book review

Readings and Random Walk



気のむくままに読んだ本のなかから軽佻浮薄に

  • 『禅的シンプルライフ』(PRESIDENT 2011.10.29号別冊).....『風に吹かれて』のなかであったと思う。かつて作家の五木寛之氏は、鎌倉に打たれに行く」と称して,今,脚光を浴びている「禅的シンプルライフ」すなわち捨てると楽になることを実践されていた。臨済宗大徳寺の一休宗純の弟子村田珠光は,「茶禅一味」という境地に到達し,「慢心」と「我執」が茶の湯では最悪であることを記している。この慢心と我執とが世の中蔓延している。ドーパミン漬け,much more を常態とすることで幸福と勘違いする。それは錯覚でバーチャルな感覚にすぎない。多忙であるよりは暇であること,複雑であるより単純であること,多く持つことより少なく持つことなど,リセット,「断捨離」,まさに捨てると楽になる,という。脳の活性化=ドーパミン漬けで刺激的な快感を絶えず求めるのが現代人とか。そうではなく,「心安らかな状態」を維持すること,そのために抗重力筋を管理するセロトニンを活性化することが,本当の幸福につながるらしい。快感をインプットせず,いわば麻薬抜きをする時間をつくること,目的意識を持たないことで,目の前のことに集中することである。被災地の復旧と復興が遅々として進まない。国が、県が、市町村が、なんて行政の階層が邪魔臭い。行政依存が強過ぎる。これにも当てはまりそうだ。楽に対応できることが、苦に変わるような対応に。規律とは自由のためにあるので、不自由になってはならいのです。この雑誌から得られることは他にもある。(2011-10-16)

  • 田原総一郎『原子力戦争』文庫版(筑摩書房,2011.6).....2011.3.11の東日本大震災による東京電力福島原子力発電所に起きた事柄を考え検証しする上で,ひとつの原点になるのが,この本でしょう。原著は1976年に刊行されています。背景にはわが国のエネルギー政策と霞ヶ関,地元住民,とくに漁業関係者,さらには住民運動の担い手,そして企業と,そこにおける「情報の非対称性」がもたらす影響などを考える上でも,興味深い労作です。田原氏は「全く目途のつかない深刻な原発事故だが,私はこれからあらためて“新原子力戦争”の取材をはじめるつもりである。」とあとがきに記している。期待したいと思います。(2011-09-25)

  • 中川勝之『三重県立反日高校』(日本文学館,2010.6).....この本はある意味では読み手を選んでいます。それは,三重県の教育環境,教員採用試験に関連するテーマが背景にあるからです。ことの発端は学校行事(卒業式)における「国歌・君が代」斉唱です。そして3人の教員が殺されるという殺人事件。主役は深澤啓子33歳・数学の教師。彼女を中心に謎解きが始まります。すこし暴露本的なきらいもありますが,桑名市にある「三重県立北勢高校」を舞台に繰り広げられるミステリー。事実は小説より奇なりかもしれせんが,教員採用にまつわる風評も納得するところがあるやも。捜査を担当した四日市署の刑事が寺本大介さん・・・単純に同姓であること,また主役の啓子が伊勢市の漁村出身,著者は松阪市出身の元県立高校教諭というところから,単純に親しみを感じてしまった。ローカルな話です。(2011-09-15)

  • 奥泉光著『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(文藝春秋,2011.5).....摩訶不思議な小説に遭遇した。NHKラジオの読書案内(タイトルは覚えていない)のなかで紹介された。作者は現役の大学教授,近畿大学国際人文科学研究所の教授だ。なぜ興味をもったか。それは,「桑幸」先生40歳が東大阪市にある「敷島学園麗華女子短期大学」(通称レータン)から移った大学,「たらちね女子短期大学」が4年生の共学校に変わったばかりの「たらちね国際大学」とその大学が千葉県「権田市」にあり,最寄り駅は「肥ヶ原」。東京まで約2時間。「まあ千葉に大学を作ればだいたいこんなものだろう」(文中)という,今の自分(こっちはアラカンで,小説と同じ千葉市にある大学に関西方面にある大学から赴任にしたばかり,大学最寄り駅は蘇我)の環境とどこか似たような状況に親近感をもち,おおいに笑えたからである。桑幸先生と桑幸先生が顧問する文芸部の女子学生たちを主役に繰り広げられるユーモア・ミステリー。彼女たちが吐き出す多くの宇宙人語を教えてもらった。同世代で大学生の娘をもつオヤジとして,今まさに講義の相手である多くの女子大生を前に,勉強になりました。一方に,ハーバードやスタンフォードの学生がいる,他方にくったくの無い,見かけ上は平和な日本の学生たちがいる。大学というところは面白いところだ。いまや日本の平均的大学は小学校以下。したがって大学の先生もそういうことか。思わず昔の大学の先生は良かったよな,と。社会全体が大人だったような。やりたいことちゃんとやってさっさと鬼籍に入っちゃう。人生50年,カッコええんとちゃうか。眉間にシワをよせ,小難しい顔している連中よ。桑幸先生の「スタイリッシュな生活」はいかがなものかな。(2011-7-27)

  • 愛。そして愛 経済学者川口弘の生涯(倉科寿男、文芸社、2007.08).....母校中央大学で経済原論の講義を受け、学位授与式でのお話を最後に。学部、大学院時代に伺った話も出て、また神田駿河台が懐かしくなる。それ以上に、経済学者としてはもちろん人間としてかくも暖かい夫婦愛には感動。著者は、博士学位を同時に受けた先輩です。残念ながら事実誤認などがあり,販売中止に。

  • 新・風に吹かれて(五木寛之,講談社,2006.07).....地位とか名誉とかく勲章をほしがるひとの多いこの現世で,それを「重荷」という五木寛之流生き方の根本です。『さらばモスクワ愚連隊』が初めての出会い。以来,なんとなく『風』とか『デラシネ』とか『青春』とかに引っ張られながら,性懲りもなくまた読んでしまうような。最近,歳のせいもあり肩こりがひどいですが,精神的にも余計なものを背負い込まないことが理想ですね。小生の軽い心をさらに軽くしてくれます。

  • 危機の宰相(沢木耕太郎,魁星出版,2006.04).....「所得倍増」を通した経済政策と「政」とのかかわりは,インタレスティング。同僚の相原正教授に一読を薦められた本です。主役ではありませんが,文中に登場する海老沢道進先生は,私が学部と大学院で教わった先生。「勉強は自宅でやれ,大学(研究室)には遊びに来い」と言われ,大学院の講義では,当時出版されたばかりのJ・シュンペーターの『経済発展論』の英語訳をテキストに。あまりのすごい英訳(ドイツ語の英語直訳)に,「これは心臓に悪い」と評され,本当に入院されてしまったことを懐かしく想い出しました。

  • 博士の愛した数式(小川洋子,新潮文庫版,2005.12).....数の不思議と人間愛。そして阪神タイガースと江夏豊。余計なコメントは不要だ。

  • 世界最強のF1タイヤ:ブリジストン・エンジニアの闘い(浜島裕英,新潮新書110,2005.03).....タイヤとエンジンとボディはF1のハード面における調和。F1では現在ブリジストンとミシュランのツーメイク。国産タイヤの闘いは失敗から。失敗は開発のチャンスというコピーはひとつの格言になってきた。

  • ワッキーの地名しりとりII[完結編](ペナルティ・ワッキー,ぴあ株式会社,2004.11).....松阪大学(現三重中京大学)の正門がゴールになって,感慨深い本になった。練馬・豊島園で出会ったしりとり相手はかつての松阪大学受験生であった。不合格だった彼の口からでたのが,松阪大学だった。(後日談:大学は数年後には閉校,正門はどうなるのかな。壊すしかないだろうね。)

  • a PEACOCK in the Land of PENGUINS,BJ Gagher Hateley and Warren H.Schmidt(Berrett Koehler Publishers,Inc.,2001)(『ペンギンの国のクジャク』BJ ギャラガー&ウォレン・H・シュミット(田中一江訳)扶桑社,2002)..... 君はペンギン、それともクジャク?

  • PIGEONHOLED in the Land of PEGUINS:A Tale of Seeing Beyond Stereotypes(AMACOM,2000)(『ならば,ハトにやらせてみよう!』BJ ギャラガー&ウォレン・H・シュミット(田中一江訳)扶桑社,2003)..... いえいえハト! 『ペンギンの国のクジャク』の続編,あわせ読むと自分はどのタイプ?

  • THE Mind Map Book, Tony Buzan with Barry Buzan(Penguin,1993)..... 君の思考様式は、直線型、それとも放射型?

  • The 80/20 Principle:The Secret of Achieving More with Less,Richard Koch(Nicholas Brealey Publishing Ltd.,1997)(『人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ(仁平和夫訳)(TBSブリタニカ,1998))..... イタリアの経済学者ヴィルフレード・パレートの法則。パレートはあのパレート最適のパレートです。

  • 『世界がもし100人の村だったら』池田香代子・C.ダグラス・ラミス(マガジンハウス,2001).....統計学の錯覚かな!? 大卒はひとりだってさ。世界一話されている言語は中国語。続編も。

  • 『日本村100人の仲間たち―統計データで読み解く日本のホントの姿』(吉田浩,日本文芸社,2002).....これも統計学の錯覚かな!? 小学5年生の娘もおもしろがって読みました。

  • 『仕事ができる人できない人』(堀場雅夫,三笠書房,2000).....堀場製作所会長の「喝」です。

  • 『人の話なんか聞くな!』(堀場雅夫,ダイヤモンド社,2003).....堀場製作所会長の苦言と元気の素の最新刊です。常識という名の河の流れに竿をさしていては見えるものも見なくなります。ただしタイトルを鵜呑みにしてはいけません。(補)「情けは人のためならず」と同様に「河の流れに竿をさす」の本当の意味も考えてね。

  • 『神様、仏様、稲尾様』(稲尾和久,日本経済新聞社,2002).....わたしにとって至高で究極の投手。当時は西鉄ライオンズの熱狂的ファンでした。いまは15年間利用した西武電車じゃなかった西武ライオンズファンです。

  • 『公私混同が国を滅ぼす―政・官・業の改革を阻むもの』(加藤寛,東洋経済新報社,1995).....ずいぶん前に加藤先生からいただき読んだ本ですが,あらためて読み直す。いつになったらちぃーとはけじめがつけられる世の中になるんでしょうかね。「ダメだ。こりゃ!」いかりや長助さんの声が聞こえます。

  • 『立国は私なり,公にあらず---日本再生への提言---』(加藤寛,第一書房,2005).....加藤先生が竹中平蔵,塩川正十郎,宮内義彦,渡部昇一,上山信一,宮崎緑,前田正子の7氏相手に政策問答。宮崎さんのテレビの舞台裏とその将来についての見方は,現在注目されているひとつの経済問題であるlivedoor対ニッポン放送+フジTVの論点を整理するのに役立ちます。デジタル化・双方向・通信と情報の相乗りが,マスのメディアとしてのテレビに危機意識を持たせているが,動きが旧態依然,だからそこを攻められた,ということになるのかな。「過去の延長線上に未来が来ない」・・・時系列回帰分析では予測はできない,ということですか。

  • Stock Market Capitalism:Welfare Capitalism(『日本型資本主義と市場主義の衝突:日・独対アングロサクソン』(ロナルド・ドーア,藤井真人訳,東洋経済新報社,2001).....グローバリズム,市場原理主義などマーケット・エコノミー礼賛の昨今・・・日本にとってその機会費用は大きい!?

  • 『波の上の魔術師』(石田衣良,文藝春秋,2001).....フィクションだけれど,教科書ではわからない金融経済の恐くて興味深い一面を垣間みることができるかな。2002年6月27日に最終回だったテレビドラマ(TOKIOの長瀬君が主演)『ビッグ・マネー』の原作。(補)作者の石田衣良氏は2003年直木賞を授賞。

  • Economic Puppetmasters: Lessons from the Halls of Power,Lawrence B. Lindsey(Aei Press,1998)(『経済を操る人形遣いたち:日米独・経済三国志』(ローレンス・B・リンゼー,神崎泰雄訳,日本経済新聞社,1999).....不良債権処理か景気回復かという二項対立で政策論議がにぎやかです。経済危機管理のあり方が構造改革の決め手であるという意見もあります。3年前に出版された本ですが,「政策の制約は制度に起因する場合が少なくない。これまでの経済運営のやり方では,人形遣いは自分だけで,あるいは組織的にも適切な手を打つことはできなくなっている」という指摘にはうなづける。

  • The Vices of Economists: The Virtues of the Bourgeoisie,Deirdre N. McCloskey(Amsterdam University Press,1997)(『ノーベル賞経済学者の大罪』(ディアドラ・N・マクロスキー,赤羽隆夫訳,筑摩書房,2002).....現代経済学は,クライン的悪徳,サミュエルソン的悪徳,そしてティンバーゲン的悪徳に導かれている。すなわち,統計の間違った使用,経済学の間違った理論付け,そして公共政策への統計と理論の間違った適用は「経国済民」のためではない! 辛口ですが,非常に真摯な,経済学再生論です。ちなみに,マクロスキー先生は,53歳で女性になった大学教授でも有名です。

  • 『現場に出た経済学者たち』(藤巻秀樹,中央大学出版部,2002).....竹中平蔵大臣をはじめとした,いわゆる「象牙の塔」から,経済政策の現場に飛び出していった経済学者たちの物語です。「経国済民」の経済学を武器に,その勝負の行方は,いかに。(他人事ではないのですが。(^^;)

  • The Invisible Heart; An Economic Romance, Russell Robert(The MIT Press,2002).....ラブストーリーで経済学を勉強します。資本主義経済の核心とは。公共政策の必要性、政府の役割について彼女と議論する。こうした知的環境があることは素晴らしいですね。類似の本『ケインズ経済学殺人事件』もあります。(補)資源「分配」という言葉が訳書『インビジブル ハート 恋におちた経済学者』(日本評論社,2003)に出てきます。「配分」(the allocation of resources)と「分配」(the distribution of income)とが混同されています。アビナッシュ・K・デキシットの訳書『経済政策の政治経済学 取引費用政治学アプローチ』にも見いだされます。気にかかる点です。

  • 『ばかの壁』養老孟司(新潮新書)(新潮社,2003)..... 脳を知ること。とはいえ一次方程式(y=ax)で単純化してみると「ばか」の意味がよくわかる。反応係数aがキーワードのひとつです。

  • 『三色ボールペン情報活用術』(齋藤孝,角川oneテーマ21,角川書店,2003)..... 齋藤先生流の読書と情報活用の術です。赤・青・緑のボールペンは便利です。私自身も長年の体験済みですから、大いに納得です。

  • 『ブラック・ジャックはどこにいる?』(南淵明宏,PHP研究所,2003).....医療界のプロフェッショナルだからこその鋭くかつ率直な意見に耳を傾けるべし。単なるえーかっこしいの大向こうのウケをねらった「正義」(かっこつきの正義と読む)の評論家さんの批判的意見は論外です。

  • 『ブラック・ジャック解体新書』(南淵明宏,宝島社,2003).....ブラック・ジャックのアニメがテレビで再開されましたが,あの『ブラック・ジャックによろしく』のモデルになったといわれるドクター南による漫画の解剖です。政治,経済,法律,社会といった政策科学的な読み方もできますね。

  • 『ニート:フリーターでもなく失業者でもなく』(玄田有史・曲沼美恵,幻冬社,2004).....Not in Education, Employment, or Training で NEET。確かに社会問題として表面化してきたようですが,基本的にはひとりひとりの問題のようです。社会のしくみに責任を転嫁するのは容易です。それほど人間弱くなったとすれば,そのような国の将来は・・・でしょう。

  • 『赤道の国で見つけたもの-アフリカの子どもたちと共に生きて』(市橋さら,光文社,2004).....アフリカの子供たちとの生活について綴られた魂の記録です。安易なコメントは禁物です。著者のご主人の市橋隆雄氏は,三重県出身でかつては陸上競技の選手として国体にも出場したアスリート。私も少しばかり陸上競技を経験したが,高校時代の同級生,彼の生き方に敬服します。
最終更新:2023年07月15日 08:31
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