『ゆっくらいだーディケイネ』
第1話 戦士 が 旅立つ 日
―――5/17 AM10:43
『ざんねん!れいむのぼうけんは これで ゆっくりしてしまった!』
「何なのよこのクソゲーは…!」
その日、私は自宅でダウンロードしたゲームをやっていた。名前は忘れた。
もうかれこれ2時間くらい続けているのだが序盤から一向に進めない。ふざけてんのか。
「おねえさん!たまにはれいむ達とも遊んでね!」
「おねえさんは今すぐまりさ達と遊ぶべきなんだぜ!そう出来なければ腹を切って死ぬべきなんだぜ!」
足元から声が聞こえる。ウチの同居人のゆっくり達だ。
「私は今このクソゲーを攻略するのに忙しいから勝手に遊んでなさい。
あとまりさ、そのネタは色々とアレだからやめなさい」
「だったらいいよ!れいむ達はお外で遊ぶよ!」
「地獄の火の中に投げ込むんだぜ!」
二人はぷんすか怒りながら出て行った。と言うかまりさ、それはやめれと言っただろうに。
この二人が居ついたのはいつからだったか。もう随分前のような気もするし、ついこの間だった気もする。
スペースは持て余していたし、(どこから調達してくるのかは知らないが)家賃も払ってくれているので特に問題も無くやってきている。
…ま、そんな事はどーでもいいか。今はとりあえずこのゲームを終わらせなければ。川の中に何かありそうな気がするな…
『すいませーん、お届け物でーす!』
再開しようとしたとき、玄関の方から声が響いた。もちろんさっきのゆっくり達のものではない。
お届け物?この間通販で買った模造刀はもう届いたし、実家から何か送ってくるとも聞いてないし…何だろう。
そう思いながら玄関まで歩いていった。世の中には下着姿で暮らすだらしのない女の子もいるようだが、私はそんな事は無い。
きちんと作務衣を着ているので大丈夫だ。
荷物はクール便で届いた。生ものだろうか?
…違った。ネックレスとポシェットだった。なぜクール便で。
ネックレスにはロケットが付いており、開くと丸いくぼみがある。何故だろう?これには見覚えがあるような…
妙な感覚を覚えながら送り主を確認しようとすると
「ゆわあああああああああああ!」
外から悲鳴が聞こえた。れいむの声だ。
「どうしたの!?」
慌てて外に飛び出すと、そこにはまりさだけしかいなかった。
「おねーさん!れいむが大変なんだぜ!」
「そのれいむはどこよ!?」
「空を見てね!うつむかないでね!」
だからそういうネタはやめろと言ってるだろうに…と思いながら空を見ると。
いた。
「まるでおスカイをフライングしてるみたい!」
…何か、普通では考えられないほど馬鹿でかいカラスにくわえられて、↑こんな事を口走っている。嘴だけに。(あ、上手い)
「…ねえ、あれ実は楽しんでるんじゃない?」
「そんな事ないのぜ!れいむが大変なんだぜ!まりさの忠実な下僕のれいむが!」
「ドサクサにまぎれて主従関係を捏造しないでね!」
「とにかく早く助けてほしいんだぜ!」
どうしたものか、と思いつつネックレスを見る。
これを使えばれいむを助ける事が出来る。だが…
「…あんまりやりたくないなぁ」
しまった、つい本音が出てしまった。足元と上空から「ひどいぜ!鬼!悪魔!」「人でなし!」「眼鏡!」「貧乳!」だの猛抗議だ。
…おい貧乳っつったのどっちだ。後でぶっ飛ばす。
「しょうがないわね。やりゃあいいんでしょやりゃあ」
ネックレスのロケットを開いて、ポシェットからメダルを一枚取り出し…
「変身!」
ロケットのくぼみにはめ込み、
『ユックライドゥ!』
声が発せられると同時にロケットを閉じる。
『ディケイネ!』
周囲に次々と現れる一頭身のシルエット。それらが集まり、光の中から現れたのは…
ゆっくりの力を使い
世界をゆっくりさせる者
ゆっくらいだーディケイネ!
「かっこ悪!」
「うるさいな!だからやりたくなかったのよ!」
どストレートな感想ありがとう。若干涙目になりつつも、とっとと終わらせるべくポシェットから次のメダルを取り出した。
『ユックライドゥ!きめぇ丸!』
ディケイネからきめぇ丸へと変身し、更にメダルを使用する。
『スペルライドゥ!きめぇ丸!』
突風「猿田彦の先導」
突風と化したきめぇ丸がカラスの眼前を掠めて飛ぶ。
「グェッ!」
それに驚いたカラスはれいむを放し、どこかへ飛び去っていった。
落下するれいむを空中で捕まえ、きめぇ丸はヒュンヒュン飛びながらまりさの下へ帰還する。
「れいむ!まりさの最高の相棒のれいむ!」
「白々しいにも程があるよ!」
きめぇ丸への変身を解除し、やれやれといった感じで部屋に戻ろうとすると突然目の前に大きな川が現れた。
…そういえば、ここは街中のはずだがいつの間にか木々が乱立する山の中のような風景に変わっている。
「これは一体…」
「ゆっ!?川ならまりさに任せるんだぜ!」
状況を把握しようと周囲を観察していると、まりさが勇み足(?)で川の前へとやってきた。
「どうするつもりよ?」
「ゆふふ…こうやって帽子を川に浮かべて…ゆっくり渡るよ!」
帽子を川に浮かべてその上に飛び乗るまりさ。
あ、沈んだ。
「バカなァ!」
「当たり前でしょ。なんで浮かぶと思ったのよ」
A.インターネットで見た。
「しょうがないわね…」
再びポシェットからメダルを取り出し、ネックレスにセットする。
『ユックライドゥ!にとり!』
にとりに変身した後妙な視線を感じるので振り返ると、れいむがやけにキラキラした目でこちらを見ている。
『次はどんな面白い事するの?』とでも言わんばかりの目だ。
「次はどんな面白い事するの?」
言った。
「…いや、にとりなら普通に水中潜れるから別に何もしないけど」
「…」
「心底残念そうな顔をするな!」
それだけ言い捨てて川へ飛び込む。まりさはばしゃばしゃ暴れており、横から近づくのは危険だ。
実際、人間がおぼれている場合でもそのまま近づいたらしがみつかれて共倒れになるとか聞いたことある気がする。
「ゆぼぁ!?」
なので下から思いっきり突き上げてやった。水面から勢い良く発射されたまりさは無事、れいむの隣の地面にGEKITOTZした。
少し勢い良すぎた気がする。大丈夫だろうか。
「ゆう…れいむ…時が見えるよ…」
「こんどれいむにも見せてね!」
良かった、大丈夫そうだ。
ほっとしたのも束の間、またもや景色が変わった…と言うより、真っ暗になった。
「ゆゆっ!?夜になったよ!」
「おやすみれいむ!」
「違う。寝るな」
まりさに頭突きをかまして辺りを見回す。さっきまで見えていた自宅のドアも見えなくなっている。
「…とりあえず、これは解いとこうか」
ネックレスを外し、変身を解いた。ひょっとしたらこの先また使う事になるかもしれないが、
だからと言っていつまでもあの格好でいるのは…
ぶっちゃけ ハズい。
「…ぅー」
「ん?」
どこからともなくぱたぱたと羽音が聞こえ、ゆっくりこちらに近づいてくる。
しばらくすると視認できるまで近寄ってきた。音の主はれみりゃだった。
「「ゆっくりしていってね!!!」」
「うー!」
ゆっくり同士、何か通じるものがあるんだろうか。しばらくこいつらを観察することにする。
「うー!うー!」
「うんうん」
「うー!ううー!」
「うん」
「うー、うっうー!」
「そうなんだ…」
一通り終わったようなので通訳を頼んでみる。
「…で、コイツなに言ってるの?」
「「さっぱりわからないよ!」」
「うー!?」
…テキトーに相槌打ってただけか、コイツら。
どうしたものかと考えていると、れみりゃの来た方向から別の誰かがやって来た。
「ここにいらしたのですか、おJOEさま」
さくやだ。なんか『お嬢様』の発音がものすごく怪しいが、とりあえずさくやだ。
「大方、伝えたい事があるのに全然伝わらなくて困っていたのでしょう。私が間に立ってお話いたしますわ」
どうやら、さくやにはれみりゃの言う事が解るらしい。さすがは従者だ。
「うー!うーうー!うー!」(さくや、お腹すいたからこのお姉さんに何か分けてもらえないか聞いてみて!もしくはおやつ頂戴!)
「ふむ…」
「なんて言ってるの?」
「おじょっ様が言うには…『あなたはこれからいくつかの世界を旅しなければなりません』」
「うー!?」(違うよ!?)
れみりゃがひどく驚いた顔を見せた。何があったのだろうか。
「え…やだ。めんどくさい」
そう答えると今度はさくやが驚いた。この主従おもしろい。
「ここで断ったら連載終了ですよ!?」
「別にいいよ」
「うー…」(お腹すいた…)
「ほら、お嬢様もこんなに悲しんでいらっしゃいます」
「うー」(違うって)
二人は必死で旅を勧めてくるが、私には全くやる気が無かった。タルいし。
「諦めた方がいいよ。おねえさんは自分の利にならない事は何が何でもやらない人なんだよ」
「そうだぜ。全ての行動が損得勘定のもとにあるような人間なんだぜ」
お前らそれは言いすぎだ。
れみりゃとさくやはまさかここまで頑なに断られるとは思っていなかったらしく、何とかして受けさせようと考えているようだ。
「うー…」(もう帰ろうよ…)
「…ならば…達成の暁にはふるさと小包プレゼント!」
「ショボいぜ!」
「バカにしないでね!せめて100万円くらいは包んでね!」
「乗った」
「「「乗るんかい!」」」
なぜかさくやからもツッコまれてしまった。コイツらにはふるさと小包の偉大さが解らないのだろうか。
「まぁ、経緯はどうあれ受けてくださって何よりですわ。それでは…」
「ちょっと待って」
「なんでしょう?」
「聞きたいんだけど…私、何故かこのネックレスの使い方を知ってたのよね。そのへんの理由ってわかる?」
「ああ、それでしたら…」
さくやはにっこりと笑った。瀟洒スマーイル。
「あなたが寝ている間にこっそり睡眠学習で刷り込ませてもらいました」
「勝手に何してくれてんのよ!」
「いいじゃないですか、結果として役に立ったわけですし。それでは頼みましたよ…」
その声を最後に、れみりゃとさくやの姿は消え、この暗い空間からも解放された。
「さっ」
れみりゃとさくやのいた暗い空間から私達が訪れたのは、対照的に真っ白い世界。
天も地も、山も川も、何もかもが一面雪で包まれた銀世界…
「ぶううううううううううううううううううううううう!」
いきなりこんな所に放り出すな、バカ。こちとら作務衣一枚なんだぞ。
私達は暖を求めて自宅へと全力疾走した。竜巻(トロンベ)の如き速さで駆け抜け、3人同時に布団に潜り込む。
しばらくガタガタ震えていたが、思いのほか早く暖かくなってきた。3人身を寄せているからだろうか。
少し余裕が出てきたので部屋を見回す。間違いなく私の部屋だ。
ただ、出て行ったときと一つだけ、変わっているところがあった。
「5月…24日…?」
日付が一週間進んでいる。あの妙ちきりんな空間に巻き込まれた影響だろうか。
それともこの世界の日付に合わせて変化しているのだろうか。だとしたら、この世界は…
「この時期になっても止まない豪雪…なるほど、まずは『妖々夢の世界』ってことね」
-つづく-
おまけ
「うー…」(お腹がすいて死にそうだよ…)
「さあ、用事も済んだ事ですし帰ってお食事にでもいたしましょう」
「うー♪」(やった!さくや大好き♪)
「今日はペペロンチーノですよ」
「う"ー!」(死ね!)
書いた人:えーきさまはヤマカワイイ
- 100万円よりも価値のあるふるさと小包……一体何が入っている…… -- 名無しさん (2009-05-18 16:23:03)
- れいむとまりさのやり取りが面白すぎるw
良い笑いを提供させてもらいましたー -- 名無しさん (2009-05-21 03:39:44)
- れみりゃの可愛さがやべぇ・・・ -- 名無しさん (2009-05-21 08:45:29)
- 遊んでるのはゆっくりげいとか。 -- 名無しさん (2009-05-21 19:46:42)
最終更新:2009年08月13日 21:25