その他 恐怖のゆっくり人間

「ただいま~っと」
今日も農作業で疲れた体を引きずって我が家に帰る。
「はいはいどうせここで『ゆっくりしていってね!!!』とか言われるんだろ分かってますよっと」
一人暮らしの長い独身特有の危ない独り言を呟きながら玄関の扉を開ける。案の定居る。
「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりしていってね!!!(野太い声)」
何だ何だこのゆっくりは。一匹は普通のゆっくりれいむだが、隣のゆっくりまりさは異様に声が低い。
まるで人間の成人男性のような声だ。しかもかなりいい声。
「何なんだこのゆっくりは。やたら声が低いなオイ。それはともかく、ここは俺の家だ。出て行け」
よく見るまでもなく、ゆっくりまりさからは胴体が生えている。寝そべっているが、六尺はありそうだ。
いやあ最近は色んな新種が発見されてると聞くが、まさか見上げるほど背の高いゆっくりが出るとは。寝てるけど。
「ゆっ!ここはれいむとまりさのおうちだよ!!しらないおにいさんはでていってね!!」
「ゆっくりでていってね!!でていかないならごはんをもってきてね!!(野太い声)」
「違うだろ、ここは俺の家だよ。出て行かないと食っちまうぞ」
まりさ(大)の方はかなり量が多いので大変そうだが。
「ゆゆ~!ゆっくりできないひとはゆっくりでていってね!!」
「ゆっくりでていってね!!ゆっくりまりさぱんち!!!(渋くて迫力のある声)」
いきなりゆっくりまりさが立ち上がり、左ジャブを繰り出してくる。
たかがゆっくりと思って甘く見てはいけない。普通に痛い。鼻血出た。
「ゆっゆ!!まりさはつよいんだよ!!おにいさんなんかいちころだよ!!」
「ほんきでたたかったらおにいさんがまりさにかてるわけないんだよ!!(ちょっと掠れた高めの声)」
このゆっくり……できる!!紅魔館の門番に月一で挑戦し続けて来た武道家としての血が騒ぐ。
本能が告げる。このゆっくりは倒すべき宿敵だと!
気を引き締めると再びまりさ(大)が間合いを詰めてきた。右手でのストレートを繰り出してくる!
「ゆっくりしね!!(ドスの利いた声)」
「だが甘い!」
引き手から瞬時に行動を予測していた俺に隙は無かった。左手で右側に流しつつ懐に入る。
そのまま右の縦拳を水月に叩き込む。感触で相当に鍛え上げられているのが分かった。
だが、効いてる!!
「ゆ゛ぐっ!!(獣が唸る様な声)」
「まりさ!!がんばってまりさ!!ゆっくりできないひとなんかにまけないで!!」
どうやらゆっくりれいむは完全に傍観らしい。ありがたい。この難敵を前にすればあんな饅頭でも危険因子だ。
怯んでいるまりさ(大)の膝に足刀を叩き込む。が、足を引いて避けられる。マズイ、隙だらけだ!
バランスの崩れた俺の腹に、引いた膝が戻ってくる。
「ごふっ!!」
「ゆっくりおかえしだよ!!(力の篭った怒声)」
胃液が口の中に戻ってきた。酸っぱい。
胃液を飲み下してまりさ(大)の胴体に組み付き、突進して押し倒す。
「ゆゆゆゆゆゆ!?ゆっくりしていってね!!(力士のような声で)」
「まりさ!!まけないでねまりさ!!ゆっくりたたかって!!」
マウントポジションを取れた俺は直感的にまりさ(大)の頭部の皮を引き剥がしにかかる。
いくら胴体が生えていようが、頭の強度は変わらない筈!
「うりゃあああああああ!!!」
まるでレスラーの覆面を剥がすかのように裂帛の気合を込める。
「ゆ゛ぐう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!ゆっくりはなしてね!!ゆっくりはなしてね!!(熊の様な声)」
「なにするのー!!まりさをはなしてね!!ゆっくりはなしてね!!」
まりさ(大)に背中をガンガン殴られ、横からはそれまで傍観に徹していたゆっくりれいむが体当たりしてくる。
だがこうなってしまえば……俺の勝ちだ!!
「くたばりゃあああああああ!!」
「ゆ゛ぶびゅっ!!!!(恐竜の様な声)」
渾身の力を込めてまりさ(大)の皮を引っぺがす。と同時に胴体の抵抗も止まった。
「はぁっはぁっ……どうだ、伊達に門番に月一でフルボッコにされてねえぞ」
「ま゛り゛ざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
と、その時。ゆっくりれいむの声に応えるかの様に胴体が起き上がった。
完全に油断していた俺は振り落とされる。まさかこいつ全身潰さないと駄目なのか!?
慌てて後ろに下がって攻撃を警戒するが、何もして来ない。妙だな、と思っていると突然まりさ(大)の胴体が頭部をかきむしりだした。
「ま゛り゛ざ!!?な゛に゛やっでるの゛!!じんじゃう゛よ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
ゆっくりれいむの声を無視して顔をかきむしり、いや違う。餡子を引き剥がしているのか!
大量の餡子を剥がし終えるとそこには人間の男性の顔が!!
「っぷは~苦しかった。あれ、どこだここは。俺は一体……?」
「お゛、お゛じざん゛!!どうじでい゛る゛の゛!!?ま゛り゛ざをどう゛じだの゛お゛お゛お゛!!!」
おじさん?一体何を言ってるんだこのゆっくりは。
「あの、一体何がどうなってんですか?」
どうやらこの男ゆっくりではなく人間らしい。うろたえるゆっくりれいむを取り押さえて事情を話す。
「はあ、俺がゆっくりまりさだったんですか……?あ、そういえば夢の中で誰かと戦ってたような気が……」
「夢じゃないですよそれ。ついさっきまで俺と戦ってたんですよ、あなた」
「そうだったんですか。それはとんだご迷惑を。……しかし一体何故こんな事に……」
「何か覚えてないんですか?夢、とか言いましたけど、じゃあ寝る前は何を?」
「寝る前……あぁ、そう言えば家に入り込んできたゆっくりまりさの帽子を酔っ払って被ろうとしました。
 よこせと言っても聞かないし、力ずくでとろうとしても一向に剥がれないんであったまきて本体ごと被ったんです」
「で、それから記憶が無いと?」
「ええ、そうです。しっかし酔ったとは言え何つう事を……自分で自分が分からないですよ」
「まあ、酔った時なんてそんなもんですよ」
はははは、と何故か和やかな雰囲気に包まれる荒れた玄関。
無意識下とは言え、戦いで友情でも芽生えたのか。
ひたすら泣き叫ぶゆっくりれいむをよそに、男達の笑い声がいつまでも響き渡っていた……











その晩、意気投合して元ゆっくり男と夕食を一緒に食べた。
食後の酒を一緒に楽しんでいると、男が酔ってあのゆっくりを被ろうとしたので殴り倒してやめさせた。
ゆっくりを被ったらゆっくりになる……あなたの身近にもゆっくりになってしまった人が居るかもしれない……

PARASITE-YUKKURI VS TALKER ……TALKER WIN!!


作:ミコスリ=ハン

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最終更新:2008年09月14日 09:23
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