夜の森はひっそりと静まり返っていた。
ただ梟や蛙,虫の羽音だけが静寂をかき乱さぬ程度に僅かに耳に届く。
この森はゆっくりの森。里の人間が踏み入る境界を定め,世俗と切り離した領域。
昼間と違い,大群をなすゆっくりの,殺意を引き出させる不快な声は欠片にも聞こえない。
あれらのおおよそが太陽の下で動くため「だ。
夜間の活動が認められる稀有な,夜行性のふらんやれみりゃの影が,蝙蝠と混じり遠い空で月光に溶け込むかのように小さく消えていく。
彼らもまた,己の声を殺し森野中にひっそりと隠れていた。三対の瞳が虚空を瞬きせず見つめている。
時間は丑三つ時。
生者の支配する時間からは程遠く,男たちの姿も亡者の如く気配を完全に絶っていた。
彼らはハンター。ゆっくりを狩る者たち。人間の里で唯一ゆっくりと干渉する。
彼らはゆっくりを殺し,騙し,陥れ,あらゆるゆっくりを小遣いほどの報酬に変えて生きてきた。
今,ゆっくりを生きたままその生皮を剥いで繋ぎ合わせた着ぐるみのような代物を被り,
大木に茂る葉の中に身を潜めるのは何故か。
ゆっくりが寝静まる深夜の時間を選んで何を待つのか。
やがて,それは現れた。
「来たか?!」
「森が騒ぎ出した…。情報どおりだ。来るぞ,気づかれるなよ!」
お互いだけが聞こえるように声を小さくし,男たちは視線すらも隠すように針の如く眼を細くして「それ」が姿を見せるのを待った。
はじめの動きから,やや緩慢に,それは森の鬱蒼とした木々を押しのけるように,天に昇る様に,姿を伸ばす。
まさしく「伸ばす」ように,巨大な影が月光に姿を晒した。
半透明な柔らかいシルエットがぬめぬめと光を遮り,形を成す。
毛むくじゃらなその胴は獣のようでもあり,そうではない。
長い足もまた艶やかな毛並みに覆われ,股下に千年樹の登頂を跨ぎ,巨大する影を落とす。
ぶらぶらと揺らす手は団扇?のようなものを持ち,ひらひらと手持ち無沙汰に仰いでいる。
男たちの視線は,しかしそんな姿かたちに向けられてはいなかった。
何よりも強烈で,何よりも特徴的なその顔は,
あらゆるものを小馬鹿にするように,薄笑いを浮かべほんのすこし頭をかしげている
きめぇ丸,とよばれるゆっくりのそれだった。
「すげぇ…!すげぇよ… ほんとにいたんだ。『きめら丸』…」
男の一人が感極まった声を発した。誰もそれを咎めはしなかったが,
瞬間,ぶらぶらと行進を続ける,巨大なそれ,『きめら丸』の動きが止まり,男たちが潜む方向に顔を向けた。
「見つかった!逃げるぞ!」
男たちの判断も素早く,一斉に逃亡を開始。それと同時に,凄まじく鋭い空気を斬り裂く音が夜空に響き渡る。
きめぇ丸の大群である。
静かな森の中に一瞬で数百のきめぇ丸が,巣を強襲されたスズメバチのように男たちを追尾する。
猟銃の音ときめぇ丸の羽音。二つの音が重なり合い,夜の森は喧騒に暫し包まれた。
「はぁ…はぁ… もう 追ってこないか…?」
「…大丈夫だ。奴らの声も,音も聞こえない…。」
「ふぅ…あんなに敏感なら…捕獲なんて無理じゃないのか…?」
森のはずれ,人里に近い場所に狩人が建てた山小屋があり,男たちは辛うじて追撃の手を免れ逃げ延びた。
ゆっくりにあらざる速度で飛行するきめぇ丸を撒く事ができたのは,男たちが入念に逃走経路と有事の際の計画を立てていたからだが…
きめら丸
その姿はゆっくりを超越し,人の識るところにない風格を備える神秘の存在。
この存在を知るものは少なく,人の知るところに現れることはない。
あるものはこう言った。
「あれはゆっくりではない。妖怪でもない。もしやすると,神,なのかもしれない」
と。
男たちは,あるきめぇ丸の習性を調査するうちに,きめら丸の存在を知った。
きめら丸はきめぇ丸に崇められている。
深夜,正確に午後二時を迎えるときに,森のいずこからか姿を見せ,そのとき大勢の,いや森中に住むきめぇ丸がきめら丸の行進に
付き従うという。
男たちの知るところはそこまでである。
彼らはより確かな知識を得ようときめら丸の監視に乗り出たが,今宵は失敗に終わった。
「今度は…うまくいくのだろうか」
きめら丸。それは人が近づくべきものではないのかもしれない
こんにちは
あるいはこんばんは
もしくはおはようございます
スレでVXのゲームを作成しています。VXの人とでも呼んでください。
今回はきめら丸(二足歩行)について書いてみました。
酒のノリは怖いですね。
きめら丸がシシガミ様っぽいなと書き込んでみてからすぐにSSにしてみました。
中途半端な上にもののけ姫のパロにすらなってません。
誰か本格的に設定でも考えましょうか。
あと虐待じゃなくてごめんなさい。
最終更新:2008年09月14日 09:41