「おはようございます」
普段より少しだけ早い時間に登校すると、校門でなんとなく見覚えのある女生徒に声を掛けられた。
「おはよっす」
「ちょっとお待ちになってください。あなた、上着のボタンが全部取れてますよ? この間もそうでしたね」
挨拶を返した女生徒は、通り過ぎようとする俺を制すると、服装を注意してきた。
「あ、え? そうだったっけ。てか、あんた誰?」
――やられた、風紀委員だ。
よりにもよって前回早起きしたときと同じ状況じゃねえか!
内心毒づきながら、さりげなく話を変えようと別のことを尋ねてみると――
「ななな、なんていう口の利き方するんですか、目上の人に対して!」
どうやら彼女は沸点が低いらしく、唐突に切れた。
冗談じゃねぇ!
ただでさえ成績がやばいのに、風紀委員に目をつけられなんかしたら6年にあがれなっちまう……
「ちょ、ちょっとまって下さいよ! 今のナシ、ナシナシ! ノーカウント。誠心誠意謝罪しますから!」
仕方ないので俺は、五体投地しながら平謝りしてみることにした。
「……ふん、まぁいいでしょう。わたくしは六年の九条とおこ、風紀委員です」
俺の一つ上らしいセンパイは、まだ少し興奮してるらしい。肩で息をしながら、恨めしい目で俺を見ている。
「あの、九条センパイ。えっとさ、なんで俺の学年知ってるん……っすか?」
とても居心地が悪かったので、取り繕った笑顔でさりげなく訊いてみた。
「それはあなたが新聞部だからです。部長の二見さんとはクラスメイトで、よくあなたの話を聞いておりましたから」
センパイはむすっとしながらも、俺の質問に答えてくれる。
「へー、センパイって部長と知り合いなんすか」
センパイの話を聞いて、合点ときた。
部長がどんな風に俺のことを言っているかは気になるが、悪い方向でないことを祈りたい。
「そんなことよりも四堂君、はやくボタンをつけて下さい。正しい制服の着用は生徒手帳に図解つきで提示してありますよ」
「ああ、うん――」
センパイの堅苦しいご説明を聞き流しながら、いそいそとボタン締める。
「これでいいっすか?」
「ええ、問題ありません。次からは気をつけて下さいね」
俺が服装を正したので満足したらしく、センパイは初めてトゲトゲしい表情を崩すと、ニコリと笑ってくれた。
「ああうん、えと、センパイさ、笑ってるほうが可愛いぜ?」
それを見てドキリとしてしまった俺は、なんとなく癪に障ったので言い返してやった。
「うふふ、聞いてたとおり面白い人ですね。あなたも身なりを整えれば素敵ですよ?」
そして俺は、爆散した。
最終更新:2007年03月31日 13:53