ゆっくり加工場系19 水羊羹饅頭

暑い季節がやってきた。
容赦なく降り注ぐ日光に人間の体力と精神力はややお疲れ気味。
そんな時にも当然ゆっくりと遭遇することがある。
しかし、甘味で疲れを癒そうとか加工場へ持っていこうという判断をする前に
自発的にゆっくりが神経を逆なでする行動をとり餡子をぶちまけられる展開となることが多い。

「持ち込みゆっくり」数の減少は加工場の貯蔵餡子(在庫)にも影響を与える。
そのためこの季節、ゆっくり加工場イチオシの商品は
「ゆっくり胡麻団子」等のこってり系から「ゆっくり水羊羹」のさっぱり系に移行するのだった。
売れ行きは好調、餡子消費量も水羊羹なら水と寒天で薄めるので問題ない。

さて、俺は今まさに夏の売れ筋商品「ゆっくり水羊羹」のラインに入っていた。
売れ筋商品は自然とバリエーションが増える。
ゆっくりの餡子だけを使用した至って普通の水羊羹。
ゆっくりの餡子を半分くりぬき皮の中で水羊羹に仕立て上げる水羊羹饅頭。
赤ゆっくりを使用したプチ水羊羹饅頭…他にも数種類作られている。

俺が配置されているのはプチ水羊羹饅頭ラインだ。
作業工程はとても簡単。
1.コンベアから流れてきた赤ゆっくりにスプーンをつっこみ
2.餡子を半分くりぬき半円形の鉄板に赤ゆっくりを固定する。
これだけ。

あとは にとり印の機械が勝手に作ってくれるのだ。
スプーンをつっこんだ穴へ細長い栓が突き刺さった後
熱々の寒天液を流し込み撹拌、赤ゆっくりは冷蔵庫へ移動していく。
あっという間にプチ水羊羹饅頭の出来上がり。
子供のおやつに、お茶菓子にと売り上げは上々らしい。


ライン長が号令をかける。朝礼が始まった。
本日の生産ラインはプチ水羊羹饅頭を500箱分と
新製品☆できたてプチ水羊羹饅頭を300箱分。
俺達の苦労?の甲斐あって、新製品の売り上げも好調とのことだった。

さて、今日も一日お仕事お仕事。
まずは通常のプチ水羊羹饅頭からだ。
機械が動き出す。やがて複数の甲高い泣き声がこちらに近付いてきた。
ベルトコンベアに赤ゆっくりが20匹程乗っている。
作業開始。俺を含めた作業員達はお決まりの挨拶をかけた。

「「「ゆっくりしていってね!!!」」」
「「「うっくいちていっちぇね!!!」」」

舌足らずな赤ゆっくりが満面の笑みで答える。
ちなみにこのラインの作業量は一度に25匹までと決められている。
今から行われる光景を見た赤ゆっくりがパニックを起こし逃げ回り潰しあい…とならぬよう
このラインに到着する直前まで防音壁+冷気をかけ仮眠状態にしてある。

ベテランの作業員(52歳・♀)が一匹の赤ゆっくりを優しい手付きで拾い上げる。
聖母の如く慈愛に満ちた声で赤ゆっくりに語りかけた。

「ようこそ、ここはとってもゆっくりできる天国よ!
 お母さん達に頼まれて、皆を先に連れてきたのよ。
 仲良くゆっくりしていってね!」
「「「ゆ~!!うっくぃすう~!!!」」」

ベルトコンベアに乗った他の赤ゆっくり達も安心しきり、嬉しそうにはしゃぎまわる。
まあ確かに、短いながらもこれだけ喜んでいられるのだから天国かもしれない。

作業員は拾い上げた赤ゆっくりを左手で包み込んだ。
プチトマト程のそれはすっぽりと掌に包み込まれる。
もちろん赤ゆっくりの視界は遮られる。

「う?まっくらだよ~?」
「大丈夫よ、これは隠れんぼってお遊びなの。
 皆で楽しくお遊びしましょうね♪」

言いながら、素早い動作で赤ゆっくりの頭頂部からスプーンを突っ込み
餡子を半分掬い取った。声をあげる間もなく赤ゆっくりの顔が驚愕の表情で固まる。
この餡子と残った皮は検査用だ。シャーレに入れられコンベア下の籠に放り込まれた。
ベルトコンベアの周囲は落下防止とゆっくりたちの目隠しのため鉄板がそびえたっている、
そして一瞬の出来事だったため、残りの赤ゆっくりは作業員がまだ赤ゆっくりと遊んでいると思い込んでいた。

「ゆ~!りぇいむもあしょぶ~!」
「ゆゆっ!まりしゃも、まりしゃも~!」
「ゆぅ~!」

作業員は笑顔を崩さず、残りの赤ゆっくりに左手を開いて見せた。
先程までいたはずの赤ゆっくりがいない。

「ゆ?いないよ?りぇいむのいもーとがいないよおおおおお???」
「どーちて???どーちてえええええええええ??????」
「おばちゃん、りぇいむはどこへいったの!?ゆっくいせつめーちてね!!!!」

赤ゆっくりに動揺が広がる。すかさず優しい声色で作業員が語りかけた。

「実は皆で遊ぶために、さっきの子に協力してもらったんだよ!
 どこかに隠れてるさっきの子を皆で探して見つけるの。
 見つけたら皆にとても美味しいお菓子をたっぷりあげる!」
「ゆゆゆう~!おいちいおかし~!!」
「わーい!わーい!!おぃちいものがたっぷぃたべれるよ~!!」
「はやくたべたいよ~!はやくしゃがしにいこうお~!!」

赤ゆっくりは最初に挨拶した時より興奮した様子ではしゃぎまくった。
本能的にお菓子は大好物として刷り込まれているらしい。

さ、じっと生暖かな眼差しで見つめていた俺達も作業再開だ。
おもむろに何もない加工場の床を見て、何かを発見したかのような表情と
驚いた声で「あ!」と叫ぶ。
突然の大声に赤ゆっくり達も気持ち悪い驚愕の表情で固まった。

「さっきの子、俺の横を飛び跳ねていったよ!
 ほらおいでおいで!皆で見つけたほうが早いよ!!」

勿論そんな奴はいないわけだが。
俺、ここで働き始めてから演技力も向上したんじゃなかろうか。
ゆゆ!と気を持ち直した赤ゆっくり達が俺の前に集まってくる。
「おじちゃん!うっくいはやくちてね!」という声が響く。
後は先程のベテランがこなした作業を行うだけだ。

一匹ずつベルトから取り出し掌に包み込む。
柔らかく暖かい手の感触にきゃっきゃと顔をほころばせる赤ゆっくりも多いが
笑顔も気持ち悪いので気にしない。
ほんの少し力を込めるだけで赤ゆっくりの視界は遮られ手中に固定される。
素早い動作で餡子を半分掬い取り足元のバケツにスプーンに移された餡子を入れる。
そして皮を隣のラインにある機械に固定。あとはこれを繰り返す。
一人あたり5~6匹を担当すると、今度は別の作業員が先程の俺と同じ演技をする。

「あ!いたよいたよ!さっきの皆もいる!!ほらほら、早く遊んでおいで!」
「「ゆぅ~!ゆっくい~♪ゆっくい~♪」」

一連の作業はスピードが大切だ、何しろ一度に20匹前後しか捌けない。
これ以上増やすと俺達が何をしているか、本能的に感付くゆっくりが現れるのだ。
少々面倒くさいが体の小さな赤ゆっくりの餡子をくりぬくため作業自体は早かった。
水羊羹饅頭ラインは成体のためとにかく五月蝿いらしい。作業員はそのストレスをゆっくりにぶつけるから美味と評判だが。

一時間程でプチ水羊羹饅頭生産は終了した。
こんな楽な作業でお金が貰えるとは、なんて幸せ者なんだ。
そう思いながら、俺は次の作業への準備にとりかかった。


終わり


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最後まで読んで下さってありがとうございました。
初のSSです。初の分際で加工場に手を出す大馬鹿者です。
至らない点がたくさんあると思いますが、感想を教えて頂けたら嬉しいです。



第二YR

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最終更新:2008年09月14日 10:12
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