーチャルフィールドでの仮想戦闘でも、実空間での
ダメージやコンディションは、きっちりと反映されてしまいますからね?
彼女を救いたいのは、マイスターの願い。そして……それを叶えたいのが
あたしの“欲望”なんです……その筈、なんです。だから今は、ひたすら
準備に励みます。ヴァーチャルフィールドでの仮想戦闘でも、実空間での
ダメージやコンディションは、きっちりと反映されてしまいますからね?
『クルゥ……』
『Ja(問題はありません)』
「そう、問題はないんだよ。リンドルム、アルサス……宜しくね?」
『Ja(問題はありません)』
「そう、問題はないんだよ。リンドルム、アルサス……宜しくね?」
万全な状態じゃなかったり色々なインチキをするのは、彼女にとっても
あたし達にとっても望まない事です。だから、何度でも繰り返し状態を
確認していきます。最善の状態で、彼女の相手をしたいですから……。
あたし達にとっても望まない事です。だから、何度でも繰り返し状態を
確認していきます。最善の状態で、彼女の相手をしたいですから……。
「よし、地上と通路に紙に張り出してきた。気付けば、必ず来る筈だ!」
「あ、マイスターお帰りなさいですの♪外は結構風強いですけど……?」
「有無。きっちり張り付けてきたから、一晩位は恐らく飛ばぬだろうな」
「でも……マイスターが起きていられる間に来なかったらどうします?」
「難しいけど、その時は一度剥がして寝るしかないと思うんだよ?うん」
「あ、マイスターお帰りなさいですの♪外は結構風強いですけど……?」
「有無。きっちり張り付けてきたから、一晩位は恐らく飛ばぬだろうな」
「でも……マイスターが起きていられる間に来なかったらどうします?」
「難しいけど、その時は一度剥がして寝るしかないと思うんだよ?うん」
両手に包帯を巻いたままのマイスターが、店の入口から戻ってきました。
こんなに傷ついても、何度だって苦しんでも……この人はロキちゃんを、
哀しき神の姫を助けたい。その決意が固い事は、何度も確認しましたね。
もうこうなったら、あたし達はその願いを叶えてあげるしかないんです。
こんなに傷ついても、何度だって苦しんでも……この人はロキちゃんを、
哀しき神の姫を助けたい。その決意が固い事は、何度も確認しましたね。
もうこうなったら、あたし達はその願いを叶えてあげるしかないんです。
「出来れば、早い内にロキちゃんが気付いてくれると良いんですけど」
「そうですの。ロキちゃんは何時狙われてもおかしくない立場ですの」
「……首を突っ込んじゃった以上は、絶対に救わないといけないもん」
「嗚呼。皆、苦労を掛けるな……だが、意地でも助けてみせようッ!」
「そうですの。ロキちゃんは何時狙われてもおかしくない立場ですの」
「……首を突っ込んじゃった以上は、絶対に救わないといけないもん」
「嗚呼。皆、苦労を掛けるな……だが、意地でも助けてみせようッ!」
だって、この人に微笑んでほしい。それがあたしの“願い”ですから……
ただ望むだけ・望まれるだけじゃダメなんです。享受しているだけでは、
本当の願望はきっと満たされないって、思うんです。だから、この戦いが
終わってもしも無事だったら……あたしはこの人に、今度こそ言います。
ただ望むだけ・望まれるだけじゃダメなんです。享受しているだけでは、
本当の願望はきっと満たされないって、思うんです。だから、この戦いが
終わってもしも無事だったら……あたしはこの人に、今度こそ言います。
「……今から、なんて言うか考えておかないといけないですね……うん」
「む?どうしたアルマ、緊張している……のも無理はないか。案ずるな」
「ふぇ!?ち、違いますそうじゃなくて!……な、なんでもないですっ」
「む?どうしたアルマ、緊張している……のも無理はないか。案ずるな」
「ふぇ!?ち、違いますそうじゃなくて!……な、なんでもないですっ」
そう。あたしの思いを、あたしの言葉を。あたしの……“心”を。自分の
声で伝えたいんです。そうしなければ、きっとあたしは一生後悔します。
そもそも人間もそうですが……神姫が生まれ変われるとは、限りません。
だから、全てを告げておきたいんです。でないと、あたしは後悔します。
声で伝えたいんです。そうしなければ、きっとあたしは一生後悔します。
そもそも人間もそうですが……神姫が生まれ変われるとは、限りません。
だから、全てを告げておきたいんです。でないと、あたしは後悔します。
「ふむ……悩みを聞いてやりたい所だが、終わってからでいいか?」
「はい。今は、目の前に居る姫を助け出す。それだけですね……!」
「……エレベーターの動く音がするもん。多分、彼女が来たんだよ」
「じゃあ、皆。ここからは気を引き締めていきますのッ!おーっ♪」
『おーっ!!』
「はい。今は、目の前に居る姫を助け出す。それだけですね……!」
「……エレベーターの動く音がするもん。多分、彼女が来たんだよ」
「じゃあ、皆。ここからは気を引き締めていきますのッ!おーっ♪」
『おーっ!!』
出来れば、こんな事になる前に言っておけば良かったです……でも、もう
遅いですよね。今、目の前にある運命……まずは乗り越えていかないと!
あたしは、自分の弱さと“心”をCSCの中に押し込めました。そして、
ずっと待ちます。一分……二分、そして三分経って。彼女は、来ました。
遅いですよね。今、目の前にある運命……まずは乗り越えていかないと!
あたしは、自分の弱さと“心”をCSCの中に押し込めました。そして、
ずっと待ちます。一分……二分、そして三分経って。彼女は、来ました。
「……ここ、貴女達のアジトだったのね?これ、どういうつもり?!」
──────あたしなんかより、苦しんでる筈……ですよね?
第二節:困惑
見るからに殺気と怒気を孕んだロキちゃんが、わざと開けておいたお店の
ドアを潜って現れました。ぱっと見たところ、手足に埋め込んである物を
除いて、幾つかの装甲・武装等が外されています。防水・防塵用の被膜が
剥き出しになっているその姿は、何処か痛々しい“軽装姿”でした……。
ドアを潜って現れました。ぱっと見たところ、手足に埋め込んである物を
除いて、幾つかの装甲・武装等が外されています。防水・防塵用の被膜が
剥き出しになっているその姿は、何処か痛々しい“軽装姿”でした……。
「どうもこうも、逃げるそなたを呼び寄せる為にはこれしかなかろう?」
「だからって……だからって“ラグナロクの紋章”を使う事はないわよ」
「……傷つけたなら謝る。ロキ、これを以前……落としていったろう?」
「だからって……だからって“ラグナロクの紋章”を使う事はないわよ」
「……傷つけたなら謝る。ロキ、これを以前……落としていったろう?」
そのロキちゃんは、マイスターがレジに置いた飾りを見て困惑しました。
紛れもなくそれは……彼女の“闇樹章”だったからです。手に持っていた
同じ符丁の紙──のコピーの、更に破いた欠片──を投げ捨てて、それを
手に取ります。あれはきっと、マイスターが地上に張っていた紙ですね。
紛れもなくそれは……彼女の“闇樹章”だったからです。手に持っていた
同じ符丁の紙──のコピーの、更に破いた欠片──を投げ捨てて、それを
手に取ります。あれはきっと、マイスターが地上に張っていた紙ですね。
「これ、そんな……何処で拾ったのよ!無くしたと思ってたのに……」
「数日前に拾った。それを一目見て、私はお前の存在を感じたのだぞ」
「……それを信じたとして、一体なんでこんな所に誘き寄せたのよ!」
「数日前に拾った。それを一目見て、私はお前の存在を感じたのだぞ」
「……それを信じたとして、一体なんでこんな所に誘き寄せたのよ!」
ロキちゃんは、肩を振るわせて激昂します。やっぱり、人間を信じてない
彼女が、目の前の状況とマイスターの意図を把握するのは大変な様です。
そこで咄嗟に口を開いたのは、やっぱり“三女”のロッテちゃんでした。
彼女が、目の前の状況とマイスターの意図を把握するのは大変な様です。
そこで咄嗟に口を開いたのは、やっぱり“三女”のロッテちゃんでした。
「ロキちゃん……貴女とわたし達三人で、“決闘”をしたいですの!」
「……け、決闘?何行ってるのよ、そんなコトしないで襲えばッ?!」
「それは何時でも出来る、けどボクらはそれを望まないんだよ……?」
「どうしてよ!貴女達のマスターを、傷つけたのよ!憎いでしょ!?」
「何も思わないって言えば嘘です。でも、貴女を壊したくないんです」
「……け、決闘?何行ってるのよ、そんなコトしないで襲えばッ?!」
「それは何時でも出来る、けどボクらはそれを望まないんだよ……?」
「どうしてよ!貴女達のマスターを、傷つけたのよ!憎いでしょ!?」
「何も思わないって言えば嘘です。でも、貴女を壊したくないんです」
彼女に続いて、クララちゃんとあたしが言葉を投げかけます。それは、
人間のマイスターよりも彼女に近い、あたし達の方が“想い”を上手に
伝えられるから、という判断です。責任は、とっても重大ですね……。
人間のマイスターよりも彼女に近い、あたし達の方が“想い”を上手に
伝えられるから、という判断です。責任は、とっても重大ですね……。
「壊したくない、って何よそれ!?何が狙いなのよ、わかんないわッ!」
「……あたし達の狙いは、ロキちゃんに根を下ろしてもらう事なんです」
「ロキちゃんにはボクらの“妹”として、ここで平穏に過ごしてほしい」
「その条件を呑む事を、決闘のチップとして差し出してもらいますの♪」
「……あたし達の狙いは、ロキちゃんに根を下ろしてもらう事なんです」
「ロキちゃんにはボクらの“妹”として、ここで平穏に過ごしてほしい」
「その条件を呑む事を、決闘のチップとして差し出してもらいますの♪」
ロキちゃんは暫く呆然としていました。と言っても、彼女は相変わらずの
フルフェイスヘルメット姿。その表情は、あたし達のカメラアイでもよく
見えません。数秒して、やっと意味を理解した彼女が抗弁してきました。
それに応えるのは、あたし達のマイスターです……全ては“信念”の為。
フルフェイスヘルメット姿。その表情は、あたし達のカメラアイでもよく
見えません。数秒して、やっと意味を理解した彼女が抗弁してきました。
それに応えるのは、あたし達のマイスターです……全ては“信念”の為。
「な、何よそれ!?何故、人殺しのガラクタなアタシを!何故なの!?」
「……有無。まず、私は全ての神姫を信じる。その可能性と“心”をな」
「神姫を、信じる?それがどうしたって言うのよ、アタシには無関係!」
「いいや、お前にも神姫の魂が宿っている!故にこそ、お前を信じたい」
「え……あ、アタシを?アタシは神姫じゃないわ!人殺しの道具よ!?」
「……有無。まず、私は全ての神姫を信じる。その可能性と“心”をな」
「神姫を、信じる?それがどうしたって言うのよ、アタシには無関係!」
「いいや、お前にも神姫の魂が宿っている!故にこそ、お前を信じたい」
「え……あ、アタシを?アタシは神姫じゃないわ!人殺しの道具よ!?」
自分は愛される様な“神姫”とは違う……要らないガラクタでしかない!
ロキちゃんは何度もそうやって叫びますが、マイスターは叛意しません。
ロキちゃんは何度もそうやって叫びますが、マイスターは叛意しません。
「お前は、神姫のプロトタイプを元に作られた。それは知っているな?」
「知ってるから、違うって言うのよ……アタシは、その娘らとは違うわ」
「違う物か!私達はな、ロキ。お前を、共に生きていける存在と信じる」
「違うッ!それに決闘って言うからには、貴女達だって相応のね……!」
「分かっていますの。負けたら、命だって捧げる覚悟はしていますの♪」
「知ってるから、違うって言うのよ……アタシは、その娘らとは違うわ」
「違う物か!私達はな、ロキ。お前を、共に生きていける存在と信じる」
「違うッ!それに決闘って言うからには、貴女達だって相応のね……!」
「分かっていますの。負けたら、命だって捧げる覚悟はしていますの♪」
ロッテちゃんのウインクで、ロキちゃんはまたも呆気にとられました。
何故、そこまで明るく悲壮な事を言えるか。自分の不幸に囚われている
彼女には、まだそこまで考えるだけの余裕は、無いでしょう……でも!
何故、そこまで明るく悲壮な事を言えるか。自分の不幸に囚われている
彼女には、まだそこまで考えるだけの余裕は、無いでしょう……でも!
「勿論、ロッテちゃん一人とは言いません。あたしの命も賭けます」
「ボクの生死も委ねるよ。もちろん……この人も、考えは同じだよ」
「相応の決意を以て、お前を抱き留めたいのだ。どうする、ロキ?」
「ボクの生死も委ねるよ。もちろん……この人も、考えは同じだよ」
「相応の決意を以て、お前を抱き留めたいのだ。どうする、ロキ?」
ロキちゃんを、陽の光へと導きたい。心細いなら、一緒に生きていたい。
その信念は、マイスターもロッテちゃんも……全く揺らぎません。勿論、
付いていくと決めたあたしとクララちゃんの想いだって、同じなんです。
“アシモフ・プロテクト”を越えた想いが、この決意を産み出しました。
その信念は、マイスターもロッテちゃんも……全く揺らぎません。勿論、
付いていくと決めたあたしとクララちゃんの想いだって、同じなんです。
“アシモフ・プロテクト”を越えた想いが、この決意を産み出しました。
「……アンタらだけ完全武装で、アタシは中途半端で戦えって言うの!」
「無論、完全武装してきて構わないぞ……というか、何故軽装なのだ?」
「そ、それは……次の爆破ポイントへと、忍び込もうって思ってたのよ」
「無論、完全武装してきて構わないぞ……というか、何故軽装なのだ?」
「そ、それは……次の爆破ポイントへと、忍び込もうって思ってたのよ」
ふいっ……と顔を逸らして、ロキちゃんは店を飛び出していきました。
是非を言わないままの後退でしたが、あたし達には分かります。彼女は
絶対に戻ってくると。きっと、あたし達の想いは通じてくれるって……
そう信じて、あたし達は待ちます。五分、十分……十五分と。そして!
是非を言わないままの後退でしたが、あたし達には分かります。彼女は
絶対に戻ってくると。きっと、あたし達の想いは通じてくれるって……
そう信じて、あたし達は待ちます。五分、十分……十五分と。そして!
「……来たわよ。逃げてなかったのね、まだ。アタシが怖い筈なのに」
「怖い物か。大切な“妹”達の“妹”を怖がって、“姉”は務まらぬ」
「怖い物か。大切な“妹”達の“妹”を怖がって、“姉”は務まらぬ」
──────貴女の穢れ無き想いが、あたし達を強くするんですよ。