【夏休み10】自重不足の背中 後-2



 夕方頃、暖かさで目が覚めました。
 熱いはずなのに、心地よく暖かいと感じるなど、夏には無いはずですのに―――
 体が、何かとても感触のよいものに挟まれていたのでした。

 「紫様?」
 「おはよう」
 「おはよう、らんしゃま………」

 忘れもしません。
 後頭部には、均整の取れた霊夢殿の胸。 目の前は――――初めておんぶしてもらった時、まるで高原の様、
と感じた紫様の背中でした。

 夕暮れの中、空も飛ばず、紫様は、霊夢殿を負ぶって歩いているのです。

 私は、紫様に背負われた霊夢殿の胸に、すっぽりと抱かれていたのでした。




 ――――何という、幸せな位置に、私はいるのでしょうか――――




 ルーミアさんは確かに一緒にいて楽しい相手でしたが、こうして包み込むように触れ合う所まではしていません。
 思えば、こうして誰かと密着できるのは、霊夢殿が「指圧教室」に向かう前からです。

 「霊夢殿? ―――あのね? らんはね?」
 「あー…… ごめんね。らんしゃま。話は帰ってから」
 「ゆ?」
 「お説教なら、さっきたんまり紫からもらったし、謝られるのも、謝るのも疲れたわ」
 「本当ね。 博麗の巫女としてあなたは……」
 「ごめん紫。もっと説教されなきゃいけない事も解ってるから…… だから」

 それは―――私も同じ気持ちでした。




 「紫様。 ―――もう少しこのままでいい?」
 「私も。 いや、何か寝すぎたり弾幕いつの間にか食らったりで疲れたからであって……」
 「2人とも甘えん坊ねえ」




 本当に、暖かい。
 昨日、お茶を淹れている紫様のお背中を見て、あれほど2人で求める気持ちになってしまった訳が解ります。
 それは、劣情をそそられるとか、そうした理由だけではなかったのです。

 「―――こんなに華奢なのに、あんたの背中って広いわね」
 「まるで―――なんだろ、これ……」
 「負ぶってもらってあれだけど、重くない?これ」
 「2人くらい平気ですわ」

 いつまでもこうしていたい――――― ただ、それでも気になる事はあります


 「ああ、―――安心なさい。ルーミアちゃんなら、酷い事はしてないから今は無事よ?」
 「ゆう……」

 見透かしたように、紫様は説明して下さいました。
 怒ったルーミアさんが暴れて、鬼さんが本気を出してしばらくあの小屋の中で手がつけられない乱闘が続いた
そうで――――我を失ったルーミアさんと鬼2人を霊夢殿一人で無理やり下し、少し早目に目を覚ました紫様
は、山の麓の粉々になった小屋の跡地で、倒れている私達を拾い上げて下さったそうなのです。

 「あのゆっくり達には、きつくお灸をすえましたからね」
 「ああ……助かりはしたのか・・・」

 いっその事、あの紫ババアの方は放置どころか、始末してしまっても良い気が………

 「そうだ。霊夢ったら、私を気持ちよくさせたくて――――」
 「……そういう直接な言い方はやめい」
 「帰ったら、早速指圧してもらおうかしら?」
 「いや、さわりの部分教えてもらっただけだから………」

 激しく紅潮して、紫様のうなじに額を置いてしまう霊夢殿
 これは恥ずかしい――――とお気持ちを察していると――――――私も同じ状態になるハメになりました



 「ところで今日はドレスじゃないんだけど」
 「うん」
 「2人ともやっぱり生の背中が良かった?」


                                             了





  【おまけ】


 結局、記念という事で、私達は夕飯を藍様の喫茶店で摂る事にしました。
 どこから調達しているのか、とても美味しい蟹料理を出してくれるというのです。

 「たのもー」

 流石に霊夢殿は紫様の背中から降り、私は霊夢殿に抱えられて店内に入りました。
 カウンターには――――たくさんのお客さんが揃っていました。

 怪我を負い、少し憂鬱そうな顔の 勇儀さん。
 同じく、俯きながら蟹の入ったフルーツパフェらしきものを貪る ルーミアさん。
 寝覚めの様な 小傘さん。
 苛立っている 早苗さん。
 他に、霊夢殿を見るなり少し表情が明るくなった、バーテンダーの様な赤い髪の妖怪
 恐ろしく落ち込んでいる、妊婦のような体型ながらも、妖艶な空気の妖怪

 全員、何故か大汗をかいています
 非常に気まずそうに


 「―――…… 小悪魔だっけ? それに黒谷キスメも」
 「お久しぶりです」
 「あたしゃヤマメだよう……」

 そして、カウンターの中では………

 「いらっしゃい。 漸く来てくれたわね」

 藍様は、満面の笑みで、コーヒーゼリーに蟹をねじ込んでいました。
 違和感どころではありません。
 尋常な様子ではありませんでした。
 ―――紫様が事前に連絡を入れられたのか、霊夢殿が来られる事を知っていたのでしょう。

 ――やや青みもかかった真っ赤な口紅
 ――元々短いのに、項を強調するように結い上げた髪
 ――いつもの服を若干夏仕様にアレンジしたと思われるワンピース
 ――長い手袋

 大体紫様の影響という事は一目瞭然ですが、後を向いてカップを出そうとしている所を見て、
私達は絶句しました。



 背中が、もう強調するというより、そもそも布自体が存在しない作りとなっていました。


 夏なのに、何だか寒ささえ感じます。
 更に更に、尻尾を引っ込めているため、その下の尾てい骨が見えるか見えないかといったレベル
まで………

 「ら、藍様…………」
 「紫様も、らんも―――霊夢も、皆で来てくれて嬉しいわ」

 藍様。
 いくらなんでも、これは短絡的というものです。
 ただ、出せばいい――  露出していればいい――  それは色香とは言えません。
 それに、霊夢殿は単純に紫様の色気にかまけていたのではないのです。
 紫様の、アフリカの大地の様に広い背中が持つ包容力に、母親のようなそれを感じたり、
その暖かさと、ほんの少し加味された妖艶さに心を奪われていたに過ぎないのです。

 単純で過剰なお色気を出せば、なびくと思ったら大間違いなのです………
 私は、何とかそれを伝えられないかと、一同ドン引きしているカウンターの一角に座った、霊夢殿の
膝の上に座りました。

 (―――-藍様にはわるいけど、こんなことでなびいちゃう霊夢殿じゃないよね!)

 と、霊夢殿、震える手でコーヒーを飲み、噴きそうになってしまいます。

 「あらあら、ちゃんと飲まなきゃ勿体無いじゃない…………」

 紫様を見習った、肩口の広いワンピース。
 藍様は、不自然なほど腰をかがめると、ハンケチを出して、霊夢殿の口を拭き始めました。
 見上げれば――――そう、一つが、大体バレーボール程度の大きさでしょうか?
 つまり、私が2体並んでいるかのような………
 信じられないほど絶景の谷間が、そこに展開されているのです。


 ―――霊夢殿は、為されるがまま………



 「れ、霊夢殿!!?」

 私を乗せた膝が、小刻みに震えていました。


 ガタリ、と大きな音がして、カウンターの一同全員が立ち上がりました。

  • 藍自重しろw -- 名無しさん (2010-09-02 23:38:11)
  • ルーミアの乙女っぷりが可愛いです。
    超高濃度の闇の下りはこういう戦術もあるのかと目から鱗でした。
    しかしゆかれいむなだけあって報われないなぁ、そこがいいんだけど。 -- 名無しさん (2010-09-04 12:30:11)
  • みんなでドタバタやってのほほんと休んでなところが面白い
    キャラに味がある -- 名無しさん (2010-09-11 11:01:02)
  • 早苗さん(本物)が自重するどころか、回を増すごとにどんどん酷くなってる件。
    小傘に関してはもはや悪堕ちレベルだよ!! -- 名無しさん (2010-09-15 16:39:06)
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最終更新:2010年09月15日 16:39