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**没OP・1   ◆9L.gxDzakI ――笑えることに、こういうの初めてじゃないんだ。 首元にナイフを突きつけられた少年――鳴海歩の口にした言葉だ。 私立月臣学園高等部1年生、鳴海歩。 兄の名は鳴海清隆。かつて「警視庁の名探偵」と謳われた、世界随一の天才である。 誰よりも強く、誰よりも高い。 あらゆる方面に類い稀なる才能を発揮した、まさしく人の姿を借りた、神の写し身とでも言うべき男。 かつて、とは、すなわち今はいないということだ。 神は岩戸へと隠れ、その弟が表舞台へと引きずり出された。 兄が失踪してからの歩の生涯は、まさに波乱と激闘に満ちたものだった。 かつて神の雷にその身を焼かれた、もう1人の悪しき天才――ミズシロ・ヤイバの子供達。 呪われし烙印を胸に宿した、ブレード・チルドレン達との戦いだ。 当時兄の影に押し潰され、卑屈に生きてきた歩だったが、 それらブレード・チルドレンとの戦いの経験は、確実に彼を強くしていた。 挫折と敗北しか知らぬ負け犬は、神の弟に相応しき男へと成長する。 皮肉にも、神にして兄である、鳴海清隆の望むままに。 故に、この度起きた異常事態を、歩がごく自然に受け入れられたのは、当然と言えば当然なのかもしれない。 ◆ 「ん……」 ぴくり。 少年の眉が微かに震える。 ややあって、ゆっくりと開かれる瞳。揺れる髪の毛は、もみあげの長い茶髪。 軽くがしがしと頭をかき、寝ぼけた意識を覚醒させた。 そこでようやく、自分の身体が床に転がっていたことに気付く。 一体自分はいつの間に、床に寝そべるなんてだらしない真似をしたのだろう。 いや、そもそもよく考えてみれば、自分はいつの間に眠っていたのだ。 がばっ、と。 瞳を見開き、上体を起こし。 すぐさま視線を360度めぐらせ、すぐさま自分の置かれた状況を確認。 (……またこの手の展開か) そして内心で、ふぅ、とため息をついた。 何のことはない。いつもと同じだ。 いつも体験してきたのと同じように、またろくでもないことに巻き込まれていた。 それだけのことだ。 照明のついていない現在地は薄暗く、何も置かれていないだだっ広い部屋、ということ以外何も分からない。 その詳細不明の一室に、自分同様、多くの人間が閉じ込められていた。 一部の人間は自分と同じように寝ているが、既に大半が目を覚ましているらしい。 となると自分は――鳴海歩は、かなり寝ぼすけな部類に入っていたようだ。 (ここのところ、あまりよく眠れてなかったからな……) 呑気にも、胸中ではそんなことを呟く。 だが、穏やかなのは語調だけだ。 視線は鋭く細められ、脳はフルスピードで回転する。 現状を素早く把握するため、絶えず状況分析を進めていく。 人影は多いがこの暗さだ。至近距離まで近寄らなければ、顔など見えるはずもない。 そもそもこれだけの人数を集めた奴は、今から一体何をしでかそうというのか。 (駄目だな……情報が足りない) そう判断し、歩はひとまず思考を打ち切った。 状況を理解するためには、今の自分には情報が圧倒的に不足している。 未だ顔すらも見せない誘拐の実行犯。 この部屋に自分達を閉じ込めておいた理由。 そして、拉致された自分達被害者の共通点。 何もかもが分からない。今目覚めたばかりの歩には、この状況を理解することはできない。 (……ひとまず、先に起きてた連中に話を聞くか) 内心で呟きながら、両の足で立ち上がる。 自分より先にここにいた人間なら、何かしらのことは知っているかもしれない。 推理に必要なのは情報。ならば、まず最初にすべきは情報収集。 自己の取るべき方針を定め、歩き始めようとした。 その、瞬間。 「っ!?」 ばっ、と。 視界に広がる、白。 網膜を炙られるかのような明度。 突如暗闇だったこの部屋に、一挙に明かりが差し込んだ。 目も眩むような光輝は、前方から歩の眼球を容赦なく殴りつける。 ようやく明かりに慣れてきた頃、彼の目が捉えたもの。 それは舞台。 さながら劇場か何かのような舞台が、自分達の前方に置かれていた。 カーテンは既に開かれている。これまで気付かなかったのは、その垂れ幕が閉まっていたからか。 そして。 それ以上に、重大な事実がある。 鳴海歩という少年にとって、最も重要な真実がある。 既にそのステージには、1人の役者が立っていた。 スポットライトをその身に浴び、こちらを見下ろしていた青年は。 「――ようこそ、諸君」 岩戸に隠れていたはずの、兄の涼やかな笑みがあった。 「兄貴っ!?」 「清隆だと!?」 思わず叫ぶ。周囲からもまばらな絶叫。 どうやら歩以外にも、彼の見知った顔が集められているらしい。 だが、そんなことは彼にとって、今はどうでもいいことだった。 あらゆる情報はシャットアウト。 雑音が入り込む余地などない。 瞳はくわと見開かれ、ただ舞台上の役者を凝視する。 鳴海清隆。 姿を消し、全てを裏から操っていた、歩の兄にして全能の神。 これまで一切表に出ることなく、実に2年もの間失踪していた清隆が。 目の前に、いる。 純白のスーツに身を包み、弟と同じ色の長髪を後頭部で纏めた男が。 あの鳴海清隆が、自ら表舞台へと舞い戻ってきた。 「ちょっと! これは一体どういうことなんですか!」 はっ、と。 前方で響いていた声が、歩の意識を現実へと引き戻す。 少年の声だ。何故か和服を着ていた、地味な印象の。 そうだ。落ち着け、鳴海歩。これは俺だけの問題じゃないんだ。 首を軽く振りながら、自分自身へと言い聞かせた。 何の前触れもなく、清隆が突然姿を現した。その事実は受け止めよう。 ならば新たに追求すべきことは、その兄が腹に抱えている意図。 自分と巻き込まれた他の連中に、こいつは一体何をしようとしているのか。 ただ事ではない。 これまで舞台裏に引っ込んでいた清隆が、わざわざ歩の前に姿を現したのだ。 いいやそもそもそれ以前に、これだけ多くの人間を巻き込んでいる。 あの全知全能の神が、何も企んでいないはずがない。 これから奴の発する言葉、その全てを聞き逃すな。あらゆる情報を収集し、神の真意を推理しろ。 「ああ、すまない。説明が遅れたね」 ふ、と。 悪びれた様子もない笑顔で、清隆がかけられた声へと返答する。 この男は2年前からそうだった。間の抜けたようにすら見える飄々とした態度で、相手の反応を面白がる。 そのくせその胸中には、背筋すら凍てつくおぞましい思考を抱えているのだ。 油断はできない。 鋭く瞳を引き絞り、全身系を清隆へと向ける。 「私はあるゲームを実行するために、君達をこの舞台へと集めた」 ゲーム。 その切り出し方は変わらない。 ――歩に対し、天使の公正さをもって戦いと勝利の機会を与えるなら、これを悪魔のように狡猾に殺すことを許可する。 かつてブレード・チルドレン達に、清隆が課した制約だ。 この法則は守られ続ける。 そこに言いだしっぺの清隆と、他ならぬ歩という存在が介在する限り。 要するに歩と清隆との戦いは、全て公平なルールの下のゲーム。 いつもどおりのシンプルな法則だ。 では、奴は今度はどんな種目を用意してきた。 清隆が直々に挑んできた勝負は。 「闘争という名のゲームのためにね」 悲しいほどに、いつも通りだった。 ざわざわ、ざわざわと。 一瞬の沈黙の後、水を打ったように広がるどよめき。 当然だ。今の言葉を聞いただけで、大抵の人間は理解できる。 「参加者は君達、ベットは命。会場は私の方で用意しておいた」 こいつは今からここにいる人間を使い、殺し合いをさせようというのだ。 理由は分からない。詳細はさすがに読み取れない。 だが、その最大の目的ははっきりしている。 自分のためだ。 こいつはこの鳴海歩に何らかの影響を与えるために、またしても多くの命を危険に晒そうとしているのだ。 今は亡き最強のブレード・チルドレン――カノン・ヒルベルトとの戦いの時もそうだった。 結果的に死者はゼロに抑えられたものの、一歩間違えれば死屍累々の惨状を招く可能性だってあった。 その仕立て人は他ならぬ清隆だ。 この男は、今度も同じことを繰り返そうとしている。 否、同じどころの騒ぎではない。 カノンだけではなく、この場の全員が殺し屋となれば、それ以上の惨劇を招くだろう。 全員どころではない。半分、否、3分の1がゲームに乗るだけでもまずい。 「お……おいっ! 一体どういうことなのだ!」 「この場の全員で殺し合えだと? 馬鹿馬鹿しい!」 次々と上がる反論。 最初に抗議をしたのは金髪の幼い少女と、それから顔に傷のある黒コートの男だったか。 それが水面に投じられた一石だ。 石ころはやがて波紋を呼ぶ。すなわち、清隆へと向けられた猛反発。 当然だ。 歩にとってこの手の展開は日常茶飯事。清隆にとってもそうだろう。 だが、それはあくまで彼ら兄弟と、それからブレード・チルドレンに限った話だ。 普通に考えてもみれば、普通の人間が殺し合いをしろと言われて、パニックを起こさないわけがない。 かと思えば、静かに黙り込む連中もいる。 纏うのは殺気。これもまた当然の帰結だ。 本気で殺し合いをさせようというのならば、こういう血の気の多い連中もいなければ話にならない。 「君達の言い分は確かに分かる」 一方の清隆は、相変わらずの涼しい顔で、どこ吹く風といった様子。 騒ぎ立てる連中の声にも怯むことなく、余裕を保ち続けていた。 「私も無意味な殺戮は望んでいない」 「ならこんな殺し合い、最初からする意味なんてないじゃないですか!」 この状況はまずい。 覚悟はしていたが、思ったよりも騒ぎになるのが早過ぎた。 このまま他の人間に騒がれては、清隆の話を聞き取れない。 この場を脱するための決定的な情報を、余計な雑音のおかげで聞き逃してしまうかもしれないのだ。 ふざけるな。何でそんなことを。ここから帰せ。 そう騒ぎたくなる気持ちも分かる。自分も思っていることは同じだ。 だが、だからこそ落ち着いてくれ。これでは得られる情報も得られない。 ここは新たな一石を投じるしかない。 別の小石を池へと投じ、波紋をぶつけ合わせなければ。 目立つことは避けたかったが、四の五の言ってる場合ではない。自分が黙らせるしかない。 「落ち着――」 「――随分とお前らしくないやり方だな、キヨタカ」 歩が張り上げようとした声は、しかし別の声に遮られた。 低い少年の声。 静かに、しかし、よく通る。 この狂乱のステージへと、さっと投じられた一石。 1人の男の放った一言が、瞬時に静寂をもたらした。 だが、そのつぶてを投げたのは歩ではない。 新たな登場人物が、そこに姿を現していた。 かつ、かつ、かつ、と。 集団の最後尾から、舞台へと歩み寄る靴音。 漆黒のノースリーブとズボンの上に、ロングコートを身につけたのは、歩とほとんど変わらない歳の少年だ。 さらりと優雅に舞う銀髪。上質な絹糸のように輝く髪の下には、氷のように冷たき視線。 銀色の髪を揺らしながら、青き視線を清隆に向けたのは。 「ラザフォード……!」 ブレード・チルドレンの1人、アイズ・ラザフォード。 イギリス人の母より生まれた、絶世の美少年の姿がそこにあった。 「君か、ラザフォード」 「どういうつもりだ。こんな茶番、お前の言う盤面には用意されているはずもないだろう」 微笑を湛える神。鋭く詰問する悪魔の子。 「おい、ラザフォード!」 「アイズ君!」 集団から彼を呼ぶ声が上がった。言うまでもなく、アイズの仲間のブレード・チルドレンだ。 浅月香介に竹内理緒。高町亮子の姿もある。 ろくでもない殺し合いだとは思っていたが、まさか連中まで巻き込むとは。 アイズ・ラザフォードという少年は、言わば彼らのまとめ役のような存在である。 ヤイバの血の下に生まれたきょうだい達の中でも、生まれは一番最後になるが、恐らく一番の切れ者は彼だ。 カノンが命を落とした今、並の人間を凌駕したブレード・チルドレンの中でも、間違いなく最強の部類に入るだろう。 「俺達の役割は終わったはずだ。その俺達に、何故今更新たな役割を強いる?」 そのアイズが、静かに怒りを浮かべている。 同じ呪縛と苦難を共有した仲間達を、殺し合いに巻き込もうとしている清隆に対して。 「私らしくない、ね……」 言われてみれば確かにそうだ。 清隆の描く構図において、ブレード・チルドレンは歩を成長させるための駒。 既にその役目を終了させた彼らを、今更使い回すような見苦しい真似を、あの清隆がするはずもない。 「そして、ここにはナルミアユムもいる」 ちら、と。 歩の方へと視線を向けながら、言った。 どうやらアイズは、彼がこの部屋にいることを、既に把握していたらしい。 それならそれで何故起こしてくれなかったんだ、とも思った歩だったが、今は置いておくことにする。 「こいつらに意味なき死を与えるというのなら……」 ごそり。 コートの中へと伸びる、アイズの手。 再び外気に触れたそれには。 「俺がお前を許さない」 黒光りする、一挺の拳銃が握られていた。 気迫。 さながら剣呑なナイフのごとく、滲み出る強大なプレッシャー。 射殺すような眼光は、もはやピストルなど使うまでもなく、あらゆる敵を死へと至らしめるかとさえ。 これがアイズ・ラザフォード。 数多のブレード・チルドレンの中でも、一際優れた実力を持った猛者。 そしてそれほどの殺意をぶつけられてなお、平然と構える高みの神。 「つくづくお前らしくもない。人前に生身を晒すというのに、武器を奪うことすらも忘れるとは」 引き金へと、力が込められる。 傍目に見れば、明らかな清隆の大ピンチ。彼の凡ミスが招いた苦境。 だが何故だ。 何かがおかしい。 妙に余裕な兄の反応といい、何か違和感が引っかかる。 何故反撃に出たのがアイズだけだったのか。 本当に清隆が武器回収を忘れていたならば、何故武装していてもおかしくないはずの、浅月達が援護に出ていない。 簡単だ。彼らは武器を持っていないから。 既にこの場の全員の武器が、清隆によって回収されているから。 となると、おかしいのはアイズの銃だ。他の全員からくまなく回収していながら、何故彼の武器だけが残されている。 偶然ということはあるまい。兄の魔性じみた強運を考えれば、武器がアイズに渡るはずもない。 では何故か。 考えられる可能性は1つ。わざと彼の武器だけを残した。 となると今度は今の清隆の状況がおかしくなる。 何故武器を持っていると分かっている相手の前に、わざわざ生身を晒したのか。 実は強化ガラスでステージが守られている、というオチでもあるまい。そんな無様な手段、清隆が選ぶはずもない。 いやそもそも、何故アイズの武器を持たせた。こうして反発を招かせた理由は何だ。 顎へと手を添えた歩の顔が、自然と下方へと傾く。 と。 その時。 (……?) 顎の裏に感じる、違和感。 何かがある。 何かが当たっている。 おまけにこの感触――自分には覚えがある。 「!」 反射的に、首元をなぞった。 やはりだ。思った通りの物がある。 今まで唐突なことが多すぎて、こんなものにも気付けなかった。 あるいは理緒や浅月が、清隆への抵抗をためらったのもこのためか。 間違いない。このトリックが、兄にこのような手口を取らせた。 これはアイズに仕掛けられた罠。 「やめろラザフォードッ! 罠――」 ――どかん。 「らしくないのは君の方だったようだ……こんな初歩的な詰めを誤るとはね」 不敵に笑う神の瞳には、悪魔の子の視線は既に向けられていなかった。 最初に知覚したのは光だった。 同時に音が鳴っていた。 アイズがトリガーを引かんとするまさにその瞬間、首元から迸る閃光と轟音。 遅れてぐちゃりと音が鳴る。 生肉を床に落としたような不快な音。 平らな床を彩ったのは、飛び散る鮮血色のしぶき。 ごとり。 更に遅れて。 頭ひとつ分背の低くなった少年が、力なく床へと倒れた音。 否応なしに理解する。 鼻を突く火薬と血の臭いに。 歩の声は届くことなく。 「嘘だろ……おい、ラザフォードッ!」 「いやああああああっ! アイズ君っ!」 アイズ・ラザフォードにかけられていた首輪が、彼の頭を吹き飛ばした。 即死だ。言うまでもない。 首から上のあらゆる要素が、爆発と共に粉微塵にふっ飛ばされたのだ。生存確認などするまでもない。 これが清隆の狙いだった。 わざわざ武器を持たせてまで、彼がアイズに求めた役割。 すなわち――見せしめ。 まず、武器も持たず無防備に構えている清隆へと、アイズがわざと残された銃を向ける。 それに呼応するように、何者かが首に仕掛けた爆弾を爆発させる。 実に効果的な演出だ。 アイズの持つ存在感は、十分強者と呼ぶに相応しいレベル。 それほどの男が武器まで渡されていながら、しかし生身の清隆に一方的に抹殺された。 主催者たる自分の力の絶対性を、参加者達に誇示するには、これ以上ないほどのパフォーマンス。 では何故、このトリックを歩が見破り、アイズは見破ることはできなかったのか。 簡単なことだ。歩のケースが特殊だったから。 過去に彼はこれと同じような首輪を、ブレード・チルドレンによってつけられている。 今アイズの元に駆け寄った、浅月と理緒の両名によって。 だがアイズ自身は、彼らと歩が戦っていたこそ知っていたものの、このような首輪が使われたことは知らない。 たとえ首輪の存在に気付いたとしても、それが爆弾であるという発想に思い至るはずもない。 それが認識のズレの正体だ。 「さて……意味のない殺し合いなどするな、といったようなことを、誰かが言っていたな」 空気が凍る。 全ての視線が一点に集中される。 もはや口を開けるものなどいない。 余裕ぶった清隆の笑みも、さながら悪魔の哄笑のごとく。 人を殺したその本人が、何事もなかったかのように笑っているのだ。 もはや鳴海清隆という人間は、誰にとっても、無視するわけにはいかない存在となったわけだ。 「だが、その認識は間違いだ。これから繰り広げられた闘争には、十分過ぎるほどの意味がある」 流暢な清隆の声。役者が台本を読み上げるような。 舞台上に立った役者の姿に、観客達が惹かれるように。 「運命によって仕組まれた意味が」 部屋に集められた全ての人間が、この男の言葉に耳を傾ける。 殺し合いから逃れようとする者達に、爆弾に逆らえるほどの度胸はない。 殺し合いに乗ろうとしている者達には、清隆に逆らう理由がない。 「そして君達は、このろくでもない運命に選ばれてしまった。 敵が運命である以上、無闇に逃れようとするだけでは、決して生きながらえることはできない。 このゲームで生き残る手段は2つに1つ。運命に従うか、あるいは……真正面から抗うか」 既に鳴海清隆という男は、この場の空気を完全に支配していた。 「――はーいはい、そこまでそこまで」 ぱん、ぱん、ぱん、と。 不意に、手を叩く音と共に。 若い少年のような声が割って入る。 素足の足音と共に、舞台裾から新たな男が現れた。 「いちいちパフォーマンスが過ぎるんだよ、清隆は。余計なことまでこいつらに言うことないって」 「おや、気に障ってしまったかな?」 新たにステージへと上がったのは、何とも奇妙な風体の男だった。 年齢は十代後半ほど。これまた自分とさほど変わらない歳だろう。 ずるずると伸びた黒髪の下には、皮肉な笑顔が浮かんでいる。 服装も服装だ。へそ出し袖なしのフィットシャツに、ミニスカートのような腰布と短パン。 清隆が白一色ならば、こちらは黒一色だ。 こんなものを男が着ているのだから、もはや露出狂としか思えない。 いずれにせよ、異様な少年だった。 清隆と随分親しげに話しているようだが、こいつも彼の仲間なのだろうか。 「てめぇ……エンヴィー!」 と。 突如集団から上がる、怒声。 どうやら自分達と清隆が知り合いであるように、このエンヴィーとかいう奴にも知り合いがいたらしい。 「や、鋼のおチビさん。血で血を洗うバトルロワイヤルに巻き込まれた気分はどうだい?」 「るせぇ! この野郎性懲りもなくチビチビチビチビ言いやがって!」 「兄さん落ち着いて!」 いきり立って吼えているのは、金髪を三つ編みにした少年だ。 赤いコートが印象的で、顔立ちからすると15歳くらいだろうか。にしては確かに背が低いような気がする。 そして傍に立ったごつい甲冑が、彼以上に幼い声で諌めていた。 それより、今兄と言ったか。そのなりでそいつの弟なのか。その巨体で中学生以下の歳なのか。 だがそんな奇っ怪の制止にも、血気盛んな兄は耳を貸そうともしない。 自分の家庭とはまるきり違う兄弟だな。何だか馬鹿らしくさえ思えてきた。 「見てろよ、こんな爆弾なんざちょちょいと錬成して……!」 「ほほーう。ではおチビさんに質問です。その首輪の材質は何でしょう?」 「あ゛あ!? 機械なんだから鉄に決まってんだろ!」 余裕たっぷりに相手を翻弄するエンヴィーと、盛大に喚きまくる赤コートの少年。 まるで先ほどの構図を見ているようだ。何だかんだで清隆とエンヴィーは、似たような性格なのかもしれない。 もっとも少年とアイズの方は、さっぱり似ても似つかないが。 「ホントにそうなのかな? 機械って言っても色々あるよ?」 にぃ。 愉快さを顔全体で表すかのように、醜く歪む男の口元。 「たとえば、社会でよく見る金属製品の材質、1つ1つ挙げてってごらん」 「んだと? そりゃあ、金銀銅に鋼にアルミニウム……」 「じゃあ、その首輪がその辺の材質で作られてないって証拠は?」 「うぐ……」 途端に、赤コートの少年の勢いが削がれる。 たたみかけるようにして、続けられるエンヴィーの言葉。 「さっすが国家錬金術師、それくらいの頭はあるみたいだねぇ」 「エドワード君、君も早死にしたくなければ、ここは素直に話を聞いてやるといい。 1つ1つ錬成を試している隙に爆破されては、間抜けすぎて笑い話にもならないぞ」 ついでに清隆までもが口を挟んできた。 こうなれば、あのエドワードとかいう少年に勝ち目はない。 それなりに舌の回るらしいエンヴィーに、神・清隆が援護についているのだ。単純そうなガキが、口で戦って勝てる相手ではなかった。 それにしても、彼らの会話の中には、色々と不可解なワードが出てきている。 錬金術師だとか、錬成だとかだ。まさか古代の錬金術の学者様が、こんな所にいるはずもないだろうに。 「では諸君も、一応エンヴィーの言うことに耳を傾けておくように」 などと言っている間に、清隆が動き始めてしまった。 スーツの足がステージを歩く。その目的地は舞台裏。 「なっ……おい待て! 兄貴っ!」 冗談じゃない。まだろくに会話も交わしていないぞ。こんなところで逃げられてたまるか。 弟の絶叫も虚しく、兄の姿は舞台より消えてしまった。 清隆が消え、照明の下にはエンヴィーのみが取り残される。 スポットライトをその身に浴びて、得意げに笑む少年のみが。 「さーてと……んじゃあ清隆に代わって、愚かな人間の皆様に、僕がこのゲームのルールを説明してあげよう」 おどけたような身振りと共に、しかし嘲笑うような声音で。 一拍の間を置き、口を突く言葉。 であればまさにここからが、このろくでもないデスゲームの本番ということか。 「基本ルールは清隆が話した通り。決められた戦場で、最後の1人になるまで殺し合うことさ。 僕らに逆らうようなことをしない限り、 反則負けを取られることはないけど……今傍にいるお友達と、慣れ合おうなんて考えは捨てた方がいいよ? お前達はみんな揃って、ランダムな場所からスタートとなる。 ここで一緒につるんでたって、ゲームスタートと同時に離れ離れ、ってわけ。 ……さて、じゃあ次はその首輪の話」 とんとん、と。 自分の首を人差し指で、軽く叩きながらエンヴィーが言う。 否応なしに、参加者達の視線が首元へと向いた。言うまでもなく、歩もだ。 「そいつの爆発条件は4つ。 まず今言った通り、僕らに逆らおうとした場合。 それから会場の外に出た場合と、24時間誰も死ななかった場合だ。 みんな仲良く誰も殺さず、じっとやり過ごそうなんてのはお話にならないからね。 そして残る1つが、6時間ごとに増える禁止エリアに入った時。これはそれまでに死んだ奴の名前と一緒に、放送で発表される」 どうやらこのゲームのフィールドは、時間が経つごとに狭くなっていくと考えていいらしい。 確かに終盤になって人数が減ったというのに、会場だけはだだっ広いままでは、エンカウント率は激減してしまう。 「最後に、人殺しをする上で一番大事なもの……凶器に関する説明だ。参加者には1人に1つずつ、こんな感じの鞄が用意される」 言いながらエンヴィーが取り出したのは、何の変哲もないデイパックだ。 「この中には食糧や地図に参加者名簿、それからランダムに武器が入ってる。 その武器を調達するために、お前達の持ち物はぜーんぶ取り上げさせてもらったよ。 もっとも、そこのガキのは没収し忘れちゃったみたいだけどね。でもこういう不備はもうないだろうから、安心しなよ」 物言わぬアイズの遺体を指差しながら、エンヴィーが言った。 よく言う。 そいつの武器は力関係を分からせるために、わざと取り上げずにおいたんだろうに。 「もっともこの中の何人かは、そんな武器なんかに頼らなくても、自前の能力で人殺しができたりする。 でも、それじゃワンサイドゲームになってつまんないからね。 ちょちょいと身体に細工して、なるべく公平になるように弱体化させてもらったよ」 歩にとって、一番意味が分からないのはこの話だった。 能力というのは一体何だ。さっきの錬成とかいうのもそれなのか。 もっともこんなことを聞いても、この男がまともに答える保障などあるはずもない。 「……さて、説明はこんなところかな。じゃ、習うより慣れろだ。さっそく始めるとしよう」 実際、エンヴィーにはその気はないらしい。 質問があるかどうかの確認もせず、そのまま始める気満々で切り出した。 「さぁ、ゲームの始まりだ! 阿鼻叫喚の地獄絵図の中、思う存分に殺し合うがいい!」 ぱちん。 指が鳴る。 その瞬間に。 (!? 何だ、これっ……!) 不意に、歩の身体が光りだした。 何とも形容しがたい色の光が、身体中を包んでいる。まるでアニメやゲームのワープのよう。 否、ようではなく、まさしくワープそのものらしい。 現に同様の状況に陥った他の人間が、次から次へと姿を消している。 ランダムに配置するとは聞いていたが、なるほどこういうことだったのか。 そして目的地へと辿り着けば、いつも通りの戦いが始まる。 一切の油断もできない、ろくでもない殺し合いの始まりだ。 しかもこうしたファンタジーじみたことが平気で起こっている以上、今まで以上の危険が待ち受けているかもしれない。 そう思いながら、周囲を見回した時。 「……!」 その目は驚愕に見開かれた。 思わず口が半開きになった。 いるはずもない男の姿を、そこに認めてしまったから。 既にこの世にいないはずの、その少年の姿を見つけてしまったから。 (……カノン・ヒルベルト……!?) かくして物語は幕を開ける。 定められた主役はいない。メインキャストは鳴海歩1人ではない。 この神の弟に生まれた少年の話は、あくまで物語の登場人物の一例だ。 そう。 明確な主人公がいないということは、誰もが主人公であるということ。 誰もがそれぞれにそれぞれの物語を紡ぎ、それぞれの世界の主役となるということ。 巨悪に立ち向かう道か。 生き残るために殺し合う道か。 何一つ成し遂げられず命を落とす道か。 無限に枝分かれする道筋のうち、どれを通るかは彼ら次第。 「全ては運命の導くままに」 「ゲームスタート♪」 【アイズ・ラザフォード@スパイラル~推理の絆~ 死亡】 【一日目 00:00 ???】 【鳴海清隆@スパイラル~推理の絆~】 【エンヴィー@鋼の錬金術師】 【備考】 ※鳴海歩@スパイラル~推理の絆~の参戦時期は、少なくともカノン死亡後です
**没OP・1 ◆9L.gxDzakI ――笑えることに、こういうの初めてじゃないんだ。 首元にナイフを突きつけられた少年――鳴海歩の口にした言葉だ。 私立月臣学園高等部1年生、鳴海歩。 兄の名は鳴海清隆。かつて「警視庁の名探偵」と謳われた、世界随一の天才である。 誰よりも強く、誰よりも高い。 あらゆる方面に類い稀なる才能を発揮した、まさしく人の姿を借りた、神の写し身とでも言うべき男。 かつて、とは、すなわち今はいないということだ。 神は岩戸へと隠れ、その弟が表舞台へと引きずり出された。 兄が失踪してからの歩の生涯は、まさに波乱と激闘に満ちたものだった。 かつて神の雷にその身を焼かれた、もう1人の悪しき天才――ミズシロ・ヤイバの子供達。 呪われし烙印を胸に宿した、ブレード・チルドレン達との戦いだ。 当時兄の影に押し潰され、卑屈に生きてきた歩だったが、 それらブレード・チルドレンとの戦いの経験は、確実に彼を強くしていた。 挫折と敗北しか知らぬ負け犬は、神の弟に相応しき男へと成長する。 皮肉にも、神にして兄である、鳴海清隆の望むままに。 故に、この度起きた異常事態を、歩がごく自然に受け入れられたのは、当然と言えば当然なのかもしれない。 ◆ 「ん……」 ぴくり。 少年の眉が微かに震える。 ややあって、ゆっくりと開かれる瞳。揺れる髪の毛は、もみあげの長い茶髪。 軽くがしがしと頭をかき、寝ぼけた意識を覚醒させた。 そこでようやく、自分の身体が床に転がっていたことに気付く。 一体自分はいつの間に、床に寝そべるなんてだらしない真似をしたのだろう。 いや、そもそもよく考えてみれば、自分はいつの間に眠っていたのだ。 がばっ、と。 瞳を見開き、上体を起こし。 すぐさま視線を360度めぐらせ、すぐさま自分の置かれた状況を確認。 (……またこの手の展開か) そして内心で、ふぅ、とため息をついた。 何のことはない。いつもと同じだ。 いつも体験してきたのと同じように、またろくでもないことに巻き込まれていた。 それだけのことだ。 照明のついていない現在地は薄暗く、何も置かれていないだだっ広い部屋、ということ以外何も分からない。 その詳細不明の一室に、自分同様、多くの人間が閉じ込められていた。 一部の人間は自分と同じように寝ているが、既に大半が目を覚ましているらしい。 となると自分は――鳴海歩は、かなり寝ぼすけな部類に入っていたようだ。 (ここのところ、あまりよく眠れてなかったからな……) 呑気にも、胸中ではそんなことを呟く。 だが、穏やかなのは語調だけだ。 視線は鋭く細められ、脳はフルスピードで回転する。 現状を素早く把握するため、絶えず状況分析を進めていく。 人影は多いがこの暗さだ。至近距離まで近寄らなければ、顔など見えるはずもない。 そもそもこれだけの人数を集めた奴は、今から一体何をしでかそうというのか。 (駄目だな……情報が足りない) そう判断し、歩はひとまず思考を打ち切った。 状況を理解するためには、今の自分には情報が圧倒的に不足している。 未だ顔すらも見せない誘拐の実行犯。 この部屋に自分達を閉じ込めておいた理由。 そして、拉致された自分達被害者の共通点。 何もかもが分からない。今目覚めたばかりの歩には、この状況を理解することはできない。 (……ひとまず、先に起きてた連中に話を聞くか) 内心で呟きながら、両の足で立ち上がる。 自分より先にここにいた人間なら、何かしらのことは知っているかもしれない。 推理に必要なのは情報。ならば、まず最初にすべきは情報収集。 自己の取るべき方針を定め、歩き始めようとした。 その、瞬間。 「っ!?」 ばっ、と。 視界に広がる、白。 網膜を炙られるかのような明度。 突如暗闇だったこの部屋に、一挙に明かりが差し込んだ。 目も眩むような光輝は、前方から歩の眼球を容赦なく殴りつける。 ようやく明かりに慣れてきた頃、彼の目が捉えたもの。 それは舞台。 さながら劇場か何かのような舞台が、自分達の前方に置かれていた。 カーテンは既に開かれている。これまで気付かなかったのは、その垂れ幕が閉まっていたからか。 そして。 それ以上に、重大な事実がある。 鳴海歩という少年にとって、最も重要な真実がある。 既にそのステージには、1人の役者が立っていた。 スポットライトをその身に浴び、こちらを見下ろしていた青年は。 「――ようこそ、諸君」 岩戸に隠れていたはずの、兄の涼やかな笑みがあった。 「兄貴っ!?」 「清隆だと!?」 思わず叫ぶ。周囲からもまばらな絶叫。 どうやら歩以外にも、彼の見知った顔が集められているらしい。 だが、そんなことは彼にとって、今はどうでもいいことだった。 あらゆる情報はシャットアウト。 雑音が入り込む余地などない。 瞳はくわと見開かれ、ただ舞台上の役者を凝視する。 鳴海清隆。 姿を消し、全てを裏から操っていた、歩の兄にして全能の神。 これまで一切表に出ることなく、実に2年もの間失踪していた清隆が。 目の前に、いる。 純白のスーツに身を包み、弟と同じ色の長髪を後頭部で纏めた男が。 あの鳴海清隆が、自ら表舞台へと舞い戻ってきた。 「ちょっと! これは一体どういうことなんですか!」 はっ、と。 前方で響いていた声が、歩の意識を現実へと引き戻す。 少年の声だ。何故か和服を着ていた、地味な印象の。 そうだ。落ち着け、鳴海歩。これは俺だけの問題じゃないんだ。 首を軽く振りながら、自分自身へと言い聞かせた。 何の前触れもなく、清隆が突然姿を現した。その事実は受け止めよう。 ならば新たに追求すべきことは、その兄が腹に抱えている意図。 自分と巻き込まれた他の連中に、こいつは一体何をしようとしているのか。 ただ事ではない。 これまで舞台裏に引っ込んでいた清隆が、わざわざ歩の前に姿を現したのだ。 いいやそもそもそれ以前に、これだけ多くの人間を巻き込んでいる。 あの全知全能の神が、何も企んでいないはずがない。 これから奴の発する言葉、その全てを聞き逃すな。あらゆる情報を収集し、神の真意を推理しろ。 「ああ、すまない。説明が遅れたね」 ふ、と。 悪びれた様子もない笑顔で、清隆がかけられた声へと返答する。 この男は2年前からそうだった。間の抜けたようにすら見える飄々とした態度で、相手の反応を面白がる。 そのくせその胸中には、背筋すら凍てつくおぞましい思考を抱えているのだ。 油断はできない。 鋭く瞳を引き絞り、全身系を清隆へと向ける。 「私はあるゲームを実行するために、君達をこの舞台へと集めた」 ゲーム。 その切り出し方は変わらない。 ――歩に対し、天使の公正さをもって戦いと勝利の機会を与えるなら、これを悪魔のように狡猾に殺すことを許可する。 かつてブレード・チルドレン達に、清隆が課した制約だ。 この法則は守られ続ける。 そこに言いだしっぺの清隆と、他ならぬ歩という存在が介在する限り。 要するに歩と清隆との戦いは、全て公平なルールの下のゲーム。 いつもどおりのシンプルな法則だ。 では、奴は今度はどんな種目を用意してきた。 清隆が直々に挑んできた勝負は。 「闘争という名のゲームのためにね」 悲しいほどに、いつも通りだった。 ざわざわ、ざわざわと。 一瞬の沈黙の後、水を打ったように広がるどよめき。 当然だ。今の言葉を聞いただけで、大抵の人間は理解できる。 「参加者は君達、ベットは命。会場は私の方で用意しておいた」 こいつは今からここにいる人間を使い、殺し合いをさせようというのだ。 理由は分からない。詳細はさすがに読み取れない。 だが、その最大の目的ははっきりしている。 自分のためだ。 こいつはこの鳴海歩に何らかの影響を与えるために、またしても多くの命を危険に晒そうとしているのだ。 今は亡き最強のブレード・チルドレン――カノン・ヒルベルトとの戦いの時もそうだった。 結果的に死者はゼロに抑えられたものの、一歩間違えれば死屍累々の惨状を招く可能性だってあった。 その仕立て人は他ならぬ清隆だ。 この男は、今度も同じことを繰り返そうとしている。 否、同じどころの騒ぎではない。 カノンだけではなく、この場の全員が殺し屋となれば、それ以上の惨劇を招くだろう。 全員どころではない。半分、否、3分の1がゲームに乗るだけでもまずい。 「お……おいっ! 一体どういうことなのだ!」 「この場の全員で殺し合えだと? 馬鹿馬鹿しい!」 次々と上がる反論。 最初に抗議をしたのは金髪の幼い少女と、それから顔に傷のある黒コートの男だったか。 それが水面に投じられた一石だ。 石ころはやがて波紋を呼ぶ。すなわち、清隆へと向けられた猛反発。 当然だ。 歩にとってこの手の展開は日常茶飯事。清隆にとってもそうだろう。 だが、それはあくまで彼ら兄弟と、それからブレード・チルドレンに限った話だ。 普通に考えてもみれば、普通の人間が殺し合いをしろと言われて、パニックを起こさないわけがない。 かと思えば、静かに黙り込む連中もいる。 纏うのは殺気。これもまた当然の帰結だ。 本気で殺し合いをさせようというのならば、こういう血の気の多い連中もいなければ話にならない。 「君達の言い分は確かに分かる」 一方の清隆は、相変わらずの涼しい顔で、どこ吹く風といった様子。 騒ぎ立てる連中の声にも怯むことなく、余裕を保ち続けていた。 「私も無意味な殺戮は望んでいない」 「ならこんな殺し合い、最初からする意味なんてないじゃないですか!」 この状況はまずい。 覚悟はしていたが、思ったよりも騒ぎになるのが早過ぎた。 このまま他の人間に騒がれては、清隆の話を聞き取れない。 この場を脱するための決定的な情報を、余計な雑音のおかげで聞き逃してしまうかもしれないのだ。 ふざけるな。何でそんなことを。ここから帰せ。 そう騒ぎたくなる気持ちも分かる。自分も思っていることは同じだ。 だが、だからこそ落ち着いてくれ。これでは得られる情報も得られない。 ここは新たな一石を投じるしかない。 別の小石を池へと投じ、波紋をぶつけ合わせなければ。 目立つことは避けたかったが、四の五の言ってる場合ではない。自分が黙らせるしかない。 「落ち着――」 「――随分とお前らしくないやり方だな、キヨタカ」 歩が張り上げようとした声は、しかし別の声に遮られた。 低い少年の声。 静かに、しかし、よく通る。 この狂乱のステージへと、さっと投じられた一石。 1人の男の放った一言が、瞬時に静寂をもたらした。 だが、そのつぶてを投げたのは歩ではない。 新たな登場人物が、そこに姿を現していた。 かつ、かつ、かつ、と。 集団の最後尾から、舞台へと歩み寄る靴音。 漆黒のノースリーブとズボンの上に、ロングコートを身につけたのは、歩とほとんど変わらない歳の少年だ。 さらりと優雅に舞う銀髪。上質な絹糸のように輝く髪の下には、氷のように冷たき視線。 銀色の髪を揺らしながら、青き視線を清隆に向けたのは。 「ラザフォード……!」 ブレード・チルドレンの1人、アイズ・ラザフォード。 イギリス人の母より生まれた、絶世の美少年の姿がそこにあった。 「君か、ラザフォード」 「どういうつもりだ。こんな茶番、お前の言う盤面には用意されているはずもないだろう」 微笑を湛える神。鋭く詰問する悪魔の子。 「おい、ラザフォード!」 「アイズ君!」 集団から彼を呼ぶ声が上がった。言うまでもなく、アイズの仲間のブレード・チルドレンだ。 浅月香介に竹内理緒。高町亮子の姿もある。 ろくでもない殺し合いだとは思っていたが、まさか連中まで巻き込むとは。 アイズ・ラザフォードという少年は、言わば彼らのまとめ役のような存在である。 ヤイバの血の下に生まれたきょうだい達の中でも、生まれは一番最後になるが、恐らく一番の切れ者は彼だ。 カノンが命を落とした今、並の人間を凌駕したブレード・チルドレンの中でも、間違いなく最強の部類に入るだろう。 「俺達の役割は終わったはずだ。その俺達に、何故今更新たな役割を強いる?」 そのアイズが、静かに怒りを浮かべている。 同じ呪縛と苦難を共有した仲間達を、殺し合いに巻き込もうとしている清隆に対して。 「私らしくない、ね……」 言われてみれば確かにそうだ。 清隆の描く構図において、ブレード・チルドレンは歩を成長させるための駒。 既にその役目を終了させた彼らを、今更使い回すような見苦しい真似を、あの清隆がするはずもない。 「そして、ここにはナルミアユムもいる」 ちら、と。 歩の方へと視線を向けながら、言った。 どうやらアイズは、彼がこの部屋にいることを、既に把握していたらしい。 それならそれで何故起こしてくれなかったんだ、とも思った歩だったが、今は置いておくことにする。 「こいつらに意味なき死を与えるというのなら……」 ごそり。 コートの中へと伸びる、アイズの手。 再び外気に触れたそれには。 「俺がお前を許さない」 黒光りする、一挺の拳銃が握られていた。 気迫。 さながら剣呑なナイフのごとく、滲み出る強大なプレッシャー。 射殺すような眼光は、もはやピストルなど使うまでもなく、あらゆる敵を死へと至らしめるかとさえ。 これがアイズ・ラザフォード。 数多のブレード・チルドレンの中でも、一際優れた実力を持った猛者。 そしてそれほどの殺意をぶつけられてなお、平然と構える高みの神。 「つくづくお前らしくもない。人前に生身を晒すというのに、武器を奪うことすらも忘れるとは」 引き金へと、力が込められる。 傍目に見れば、明らかな清隆の大ピンチ。彼の凡ミスが招いた苦境。 だが何故だ。 何かがおかしい。 妙に余裕な兄の反応といい、何か違和感が引っかかる。 何故反撃に出たのがアイズだけだったのか。 本当に清隆が武器回収を忘れていたならば、何故武装していてもおかしくないはずの、浅月達が援護に出ていない。 簡単だ。彼らは武器を持っていないから。 既にこの場の全員の武器が、清隆によって回収されているから。 となると、おかしいのはアイズの銃だ。他の全員からくまなく回収していながら、何故彼の武器だけが残されている。 偶然ということはあるまい。兄の魔性じみた強運を考えれば、武器がアイズに渡るはずもない。 では何故か。 考えられる可能性は1つ。わざと彼の武器だけを残した。 となると今度は今の清隆の状況がおかしくなる。 何故武器を持っていると分かっている相手の前に、わざわざ生身を晒したのか。 実は強化ガラスでステージが守られている、というオチでもあるまい。そんな無様な手段、清隆が選ぶはずもない。 いやそもそも、何故アイズの武器を持たせた。こうして反発を招かせた理由は何だ。 顎へと手を添えた歩の顔が、自然と下方へと傾く。 と。 その時。 (……?) 顎の裏に感じる、違和感。 何かがある。 何かが当たっている。 おまけにこの感触――自分には覚えがある。 「!」 反射的に、首元をなぞった。 やはりだ。思った通りの物がある。 今まで唐突なことが多すぎて、こんなものにも気付けなかった。 あるいは理緒や浅月が、清隆への抵抗をためらったのもこのためか。 間違いない。このトリックが、兄にこのような手口を取らせた。 これはアイズに仕掛けられた罠。 「やめろラザフォードッ! 罠――」 ――どかん。 「らしくないのは君の方だったようだ……こんな初歩的な詰めを誤るとはね」 不敵に笑う神の瞳には、悪魔の子の視線は既に向けられていなかった。 最初に知覚したのは光だった。 同時に音が鳴っていた。 アイズがトリガーを引かんとするまさにその瞬間、首元から迸る閃光と轟音。 遅れてぐちゃりと音が鳴る。 生肉を床に落としたような不快な音。 平らな床を彩ったのは、飛び散る鮮血色のしぶき。 ごとり。 更に遅れて。 頭ひとつ分背の低くなった少年が、力なく床へと倒れた音。 否応なしに理解する。 鼻を突く火薬と血の臭いに。 歩の声は届くことなく。 「嘘だろ……おい、ラザフォードッ!」 「いやああああああっ! アイズ君っ!」 アイズ・ラザフォードにかけられていた首輪が、彼の頭を吹き飛ばした。 即死だ。言うまでもない。 首から上のあらゆる要素が、爆発と共に粉微塵にふっ飛ばされたのだ。生存確認などするまでもない。 これが清隆の狙いだった。 わざわざ武器を持たせてまで、彼がアイズに求めた役割。 すなわち――見せしめ。 まず、武器も持たず無防備に構えている清隆へと、アイズがわざと残された銃を向ける。 それに呼応するように、何者かが首に仕掛けた爆弾を爆発させる。 実に効果的な演出だ。 アイズの持つ存在感は、十分強者と呼ぶに相応しいレベル。 それほどの男が武器まで渡されていながら、しかし生身の清隆に一方的に抹殺された。 主催者たる自分の力の絶対性を、参加者達に誇示するには、これ以上ないほどのパフォーマンス。 では何故、このトリックを歩が見破り、アイズは見破ることはできなかったのか。 簡単なことだ。歩のケースが特殊だったから。 過去に彼はこれと同じような首輪を、ブレード・チルドレンによってつけられている。 今アイズの元に駆け寄った、浅月と理緒の両名によって。 だがアイズ自身は、彼らと歩が戦っていたこそ知っていたものの、このような首輪が使われたことは知らない。 たとえ首輪の存在に気付いたとしても、それが爆弾であるという発想に思い至るはずもない。 それが認識のズレの正体だ。 「さて……意味のない殺し合いなどするな、といったようなことを、誰かが言っていたな」 空気が凍る。 全ての視線が一点に集中される。 もはや口を開けるものなどいない。 余裕ぶった清隆の笑みも、さながら悪魔の哄笑のごとく。 人を殺したその本人が、何事もなかったかのように笑っているのだ。 もはや鳴海清隆という人間は、誰にとっても、無視するわけにはいかない存在となったわけだ。 「だが、その認識は間違いだ。これから繰り広げられた闘争には、十分過ぎるほどの意味がある」 流暢な清隆の声。役者が台本を読み上げるような。 舞台上に立った役者の姿に、観客達が惹かれるように。 「運命によって仕組まれた意味が」 部屋に集められた全ての人間が、この男の言葉に耳を傾ける。 殺し合いから逃れようとする者達に、爆弾に逆らえるほどの度胸はない。 殺し合いに乗ろうとしている者達には、清隆に逆らう理由がない。 「そして君達は、このろくでもない運命に選ばれてしまった。 敵が運命である以上、無闇に逃れようとするだけでは、決して生きながらえることはできない。 このゲームで生き残る手段は2つに1つ。運命に従うか、あるいは……真正面から抗うか」 既に鳴海清隆という男は、この場の空気を完全に支配していた。 「――はーいはい、そこまでそこまで」 ぱん、ぱん、ぱん、と。 不意に、手を叩く音と共に。 若い少年のような声が割って入る。 素足の足音と共に、舞台裾から新たな男が現れた。 「いちいちパフォーマンスが過ぎるんだよ、清隆は。余計なことまでこいつらに言うことないって」 「おや、気に障ってしまったかな?」 新たにステージへと上がったのは、何とも奇妙な風体の男だった。 年齢は十代後半ほど。これまた自分とさほど変わらない歳だろう。 ずるずると伸びた黒髪の下には、皮肉な笑顔が浮かんでいる。 服装も服装だ。へそ出し袖なしのフィットシャツに、ミニスカートのような腰布と短パン。 清隆が白一色ならば、こちらは黒一色だ。 こんなものを男が着ているのだから、もはや露出狂としか思えない。 いずれにせよ、異様な少年だった。 清隆と随分親しげに話しているようだが、こいつも彼の仲間なのだろうか。 「てめぇ……エンヴィー!」 と。 突如集団から上がる、怒声。 どうやら自分達と清隆が知り合いであるように、このエンヴィーとかいう奴にも知り合いがいたらしい。 「や、鋼のおチビさん。血で血を洗うバトルロワイヤルに巻き込まれた気分はどうだい?」 「るせぇ! この野郎性懲りもなくチビチビチビチビ言いやがって!」 「兄さん落ち着いて!」 いきり立って吼えているのは、金髪を三つ編みにした少年だ。 赤いコートが印象的で、顔立ちからすると15歳くらいだろうか。にしては確かに背が低いような気がする。 そして傍に立ったごつい甲冑が、彼以上に幼い声で諌めていた。 それより、今兄と言ったか。そのなりでそいつの弟なのか。その巨体で中学生以下の歳なのか。 だがそんな奇っ怪の制止にも、血気盛んな兄は耳を貸そうともしない。 自分の家庭とはまるきり違う兄弟だな。何だか馬鹿らしくさえ思えてきた。 「見てろよ、こんな爆弾なんざちょちょいと錬成して……!」 「ほほーう。ではおチビさんに質問です。その首輪の材質は何でしょう?」 「あ゛あ!? 機械なんだから鉄に決まってんだろ!」 余裕たっぷりに相手を翻弄するエンヴィーと、盛大に喚きまくる赤コートの少年。 まるで先ほどの構図を見ているようだ。何だかんだで清隆とエンヴィーは、似たような性格なのかもしれない。 もっとも少年とアイズの方は、さっぱり似ても似つかないが。 「ホントにそうなのかな? 機械って言っても色々あるよ?」 にぃ。 愉快さを顔全体で表すかのように、醜く歪む男の口元。 「たとえば、社会でよく見る金属製品の材質、1つ1つ挙げてってごらん」 「んだと? そりゃあ、金銀銅に鋼にアルミニウム……」 「じゃあ、その首輪がその辺の材質で作られてないって証拠は?」 「うぐ……」 途端に、赤コートの少年の勢いが削がれる。 たたみかけるようにして、続けられるエンヴィーの言葉。 「さっすが国家錬金術師、それくらいの頭はあるみたいだねぇ」 「エドワード君、君も早死にしたくなければ、ここは素直に話を聞いてやるといい。 1つ1つ錬成を試している隙に爆破されては、間抜けすぎて笑い話にもならないぞ」 ついでに清隆までもが口を挟んできた。 こうなれば、あのエドワードとかいう少年に勝ち目はない。 それなりに舌の回るらしいエンヴィーに、神・清隆が援護についているのだ。単純そうなガキが、口で戦って勝てる相手ではなかった。 それにしても、彼らの会話の中には、色々と不可解なワードが出てきている。 錬金術師だとか、錬成だとかだ。まさか古代の錬金術の学者様が、こんな所にいるはずもないだろうに。 「では諸君も、一応エンヴィーの言うことに耳を傾けておくように」 などと言っている間に、清隆が動き始めてしまった。 スーツの足がステージを歩く。その目的地は舞台裏。 「なっ……おい待て! 兄貴っ!」 冗談じゃない。まだろくに会話も交わしていないぞ。こんなところで逃げられてたまるか。 弟の絶叫も虚しく、兄の姿は舞台より消えてしまった。 清隆が消え、照明の下にはエンヴィーのみが取り残される。 スポットライトをその身に浴びて、得意げに笑む少年のみが。 「さーてと……んじゃあ清隆に代わって、愚かな人間の皆様に、僕がこのゲームのルールを説明してあげよう」 おどけたような身振りと共に、しかし嘲笑うような声音で。 一拍の間を置き、口を突く言葉。 であればまさにここからが、このろくでもないデスゲームの本番ということか。 「基本ルールは清隆が話した通り。決められた戦場で、最後の1人になるまで殺し合うことさ。 僕らに逆らうようなことをしない限り、 反則負けを取られることはないけど……今傍にいるお友達と、慣れ合おうなんて考えは捨てた方がいいよ? お前達はみんな揃って、ランダムな場所からスタートとなる。 ここで一緒につるんでたって、ゲームスタートと同時に離れ離れ、ってわけ。 ……さて、じゃあ次はその首輪の話」 とんとん、と。 自分の首を人差し指で、軽く叩きながらエンヴィーが言う。 否応なしに、参加者達の視線が首元へと向いた。言うまでもなく、歩もだ。 「そいつの爆発条件は4つ。 まず今言った通り、僕らに逆らおうとした場合。 それから会場の外に出た場合と、24時間誰も死ななかった場合だ。 みんな仲良く誰も殺さず、じっとやり過ごそうなんてのはお話にならないからね。 そして残る1つが、6時間ごとに増える禁止エリアに入った時。これはそれまでに死んだ奴の名前と一緒に、放送で発表される」 どうやらこのゲームのフィールドは、時間が経つごとに狭くなっていくと考えていいらしい。 確かに終盤になって人数が減ったというのに、会場だけはだだっ広いままでは、エンカウント率は激減してしまう。 「最後に、人殺しをする上で一番大事なもの……凶器に関する説明だ。参加者には1人に1つずつ、こんな感じの鞄が用意される」 言いながらエンヴィーが取り出したのは、何の変哲もないデイパックだ。 「この中には食糧や地図に参加者名簿、それからランダムに武器が入ってる。 その武器を調達するために、お前達の持ち物はぜーんぶ取り上げさせてもらったよ。 もっとも、そこのガキのは没収し忘れちゃったみたいだけどね。でもこういう不備はもうないだろうから、安心しなよ」 物言わぬアイズの遺体を指差しながら、エンヴィーが言った。 よく言う。 そいつの武器は力関係を分からせるために、わざと取り上げずにおいたんだろうに。 「もっともこの中の何人かは、そんな武器なんかに頼らなくても、自前の能力で人殺しができたりする。 でも、それじゃワンサイドゲームになってつまんないからね。 ちょちょいと身体に細工して、なるべく公平になるように弱体化させてもらったよ」 歩にとって、一番意味が分からないのはこの話だった。 能力というのは一体何だ。さっきの錬成とかいうのもそれなのか。 もっともこんなことを聞いても、この男がまともに答える保障などあるはずもない。 「……さて、説明はこんなところかな。じゃ、習うより慣れろだ。さっそく始めるとしよう」 実際、エンヴィーにはその気はないらしい。 質問があるかどうかの確認もせず、そのまま始める気満々で切り出した。 「さぁ、ゲームの始まりだ! 阿鼻叫喚の地獄絵図の中、思う存分に殺し合うがいい!」 ぱちん。 指が鳴る。 その瞬間に。 (!? 何だ、これっ……!) 不意に、歩の身体が光りだした。 何とも形容しがたい色の光が、身体中を包んでいる。まるでアニメやゲームのワープのよう。 否、ようではなく、まさしくワープそのものらしい。 現に同様の状況に陥った他の人間が、次から次へと姿を消している。 ランダムに配置するとは聞いていたが、なるほどこういうことだったのか。 そして目的地へと辿り着けば、いつも通りの戦いが始まる。 一切の油断もできない、ろくでもない殺し合いの始まりだ。 しかもこうしたファンタジーじみたことが平気で起こっている以上、今まで以上の危険が待ち受けているかもしれない。 そう思いながら、周囲を見回した時。 「……!」 その目は驚愕に見開かれた。 思わず口が半開きになった。 いるはずもない男の姿を、そこに認めてしまったから。 既にこの世にいないはずの、その少年の姿を見つけてしまったから。 (……カノン・ヒルベルト……!?) かくして物語は幕を開ける。 定められた主役はいない。メインキャストは鳴海歩1人ではない。 この神の弟に生まれた少年の話は、あくまで物語の登場人物の一例だ。 そう。 明確な主人公がいないということは、誰もが主人公であるということ。 誰もがそれぞれにそれぞれの物語を紡ぎ、それぞれの世界の主役となるということ。 巨悪に立ち向かう道か。 生き残るために殺し合う道か。 何一つ成し遂げられず命を落とす道か。 無限に枝分かれする道筋のうち、どれを通るかは彼ら次第。 「全ては運命の導くままに」 「ゲームスタート♪」 &color(red){【アイズ・ラザフォード@スパイラル~推理の絆~ 死亡】} 【一日目 00:00 ???】 【鳴海清隆@スパイラル~推理の絆~】 【エンヴィー@鋼の錬金術師】 【備考】 ※鳴海歩@スパイラル~推理の絆~の参戦時期は、少なくともカノン死亡後です

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