ゆっくりいじめ系936 カルガモとゆっくり 前編

「はあ~~~!! 生き返るぜぇ~~!!」

露天風呂に入り、定番のセリフを口にする。
男は、休日を利用して、温泉宿に泊まりに来ていた。
今は、行楽シーズンではないこともあって、客足は少なく料金も安い。
現に男風呂には、男以外誰も入浴客はいなかった。
おそらく、女風呂も同じようなものだろう。
温泉は、人間が生んだ文化の極みだ。
肩こり・腰痛に効くのはもちろんのこと、何より精神を癒してくれる。
日々の堪った疲れも、垢と一緒に抜けていくというものだ。
男は、湯に乗せた盆から熱燗を取ると、お猪口に注いで、グイッと口に持っていった。

「はあ~~!! これだねぇ~~~!!」

一気に喉に流し、またもや定番のセリフを口にする。
温泉の中で飲む酒は格段にうまい。
一緒に持ってきたつまみを口にしては、酒を飲み、何時しか気分が高揚した男は、まだ若い身空で中年のように調子の外れた歌を口ずさみだした。
しばらく男が歌っていると、そんな調子はずれの歌が気になったのだろうか、近くの茂みで何かがゴソゴソと動き出した。
ここに来る途中、熊注意という看板があったのでもしやと緊張したが、それにしては揺れが小さすぎる。
熊でないなら、いったいなんだろう?
男は、揺れる植え込みを注視した。

「おお、カルガモか!!」

そこから出てきたのは、カルガモの親子だった。
親カルガモと計5匹の子カルガモが、植え込みから飛び出してきた。
カルガモは、川や池、沼に生息していることが多いが、あまり人間を怖がらない性格なのか、時々、温泉やプールなどでみられるケースがある。
このカルガモの親子も、そういった部類の親子なのだろう。

それにしても、何とも愛らしい姿ではないか。
親カルガモを筆頭に、子カルガモが一列になって、その後にくっ付いている。
まだ生まれたばかりなのだろうか、ヨチヨチと頼りない歩き方が、一層男の心をくすぐる。

「おいで!! こっちにおいで!!」

男はカルガモに向かって、左手に酒のつまみを持ちながら、こっちに来いと手首をふる。
本当ならこっちから出向いて捕まえたいところだが、いきなり動いたら逃げるかもしれないし、何より、あの親子愛に茶々を入れるような無粋な真似はしたくない。
そんな男の気持ちが伝わったのか、それとも手に持ったつまみが気になったのだろうか。
カルガモの親子は、男の元にやってきた。
石畳の低い所から、温泉に体を付ける。
まだ泳ぐのに慣れていないところも、とても可愛らしい。
男は、子カルガモの口元に、つまみを持っていった。
それを子カルガモ達は、チビチビと美味しそうに咀嚼する。

「ホントかわいいな」

親カルガモは、美味しそうにつまみを啄ばむ子カルガモと、それを与える男の様子を傍でじっと見ている。
男が何かしてこないか見張っているのだろうか。
出来ることなら自分も食べたいだろうが、そこはさすが大人と言ったところ。
親の責務をしっかりと果たしている。
それに、人間にしてもカルガモにしても、子供の笑顔に勝る御馳走はないと言うことなのだろう。

男は少しずつつまみを与えていったが、さすがに5匹もいると、つまみを取ることが出来ない要領の悪い子も出てくる。
そんな食べられない子カルガモが、ヨチヨチと湯に浮かべた盆に乗り込んで、つまみを食べ始めた。

「あっ、こら、おまえ!!」

男は、そんな子カルガモを降ろそうと腕を上げたが、少し躊躇った後、その手を引っ込めた。
別につまみなんて高いものではないのだ。
カルガモ達の愛らしさを見せてもらった駄賃だと思えば、むしろ安いくらいだ。
男は、他も子カルガモ達も盆の上に乗せてやった。
さすがに、カルガモ5匹では、盆も沈んでしまうので、水の中で抑えてやる。
一瞬、子を掴まれた親カルガモがビクッとしたが、すぐに男が手を離すと、興奮も収まったようだ。
危害を加えないことが分かったのだろう。
まあ、こんなところに出入りしていることもあって、人間になれているということもあるに違いない。
目の前で一生懸命食べる姿を見ていると、男のほうも楽しい気分になってくる。
こんなサプライズがあるなんて、本当に温泉に来て良かった。
男は、盆の上で一生懸命つまみに食い付く子カルガモ達を、トロンとした表情で見つめ続けていた。





「ゆゆっ!! いいものみたよ!!」

男がカルガモの親子に餌を与えている頃、植え込みの中から、その様子を見続けていた人物がいた。
いや、それは人物とは言えないものだった。
単位に匹か個かどっちを付けるか寺子屋の先生が悩んでいた、生物というか饅頭というか訳ワカメな物体。
そんな物体が、ムカつく笑みを浮かべながら、植え込みの中に消えていった。





男は一旦昼食をとり、近くを少しぶらついた後、再び風呂に入った。
手には盆を持ち、その上には大量のお菓子が載せられている。
酒のみの男が菓子など食べる筈もなく、もちろんカルガモに与えるためだ。
男は服を脱ぐと、盆とタオルを持って、風呂の中に入っていった。
今度も風呂には誰も客はいなかった。
男は、適当に浴び湯を済ませると、真っ先に露天風呂のほうに向かう。

「はあ……やっぱりいないか」

どうやらカルガモの親子はいないようだ。
まあ仕方がないだろう。あの親子だって、この温泉に住んでいるわけではないのだ。
もう今日は来ることはないだろうが、それでも男は盆を持って中に入った。
万が一、カルガモの親子が来た時、あげるお菓子を持っていなくて後悔したくない。

「あああぁぁぁぁぁ――――――!!!!」

全身から絞り出すような声と共に、大量の湯をこぼしながら、男の体が露天風呂の中に沈んでいく。
男は湯が静まる頃合いを見て、盆を湯の上に付けた。
しばらく湯に当りながら、キョロキョロ辺りを窺いつつ、カルガモの親子が来るのを待っていた。
しかし、親子は一向に来る気配は見られなかった。

「しゃーない、諦めるか!!」

仕方がないと、盆を持って露天を後にしようとした……が、その瞬間、植え込みがごそごそ動き出した。
さっきと同じく、ささやかに揺れるそれは、間違いなくカルガモだろう。

「おおっ!! また来たな!!」

男は嬉しくなって、揺れ動く植え込みを注視した。
しかし、男の期待とは裏腹に、出てきたのはカルガモの親子ではなかった。



「ゆっくりしていってね!!!」



始め、男は出てきたそれに、腰を抜かしそうになった。
植え込みから出てきたそれは、真っ黒な帽子を被った、金髪ウェーブの生首だったからだ。
しかし、その生首が「ゆっくり」と喋ったことで、男はどうにか平静を取り戻した。
そして、マジマジと生首に視線を送る。

「こ、これが、噂に聞くゆっくりって奴か……」

近年、幻想郷に爆発的に増え始めた、謎の生物と言うか物体というか、一言で言ってしまえば生きた饅頭、ゆっくり。
男の住む里付近には、まだゆっくりは住み着いていなく、見るのはこれが初めてだった。
初めて見れば、生首だと思って腰を抜かしそうになるのも無理はない。

そんな金髪帽子のゆっくり、いわゆるゆっくりまりさは、植え込みから出てくると後ろを振り返り、「ゆっくりでてきてね」と声を掛けている。
男は誰に言っているのだと興味深く見ていると、植え込みからまりさをミニチュアにしたような物体が、ぞろぞろ飛び出してきた。
計5匹。全部が、ゆっくりまりさ種だった。

「ちびちゃんたち!! ゆっくりあとについてきてね!!」

初めに出てきた大きなまりさが、5匹の子まりさに言ってくる。
見たところ、どうやらこいつらは家族らしい。
まりさ一家は、カルガモの親子のように、親まりさを先頭に石畳の上をゆっくり飛び跳ねている。
どうやら男のほうに向かっているようだ。
しかし、男は風呂に入っている。
こいつらは知能を持っているといっても、所詮は饅頭だ。
水に濡れたらふやけて溶けてしまうのではと男は疑問に思ったが、露天風呂の縁まで来た一家は、いきなり全員で帽子を取り始めた。
そして、その帽子を風呂の中に浮かべてきたではないか。

「これから、ぼうしののりかたをれんしゅうするからね!! まりさのまねしてやってみてね!!」

そう言うや、親まりさは帽子の上に乗り込むと、帽子の中から取り出した枝をオール代わりに、器用に水上を動き回った。
子まりさ達も、そんな親まりさの真似をして、少し不安げな表情を見せながらも、全員帽子に乗り込み、水上移動を始めた。
初めはたどたどしかった子供たちの帽子乗りも、次第に慣れてくると結構様になってきたのが、手に取って分かる。

「ゆゆっ!! みんな、じょうずだね!! さすがは、まりさのこどもだよ!!」

親まりさは、子供たちの様子を見て、満足そうな顔を見せる。
子供の成長が、よほど嬉しいのだろう。

男はそんなまりさ達の様子を見て、結構良いものだなと思い始めた。
最初は生首っぽくて気持ち悪いと思ったが、一生懸命枝を咥えて練習している様は、さっきのカルガモの親子に重なる部分がある。
子供達の舌足らずな口調が抜けきらないところも、男の心をくすぐる要因となっていた。
結局のところ、この男は可愛いものに目が無いのだ。
すっかり上達した子まりさ達は、親まりさを先頭に、露天風呂の中を行ったり来たりしている。
家族団欒で実に楽しそうだ。
カルガモも来ないし、どうせ湯に付けたお菓子なんて持って帰ることは出来ないので、男はこのまりさ一家に菓子を与えることにした。

「お~い、そこのゆっくりたち。今暇か?」
「ゆっ!? おじさん、まりさたちになにかよう?」

おじさんって年じゃないんだがなあと少しムッとするが、ゆっくりに人間の年齢なんて分からないだろうと、考えを改める。
まりさ一家は、人間に恐怖を感じていないのか、疑いもなく男の元にやってきた。

「お前たち、腹へってないか? 良ければ、この菓子をやるぞ」
「ゆゆっ!! ほんとう!? まりさたち、おなかすいているよ!! ゆっくりちょうだいね!!」

親まりさの後ろでは、5匹の子まりさ達も、「ゆっくちちょうだいね!!」と男たちに満面の笑顔で要求する。
そんな様子を見て、意地汚いなあと内心笑いながら、カルガモの子に与えたように、少しずつ摘まんで、子まりさ達に与えようとした。
しかし、子まりさ達は、全員お菓子を持った男の手を無視し、一目散にたくさんのお菓子の乗った盆に進んでいく。
そして、帽子から盆の上に乗り込むと、帽子を被ることも忘れて、お菓子を食い始めた。

これには、男も唖然とした。
まさか、無視されるとは思ってもみなかったからだ。
男の手からチョビチョビ啄ばむカルガモを見た後だけに、いきなり盆に突き進んでいく子まりさ達の卑しさに少し幻滅してしまった。
しかし、まあ仕方がないかと、ショックを押し隠す。
所詮、まだ子供なのだ。
花より団子。胃袋と脳が直結しているのは、人間の子供も同じことだ。
意地汚いのは何もゆっくりに限ったことではない。
男は手に持った菓子を、盆の上に戻し、子まりさ達の様子を見続けた。

「むーしゃむーちゃ!! ちあわせ~~♪♪」

擬音を声に出しながら食べたら味が分からないんじゃと思ったが、あの満足そうな顔を見る限り、そんなことはないらしい。
それにしても、旨そうに食べるのはいいんだが、実に食い方が汚い。
手足のないゆっくりの性質上、どうしても食べ物を溢してしまうのは仕方がないことだが、それにしても汚すぎる食べ方だ。
犬や猫と違って人間の顔をしているだけに、人間の浅ましさを体現したような感じを受けてしまう。
しかし、男は再度かぶりをふって、何を馬鹿なことを考えているんだと、考えを否定した。
確かに、人間の顔をしてはいるが、こいつらは人間ではないのだ。
ペットならともかく、野生のゆっくりを人間の価値観に当てはめるなんて、馬鹿もいいところだ。
しかし、男のゆっくりに対する幻滅は、これに終わらなかった。

子まりさ5匹が、盆の上に乗ってお菓子を食い荒らしている最中、初めこそ親まりさはニコニコ顔でその様子を見ていた。
しかし、次第にその笑顔も薄れていき、遂に消えてしまうと、何かに耐えているのか、水上帽子の上でプルプル体を揺らし始めた。
まるで腹痛や尿意に耐えているような感じだ。
そして、突然ピタッと体の揺れが止まったかと思ったら、もう耐えられなくなったと言わんばかりに、お菓子の乗った盆に突進していった。

「みんな、たべすぎだよ!! あとはぜんぶまりさのものだからね!!」

帽子の上から、盆の菓子を舌で器用に口の中に持っていく。
大きさが大きさなので、子まりさと違い、盆の上に乗れないのだ。
よほど食べたかったのだろう。表情が必死すぎる。
さすがに大人の口は大きく、一口で子まりさ数匹分の菓子を、一気に食べつくす。

「むーしゃむーしゃ、ぼーりぼーり、くっちゃくっちゃ!! うっめ!! めっちゃうっめ!! しあわせ~~~♪♪」

まりさの口から落ちた菓子のカスが温泉の中にこぼれ、男は慌ててそれを取って捨てた。
しかし、そんな男の苦労などどこ吹く風、まりさは気にもせずに次の菓子にと狙いを定めては、ぼろぼろ溢していく。
男は、ゆっくりとは言え、さすがにこれはない思った。
あのカルガモの親は、一切つまみに口を付けることなく、子供たちの食事をジッと見守っていた。
鳥の親ですら、その程度は出来ることだ。
なのに、この親まりさはどうだ。
最初こそ耐えていたものの、すぐに耐えられなくなって、子供の菓子を巻き上げたではないか。
しかも、横では男が湯に落ちた菓子クズを必死で拾っているというのに、そんな事に目もくれず、次々溢し続けている。
カルガモと違い、人間と会話するだけの知識はあるのだ。
男が必死でクズを捨てている姿を見たら、手助けするなり、溢さないよう努力するなり出来るだろう。
男は、親まりさを叱りつけようとした。
しかし、そんな男に割って入り、子まりさ達が親まりさに文句を言ってきた。

「おとうしゃん!! たべちゅぎだよ!! まりちゃたちよりたべてりゅよ!!」
「うるさいよ!! おかしのばしょにつれてきたのは、まりさなんだよ!! だからいいぱいたべるのはあたりまえだよ!! ゆっくりりかいしてね」
「ずるいじゅるい!!」

男が脇で見ているというのに、あろうことかお菓子の取り合いで家族喧嘩を始めてしまった。
これには、いくら動物好きで可愛い者好きの男も冷めてしまった。
百年の恋も冷めたというものである。いや、この場合、ゆっくり熱も冷めたと言うべきか。
とにかく、こいつらはもう追い出そう。
これ以上見ていると、人間の欲望やどす黒いの部分だけを見ているようで悲しくなってくる。
と、ここにきて、男はあることに気がついた。
この親まりさ。さっきこんなことを言ってなかったか。



“おかしのばしょにつれてきたのは、まりさなんだよ”



どういう意味だ?
ここには、泳ぎの練習に来たのではなかったのか? ここにお菓子があることを、あらかじめ知っていたってことか?
意味が分からない。
男は、親まりさに説明を求めようとした。
しかし、男が説明を求めるまでもなく、一家は言葉の意味を教えてくれた。

男が考えに気を取られている頃、まりさ達がやってきた植え込みが、再び揺れ動き出した。
そして、中からは親まりさと同じくらいの大きさをしたゆっくりが飛び出してきた。
黒髪に大きな赤いリボンをしたゆっくり、ゆっくりれいむである。
その後ろからは、そんなゆっくりれいむをミニチュアにした子ゆっくりれいむたちが、さっきのまりさ達のように飛び出してきた。
親れいむと子れいむ4匹は、風呂の石畳を飛び跳ねこちらに来ると、露天風呂の縁で止まり、こちらに声を掛けてきた。

「まりさ、ゆっくりはやくれいむたちにもおかしをもってきてね!!」

子れいむたちも、親れいむの後ろで、「たべたいよ!!」だの「まりさだけずるい!!」だの、頬を膨らませながら怒っている。
男は訳も分からず、まりさ達とれいむ達を見比べていた。
まりさはと言うと、れいむがお菓子を持ってきてと言っているにもかかわらず、言うことを聞こうとしない。
そればかりか、あろうことか帽子の上かられいむたちを嘲笑するような笑みを浮かべ反論する。

「なにいってるの、れいむ!! このおかしは、ぜんぶまりさのものだよ!!」
「どういうこと、まりさ!? おかしをもってきてくれるっていったのに!!」
「おかしがほしかったら、じぶんでここまできてね!!」
「なんでそんなこというのおおぉぉぉ――――!!! おじさんがおかしをくれることをおしえたのは、れいむなのにいいいぃぃぃぃ―――――!!!」
「おじさんがおかしをくれたのは、まりさたちがかわいいからだよ!! れいむのおかげじゃないよ!!」
「ぞんなあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!!!!!」

まりさはそんなれいむを一蹴すると、再びお菓子に食らいついた。
子まりさ達も、れいむ達に一瞥をくれると、「ゆへっ!!」と鼻で笑い、親まりさに負けじと菓子に食らい付く。
来れるものならここまで来てみろと、言っているかのような表情だ。
一方、親れいむと子れいむは、風呂の縁から怨念の籠った視線と、罵倒を繰り返す。
「うらぎりものおおぉぉぉ――――!!!」とか「ゆっくりしねええぇぇぇ――――!!!」と、実に口汚い。


この一連の行動を見て、男は事のすべてを把握した。
つまり、こいつらは男を利用したのだ。
おそらく、この親まりさと親れいむは番いで、子まりさと子れいむはこいつらの子供なのだろう。
れいむの言葉から察するに、れいむは男が午前中にカルガモの親子につまみを与えているのを見ていたのだ。
それを親まりさや子供たちに伝えた。
そこで、れいむとまりさのどちらの考えかは知らないが、カルガモの親子のマネをして、男からお菓子をかすめ取ることを思いついた。
れいむは水に入ることが出来ないので、まりさが子まりさを連れだって男から菓子を貰い、後でお菓子をれいむ達の元に持ち運ぶ。
おそらくそういう算段だったのだろう。
男にお菓子をもらうまでは、無事成功した。
しかし、ここでれいむとまりさに相違が発生した。
まりさ達は、お菓子のあまりの美味しさに心を奪われ、れいむたちに持ち帰ることを止めたのだろう。
そして、植え込みの中からその様子を窺っていたれいむ達は、なかなか持ってこないまりさ達に業を煮やし飛びだしてきた。
細部は違うだろうが、これが一連の流れで間違いあるまい。


男は、急激に目の前の物体に腹が立ってきた。
そんな騙すような真似をしなくても、菓子が欲しいと素直に言えば、男はあげることに躊躇はしなかった。
それを、人の善意に付け込むような真似をしたばかりか、あろうことか、家族を裏切るような醜い光景まで見せられた。
カルガモの親子愛の感動も、このゆっくり一家の態度ですべてぶち壊しだ。
もうゆっくりには一生関わりたくない。
男はタオルを手に取ると、露天風呂から立ち上がった。

「ゆゆっ!! じめんがぐらぐらするよ!!」

男が立ち上がったことで、湯が波立ち、親まりさや子まりさを乗せた盆が安定しなくなる。
まりさ達は、突然襲われた揺れに驚き戸惑っていた。
周りは広大な露天風呂。落ちれば命はないのだ。

「こ、こわいよおおぉぉぉ―――――!!!」

子まりさ達は、必死で盆にしがみ付いて、波が収まるのを待った。
男は、そんなゆっくり一家に構うことなく、内風呂のほうに向かった。
どんなに腹立たしくても、自分の手で傷め付けるようなことはしたくない。
しかし、嘘をつき利用した報いはしっかり受けてもらうつもりだ。
それは時間が経過すれば、いずれ訪れる必罰である。
せいぜいそれまで至福の時を味わうがいい。
男は最後に一家を一瞥すると、露天風呂を後にし、二度と戻って来なかった。









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最終更新:2008年09月28日 18:58
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