ゆっくりいじめ系2394 ずっとゆっくりするんだよ(前編)

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罪のない野生ゆっくりが大勢アレされてしまいます     ずっとゆっくりするんだよ  作:YT  流水でえぐれた林道をゴトゴトと走ってきた軽トラックが、森のとっつきで止まった。  車体には、専門業者特有の愛想のない書体で「㈲森浄サービス」と書かれている。  長袖の作業服を着てブーツを履き、帽子をかぶった人影が降り立つ。男と女だ。  すると、近くの熊笹の茂みの下から声がした。 「ゆゆっ、何かきたんだぜ!」 「じどうしゃだよ! にんげんさんがきたんだよ!」 「ゆっくり! にんげんさんはゆっくりできないよ、はやくにげるよ!」 「ゆっくち にげりゅよ!」  そしてガサガサという音が遠ざかっていた。  ポニーテールの若い女が目を輝かせて言った。 「さっそくのお出迎えですね。いっぱいいるんでしょうか?」  それより一回りほど年上の男が、無愛想に言った。 「いるからおれたちが呼ばれたんだ。仕事始めるぞ」 「つまんないですねえ、主任って」 「まあ今のうちにはしゃいどけ、ヤマベ」  二人は荷物を満載した軽トラの荷台から、まずはロールに巻いたネットを下ろした。  緑色のナイロン繊維を編んだ網で、幅は四十センチ、網目が十センチぐらいある。  新米らしい、ヤマベと呼ばれた女が尋ねた。 「これ、網目が粗くありませんか?」 「別に」 「でもこれだと、赤ゆっくりが出ちゃうじゃないですか」 「その網を通れるぐらい小さな赤ゆっくりは、もともと親から離れようとせんよ。もうちょっと育って子ゆっくりになると自活できるが、その網は通れなくなる」 「ああ、なるほど」  ヤマベは納得してうなずいた。それならなら、この網でゆっくりの分散を防げるだろう。 「図面持ったか?」 「はい」 「コンパスと無線と笛は」 「あっ、笛忘れた」 「忘れるな。じゃ俺はこっち回るから、そっちを頼むぞ」  主任と呼ばれた男は、手近の木にネットの一端を結びつけると、ぐるぐるとそれを伸ばしながらクマザサの中に入っていった。  ヤマベも同じように、逆方向へ向かってネットを張り始めた。  十メートルほど置きに木に結びつけ、網を立ててゆく。下端は杭となっているので、地面に刺していく。  高さ五十センチほどの簡便な壁が、みるみる伸びていった。  ネットを伸ばしつくすとトラックに戻り、次のロールを運び出した。 「ふう、こりゃなかなか大変だわ……」  ヤマベが額の汗を拭っていると、近くのしげみから、声をかけられた。 「ゆっくりちていってね!」  そちらを見ると、拳ほどの大きさの子ゆっくりが興味しんしんで眺めていた。  ヤマベは会社で受けた教育を思い出した。「その時」が来るまでは愛想良くすること。 「ゆっくりしていってね!」  にっこり笑ってひらひらと手を振った。  すると子ゆっくりの陰からぞろぞろとゆっくり一家が出てきた。  母れいむと父まりさ、双方の子ゆっくりが数匹というポピュラーな家族だ。  かのゆっくりたちは疑わしそうな目で尋ねた。 「おねえさんはゆっくりできる人?」 「どうしてかべさんをつくってるの?」  それに対する答え方もヤマベは習っていた。 「ええとね、この近くでキツネがたくさん出たのよ。キツネは知ってる?」 「ゆゆ、キツネさん! キツネさんはゆっくりできないよ!」 「とってもこわいどうぶつだよ! たべられちゃうよ!」 「たべられちゃうの? きょわいよおお!」  一言でおびえ出したゆっくりたちに、ヤマベは笑って教えてやった。 「大丈夫よ、キツネが入らないようにするために網を張っているんだから」 「ゆうっ! あみってなあに?」 「この緑色のよ。キツネを防ぐためのものだから壊さないでね」 「あみさんがキツネさんをとめてくれるんだね!」 「おねえさんはやさしい人なの?」 「そうだよ、ゆっくりを守りにきたのよ」 「ゆっくりりかいしたよ! おねえさん、あみさんを張ってくれてありがとう!」  ゆっくり一家は喜んで、すっかり打ち解けた態度になった。  ヤマベはほっとしつつ、さらにポケットから飴の袋を出して、人数分与えた。 「わたしはヤマベっていうのよ。仲良くしてね、ゆっくりたち」 「おねえさんはヤマベさんなんだね! ゆっくりしていってね!」  ゆっくりたちが喜び、ヤマベのブーツに次々と頬をこすりつけた。  ヤマベがトラックに戻って主任に話すと、主任は渋面で煙草に火をつけた。 「名前を教えるなって講習で聞いただろうが」 「あっ……」 「もう手遅れだろうがな。ゆっくりの間じゃ噂はあっという間だ。  まあ乗れ、今日は上がりだ」 「しまったなー」  ヤマベは頭をかきつつも、まあそれぐらいいいか、と考えていた。  二人は地図を片手に網を張り続け、五日で森全体を囲み終えた。  使った網は四十メートルが三十二ロール。森の差し渡しが四百メートルほどだったことになる。  森としては小さなものだが、ヤマベは疲労困憊していた。 「四百メートルをナメてました。かなりキツかったっす」 「東京ドームグラウンドの四倍以上の面積だぞ。キツいに決まってる」  六日目からは別の荷物を積んできた。タブレット型のGPSマッパーと、大量の飴である。  二人はそれを持って森に入った。例によって主任は「おまえあっちな」と指示しただけで去っていった。  ヤマベは森の中を進み、適当なところで声をかけた。 「ゆっくりしていってね!」 「……ゆっくりしていってね!」  ほんの数メートル先のクヌギの陰から声がした。回り込むと、ゆっくり家族がいた。  初日に見たものと同じかどうかわからなかったが、構わずヤマベは声をかけた。 「ゆっくりしていってね! あのね、おねえさんに君たちのおうちを教えてくれないかな」 「ゆゆっ!? にんげんさんにおうちをおしえちゃいけないって、おかあさんがいってたよ!」 「それは悪い人間さんよ。私は悪い人じゃないからいいのよ。ほら、その証拠に、アメあげる」 「ゆ、あめ? あめってなあに? ……ぺーろぺーろ、ゆゆゆゆゆしあわせぇー!」  ヤマベの飴を口に入れた途端、ゆっくりたちは派手に顔を輝かせて幸福に酔い痴れた。 「こんなにおいしいあまあまははじめてだよ!」 「ゆ! そういえば枯れ木のれいむたちが、ヤマベさんにあめさんをもらったっていってたよ!」 「おねえさんはヤマベさんなんだね!」 「ええそうよ、だからおうちを教えてね」 「ゆっくりりかいしたよ!」  二頭は何の警戒もなくヤマベを案内して、二十メートルほど離れた倒木の陰の巣穴を教えた。 「ここがおうちなのね? わぁー、すてきなところね。二人だけ? そうなの。君たちは何歳?」  ヤマベはGPSマップの画面をスタイラスでつついて、種別、頭数、年齢などを手早く書き込んだ。 「あなたたちは気持ちのいい、親切なゆっくりたちね。とってもゆっくりしているわ」 「ゆふふ~ん、れいむたちはにんきものなんだよ!」 「そうでしょうね。お友達がたくさんいそう。私にも紹介してくれない?」 「ゆっくり! それじゃついてきてね!」  ヤマベはゆっくりからゆっくりへと紹介を受けて、芋づる式に次々と巣を突き止めていった。 「この辺にはたくさんゆっくりがいるのねえ。食べ物は足りてるの?」 「だいじょうぶだよ! まりさがたくさんごはんの木をしっているんだよ!」 「へえー、まりさ、それはどこなの?」 「ゆゆぅ……ごはんのばしょは秘密なんだぜ……」  まりさは初めて言い渋ったが、ヤマベは彼女を抱き上げて物陰へ連れていき、 「あなたは今までに見た中で一番立派なまりさだわ。とっても狩りがうまいんでしょ?」 「ゆゆっ? ゆうんん、それほどでも……あるんだぜ?」 「そうなんだ、じゃあ一ヵ所ぐらい教えてくれてもいいんじゃない? まりさならすぐに新しい場所をみつけられるわ」  おだて揚げるとまりさはすぐに得意げになって、秘密の場所、と称する果実の木やきのこの生える箇所を示した。  ヤマベはそれも詳細にマップに書き込んでいった。  夕方軽トラックへ戻ると、タブレットを主任に見せながら報告した。 「けっこう多いですよ、ここは。今日だけで巣穴が二十二箇所見つかりました。  うち、れいむ種だけでも親が六頭、夫婦者が八頭、同居の子や赤ん坊は二十四頭もいました」 「どれ。……R三十八、M三十四、A二十二、P八? それにCやRaやMyも豊富と来たか。これ全部、一群か?」 「ぱちゅりー種が三頭体制で面倒を見ていました。いえ、ドスはいないみたいですが」 「別にDのあるなしはどうでもいい。しかし多いな」  主任は縮尺をいじって表示範囲を広げ、自分が集めてきたデータをインポートした。ヤマベは息を呑む。 「すごいじゃないですか。そっちは三つも群れを?」 「俺もこの仕事長いからな。明日コツを教えてやるよ。  よし、おまえんとこの群れがP1な。こっちはR1、R2、A1とする」  主任はゆっくりをイニシャルで呼び、頑なに種族名で呼ぼうとしなかったが、腕は確かだった。  翌日、ヤマベは彼に同行して、その仕事振りを始めて目の当たりにし、驚いた。 「そうかそうかー、ちぇんはとっても足が速いんだね! すごいねえ!」 「そうだよー! ちぇんは森で一番はやいんだよー?」 「わかるわかる。ちぇんは速くて可愛いんだね!  ひょっとして、夕方までにお隣の群れのみんなを呼んでこられるかな?」 「ゆゆっ、そんなのらくしょうだよー! そのはんぶんでいってこれるよー!」  ちぇんが勢いよくぴょんぴょんと飛び去ると主任は振り向いたが、ヤマベを見て妙な顔になった。 「なんだその鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔」 「どこの愛護家かと思いました。さっきのデレデレな可愛がりっぷり」 「仕事だ」  主任は眼鏡を指で押さえてぶっきらぼうに言った。  まず足の速い伝令役のちぇんを口説き落とすと、その後の展開がずっと楽になるということをヤマベは学んだ。  木々と下ばえが生い茂り、落ち葉に覆われた枯れ川や沼や泉の点在する森の中は、四百メートルという数字以上に広く、複雑だった。  二人は何日もかけて森中の巣を見つけ、ゆっくりをカウントしていった。 「北東地区、今日はP15、P16とR9の三つの群れを見つけました。もうじき終わりそうです」 「おまえ、センターのあたりが手薄だったろう。あの辺は俺もやってないから、明日はまた合同だ」  二人はまた森の中の餌場を調べ上げ、植物や動物の生育状況を調べた。 「餌場は全部で四十五箇所でした。重複を削ったらやや減ると思います。  植物ではイチゴやキノコなどの目立つものはすでに消滅寸前、  ワラビ、ゼンマイ、ユリ根、セリなどの山菜類もかなり採集困難な状況でした。  動物は樹上のリスなどを除いていません。鳥類も見当たりません。昆虫類が減少しているためでしょうね。  それから、巣穴掘りや跳行による表土の荒れも目立っています。いずれ土砂の流出につながるでしょう」 「煮詰まってんなあ」 「ゆっくりたち自身も危機を自覚しているようです。食べ物が少ないよ、とこぼしていましたから……」 「それは自覚じゃなくて、ただの愚痴だ」  主任は煙草をふかしながらむっつりと言い、尻ポケットからICレコーダーを引き出した。 「P7の群れの会議とやらを録音してきた。聞くか?」  ヤマベはうなずき、再生した。 「ぱちゅりー、たべものがすくないよ! おなかがすいて、ゆっくりできないよ!」 「どうしたらいいか、ゆっくりかんがえてね!」 「むきゅう……そうだわ、お隣のありすのむれが、昨日みなみへ引っ越していったわ。  お隣があいたから、ゆっくりそちらへうつりましょう」 「ゆっくり!」 「ゆっくりひっこそうね!」 「むーちゃむーちゃできりゅね!」 「でも、ありすたちは食べ物がなくなったっていってたよ?」 「ゆゆん、ありすはかりがへただからだよ! まりさならたっぷり食べ物をみつけてやるんだぜ!」 「ゆうー、まりさはたのもしいよ! ゆっくりさがそうね!」  ヤマベはスイッチを切り、暗い顔で言った。 「崩壊目前じゃないですか」 「そうだ」  うなずくと、主任は煙草を携帯灰皿に押し込んで立ち上がった。 「だから、急がなけりゃな。ああ、それと」 「はい?」  立ち去ろうとしたヤマベに、主任は指を向けて言った。 「リリース体は俺が選ぶからな」 「えっ……なんでですか!?」  ヤマベがショックを受けた顔をした。主任は首を横に振った。 「当ててやろうか。おまえ、初日に出会った一家をリリースしてやろうと思っているだろ」 「は……い」  図星だったので、ヤマベは動揺した。主任がため息をついた。 「それではだめだ。無作為抽出するんだから。俺がやる」 「……はい」  駆け出しに過ぎないヤマベは、うなずくしかなかった。  ヤマベはその日、なじみの群れを避けて別の群れへ向かった。そこで出会ったゆっくりたちに飴を与え、しばし歓談を楽しんだ。 「ヤマベさん、ヤマベさん!」 「なあに、まりさ」 「この辺りはずいぶんごはんが減っちゃったのぜ! まりさは旅に出たいのぜ!」 「そう、まりさは勇敢ね」 「ゆっふん! その通りだぜ! でも、あみさんがじゃまだからどけてほしいのぜ!」 「ごめんね、まりさ。それはだめなのよ。外にはまだ狐さんがいっぱいいるの」 「ゆううう……」  憮然とするまりさの後ろから、ぴょこ、ぴょこっ、と三匹ほどの子供が顔を出す。  丸くて愛らしい赤まりさが一匹と、赤ちぇんが二匹だ。  まだその子たちの食べ物を削るほど深刻ではないらしく、つやつやと頬を光らせている。 「おねーしゃん、ゆっくち!」 「ゆっくちちていってね!」 「わかりゅよー! ゆっくち、ゆっくち!」  ぽいん、ぽよんと赤ゆっくりたちは靴先に群がる。親まりさが目を細めて言った。 「ゆっくり、ゆっくり……。しんだちぇんの、わすれがたみなんだぜ。まりさのとってもゆっくりしたおちびたち」 「可愛いわね」  ヤマベは、手を伸ばしてまりさの帽子を撫でた。使い込んだフェルトの毛羽立った感触が手に残る。  一抱えもある黒帽子の周りを、ほんのクッキーほどの大きさの黒帽子と緑の頭巾が、ぴょんぴょんと跳ね回った。 ([[後編>ゆっくりいじめ系2395 ずっとゆっくりするんだよ(後編) ]]へ
罪のない野生ゆっくりが大勢アレされてしまいます     ずっとゆっくりするんだよ  作:[[YT>YTの作品集]]  流水でえぐれた林道をゴトゴトと走ってきた軽トラックが、森のとっつきで止まった。  車体には、専門業者特有の愛想のない書体で「㈲森浄サービス」と書かれている。  長袖の作業服を着てブーツを履き、帽子をかぶった人影が降り立つ。男と女だ。  すると、近くの熊笹の茂みの下から声がした。 「ゆゆっ、何かきたんだぜ!」 「じどうしゃだよ! にんげんさんがきたんだよ!」 「ゆっくり! にんげんさんはゆっくりできないよ、はやくにげるよ!」 「ゆっくち にげりゅよ!」  そしてガサガサという音が遠ざかっていた。  ポニーテールの若い女が目を輝かせて言った。 「さっそくのお出迎えですね。いっぱいいるんでしょうか?」  それより一回りほど年上の男が、無愛想に言った。 「いるからおれたちが呼ばれたんだ。仕事始めるぞ」 「つまんないですねえ、主任って」 「まあ今のうちにはしゃいどけ、ヤマベ」  二人は荷物を満載した軽トラの荷台から、まずはロールに巻いたネットを下ろした。  緑色のナイロン繊維を編んだ網で、幅は四十センチ、網目が十センチぐらいある。  新米らしい、ヤマベと呼ばれた女が尋ねた。 「これ、網目が粗くありませんか?」 「別に」 「でもこれだと、赤ゆっくりが出ちゃうじゃないですか」 「その網を通れるぐらい小さな赤ゆっくりは、もともと親から離れようとせんよ。もうちょっと育って子ゆっくりになると自活できるが、その網は通れなくなる」 「ああ、なるほど」  ヤマベは納得してうなずいた。それならなら、この網でゆっくりの分散を防げるだろう。 「図面持ったか?」 「はい」 「コンパスと無線と笛は」 「あっ、笛忘れた」 「忘れるな。じゃ俺はこっち回るから、そっちを頼むぞ」  主任と呼ばれた男は、手近の木にネットの一端を結びつけると、ぐるぐるとそれを伸ばしながらクマザサの中に入っていった。  ヤマベも同じように、逆方向へ向かってネットを張り始めた。  十メートルほど置きに木に結びつけ、網を立ててゆく。下端は杭となっているので、地面に刺していく。  高さ五十センチほどの簡便な壁が、みるみる伸びていった。  ネットを伸ばしつくすとトラックに戻り、次のロールを運び出した。 「ふう、こりゃなかなか大変だわ……」  ヤマベが額の汗を拭っていると、近くのしげみから、声をかけられた。 「ゆっくりちていってね!」  そちらを見ると、拳ほどの大きさの子ゆっくりが興味しんしんで眺めていた。  ヤマベは会社で受けた教育を思い出した。「その時」が来るまでは愛想良くすること。 「ゆっくりしていってね!」  にっこり笑ってひらひらと手を振った。  すると子ゆっくりの陰からぞろぞろとゆっくり一家が出てきた。  母れいむと父まりさ、双方の子ゆっくりが数匹というポピュラーな家族だ。  かのゆっくりたちは疑わしそうな目で尋ねた。 「おねえさんはゆっくりできる人?」 「どうしてかべさんをつくってるの?」  それに対する答え方もヤマベは習っていた。 「ええとね、この近くでキツネがたくさん出たのよ。キツネは知ってる?」 「ゆゆ、キツネさん! キツネさんはゆっくりできないよ!」 「とってもこわいどうぶつだよ! たべられちゃうよ!」 「たべられちゃうの? きょわいよおお!」  一言でおびえ出したゆっくりたちに、ヤマベは笑って教えてやった。 「大丈夫よ、キツネが入らないようにするために網を張っているんだから」 「ゆうっ! あみってなあに?」 「この緑色のよ。キツネを防ぐためのものだから壊さないでね」 「あみさんがキツネさんをとめてくれるんだね!」 「おねえさんはやさしい人なの?」 「そうだよ、ゆっくりを守りにきたのよ」 「ゆっくりりかいしたよ! おねえさん、あみさんを張ってくれてありがとう!」  ゆっくり一家は喜んで、すっかり打ち解けた態度になった。  ヤマベはほっとしつつ、さらにポケットから飴の袋を出して、人数分与えた。 「わたしはヤマベっていうのよ。仲良くしてね、ゆっくりたち」 「おねえさんはヤマベさんなんだね! ゆっくりしていってね!」  ゆっくりたちが喜び、ヤマベのブーツに次々と頬をこすりつけた。  ヤマベがトラックに戻って主任に話すと、主任は渋面で煙草に火をつけた。 「名前を教えるなって講習で聞いただろうが」 「あっ……」 「もう手遅れだろうがな。ゆっくりの間じゃ噂はあっという間だ。  まあ乗れ、今日は上がりだ」 「しまったなー」  ヤマベは頭をかきつつも、まあそれぐらいいいか、と考えていた。  二人は地図を片手に網を張り続け、五日で森全体を囲み終えた。  使った網は四十メートルが三十二ロール。森の差し渡しが四百メートルほどだったことになる。  森としては小さなものだが、ヤマベは疲労困憊していた。 「四百メートルをナメてました。かなりキツかったっす」 「東京ドームグラウンドの四倍以上の面積だぞ。キツいに決まってる」  六日目からは別の荷物を積んできた。タブレット型のGPSマッパーと、大量の飴である。  二人はそれを持って森に入った。例によって主任は「おまえあっちな」と指示しただけで去っていった。  ヤマベは森の中を進み、適当なところで声をかけた。 「ゆっくりしていってね!」 「……ゆっくりしていってね!」  ほんの数メートル先のクヌギの陰から声がした。回り込むと、ゆっくり家族がいた。  初日に見たものと同じかどうかわからなかったが、構わずヤマベは声をかけた。 「ゆっくりしていってね! あのね、おねえさんに君たちのおうちを教えてくれないかな」 「ゆゆっ!? にんげんさんにおうちをおしえちゃいけないって、おかあさんがいってたよ!」 「それは悪い人間さんよ。私は悪い人じゃないからいいのよ。ほら、その証拠に、アメあげる」 「ゆ、あめ? あめってなあに? ……ぺーろぺーろ、ゆゆゆゆゆしあわせぇー!」  ヤマベの飴を口に入れた途端、ゆっくりたちは派手に顔を輝かせて幸福に酔い痴れた。 「こんなにおいしいあまあまははじめてだよ!」 「ゆ! そういえば枯れ木のれいむたちが、ヤマベさんにあめさんをもらったっていってたよ!」 「おねえさんはヤマベさんなんだね!」 「ええそうよ、だからおうちを教えてね」 「ゆっくりりかいしたよ!」  二頭は何の警戒もなくヤマベを案内して、二十メートルほど離れた倒木の陰の巣穴を教えた。 「ここがおうちなのね? わぁー、すてきなところね。二人だけ? そうなの。君たちは何歳?」  ヤマベはGPSマップの画面をスタイラスでつついて、種別、頭数、年齢などを手早く書き込んだ。 「あなたたちは気持ちのいい、親切なゆっくりたちね。とってもゆっくりしているわ」 「ゆふふ~ん、れいむたちはにんきものなんだよ!」 「そうでしょうね。お友達がたくさんいそう。私にも紹介してくれない?」 「ゆっくり! それじゃついてきてね!」  ヤマベはゆっくりからゆっくりへと紹介を受けて、芋づる式に次々と巣を突き止めていった。 「この辺にはたくさんゆっくりがいるのねえ。食べ物は足りてるの?」 「だいじょうぶだよ! まりさがたくさんごはんの木をしっているんだよ!」 「へえー、まりさ、それはどこなの?」 「ゆゆぅ……ごはんのばしょは秘密なんだぜ……」  まりさは初めて言い渋ったが、ヤマベは彼女を抱き上げて物陰へ連れていき、 「あなたは今までに見た中で一番立派なまりさだわ。とっても狩りがうまいんでしょ?」 「ゆゆっ? ゆうんん、それほどでも……あるんだぜ?」 「そうなんだ、じゃあ一ヵ所ぐらい教えてくれてもいいんじゃない? まりさならすぐに新しい場所をみつけられるわ」  おだて揚げるとまりさはすぐに得意げになって、秘密の場所、と称する果実の木やきのこの生える箇所を示した。  ヤマベはそれも詳細にマップに書き込んでいった。  夕方軽トラックへ戻ると、タブレットを主任に見せながら報告した。 「けっこう多いですよ、ここは。今日だけで巣穴が二十二箇所見つかりました。  うち、れいむ種だけでも親が六頭、夫婦者が八頭、同居の子や赤ん坊は二十四頭もいました」 「どれ。……R三十八、M三十四、A二十二、P八? それにCやRaやMyも豊富と来たか。これ全部、一群か?」 「ぱちゅりー種が三頭体制で面倒を見ていました。いえ、ドスはいないみたいですが」 「別にDのあるなしはどうでもいい。しかし多いな」  主任は縮尺をいじって表示範囲を広げ、自分が集めてきたデータをインポートした。ヤマベは息を呑む。 「すごいじゃないですか。そっちは三つも群れを?」 「俺もこの仕事長いからな。明日コツを教えてやるよ。  よし、おまえんとこの群れがP1な。こっちはR1、R2、A1とする」  主任はゆっくりをイニシャルで呼び、頑なに種族名で呼ぼうとしなかったが、腕は確かだった。  翌日、ヤマベは彼に同行して、その仕事振りを始めて目の当たりにし、驚いた。 「そうかそうかー、ちぇんはとっても足が速いんだね! すごいねえ!」 「そうだよー! ちぇんは森で一番はやいんだよー?」 「わかるわかる。ちぇんは速くて可愛いんだね!  ひょっとして、夕方までにお隣の群れのみんなを呼んでこられるかな?」 「ゆゆっ、そんなのらくしょうだよー! そのはんぶんでいってこれるよー!」  ちぇんが勢いよくぴょんぴょんと飛び去ると主任は振り向いたが、ヤマベを見て妙な顔になった。 「なんだその鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔」 「どこの愛護家かと思いました。さっきのデレデレな可愛がりっぷり」 「仕事だ」  主任は眼鏡を指で押さえてぶっきらぼうに言った。  まず足の速い伝令役のちぇんを口説き落とすと、その後の展開がずっと楽になるということをヤマベは学んだ。  木々と下ばえが生い茂り、落ち葉に覆われた枯れ川や沼や泉の点在する森の中は、四百メートルという数字以上に広く、複雑だった。  二人は何日もかけて森中の巣を見つけ、ゆっくりをカウントしていった。 「北東地区、今日はP15、P16とR9の三つの群れを見つけました。もうじき終わりそうです」 「おまえ、センターのあたりが手薄だったろう。あの辺は俺もやってないから、明日はまた合同だ」  二人はまた森の中の餌場を調べ上げ、植物や動物の生育状況を調べた。 「餌場は全部で四十五箇所でした。重複を削ったらやや減ると思います。  植物ではイチゴやキノコなどの目立つものはすでに消滅寸前、  ワラビ、ゼンマイ、ユリ根、セリなどの山菜類もかなり採集困難な状況でした。  動物は樹上のリスなどを除いていません。鳥類も見当たりません。昆虫類が減少しているためでしょうね。  それから、巣穴掘りや跳行による表土の荒れも目立っています。いずれ土砂の流出につながるでしょう」 「煮詰まってんなあ」 「ゆっくりたち自身も危機を自覚しているようです。食べ物が少ないよ、とこぼしていましたから……」 「それは自覚じゃなくて、ただの愚痴だ」  主任は煙草をふかしながらむっつりと言い、尻ポケットからICレコーダーを引き出した。 「P7の群れの会議とやらを録音してきた。聞くか?」  ヤマベはうなずき、再生した。 「ぱちゅりー、たべものがすくないよ! おなかがすいて、ゆっくりできないよ!」 「どうしたらいいか、ゆっくりかんがえてね!」 「むきゅう……そうだわ、お隣のありすのむれが、昨日みなみへ引っ越していったわ。  お隣があいたから、ゆっくりそちらへうつりましょう」 「ゆっくり!」 「ゆっくりひっこそうね!」 「むーちゃむーちゃできりゅね!」 「でも、ありすたちは食べ物がなくなったっていってたよ?」 「ゆゆん、ありすはかりがへただからだよ! まりさならたっぷり食べ物をみつけてやるんだぜ!」 「ゆうー、まりさはたのもしいよ! ゆっくりさがそうね!」  ヤマベはスイッチを切り、暗い顔で言った。 「崩壊目前じゃないですか」 「そうだ」  うなずくと、主任は煙草を携帯灰皿に押し込んで立ち上がった。 「だから、急がなけりゃな。ああ、それと」 「はい?」  立ち去ろうとしたヤマベに、主任は指を向けて言った。 「リリース体は俺が選ぶからな」 「えっ……なんでですか!?」  ヤマベがショックを受けた顔をした。主任は首を横に振った。 「当ててやろうか。おまえ、初日に出会った一家をリリースしてやろうと思っているだろ」 「は……い」  図星だったので、ヤマベは動揺した。主任がため息をついた。 「それではだめだ。無作為抽出するんだから。俺がやる」 「……はい」  駆け出しに過ぎないヤマベは、うなずくしかなかった。  ヤマベはその日、なじみの群れを避けて別の群れへ向かった。そこで出会ったゆっくりたちに飴を与え、しばし歓談を楽しんだ。 「ヤマベさん、ヤマベさん!」 「なあに、まりさ」 「この辺りはずいぶんごはんが減っちゃったのぜ! まりさは旅に出たいのぜ!」 「そう、まりさは勇敢ね」 「ゆっふん! その通りだぜ! でも、あみさんがじゃまだからどけてほしいのぜ!」 「ごめんね、まりさ。それはだめなのよ。外にはまだ狐さんがいっぱいいるの」 「ゆううう……」  憮然とするまりさの後ろから、ぴょこ、ぴょこっ、と三匹ほどの子供が顔を出す。  丸くて愛らしい赤まりさが一匹と、赤ちぇんが二匹だ。  まだその子たちの食べ物を削るほど深刻ではないらしく、つやつやと頬を光らせている。 「おねーしゃん、ゆっくち!」 「ゆっくちちていってね!」 「わかりゅよー! ゆっくち、ゆっくち!」  ぽいん、ぽよんと赤ゆっくりたちは靴先に群がる。親まりさが目を細めて言った。 「ゆっくり、ゆっくり……。しんだちぇんの、わすれがたみなんだぜ。まりさのとってもゆっくりしたおちびたち」 「可愛いわね」  ヤマベは、手を伸ばしてまりさの帽子を撫でた。使い込んだフェルトの毛羽立った感触が手に残る。  一抱えもある黒帽子の周りを、ほんのクッキーほどの大きさの黒帽子と緑の頭巾が、ぴょんぴょんと跳ね回った。 ([[後編>ゆっくりいじめ系2395 ずっとゆっくりするんだよ(後編)]]へ

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