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顎義歯(がくぎし)について

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顎義歯ってなに?


上顎切除術を受けた患者さんは、構音(話をする)・咀嚼(ものを噛む)・嚥下(ものを飲み込む)等の機能回復と失った骨格を補綴するために、義顎歯というものを使用することとなります。
顎義歯は、単に義顎(ぎがく)といったりデンチャー(本来は義歯のことをさしますが広義の意味で使用)と呼ばれたりすることもあります。

顎義歯は義歯(入れ歯)の親分みたいなもので、失われた歯列の再現、欠損した上顎と頬の部分を内側から支持して外見上の審美の向上を図る目的で、患者さん個人に合わせたものを作成して使用することになります。
QOLを向上させるためのエピテーゼの一種だと思って下さい。


顎義歯ってどんなもの?


イメージで言えば総入れから半分の歯列が無くなったようなもの(上顎の切除側だけに歯列があります)に、頬骨の代替部分が盛り上がった形をしています。
通常の義歯は硬口蓋で支持できますが、切除術により口腔内の半分は空洞になってしまっていますので、顎義歯の支持は切除した反対側の歯列に求めることとなります。切除側は嵌り込んでいるイメージですね。


顎義歯がないとどうなるの?


構音障害

口腔と鼻腔が交通してしまい発音した音が相手に伝わりません。
具体的に言うと”母音”と”ま行”以外はまず聞き取ってもらえません。

治療中などに顎義歯を外している時に会話が必要になった場合には、鼻をつまんでゆっくりと区切ってお話をすればある程度の発音は聞き取ってもらえますが、意外と肺活量を必要とされますので長時間の会話は控えた方が無難です。会話の途中でくらくらきます。(開放創である場合は、あまり効果がありません。)

術後は口唇や表情筋の動きが鈍っていますので、地味ですが発声訓練やストレッチ、開口訓練は欠かさずに行って下さい。寒い時期にこそ大切です。
”い”→”う”の動きは発声しなくても、唇に力を入れた状態で繰り返し行うよう心がけた方が良いと思います。口を閉じていない分やりやすいと思います。
あとは口を結んで”ん”の動作を、”おちょぼ口でちゅっ”と”いーをするように唇の端に力を入れる”を交互にぶくぶくうがいをするイメージで行って下さい。
どちらの動きも切除側に意識を集中して、慣れるまでは鏡を見て左右のバランスを見ながらたまには自分に”にっこり”と微笑んであげましょう。
口からものをこぼすことが少なくなり、表情の回復が早くなります。
あなたに笑顔が戻ることを、周りのみんなは待っています!

会話についてですが、相手の方と対面しての会話は相手の方が話の流れや表情を酌み取ってくれるので、ゆっくりと話せば不自由を感じることはあまり無いと思います。
問題となるのは電話を通した会話で、特に携帯電話を使用する場合に顕著に表れます。電話での会話は当たり前ですが、相手の方と顔を見合わせることができません。
相手の方にこちらの事情を説明するか、ゆっくりはっきりと話して相手の方に確実に伝わるように心がけてください。
特に”さ行”や”半濁音”は伝わりにくいので、相手の方に聞き直されたからといってイライラなさらずにご自身も注意して発音するようにしてください。

咀嚼障害・摂食障害

咀嚼に関しては開口障害が無ければ健常側の歯列で今までとほぼ同じように行うことができますが、
上下顎中切歯間距離(口を開けたときの前歯と前歯の間隔)が2横指25mmをきるようになると咀嚼すること自体が困難になってきます。
顎義歯側の歯列は審美的に歯列が並んでいる(見栄え)だけなので、咀嚼を行うことはできないものと思って下さい。

咀嚼時には顎義歯の使用感に慣れる迄(口腔内の違和感・異物感、いつも飴を舐めているような感じや口渇感)は、健常側の歯列だけを有効に使用して行うことは難しので今までの半分以下の量を口に含み、ゆっくり噛むように心がけた方が食べることの愉しさを早く取り戻せると思います。
顎義歯を入れていない時は口腔内の空間が広くて舌を動かし易いのですが、慣れないと健常側のみで咀嚼をするのは難しく、後の処理に困りますので試さない方が無難です。口腔内は清潔に保つことが大切です。

嚥下障害

嚥下に関しては少量ずつの水物であれば可能ですが、基本的には不可能に近いです。それ以上の水物を口に含んで、正面に顔を上げた時点で大変な事態になってしまいますのでやめましょう。
顎義歯が入っている状態でもコップから水を口に含むことが難しいというのは、なかなか理解しにくいと思いますが、口の中に水を含むときにはコップと一緒に頭を無意識に後ろに傾けているので、後縁側の封鎖性が悪ければむせてしまいます。
日本人はものを口に入れるときに、無意識下で啜る(口腔内に陰圧を発生させている。ペットボトルから飲む時をイメージすればわかりやすいと思います)という行為をとりますのでこれを意識的に排除します。
余談ですが、スープの音を立てて啜ることや蕎麦を手繰る事は日本人の特権のようなもので、欧米人には口に啜り込んでという行為は非常に苦手です。逆に日本人は口の中に放り込む様にして飲むのは苦手です。映画のワンシーンでショットグラスを小粋に煽る、なんて真似をしようとして練習をしてむせまくった若かりりし日々が懐かしい。
やや前屈みで顔を固定してコップ側を傾けて角度を調整しながら、口の中に静かに注ぎ込むようにすれば、口に含みやすくむせたり誤嚥せずに飲むことができると思います。
また、術後しばらくは口の広くて浅い容器に移してからのほうが飲みやすいと思います。

顎義歯に慣れよう


では、顎義歯を使用しての飲食の注意点や什器の使用感などなど…

顎義歯を使用していて、難易度が高いもの御三家としては、
 ・ストローで飲む
 ・銭湯で腰に手を当てて、フルーツ牛乳のごきゅごきゅ飲み
    (銭湯やフルーツ牛乳でなくてもいいんです、あくまでイメージですから...)
 ・麺類を手繰ってすすり上げる
ではないでしょうか。まぁ、他にもいろいろありますけど…

ストローを使って飲み物を飲むことは、幼児用訓練食具でも最後のステージにあるように高度なボスキャラであることは間違いないでしょう。
顎義歯のうまく適合していない状態では、口腔内委の閉鎖性が悪いため陰圧を保持できずに漏れてしまうために、ストローを使用して吸うことはできません。
また、口唇周りのストレッチがうまくできていないと、ストローのような細いものでさえ唇でつまんだり保持することが困難なためやはり難しいです。
無理をすれば多少は吸うことができますが、肺活量が相当に必要になり一生懸命さに比例してくらくらする度合いが高まりますので、一口含めればいいやぐらいの気持ちで少しずつ練習を重ねていけばよいと思います。
今まで意識せずにできたことだけに吸うこと(すすること)に神経が集中しがちで、水物が口に入ったとき喉元で止めることができずに咽頭反射で思いっきりむせます。
誤嚥の可能性が高まるため無理をするのはやめましょう。体力が弱っている時は誤嚥性肺炎になりやすいため甘く見てはいけません。
鼻をつまんだり(顎義歯側の手で鼻をつまんで親指側の腹で上唇を押さえてあげると効果的)、鼻栓(鼻からの逆流防止のためでもあります、鼻から牛乳~♪+ご飯粒~♪はよくあることです)をした状態であれば、多少ではありますが状況は改善され飲むこともできるようになります。

ストローで飲む、汁物をすすって飲むことは、今まで意識しないでも簡単に行っていたと思います。
これは口腔と上咽頭の連係プレーであり相当高度の動きであるそうで顎義歯の調整だけでは対応は難しいといわれました。
口腔内の陰圧が高まり顎義歯が保持しきれなくなるため(陰圧に負けて顎義歯が下がり上顎と床に隙間ができ、陰圧を保持するためにはより多く吸い込まなけれがなりませんが限界がありますので)、結果として飲むことができなくなってしまいます。

紙パック飲料(●リックパック等)は、容器の腹を押しながら飲むことができますが、あふれさせて服を汚さないように気をつけてください。口唇周りから顎にかけての感覚が鈍いため、こぼしたり垂らしたりてからでないと気が付かないところが悲しいです…ポケットティシュはいつも手元にね。
容器の形態としては、背の高いものは最後まで飲みきるのは難しいです。背の低いタイプの方を撰ぶことをお勧めします。テトラパック(最近はあまり見かけませんが、昔の給食牛乳パック)は難易緯度が高い(容器を押す力加減が難しく、まずストローの差し口より逆流させてしまう)のでさけた方が無難でしょう。
カップタイプ飲料ではストローの使用はあきらめて、フタをめくって素直に口飲みしましょう

チューブタイプのゼリー飲料(●ィダーインゼリー等)なら容器を絞りながら、内容物を比較的簡単に口のすることができます。
ただ、口径がストローより太いために口唇の麻痺が残っている場合やストレッチが十分にできていないと、漏れないように飲み口をすっぽりとくわえることは困難です。
相手が半固形だと油断して口に含みすぎると、嚥下できないばかりか口腔内に溜めておけずに”お口からぴゅー”のドリフ状態という、大変な事態が待ち受けているので少量ずつの摂取を心がけてください。

顎義歯のお手入れについて


外出時の場合

外出時にご飯を食べた後などは、顎義歯を外して水道でちゃっちゃとゆすいで軽くうがいができればベストですが、外出先の洗面所の構造によっては難しいのでよく出かける場所の店選びは慎重に。メニュー以上に個人的評価に大きく関わる部分です。
顎義歯を外してうがいといっても、今まで通りに”ぶくぶく”とやることはできません。
水を口に含んで、下を向きながら首を左右に振って口をゆすぐことになります。口と鼻が交通していますので、鼻からじょうろで花壇にお水をやっているように振りまいていまいます。ついでに目頭(涙腺からも逆流しやすくなっている場合がほとんどだと思います)からも水が流れ出してしまいますが、これもやはり鼻栓攻撃が有効な防御策になります。
ちょこちょこっと振ったのでは、あまりうがいをした効果があがりません。
口に水を含む際も、両手に水を汲んで顔を近づけて(下を向きながら)口に水を含むことは非常に困難を極めます。外した顎義歯をコップ代わりにすればこれは比較的簡単に解決します。マイコップを洗面所に持って行くのはちょっと…ですものね。
慣れれば短時間でできるようになります(さりげなくは難しい…)ので、ご自宅で練習しておくとよいと思います。
せっかくのご飯ですから、楽しく美味しくいただきましょう。楽しみはひとつでも多い方がいいってもんですよ。
けど、顎義歯になれるまでは口の中でちらばりやすいもの(餃子、ブロッコリー等)や、貼り付きやすいもの(最中、パン類等)はさけておきましょう。

自宅でのお手入れ

外した顎義歯のお手入れは、専用タッパーを用意して市販の義歯洗浄剤(●リデント等)で洗浄します。入浴中の時間などを使って頂いても結構ですし、顎義歯を外していても問題がなければ一晩漬け置き洗いをしても結構です。
義歯ブラシまたは毛先の柔らかい歯ブラシ等で丁寧に小刻みにブラッシングして残った汚れを落としてあげます。特に床の裏側やクリスプ周辺は細やかに洗ってあげてください。
洗浄に関しては、超音波洗浄器(眼鏡屋さんによくあるやつの家庭用が市販されています。ツインバード製等)とを併用した方が、顎義歯に対しての少なくてベストだと思います。超音波洗浄器を使用している場合でも、最低週1回はブラッシングをしてあげてください。

顎義歯の後縁部分(軟口蓋に接している部分)や斜線部分(歯列の上側歯茎から頬にかけての部分)は、食渣(食べかす)や植皮部分から出た垢などが溜まりやすいので最初のうちはこまめに外して顎義歯をゆすいであげてください。
義顎の出し入れは慣れないうちは時間がかかってしまいがちですが、自宅であれば安心してできるので慣れるためと清潔を保つためにも、こまめな洗浄を心がけてください。

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