【2011年春企画】緩慢刀物語 地輪章 出-1

 決着の時が来た。


 しかし化け鴉の眼前にて、「退治用に使うから」と手渡された宝剣を、口内から抜いた時、みょんは思って
しまった


 ―――何故、剣なのだみょん?


 対人間・ゆっくりの決闘や近接戦にはふさわしい武器だ。実際の戦場でも昔から使われる。
 しかし、こうした体格差の余りある『妖怪』の抹殺用にわざわざ開発された兵器が、何故剣なのだろう?
 しかも

 ―――いつも使いづらい………!

 まず短く、刃の部分は変な曲線を描いているので、通常の軌道や抵抗を想定すると大きく空振る。
 さらに柄の部分の意匠がゴテゴテとし過ぎ、長い割には持ちにくい。
 もち運びには便利で、地底生活の二日目に手にしてから随分なじんだが、納得いかない。昔のこの地元の退治
屋はバカだったのかと思ってしまう。
 そもそも、何故ここまで距離を近づけなければ使えない武器なのか?

 「限定」「集中」「我慢」

 地底生活で、地元民から定期的に聞かされる言葉だ。 理屈は解るが、他の武器ではいけなかったのか。
 確かにみょんは剣の道を志してきたし、誇りも自信もある。
 だが、今回ばかりは納得いかない。

 ―――弓とか槍、長炎刀   鉾や斧や鎖鎌ではだめだったでござるか?

 前者3種は、昔話などでは割と活躍している話を見た事がある。
 しかし、英雄に斧やこん棒で殴り倒された怪物・もしくは斧を振り回して国を救った英雄の話は、あまり聞か
ない気がする。実際はあるのだろうが。

 「…………覚悟するがいいみょん」

 とは言え、戦いも終わる。
 王手を取り、鴉の目を見据えた。
 「魂閉刀」に怯えていたり明らかに怒り狂っていたので、割と感情豊か無いはずの化け鴉だったがその目は、
何も映してはいなかった。 虚無 とはこの事だろうか。
 が、それも一瞬で、鴉は

 「やはり、おぬしもそうなるか」


 ――――若干嬉しそうな眼になった。


 みょんは思い出さずにはいられない。



==============================================



 深夜。
 用水路を挟んだ橋の前にて。
 これからが本番のはずなのに、6人の戦士が一人、ゆっくり星が一人でリタイアしてしまった。
 命に別状はないが、はらはらと無念の涙を流しながら仰向けになって、恐らく数日は動けそうにない。

 「おのれ、今のは影だったとは……!」
 「そんな敵の分身如きに本番前に負けてしまいました………!」

 ふん、泣いたって助けに来てくれるネズミさんはいないのさ! と憎まれ口を叩きながらも、星ちゃんを
きちんと手押し車に乗せて看護するおりんりん。

 「しかし、分身があれだけという事は、本体はどれ程か……」
 「いえ、本体ともさほど大きな差は無いはず。問題なのは私達の体力の方でして……」

 しかし、一端帰ったり休んだりする暇は無いのだった。
 元々、星ちゃんが決着用の宝剣を預かっていたのだが、適正から考え、さくやさんが引き継ぐことになった。

 「大丈夫ですよう。5人でちからをあわせれば……」
 「しかし、聞いた事も無いです。有名なのですか?『橋姫』って」

 「鬼」や「土蜘蛛」等に比べれば確かに知名度は低かろう。

 「ゆっくりぱるすぃは知ってるだろ? あいつ等の祖先だとか、似てるとかって噂は聞いたことあるさねえ」
 「そもそもどんな『妖怪』なんです?」
 「元は人間らしいんですけど………」

 さなえさんは、「橋姫伝説」は聞かない方がいいですね。と、さくやさんは宝剣をしまい橋に向き直った。
 橋の向こうには、明りの灯った次の広場が見える。
 その前に、欄干の辺りに緑色の鬼火がいくつも浮き上がっているのだった。
 いや、火では無かった。発光していると思っていたがただ単にキツい緑色をした何か嫌な物体が幾つも湧いて
漂っているだけだ。
 やがて、橋の真ん中に、半透明の異形の者が現れ、じわじわと実態を帯びる。耳が変に尖っている
事と、緑色を帯びた酷く不健康そうな肌と不自然な長身以外は、実は特に人間と変わらない。
 しかし、開き切った瞳孔は愛嬌がありそうだが、瞬きを一切せず、良く見ると短い眉毛だけが、異様に怒りや
不満を表現している。そして、2本の禍々しい松明を額に括り付けている。
 初めて、(分身の方だが)この妖怪を見た時、全員同じ様に思った事だろう。

 (あぁ、こいつ、やばい………)

 分身とは、実はそれほど実力が変わらないらしい。
 それでも体力などの問題上、利は橋姫側にあった。それよりも5人が恐れたのは、本体が持つ、痺れる様な
狂気だった。

 「大丈夫なの、あれ」
 「一番関わりたくない相手だなあ」

 星などは最初から泣いてしまったほどだ。
 みょんは、出国直前、自分に告白をした忍者の事を思い出さずにはいられなかった。さくやさんも苦い顔を
していたが、失礼ながら幕内の事を思い出すとこちらが苦笑いしそうになる。

 「終わらせましょう……… あの化け物のためにも」
 「そうでござるな……」

 少し、気持ちが救われた気がした。

 「ゲラゲラゲラゲラゲー」
 「折角の『妖怪退治』ですもの。楽しくいかなくてはいけませんね!」

 能天気に笑い続けるゆっくりうどんげに、最初は怯えていても、やはり芯のぶれないさなえさん。彼女達が
居て助かった。

 「まったく何が楽しいんだろうね!!! こんな所に執着しちゃって見苦しいったらありゃしない」
 「私のぶんもみなさん頑張って下さい!!!」

 一番やる気がなさそうでも既に戦闘態勢をとっているおりんりんと、動けないながらも精一杯応援している
星ちゃんは好対照。
 それでも、みょんは自信が薄らいだ。

  (こんな事ででどうするでござるか!)

 しまっていた包みを素早く取り出し、景気付に中身を頬張った。戦い終わってからゆっくり食べようと思って
いたのだ。
 横でうどんげとさなえさんが見ている。欲しいのかと思って残りの欠片を二人に向けると、すぐに飛びついた。

 「うわあ、不味い」
 「スイーツかと思ったらそうじゃない? 何ですかこれ?」
 「…………これでも上達した方みょん……一応形はできてきたのだし…」

 ―――彼方は、この包みを渡す時、一言もしゃべらなかった
 ―――と言うより、もう口すらきいていない
 若干疲れ気味だったとは思っていた
 「おお、大分完成に近づいたでござるな。もう何を作っているか解るみょん!」
 と褒めてしまった後、怒るだろうかと思ったが、黙ったままだった。

 「ぬう……理由は解るでござるが」

 5人は、さくやさんを中心に、橋姫に向かって並んで身構えた。
 早くも決着用の宝剣を構えるさくやさんは美しかった。
 これでなくては、『妖怪』は倒せない。

 「……こんな時でござるが、さくや殿に任せて正解でござるな」
 「――――小刀に関しては、母からずっと仕込まれましたので」

 苦笑しつつ、何か深い思い出に悩まされるように、さくやさんは言った。

 「それでも、なお師である母を越えられませんし、母も到達できなかった相手がいると言っていました」
 「あ…………」
 「編御体千四季―――あなたのお母様には到底及びませぬよ」
 「めくぁwせdrftgyふじこlp;@ 」

 最終決戦の前にして、みょんは思い切りむせかえっていた。



 橋姫は、何故か、普通に嬉しそうに笑っていた


==============================================



 宝剣は、音もたてずに地面に転がった。
 本当は砕けるほど叩きつけてやりかったが、他のゆっくりがこの後使う事もあるだろうし、何よりそんな事で
破損はしないであろう。
 おりんりんがまず声を荒げた。

 「なにやってんだい。そいつじゃなきゃ『妖怪』は倒せないだろ!」
 「………」
 「ほら、早くお取りよ、その自慢のゑクスカリパーを!」

 よく解らないが、カリパーではない。カリバーだ。
 次いで、むらさまで反応した。

 「か、カ○パー?」

 むらむらむらむら
 更に、大怪我をしたケロちゃんまで立ち上がった

 「か、カ○?」

 その二文字で性的な連想ができることにみょんは驚いたが、差し替えた「魂閉刀」で、化け鴉を縦横無尽に
斬りつけまくった。
 使い慣れた正剣。
 効果は実の所定まっておらぬ上に、実際に『妖怪』を斬りつけられたのはこれが初めてだったが、化け鴉は
殊の外苦悶の声を上げた。
 はっきり言うが、宝剣では7切ってもこうもダメージは与えられまい。
 火も吐けずに叫ぶ鴉に、みょんは追撃の手を休めない。

 「確かに利いてるけどさ!」

 そう、化け鴉を斬りつけると、手ごたえはあるのだ。
 最初は霞を切っている感覚だろうと思っていたが、本当に相手もダメージがある。
 …………だが、これではダメなのだろう

 「おかしいとは思わぬか」

 殊の外冷たい声に、ムラムラしていたむらさも、何やら顔を赤らめていたケロちゃんも、普通のゆっくり顔に
戻る。おりんも何かを感じて、冷たい汗を流していた。

 「何故に、こんな使いにくい剣でなければ倒せないというのか」
 「そういうもんだから、じゃないの?」
 「―――邪悪なものを討つのであれば、塩なり清めの水なり、他にも利用できそうな要素はいくらでもあるで
ござろうに」
 「よく解らないけど、「その剣で」何度もやって来たことが大きいとかじゃない?」

 ならば、それ以外の武器でも損傷を与えられることがおかしかろう

 「そういうもんだから…… としか言えないね今は!!!」
 「妖怪は『観念的なもん』だからだよ!?」

 化け鴉は、もう立ち上がれないほどにダメージを負っていた。ただ、血や脳や内臓が外に飛び出す訳でもなく、
透明になる訳でもなかったが、実際に苦しそうではあった。恐らく、反撃はしてこまい。
 違和感を感じているのは、みょんだけではない様だ。
 あくまで

 「『観念的』……それはそうでござるが」

 例えば「犬が生息しない」地域があったとして、そこの住民も犬がを見た事が無く、存在を知ってもそれを
「認めない」という態度をとったとしてもだ。
 その地域に犬が「入れない」「生きられない」という事では無かろう。
 住民が殺してしまう・持ち込ませない、という事ではなしに。

 「みょん達、ゆっくりは――――こやつを退治している我々は―――『具体的』な存在でござろう」
 「んんん?」

 そこに違いがあるというのか。
 ケロちゃんは動けそうにないが、むらさとおりんりんは、少し怯えた顔で、みょんの元へ歩み寄り始めた。

 「skmdy………!」

 何か歯切れの悪い声がした

 「―――……久しぶりに言ったので発音が……『そこまでよ』 ですね」


 何の前触れも無しに、みょんと、おりんりん達の間に、少女が立っていた。あのジトジトした目つきの年の
よく解らない子供だ。
 ケロちゃん達が驚きの声を上げる。皆知っているのだろう。

 「………さて、考え過ぎて気が付きすぎた相手には………」

 気が付くと、化け鴉は消えていた。 代わりに近くの木に、少し大きめの妙な飾りなどを頭部に着けた鴉が
留っている。
 ――――この少女からは聞きたいことがある。

 「ああ、それでしたら説明しましょう。そんな風に思われてもこまりますし」

 何かあてずっぽうで言ってるんじゃないのかこいつは と思っていると、本当に気になっている事を、
少女は言い始めた。

 みょんは、痛烈に彼方に会いたくなった。



==============================================



 ―――おのれ 図ったな 四大庭師衆どもめ!
    しかしこの火炎猫、ただでは死なぬ!
    ゆっくり・人間でもに心の闇が 悪行を残して逝く死体がある限り!
    再び第2第3の火車が現れようぞ!!!
    その時までせいぜい惰眠を貪っているがいい!!!!

    うぷっはははははははは!!!



 永い夜の決戦の翌日のことだった。
 みょんは民宿に戻ってきた。

 「いや……長かったみょん。でも、妖怪も退治できたし、次へ……地上に戻れるみょん」 

 戦い疲れたみょんに、彼方は振り返りもしなかった。
 ちゃぶ台の上には、相当完成に近づいた例の焼き菓子が乗せてある。

 「―――食べていいですか?」

 そのために置いてるんだろ、空気読めよいちいち聞くなよ と背中が語る。普通なら彼方が全部平らげるし。
 思わず敬語にもなる。
 形だけ見るなら、あと一歩でもう店に並んでいてもおかしくはないはずだった。
 疲れ切った身にはやはり菓子が気持ちよく沁みる。
 しかしもう、時間としては明け方。

 「ゆっくりもしていられないでござるな」

 この地区から移動し、地上へ戻るのだ。
 妖怪も退治したし――――何より、義務は果たしたのだ。
 みょんの心は、晴れ晴れとしていた。
 この達成感は、西行国でもついぞ無かった。経験はないが、本当の戦が起こり、納得できる勝利を自国が
納めれば、こんな気持ちになるのだろうか?
 それに―――今までの国々とは違った。

 (住民に感謝される訳では無いでござるが………)

 自分の使命を果たし。
 ゆっくりと人間に仇を成す邪悪な存在を倒し

 (もう会う事はないでござろうが………)

 大切な、同じ宿命を持った仲間と出会い
 激闘を繰り広げ

 (ああ、そう言えば、床次殿との共闘を思い出すでござる………)

 幕内も、守谷も、西行でも、去り際は切なかった。
 どんなに頑張って、誰かを守っても、必ず傷が残った。代償として心から笑えない人々が、必ずいたのだ。
 この地底生活には、その後ろ髪を引かれるような気持ちが無い。
 だから、こんなに疲れても、地上を目指してすぐに……

 「みょんさん」

 唐突に彼方はうつむいたまま話しかけてきた。

 「何人で退治しにいったんだっけ?」
 「………え?」
 「何人?」
 「よ、4人でござった………」

 良く見ると、畳に何かを広げて書き込んでいる。

 「内訳は?」
 「………みょんと、さなえさんと、ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさ…………」

 更に書き込み

 「妖怪はどんな奴だった?」
 「化け猫でござったな。正確には、死体を持ち帰ってしまう『火車』という種類らしいでござるが……」

 脇目も振らずに書き込み、続いて

 「みょんさんの役は?」
 「えっ」
 「みょんさんは」
 「………」

 振り返らず、姿勢だけが大層折り目正しく伸ばされた




  今回、  ど  ん  な  宿  命  が  あ  っ  た  っ  て  の  ??




 「………も、元『庭師の集まり』つながりという事で………」
 「他の奴らは何だったの」
 「さ、さなえ殿は守谷出身、れいむ殿は、生まれは博霊で転々としたらしく、まりさは生粋の幕内っ娘で……
  ああ、そういえばまりさ殿はあの時の殺人事件の時にもいたそうでござるな。ケーキを食べたかったのに、
  4個なんて縁起の悪い数字だったので怖くて食べられなかったとか………」
 「…………」
 「…………」

 さらさらと一気に何かを書き上げ、彼方はじっくりと畳に広げた何かを眺めていた。
 みょんの位置からは見えなかったが、回り込んで何を描いたのか、確認することができなかった。
 沈黙が続く。
 すきっ腹にまずいもの無しとはよく言うが、空腹時に甘い物を食べると胃が脳に対して満腹のサインを早目に
送ってしまうのだそうな。そんな状態で、素人が無理して作った菓子を食べるのは、辛い。
 辛いがみょんは振り切るように食べきった。
 それを待っていた訳でも無かろうが、振り返らず、彼方は尋ねた。

 「何回目?」
 「な、何回とは?」
 「これで何回目?」

 想像はできるが、うまく言えない

 「ええと………」
 「だ か ら !!!」

 振り返った顔は――――釣瓶落としの怪なんかよりも怖かった。
 西行の迷僻にて、ふぉるてぃあ・ふぉうりん・あおい仙人の前で激怒した時の事をみょんは痛烈に思い出して
いた。 覇剣がどうにかなってしまった訳ではないが、ドロっとした怒りが煮立っている。


 「  何   回   目   だ   !!!?   」


 「そ、それは数えきれない程津々浦々を巡って、色々見てきたでござるから……」

 実際行ってないのは永夜国くらいか?

 「そうじゃねえだろうがあああああああああ!!! 解ってて言ってんのか!!!」
 「あ……あ………?」

 酷い音をたてて、彼方はちゃぶ台の上に、畳に広げていた紙を無言で叩きつけた。
 見ろ、という事なのだろう。

 一覧表であった。


         ~  地底生活 と 地区ごとの 妖怪退治 その歴史 ~


 【1回目】
  妖怪     : 鬼
  選抜ゆっくり : ・れいむA ・まりさA ・さくやさんA ・みょん ・さなえさんA
  宿命     : かつてこの街で妖怪討伐を行った西行国若武者部隊の直系(みょんは父方)
  宝剣の所持者 : れいむ(半地元民)


 【2回目】
  妖怪     : 覚の怪
  選抜ゆっくり : ・れいむB ・ゆかり ・まりさA ・アリスA ・さくやさんB ・れみりゃA 
  • みょん ・ゆゆこA
  宿命     : 一時共闘せざるを得なくなった四破天使と四天魔族達の転生
  宝剣の所持者 : れみりゃ


 【3回目】
  妖怪     : 釣瓶落とし
  選抜ゆっくり : ・レティさん ・ちぇんA ・アリスB ・虹川3姉妹 ・みょん ・ゆゆこB
  宿命     : 緋銀(ひしろがね)6大弟子(※3姉妹はセットという事で一人扱いらしい…)
  宝剣の所持者 : レティさん


 【4回目】
  妖怪     : 橋姫
  選抜ゆっくり : ・さくやさんB ・みょん ・うどんげA ・さなえさんA ・おりんりん
 ・星ちゃん 
  宿命     : かつてこの街で妖怪討伐を行った風来坊集団の直系(みょんは母方)
  宝剣の所持者 : さくやさんB


 ここから順不同………


 【?回目】
  妖怪     : 鬼
  選抜ゆっくり : ・みょん ・ゆっくりルーミア
  宿命     : 前世では二人組の怪盗だったらしい
  宝剣の所持者 : みょん(1回目から引き継いでいた)


 【?回目】
  妖怪     : 釣瓶落とし
  選抜ゆっくり : ・れいむA ・まりさB ・さくやさんB ・みょん ・ちるの
 ・リリカ(※3回目と同一) ・みすちー ・きめぇ丸 ・ゆうかりん ・てゐ
 ・メディ ・こまち ・えーき様
  宿命     : 街で変な花札拾った
  宝剣の所持者 : みすちー


 【?回目】
  妖怪     : 正体不明(閉じた目の妖怪)
  選抜ゆっくり : ・れいむB ・まりさB ・さくやさんA ・みょん ・アリスC ・ぱちぇさん
           ・れみりゃB ・ゆゆこC ・ゆかり ・すいか
  宿命     : ぱちぇさんの所持していた家系図によると皆は……
  宝剣の所持者 : ぱちぇさん



 【今回】
  妖怪     : 化け猫(火車?)
  選抜ゆっくり : ・れいむC ・まりさC ・みょん ・さなえさんB
  宿命     : 元庭師仲間
  宝剣の所持者 : まりさC



 「…………………………」
 「…………………………」
 「…………………………」
 「…………………………」
 「…………………………」
 「…………………………」
 「8回目だ」
 「……………」
 「8回目だよ」
 「――――8回目で ござるか……」
 「8回も何やってんだよ?」

 ひとしきり怒鳴って少しは落ち着いたか、彼方は静かに説明し始めた。
 ただし、とんでもなく低い声色で

 「順番に言っていくぞ」
 「はあ………」
 「まず、最初にみょんさんのお父さんからの因縁―――血筋の問題ね。これは、何となく解る」
 「これは、驚いたでござるが、宿命と言うものを理解したでござるな」
 「―――2回目が、『四破天使と四天魔族達の転生』」
 「みょん達には、縁のない話とおもっていたでござるが……」
 「おかしいだろ」
 「え」
 「何でそういうのがホイホイ重複してるんだよ」
 「いや、最初は戸惑ったでござるが、8人とも本当に同じ形の痣が髪の毛に隠れて……」
 「そんな重たい肩書があって、地方の妖怪一人倒して後は何もないの?」
 「せ、1000年に一度の戦いで、今年はまだ841年目なのであと159年の猶予が……」
 「小等部にいた頃は蹴鞠部で、中等部で乗馬部、高等部で将棋部。そのそれぞれの同窓会に出席してるようなもん?」
 「よ、よく解らないでござるが多分そんな感じで………」

 続いて

 「何でそういうのが都合よく出会うの」
 「だから、天命でござるよ。本当に皆そうした共通点があったから仕方ないでござる」

 次に

 「同じ『妖怪』と戦ってるみたいだけど?」
 「場所は違えど、復活している様で………ああ、今日の化け猫も、『第2第3の私』と言っていたでござるな。
  別個体かもしれぬが、やはり同じ奴かも」

 最後に

 「8回目だよ?」
 「う……しかし、困ってる人達を放置するわけには」
 「感謝されてないよ?皆知らないよ?」
 「そういう問題ではないでござる。放置はできないでござる」
 「ベテラン気取ってるよね、最近。『む、あれは釣瓶落としと言う妖怪でしてな』とかしたり顔で説明したりして」
 「そりゃ8回目ともなると……最初に会ったさくやさん達と同じ域に達したという事で…」
 「今日、地底生活何日目?」
 「8日目……」

 ついに、彼方はちゃぶ台を放り上げた。

 「1日1回の退治じゃねえかあああああああああああああああ!!!!」
 「いやその……」
 「良く見なくても、すごくしょぼい妖怪退治と、ついさっき考えたみたいな『宿命』だね、これ!」
 「そ、それは言い過ぎみょん!」
 「何で毎日そんな因果な仲間がそろっちまうんだよ!!!」
 「い、因果だからでござろう!」
 「何だその過剰な後付設定!」
 「それは…… 本当の事もありますし、ホラ」
 「おかしいだろ!!! しかも何で街から出口に向かって遠回りになってんだよ! 普通に行ったらもう
  出てる頃だろ!」」
 「いやそのあの」
 「かかり過ぎじゃ! 覇剣どうなった!!!」
 「それは地上に出てから……」
 「そりゃ、最初はお父さんから引き継いだ因縁とか、前世がどうこうとか、驚いたし、みょんさん別に悪く
  ないのに戦う事になって、かわいそうだと思ったよ……」

 火が消えたように、ポツポツと彼方は続けた。

 「結局、『妖怪』の被害はあるし、でも気づいているのがみょんさん達だけで、戦えるのもみょんさん達しか
  いなくて、それで頑張って…… 嫌がって無視する奴も多いと思うのに、やっぱりみょんさんって優しいんだな
  って思ってさ」
 「かなた殿………」
 「でも、私は今回何も手伝えないし、そもそもその『妖怪』自体が見えないし……本当にどうしようもなくってさ」
 「いや、その気持ちと、言葉だけでみょんは………もう…………」

 これ程、お互いに利他的になれた事があっただろうか?
 心の底から、みょんは罪悪感を感じた。
 やっていたのは確かに人助けだ。
 しかし―――――泣きそうに眼を腫らした彼方の目を見て、みょんは思う。国や民以前に、こんな身近な少女
一人泣かせてしまい、何が武士なのだろう!!
 天使の転生とやらが聞いてあきれる(他にも色々あるのだが)。
 かける言葉がすぐに見つからない…
 彼方は顔を両手で覆い、時折ずらしてみょんの顔を窺いながらしゃくりあげた

 「うっ うっ だからさ(チラッチラッ) 私にも何かできないかと」
 「む………できないかと?」
 「みょんさん、お菓子好きだし、工房に通ったりしてさ」
 「ああ、あれ………」
 「『この職人は長生きしない』なんて言われてるらしいけど、毎日毎日、新しい区間に行く度、新しい工房の
  竈の前で焼き菓子の作り方を教えてもらっていたら……」
 「うんうん」
 「もうお店が開けるくらい熟練しちまったじゃない!!! もうここで人気店開いて暮らすよ!!?」



 いや、それは自惚れだ



 身支度をし、しゃくりあげる彼方を宥めつつ、みょんは宿を出て解放された次の地区へ向かう。

 「もう少しの辛抱でござるよ、彼方殿」
 「何この、将来の見えない生活」
 「そ、そんな事はないみょん………」

 みょんには決して視線を合わせず、歩きながら、思い出したように彼方は言った。

 「あの、仙人の葵さんとか、会ってないけど、吸血鬼のお嬢さんとか、神様とか」

 ――― 永い孤独を恐れた超人と、いつしか人間に殺されることを願った悪魔と―――

 「今、気持ちがすごくよく解る」 
 「そうでござるか? ―――もう少しの我慢でござる……」
 「みょんさん」
 「ん?」
 「今のみょんさんってさ。何度もグルグル戦って、ベテランになって、『妖怪退治』もこなれてく
今のみょんさんってさ」


 この後―――― 何と言ったか、みょんは 思い出せない。



                              思い出したくない


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最終更新:2011年06月04日 20:40