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ヤザン−ユウ 011-020

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■第十一章




立て続けに2機の07を葬り去った俺は、次の07を認識した。
戦闘中に余計な事を考えた奴は死ぬ。
破壊欲求に支配された俺の心の中に辛うじて残った冷静な部分が、俺を束の間の回想から呼び戻した。
3機の09がホヴァーで土煙を巻き上げながら、ジャイアント・バズを構えつつ接近していたのだ。
残された07が連動して仕掛けて来ると思ったが、どうやら恐怖に取り憑かれたらしく、動かない。
俺はビームサーベルを片方、格納した。
このMSのエネルギーゲインが高いと言っても、無限ではない。

『ジオンの達磨どもか…。勿体無いがこの俺が相手してやるぜ!』

俺は向かってくる3機の09の内、先頭の1機の右足に、ミサイルを同時に2発放った。
俺の狙った通りに有線ミサイルは命中し、先頭を行く09の右足が吹き飛んだ。
直ぐにホヴァー推進のバランスを崩して、俺から見た右隣の09を巻き込みクラッシュする。

『2丁上がりィ!ママの夢でも見ながら寝てな!』

俺は突っ立ったままの07の背後を取るとそのまま盾にして、無傷のまま残った09にスラスターを噴かし突進した。
盾にされた07を気遣ってか、案の定、09はジャイアント・バズを撃って来なかった。

『甘いんだよ、オマエは!だから死ぬ!』

俺は07を09に向かって突き放すと、スラスターを切って急制動をかける。
何故か俺の膝が痛んだ。
07と09が衝突し、けたたましい音を立てて07が仰向けに倒れる。
装甲が厚い09は立ったままだ。
だが、牽制にはそれで充分だった。
09の背後に廻った俺は迷う事無く09の腹部に光る剣を突き立てた。
コックピットを焼かれたパイロットの叫びが、何故か俺の耳に届いた。

『…何故…俺はコックピットを…パイロットを集中的に狙っている…?』

俺は自分の行動に違和感を持った。
直接倒した2機の07に、今の09。
必ずコックピットを優先的に潰している。
殺気の元を断っていると言っていい。
戦闘不能にするならば、メインカメラや手足を潰すだけで簡単に出来るはずだった。
ボシュボシュボシュッ!俺が命じた訳でも無いのに、腰部のミサイルが連続して、クラッシュしている2機の09に向かって発射された。

『やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

俺の意に反して、ミサイルは2機の09に向かって吸い込まれて行くかのように次々と命中していく。
そして、二人のパイロットが上げる、断末魔の悲鳴が俺の頭の中に直接聞こえてくる。

『まだ…怖い人がいるっ…』
『何だと…』

マリオンの怯えた声が俺の脳裏に響いた。
俺は仰向けになって倒れている07を見た。
パイロットがコックピットから出て、俺に拳銃を向けていた。
可哀相になる位に震えていた。
…若い女だった。07乗りはベテランが多いが、まさか若い女が乗っているとは想像もしなかった。
パン!パン!パン!女が立て続けに引金を引いた。
…拳銃弾では、MSの塗装を傷付ける事がやっとだろう。
だが、俺の耳にブルーの胸部バルカンを作動させるモーター音が唸りを上げるのが聞こえた。

『乱暴な奴、消えてしまえ!』
『やめろぉォォォォォォォォォォォ!!!!』

その途端、俺は自分がコックピットに居る事を始めて認識した。…胸部バルカンは、発射されなかった。
俺はMS戦闘は大好きだが、人殺しをしたい訳ではなかった。
これでは俺は虐殺者になってしまう。

「何をそんなに怯えている!!相手は生身だぞ?!正気かマリオン!」
『…ヤザン大尉…ごめんなさい…許して…でも…私には止められないの…』

正面のモニターには、リミッターの作動を告げる表示が明滅していた。
俺はEXAMがどんな物かを、自分の身をもってこの時思い知ったのだった。
人間を、パイロットを、ただの破壊の快楽に酔う殺戮マシーンに変えてしまう、究極のマン・マシーン・インターフェースシステムだという事を。





■第十二章




…目の奥がチクチクと痛む。少々、吐き気がする。
急に激しい頭痛が『我に還った』俺を襲った。
膝が燃えるように熱く、痛む。
コレが戦闘能力の『代価』に、パイロットが支払う『代償』なのだろう。
EXAM発動時に味わった極上の快楽から、直接地獄の釜の中に投げ堕とされた気分だった。
…最悪ってことだ。
規則正しい地響きが、俺の不快感を増加させた。間違い無い。
MSの脚の駆動音だ。
機体のレーダーを確認する間もなく、通信を告げるコール音がけたたましくコックピット中に鳴り響く。
宿営地に居るはずのフィリップ機からだった。
ミノフスキー粒子の散布濃度が薄いのか、画像付きだ。
驚いたことに、アルフを同乗させている。

「ユウ、無事か?!バカヤロウ!一人で勝手に突っ走るな!俺達はチームだろうが!」
「悪かった…済まないが…も少し小さな声でやってくれ…。頭に響くんだよ…糞野郎が…」
「やられたのか?!オレのブルーが!?何処を損傷した!答えてくれ、ユウ少尉!」

アルフの奴が身を乗り出して聞いてきた。
俺は体に残る不快感をこらえながら、笑顔を作った。

「…アンタのブルーは拳銃弾三発を被弾しただけだ。…紅いボタンを押した後の感想を、早く聞きたくないか?なるべく急いで来てくれ。EXAMのリミッターが作動して、動けないだけだ。…お蔭で助かったがな」
「…馬鹿が…。オレは許可を出した覚えは無いぞ!?EXAMは危険だと言っておいたのに、何を考えて…!」
「言っただろう?『ブルーを頼む』と…。お前は俺を信じて話してくれた。俺は信頼に応えたかった…」
「ユウ、三分待ってくれ!こちとら技術者サマを乗せてたのを忘れてた!スラスター全開で行くからな!」
「壊すなよ…フィリップ…。整備の連中が泣くぞ?一日で三機も面倒見切れません、ってな」
「…その時はオレの名と腕に措いて全機体の面倒を見てやる。急いでくれ、ヒューズ少尉…パイロットが心配だ」
「…舌噛んじゃ嫌ですぜ?しっかり体を固定して下さいよぉ?カムラ大尉ぃ!」

時折ノイズの走る画面の中で、アルフがのけぞるのが、悪いが俺には可笑しかった。
フィリップが、無邪気に笑っていた。
…アルフに対する悪意など、全く見られない。
アルフが他人と打ち解けるのに、俺はどうやら一役買ったようだ。
思わぬ嬉しい誤算だった。
モニターで外界を確認すると、眼下のジオンの女パイロットは、拳銃を握ったままへたり込んでいた。
…無理も無い。
三分足らずで五機の仲間が、たった一機を相手に全滅したのだ。
大の男でもこうならないとは云えん。
多分、この場から逃走しようと言う気力も失せているのだろう。
連邦の陸軍の女捕虜の扱い方は、お決まりのコースだ。

「何をしてる!早く隠れるか、逃げろ!あとニ分で俺の仲間が来る!」

…俺も随分、優しくなったものだ。
女が戦場にしゃしゃり出てくるのは嫌いだが、軍が抵抗できない女子供を痛め付けるのは許せなかった。
コロニーの民間人にG-3ガスをばら撒いたりする作戦を立てる様な組織に居たこんな『野獣』の俺でも、軍人として守るべきルールがあると思っている。
相手は軍人だが、この際は目を…固く瞑ろう。俺は自分に言い聞かせた。
しかし、女は反応しなかった。
…当たり前だ。外部音声出力をONにしてないのだから、相手に聞こえる筈が無い。

俺はハッチを開け、MSから顔を出した。パン!チュゥン!
…あと10㎝右にそれていたら、ユウ・カジマの秀麗な顔はザクロの様に紅く割れていただろう。
女はまだ戦意を失っていなかった。
俺は腰に装備していた拳銃を素早く抜き、続けて三発撃った。
外す事無く、弾丸は女の胸部に命中した。
綺麗な顔をしたまま、女は逝った。

「随分と…お優しい事だな…?ヤザン・ゲーブル…」

俺は、女の頭から狙いを外した自分に苦笑した。
自分の中に甘さが残っていた気恥ずかしさが、そうさせた。…まだ、俺は『甘い軍人』だな、と。
『軍人』は命令ならば、自分に武器を向ける者は女だろうが子供だろうが何だろうが関係なく、
躊躇せず殺らねばならない。
しかし、ティターンズの気に入らない命令を拒否した俺は…人間のままなのかも知れない。

「やり慣れない事は、するモンじゃ無いな…」

フィリップ機の立てる騒々しい音が、すぐ近くまで迫っていた。
今日だけでブルーは10機のMSを堕としていた。
体調は最悪だが、悪くない気分だった。





■第十三章




俺はブルーを降り、女の遺骸を見下ろしていた。
女の見開いた目を俺はそっと閉じさせた。

「…勿体無ェなぁ…。宇宙人にも一発お願いしたいイイ女が居るモンだな?ユウ?」

サバイバル用の携帯スコップを持ったフィリップが、俺のすぐ後ろに来ていた。
俺は振り向き、苦笑の表情を作った。フィリップは肩をすくめ、『お手上げ』のジェスチャーを見せた。

「戦争だ。仕方無い。それとも俺が死んでた方が良かったか?フィリップ?」
「お前さんが死んだら、誰に俺の背中を任せられるんだ、ユウ?サマナの奴じゃ、ちィと、な…」

フィリップは女の拳銃に視線を移した。
殺すまでに至った事情を察してくれたようだ。
相手が抵抗した。俺が拳銃で相手をした。
少なくとも、一方的に殺した訳では無い事を。
俺が遺骸を埋めてやる事を提案すると、奴は快く同意してくれた。…口は悪いが、気のイイ奴だ。
コイツも、俺の信頼できる『仲間』に出来る。

「…キジも鳴かずば何とやら、だな…。ユウ?お前さんの先祖が住んでた土地の言葉だ」
「ニホンの格言だろ?『キジも鳴かずば撃たれまいに』だよ、フィリップ」
「…で、そのキジって何だ?動物か?」
「さあな…。アルフの奴はどうした?ブルーの中か?」
「ああ、素っ飛んで行きやがった。あ、お前さんの事も心配してたがな。…案外イイ奴だったんだな、アイツ…アルフ・カムラ大尉殿は」

ジオンの女兵士を埋葬する穴を交替で掘る間に、フィリップが此処に駆け付けるまでに至った経緯を話してくれた。
何と奴は、フィリップに頭を下げて、頼み込んだと言う。

「『オレが気に食わないのは知っているが、ユウ少尉のために曲げて頼む!』、なんて言われると、何か俺が悪い人の様に思えてな…。飯も食わずに来たんだぜ?」
「あとで何か奢るよ、フィリップ」
「せいぜい楽しみにしておくぜ…っとぉ!疲れたから交替な?ユウ?」

穴を掘り終え、女兵士の遺骸を埋葬するため運ぶ際に、フィリップは女の胸元に手を突っ込んだ。
認識票を、墓標に掛けて置くのに回収するためだ。

「…使い物にならんよ、フィリップ。こうも穴が空いていては、な」
「お前さんに出会ったのが、彼女の運の尽きってワケだな…」

金属製の2枚の認識票には見事にそれぞれ一つずつ穴が空いていた。
…俺の拳銃の弾の仕業だった。着弾の衝撃でひしゃげている。
フィリップは認識票の鎖を女の首から外し、自分の手に掛け、遺骸の両肩を持った。俺は脚の方を持つ。
アルフが、ブルーの状態の確認を終えたのか、近寄って来る。

「済まねぇな、アルフ大尉…。この女を埋めるまで、待っててくれるかい?」
「…何かオレに、出来る事は無いか?…見ているだけでは、な…」
「大尉は、この認識票を持って来て下さいや。俺達が、運びますから」

女を埋め、破壊したMSのパーツの破片で十字架の墓標を作り、認識票をそれに掛け、三人が黙祷を捧げると、一連の簡単な葬儀は終了した。

「幸せな、女だな…」

アルフが呟いた。
フィリップと俺は、静かに頷いた。
俺の破壊した後のMSは、コックピットを重点的に狙っていた。
ミンチの様になった奴も居れば、ミサイルで焼かれた奴も居る。
ビームサ−ベルで貫かれた奴は、塵すらも残っていないだろう。
綺麗な顔のまま、誰かに見送られて、逝けた。例えそれが敵でも。
言い訳などしない。『俺』が全てやったことだ。
この結果は俺の選択が招いた事だ。
それをEXAMの発動の責任にしてしまうと、俺が乗っている意味が無くなってしまう。

「…ブルーの再起動に成功した。両膝のショックアブソーバーにガタが来ている以外には、大きな問題は無い。宿営地までは持つ。…オマエ達には悪いが、一つ仕事を頼みたい」
「07の鹵獲でしょう、大尉?『蒼い死神』の大戦果だ!やったな、ユウ!」

フィリップが軽く口笛を吹いた。俺はアルフに頷くと、もう一度、墓標を見た。
ただの自己満足や偽善に過ぎないかも知れないが、許してくれ。明日は我が身かも知れないのだから。
そう心の中で呟くと、俺は二人の肩を抱き、帰還を促した。

「さあ帰るぞ2人とも!腹が減って仕方が無い!醒めたピザでも残ってりゃあ御の字だ!」





■第十四章




「膝以外の異常は…無いようだな」

俺はブルーのコックピットに戻り、各種計器をチェックした。
特定部位、特に各部アクチュエーターの表示がグリーンから、イエローに変わっている。
膝の部分が、危険を示すレッドだ。俺は溜息を吐いた。

「…怖ろしくコストパフォーマンスに欠ける機体だな、コイツは…。EXAMなんて代物を外せば…」
『仕方ないわ。…このMSはEXAMを基本OSとしているもの…。機体の方を合わせるしかないの』

俺は口を閉じた。
ブルーに乗ると言うアルフを宥めて、フィリップ機に乗ってもらった理由は、この『マリオン』と対話する為だとは、現段階では奴に明かせなかった。
俺は静かに目を閉じ、心の中にEXAM発動時の戦闘のイメージを作った。
この娘が本当にNTなら、これだけで、俺の言いたい事が理解できるはずだ。

『あれは…わたしの意志じゃないの…。EXAMが…わたしに…強制を…だから…わたし…』
『…泣くな。解った。それだけ聞けばもう充分だ。責めたりして済まん…』

思わず拳を握り締めた俺は、クルスト博士と言う奴を無性にブン殴りたくなってきた。
俺の脳裏に、苦痛に耐えながらもモーゼス・クルスト博士の期待に応えたい一心で
EXAM開発の被検体になり続けた『マリオン』の辛さの『ビジョン』が、飛び込んで来たからだ。
彼女が実験中、素晴らしい反応数値を叩き出すごとに喜んでいた博士が、段階やレベルが進むうちに深刻な憂い顔をする様になり、やがては狂気染みた憎しみすらNTに対して、抱くようになった事。
そして何よりも俺が哀れみを感じたのが…。

『大尉は…優しい人…。どうして…そんな人が…人を…殺せるの?』

…彼女はそれを全て解っていた事だった。
14の少女がこんな悪意に満ちた行為に耐えられるはずが無い。
EXAMは旧人類、OTの『対NT戦闘』のために用意された、戦闘能力に特化した人間を撰び出すOSである事を、
彼女は全て『知っていた』のだ。
認識力の拡大したNTの宿命と言えばそれまでだ。だが、残酷過ぎる。
戦争は、大人の都合でやるモンだ。
…少なくとも、明日を担う子供が付き合うモンじゃあ、無い。

『…どうして、俺にこんな物を見せる気になった?』
『大尉は…解ってくれると思ったから…。大尉は…『目覚め』かけているから…』
「止めろ!マリオン!これ以上俺に構うな!もういい!用がある時は俺が呼ぶ!」

俺は恐怖していた。
自分がNTになってしまうかも知れないことが。
俺は、無神経な人間でいたい。
もし、戦場で向かい合った人間の全ての事を理解して、俺はそれでもそいつを殺せるのだろうか?
…出来る奴は狂人か、よっぽど他人に無関心な人間だけだろう。共感能力が欠如した奴等だ。

『…叫ぶ理由が解ったぜ…マリオン…。辛いんだな…。怖いんだな…。「自分」が…』
『大尉は…解られたくないの?…解りたく…無いの?』

俺は応えず、MSのフットペダルを踏み込んだ。
自分の意志でも無いのに戦闘を強制させるEXAM。
それを解って貰いたいのに、向かってくる敵。
その全てを感じ取り、恐怖するNT、『マリオン』。
俺はそんな辛さは御免だった。
『生き残る快感に目覚めた人でなし』のままの方が楽でいい。
俺は俺以外のモノに為るのは正直、御免だ。
俺は『ヤザン・ゲーブル』なのだから、死ぬ時も俺のままで居たい。
『確実な先読み』なんて抜かすインチキな能力などクソ喰らえってモンさ。
…己に恥じる処無く、逝きたい。
最後にシミ一つ無い心意気だけを持っていくために。

『マリオン…。いいか、俺が、人殺しをしているんだ。オマエの責任じゃあ、無い。たまたま、傍にオマエがいるだけだ。もう…悩むな。悪いのは、俺を含めた…戦争をする大人だ』
『…有難う…大尉…』
『怖かったら、俺を感じろ。敵よりも、俺の方が怖いからな?何せ、俺は戦争を楽しんでる』
『…うん…』

俺の頬に、何か暖かく、柔らかい何かが一瞬、押し付けられた感じがした。…気のせいだろう。
何故か気恥ずかしくなった俺は、機体を気遣い、緩めにフットペダルを踏む。
この歩行ペースでも、先行するフィリップ機に追いつくには、時間は懸からないだろう。





■第十五章




俺はフィリップに追いつき、右に廻って07を担いだ。
アルフは『ブルーに負担を掛け過ぎるな!』と、釘を刺すのを忘れなかった。
…フィリップは苦笑いしていた。アルフに悪意が無いのが救いだ。
宿営地に着いた俺達は、待機していたサマナから夕食を受け取った。…冷めたハンバーガーだ。
仕方無い。別に支給されるはずのパイロット食に期待しよう。
俺達の野獣のような喰いっぷりをニコニコしながら眺めていたサマナが、ニヤ付いた顔をして、俺の腹を小突いてきた。

「モーリン伍長が、取っておいてくれたんですよ。後で礼を言って置いて下さいね?」
「おいおいサマナ君?お前が取っておいてくれたんじゃないのか?」
「フィリップ少尉とアルフ大尉の分は、僕が確保したんですよ?もちろん、ユウ少尉のも?」
「なんだ、ユウの分がもう一つ有るのかよ?ウラヤマシイことで…」

俺はその『モーリン伍長』が誰だか見当も付かなかった。
ユウ・カジマとイイ仲らしいと言うのは解る。
ただ、どんな顔をしているかがわからない。
礼を言おうにもそれではどうしようも無い。
深刻そうな表情で俺が黙ったのを見兼ねたのか、意外にもアルフが声を掛けてきた。

「…オマエ達のオペレーターを担当している、モーリン・キタムラ伍長がか?サマナ准尉?」
「アルフ大尉…もしかして興味が御ありで?ユウ、サマナ君、ライバル出現だなぁ?」
「いや…違う…。もし、ユウ少尉と親しい仲なら…悪い事をした、と…」

意味深にアルフは俺の顔を見た。…俺の事について何か感付いたらしい。
俺はそれに気付かぬ振りをしてサマナに答えた。

「解ったよ、サマナ。モーリン伍長には礼をキチンと言って置く。お前にも、な」
「…ユウ、本当に、頭、打ったのか?モーリンの事、伍長なんて階級つけて呼ぶなんて…」
「モーリン、僕にこぼしてました。ユウ少尉に『お嬢ちゃん』って呼ばれたって…。ショックだったみたいですよ?」
「…EXAMの影響だろう…。一時的な記憶の混乱だ。…心配無い。すぐに慣れる」

確定的だった。
『俺』についてアルフは何かを掴んだのだ。
奴の知っているユウ・カジマと『俺』との決定的な違いを。
俺はアルフの目を見た。アルフの目元が、柔和に笑っていた。
どうやら、この場を収拾してくれるらしい。俺はアルフに小さく頷いた。
この場は俺に任せてくれ、と言う意思を込めたつもりだ。

「…ちいと06とやり合った時に、ショルダーアタック受け損なってコケちまってな…。ほら、お前らが包囲された時だ」
「ユウ、それなら医者に診てもらった方がいいんじゃないのか?」
「そうですよユウ少尉…。脳はそれはそれは複雑な構造で…」

俺は顔の前で手を振り、微笑んだ。
お医者サマに診てもらっても、コレばっかりはどうにもならない。

「いいよ、フィリップ、サマナ…。作戦に支障が無ければ。俺の腕、見ただろう?」
「…そうだな。何時にも増して、凄かった。それは認める。優秀な、パイロットだ」

アルフが口を挟んだ。
言葉どおりに取れば、ユウ・カジマではなく『俺』を褒めていた。
フィリップとサマナは、なおも言葉を継ごうとしたが、アルフが機先を制した。

「…ブルーのことでユウ少尉と話がしたい。軍機にも関わるので、済まないが…」
「解りました、大尉殿。…ほれ、サマナ君、行くぞ?」
「フィリップ少尉…。何時までも『君』付けは困りますよ…。最近整備の女の子にも…」

フィリップとサマナは、ふざけ合いながらミデアの中のパイロット待機室へ向かっていった。
MS駐機スペースに残った人間は、俺とアルフの二人しか居ない。…潮時だろう。
アルフが口を開く前に、俺は口を開いた。
…腹芸は、苦手だ。速攻でケリを付けたい。

「ユウ・カジマはこんな口の聞き方をせず、もっと寡黙で聞き分けの良いパイロットのはず、だな?」
「…ああ。『するな』と言われた事はしないパイロットだ。冗談も余り言わん…。それに…」
「それに?」

アルフが顔を赤らめた。
…男が照れているのを見るのは正直言って気持ちが悪いが、人付き合いに慣れていないコイツには、余程、言いにくい事なのだろうと俺には推測できた。
俺は『29歳のイイアンちゃん』、『ヤザン・ゲーブル』だ。
…人生経験はそれなりに有る、つもりだ。





■第十六章




アルフは所々つっかえながらも、言葉を繋げた。
照れていただけなのだろう。正直俺は、安心した。

「絶対に『熱く』はならない、冷静な男だった。…彼はオレの事も『ブルー』の事も嫌っていた…。しかし、オマエは違う…。オマエはブルーを褒めてくれた…。オレを信じると言ってくれたっ…!熱い、煮えたぎるようなギラギラした何かを、オレはオマエから感じたんだ…!…笑ってくれてもいい。…だが、オレは、変わりたい!戦いたいんだ!オマエと、ブルーと共にっ!」

血を吐くようなアルフの叫びに、俺は圧倒された。
一見、人の評価など何処吹く風か、と言う様子のこの男に似合わぬ、『熱い』台詞だった。
俺はアルフに、右手を黙って差し伸べた。
アルフが俺の右手を握ると、俺は正体を明かす決心をした。

「…俺はティターンズのヤザン・ゲーブル大尉だ。以後、よろしく頼む。アルフ・カムラ大尉…」
「ティターンズ?何だ、それは?」
「話せば、長くなるんだがな…今は0079だから…そうだな…」

俺は辺りを見渡した。
休憩を終えた整備員達が、各担当のMSに三々五々と向かって来る。
誰かに聞かれると、非常にマズイ。
俺はブルーのコックピットで全てを話すことにした。
ブルーに『灯』を入れ、点検中を装おうとした俺をアルフは手でさえぎった。

「?何だ?何のつもりだ?アルフ?」

アルフが操作パネルの裏をいじると、普段は表示されないメニュー画面が出てきた。
そこに表示されたチェックを次々とアルフはOFFにして行く。
俺は正直、呆気に取られていた。

「…パイロットのモニター用に、コックピット内の全てのデータが保存される様になっている。音声データもそうだ。…例外無く、EXAM発動後パイロット達は『マリオン』と言う名詞を叫ぶ。…オレ以外の誰もこの処置に気付いていないはずだ。隠しメニューだからな」
「お前、コイツの設計段階から関わってるのか?!」
「オレの造った物が、テム・レイの造った物に負けるとは正直、思わなかった…」

アルフが語ったのは、『V作戦』にまつわる秘話だった。
ぶっちゃけて言うなら、テム・レイの政治力に負けたアルフの『RX-78』が没にされ、『RGM−79』開発に廻されてしまったと言う事だ。
しかし、戦況が急遽MSを必要とするほど悪化したために、没になったアルフのプランが採用され試作型の部品が流用され、生産された。
それが…

「…陸戦型ガンダム、RX−79〔G〕だ。オレの造ったモノを採用していれば、こんな苦戦をせずに済んだだろう。最も、先行量産機体で、試作品に近い代物だ。…ロールアウトした数は微々たるものだが」

その後もアルフは陸戦型GM、GMバリエーションの設計に関わったと言う。
凝り性のコイツの作ったMSだ。
さぞやベテランのパイロットやメカニック以外には乗り辛く、扱い難い機体に仕上がった事だろう。

「…今度はオマエの話す番だ。ユウ少…、いや、ヤザン大尉。オマエは何者だ?」
「俺は…七年後の宇宙から、この時代に…呼ばれたんだ…。精神だけ、な」

アルフは、笑わなかった。…紳士的な奴だ。ここは思い切り笑い飛ばしてもイイ所なんだが…。





■第十七章




俺が話す内容に、アルフの顔は徐々に青ざめてきた。
政治向きの話では聞き流していたが、MS関係の話になると身の入り方が違う。
俺の首を締めんばかりの勢いで身を乗り出して来た。
…可変MSなんぞ、この時代の常識からすればゲテモノ以外の何物でもないだろう。しかし、
アルフは以外にも俺の話す内容について、己の技術屋としての立場からの異論を挟まなかった。
むしろ俺から情報を出来る限り引き出そうとしていた。…己の仕事に貪欲な奴は、好きだ。

「…ムーバブルフレームか…。だからオレは言ったんだ…。戦闘機にも為る脱出カプセル
など面白がって組み込むからだ。戦闘データなど人が居れば幾らでも取れるだろうが…」
「おいおい、アルフ、それを絶対、俺以外のパイロットの前で言うんじゃ無いぞ…」
「…オマエがパイロットだと言う事を忘れていた…。技術的な事を語れるから…つい…」

アルフが慌てて謝罪し、俺は笑って許した。
大局的な見地に立って見ると、アルフの言う方法が有効だ。
一つの不確実な質より、玉石混交の確実なデータ収集の方が効率が遥かに良い。

「…ジオン系の技術はモノコック構造とその…サイコミュ…と…人工NTか?」
「ああ。生化学の分野はあまり詳しく無いが、肉体的にも精神的にも人間を戦闘用にいじくり回した産物さ。薬か何か使ってるから、ラリってるのと似たようなもんだ。不安定過ぎて一緒に組んで戦いたいとは二度と思わん。薬物耐性から、女が多いな。なんでも、『動機付け』が簡単だとか…」
「…クルスト博士の言う事は、正しかったのだな…。…ヤザン大尉…」
「…戦闘狂の似非NTが増えたのは認める。しかし真実のNTはそんな…」

俺はZに堕とされた時を思い出した。
Zのパイロットも、NTだと噂されていた。
そのZが、俺との戦闘にどんな事をやってのけた?
メガ粒子砲をワケの解らん力で弾き、機体分もある長さのビームサーベルで俺を…いや、ハンブラビを斬った。
俺はトチ狂って何をアルフに言おうとしているんだ?
悪意が俺の頭の中で意地悪く囁く。
俺は『マリオン』を弁護したいだけなのだろうか?
俺は人類の可能性を説きたいだけだ。

「…危険なモンじゃ無い。ただ、全てを『解る』から…辛い。何か自分に出来る事をしようと足掻くのが人間だろ?もっとこう…何だ…その…」
「…NTにでも逢った様な口振りだな?オマエはNTの何を見たんだ?」

俺はアルフに全てを話した。
Zとの戦闘、『マリオン』との邂逅を、夜の明けるのも忘れて。
…俺の驚天動地の体験に満ちた長い一日が終わり、戦闘に明け暮れる日々が始まるのも知らず。





■第十八章




それからの俺達は、自分で言うのも難だが、正に『戦争の申し子』と化し、北アメリカ大陸を蹂躙した。
第十一独立機械化混成部隊こと『モルモット隊』は、『RX-79BD-1』のテスト部隊としての性格のみならず、MS小隊戦術研究部隊の性格も付与された。
アルフに正体を明かした俺は、文字通り『吹っ切れて』いた。

「バックアップは俺に任せろ!フィリップ、サマナ、出来る限り引っ掻き回せ!」
「…任せとけユウ!こんな奴等より、お前の方が余程怖いぜ!」
「僕だって、いつまでもやられてばかりじゃないんだ!糞ォッ!」

俺は教導隊の教官に戻ったつもりで、ベテランである二人にMSの運用法を初歩の初歩から『叩き込んだ』。
勿論、激しい反発もあった。
だが俺は、宥めすかしつつも脅し、何とか『観られる』レベルまで成長させた。
今では立派に前衛も後衛もこなせるオールラウンドな思考と腕前を持つパイロットに仕上がったと思う。

「…整備の方は任せてくれ…ヤ…ユウ少尉…。前より整備班が動いてくれて、助かる…」
「ん?やっぱ宴会が効いたか?もう一回、非番の奴を集めてやるか?」
「…その…なんだ…。幾ら軍隊でも…アレはイケナイのでは無いかと正直…オレは…思うぞ」
「いいんだよ、面白けりゃあ。整備やオペレーターの女の子にも受けてたろ?」

この部隊のネックが新参者のアルフ・カムラ大尉の無愛想さにあると見た俺は、当直以外の奴等を中心に、『大宴会』を企画し、実行に移した。
事実、整備班の奴等が文句を垂れ、出席を拒んだが、俺は古株連中を叩きのめし、一切合財強制参加させた。
そこでアルフ・カムラ大尉のスピーチをやらせ、部隊の酒保倉庫から失敬してきたアルコールや食料を大盤振る舞いした訳だ。
案の定、アルフの株は急上昇し、古株連中は面目を失った。
今では整備班の若手はアルフの『手足』以上によく働く。
アルフが言った『イケナイ』事とは、俺がその晩の当直MSパイロットだったサマナまで引っ張り込んで、フィリップとアルフの四人で実行した俺の『脱ぎ芸』の奥義、『教導隊名物4連風車』を実行した件だろう。
…誰の風車が一番良く廻ったかって?
目を覆った手の指の間からしっかり見ていたモーリン伍長に聞くと『…フィリップさんのって、意外と可愛いんですね』だそうだ。
可愛い顔してるのに、結構言う事は残酷だ。

「…あの日ずっと部屋の前で待ってたのに…。バカ…」
「…ん?何か言ったかキタムラ伍長?」

俺とアルフがブルーのコックピットで一晩を語り明かし、充実した気分でミデアの私室に帰ってきた俺を部屋の前で待っていたのは、目の下にクマを作ったモーリン伍長だった。
心配してくれたのだろう。
しかしその対象は俺ではなく『ユウ・カジマ』だ。
俺は抱きついてきた伍長を宥め、自室に帰した。
…人の持ち物に手を出すほど俺は不粋じゃあ、無い。
…俺は正直、もう少し大人びた女が好みだ。

「行くぞお前達!今度の獲物はでかいぞ!気を引き締めていけ!」

部隊が一つのチームとして育っていく過程は、俺にとって輝かしくも懐かしい記憶を呼び起こさせた。
教え子がどんどん成長していくあの楽しさは、やって見なければ解らない喜びだろう。
唯一残る障害は、この部隊を仕切ろうとする俺の意のままにならぬ、無能な部隊長だけだった。
俺はアルフと謀議し、一つの策を練り、この糞ったれの部隊長の排除を実行に移す事にした。





■第十九章




俺が名前を言うのも気に障るそいつは、『大尉』のアルフより1階級上の『少佐』だった。
そいつがただの出世しか頭に無い奴なら、俺やアルフを始めとする主流派は気にも留めやしなかった。
俗に言う『ヒラメ』と言う奴だ。
目が上にしかついていない奴をからかうためにあるニホンの言葉だ。

だが、奴は違った。
事有るごとに細かいことでも口を出し、敵が迫っているのに指揮も執らず、ただ『戦略上うんぬん〜』を最もらしく持ちだしては、悦に入る。
戦場で即時対応しなければならない俺達パイロットの苦労も知らず、『私の御蔭で勝てたのだ』と来れば、誰だって頭に来るだろう。

…戦場の情報分析や状況把握は、アルフがほぼ一人でこなしていた。
それらをオペレーターを使って伝え続けてくれたのも、アルフの御蔭だ。
…その時その『少佐』は何をしていたかって?

呆れたことにオペレーターの女の子の体をベタベタ触り、嫌がるのも構わず撫で続けていたそうだ。
『百害あって一利無し』。
これが俺達『モルモット隊』の指揮官たる『少佐』への最終評価だった。
簡単に言やぁ、『居ない方が遥かにマシ』って奴だ。
正直、指揮官としてマシな奴が欲しかった。

「アルフ…巧くやれよ…。死ぬなよ…。頼むぜ…?」
『ヤザンさん…。どうして…そんな酷い事をするの?死んで良い人間なんて一人も…』
「居るんだよ、マリオン。生きてても邪魔な人間は、確実にな!」

戦闘を重ねる内に、俺は『マリオン』に好感を持たれる様になっていた。
俺を呼ぶ時、一番最初が『大尉』だった呼び掛けが、『ゲーブルさん』に変わり、終には今の『ヤザンさん』になった。
…正直に言おう。
俺に昼食を直接届けに来たモーリン伍長を、『ブルーの胸部バルカン』で危うくミンチにしようとした事態がつい一時間前に発生したばかりだ。
元に戻すのに三十分も説得に要してしまったほどだ。
口を極めて罵りはしたが、まあ、『マリオン』の事だ。
多分、許してくれるだろう。

『…私が許せないのは、あの人の方…。私がここに居るのも知らないで…あんな嬉しそうな顔をして…』
「まだ、怒ってるのか?別にあの子は『俺』に好意を抱いてる訳じゃないんだ。むしろ、嫌っている。モーリン伍長はただ、自分の知ってる昔のユウ・カジマに戻って欲しいだけなんだぜ?」
『私は…ヤザンさんに戻って欲しくなんか…』
『…おいでなすったぜェ!ユウ!敵さんがよォ!生本番と行きますか!』

ノイズ混じりのフィリップの呼びかけに俺は送信を急いでONにした。
…余り早く片付けてもらっても今回は困るのだ。敵の哨戒部隊だ。敵の編成は…。
俺がフィリップに聞く前に、頭の中に少女の声が響く。

『先行部隊に06が3、07が4。後発で09が6に…指揮車にギャロップが1っ!』
「今回は俺がメインで殺る。サマナと間接支援をきっちり頼む!今回は部隊長も観戦するとよ!」
『…どう言う風の吹き回しですかね…。あのホヴァートラックですか?ユウ少尉』
「おうよサマナ!しっかり守ってやンな!行くぞ!」

俺は送信をOFFにし、フットペダルを踏み込んだ。心の中で『マリオン』に礼を言う。
この娘の索敵能力の御蔭で、ミノフスキー粒子の濃い戦場下での戦術の組み立てがどれほど助かったか。
…まともに索敵部隊が機能しなかったせいもあるが、それも今日の計画で終わりを告げるだろう。
『人殺し』を『マリオン』に手伝わせる事も無くなるのだ。俺は口元に侮蔑とも取れる微笑を浮かべた。





■第二十章




俺はブルーにビームサーベル2本を両手に装備させ、ジオンの先行部隊の群れを目掛けて
突っ込んだ。…俺が敵の機動性を奪い、フィリップとサマナの長距離射撃で始末する戦術だ。
そのためにフィリップ機とサマナ機に180㎜キャノンをわざわざ持って来させたのだ。

「遅い遅い遅い遅い遅いんだよっ!ここは戦場だぞ?!新兵以下だぞ!」

俺はブルーのコックピットで戦闘を楽しんでいた。どうせ殺るなら楽しまねばならない。
悩んで後悔しても、殺した相手が生き返って来ることは無い。俺が殺らなければ相手が俺を
殺るだろう。条件は五分と五分だ。…弱い奴が狩られ、喰われる。それが自然の摂理だ。

『…っ!…く…っ!…ンっ!…アっ…はァンッ!こんなのッ…』

07が真正面に立ちふさがる。ステップを踏む事無くそいつをスルーし、背後から脚を潰す。
『マリオン』が苦しげな悩ましい声を上げる。…敵の感じる恐怖を『感じて』いるのだろう。
体に暖かいモノがしがみ付いている感蝕に俺は違和感も抱かず、敵の機動力、即ちMSの
脚を斬って行く。次々と敵を葬る180㎜キャノンの轟音と衝撃が、心地よく俺の耳に響き渡る。

「歯応えが無さ過ぎるんだよ…。07乗りならもう少し俺を楽しませろ!」

俺の言葉は、ブルーの持つ機動性能を高い高い所にある棚に放り投げて、忘れた上での発言だ。
敵の前衛小隊にして見れば、俺とブルーの存在自体が「反則」以外の何物でも無いだろう。
機体性能に差が有り過ぎ、その上にMS乗りとしての、兵士としての7年の経験が俺に有る。
その各種アドバンテージを取っ払って始めて、イーヴンに足りうると言えるのだ。

「…遊んでやるか。まだ09が来ないんじゃあ、仕方が無い…。時間稼ぎだ」
『…ヤザンさん…。自分をまだ…『試す』の?そんな事は…哀しいだけなのに…」

俺は片方のビームサーベルを収納し、ブルーに手招きをさせた。『マリオン』が息を呑むのを
感じる。…完全に人殺しを楽しんでいる俺を、『マリオン』はきっと軽蔑しているだろう。
適当に機体にダメージを喰らわなければならない事情がこちらには確実に存在するのだ。
俺は後方に待機しているであろうホヴァートラック中のアルフの憂い顔を思い、苦笑した。

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