紅魔館×ゆっくり系2 さらば愛しきメイド長

ある日の紅魔館。館主、レミリア・スカーレットが自室で寛いでいると、扉をノックする音が部屋に響いた。
「入りなさい」
と、部屋に招き入れる。レミリアの自室に直接やってくる者はこの館で二人くらいしか居ない。
「失礼いたします」
案の定、訪問者は完全で瀟洒な紅魔館のメイド長、十六夜咲夜であった。
だが、今の咲夜は完全でも瀟洒でもなかった。
冷静な声とは裏腹に物凄い勢いで扉を開け、猛然と部屋に飛び込んできた。
手には酷く不細工な館主の紛い物、紅魔館周辺でよく見かける食用生物の一種、ゆっくりれみりゃを抱えていた。
「……それが何かやらかしたの?」
「飼ってもよろしいでしょうか?」
「うーうー?」
「は?」
信じ難い言葉に耳を疑う。今、この瀟洒メイドまじかる咲夜は何を言ったのだ?
「よく聞こえなかったわ。もう一度言いなさい」
「このゆっくりれみりゃを、この紅魔館で飼ってもよろしいでしょうか!?」
「却下よ。どうしてそんな見苦しいモノを飼育しないといけないのかしら。貴女酔ってるの?」
「ぶー!ぶもがっ」
不細工フェイスで抗議するゆっくりれみりゃを黙らせる咲夜。
「素面です正気です正常です!勿論お嬢様のお手を煩わせる事は一切いたしません。全て私が世話します」
「駄目よ。そんな汚らわしい私の紛い物が私の屋敷をうろつくと考えただけでゾっとするわ」
「けっ結構可愛いんですよこの子!ほら、よく見れば愛嬌のある顔ですし!幼女ですし!ロリ体型です!」
「……身の危険を感じるわね。とにかく駄目なものは駄目よ」
「そう、ですか……このゆっくりを飼えばあの紅白も頻繁に遊びに来るようになると思ったんですが」
「―――どういう意味かしら?話しなさい」
「はい。先日神社に雑用を済ませに行った折に、紅白がこれと似たような物を可愛がっているのを見ました。
 話を聞いてみると、
 『きちんと言い聞かせればちゃんと応える良い子だ。そろそろこの子の遊び相手も欲しくなってきた』
 との事でした。どうでしょうお嬢様。これを飼えばあの紅白は必ず食いつきます!きっと向こうから出向いてきますよ!」
「…………いいわ。許可してあげる。ただし、貴女が全責任を持って飼育するのよ。紅魔館の恥部には絶対しないで頂戴」
「ありがとうございます!必ずやお嬢様の御期待に沿うよう命を賭けて飼育いたします!」
「うっうー♪」

その日から、咲夜の生活スタイルはガラリと変わった。ゆっくりゃはとにかく我侭だった。
夜寝かせようとしてもぐずって眠らず、眠るまでの三時間もの間絵本を何十冊も読んであげる事はザラだった。
ちなみにその間船を漕ぎ出したゆっくりゃに油断してベッドから離れようとすると火がついたように泣き出してリセットだ。
朝起きる時間は極めて不規則、早朝五時に目を覚まして咲夜を叩き起こす事もあれば、夕方まで起きない事もあった。
夕方まで寝ていた日は間違いなく徹夜コースである。寝ている所を起こせば泣いて叫んで暴れて大騒ぎ。
こんな状態でも、ゆっくりゃの安らかな寝顔を見るだけで咲夜の心は満たされた。
レミリアの世話をおろそかにする訳にはいかないので、当然咲夜の能力はこれまで以上にフル活用される。
飼い始めて三日目には、咲夜の睡眠は止まった時間の中でしか許されなくなった。
それも時間が動き出さないよう寝ながら集中しているので完全な熟睡を得る事は不可能だった。
それでも一日を二倍三倍に延ばす事で仕事に支障は出なかったが。
また、食事の世話も困難を極めた。肉も魚も野菜もパンも麺類も一切食べない。食べるのは甘い菓子類とジュースだけだった。
肉料理を出せば
「くさいからいや!さくやなんてきらい!!」
と床に投げ捨てその上に飛び降り踊った。
魚料理を出せば、
「きもちわるいからいや!さくやなんてきらい!!」
と側で控える咲夜の顔に投げ付け大はしゃぎした。
野菜料理を出せば、
「にがいからいや!さくやなんてきらい!!」
と皿ごと踏みにじり満足そうな笑みを浮かべた。
パンを出せば、
「すかすかするからいや!さくやなんてきらい!!」
と、トイレまで持って行って流しては喜んだ。
麺類を出せば、
「うー♪うー♪おもちゃだおもちゃ♪」
と服に派手な模様を作りながらテーブルの上に並べて遊んだ。
また、菓子類を出した時も酷く煩く注文をつけた。
「ぷりんじゃなきゃいやなの!!さくやなんてだいきらい!!」
とババロアを叩き潰し、数分後に用意されたプリンを
「こんなのぷりんじゃないもん!こんなのはさくやがたべればいいんだ!!」
と咲夜の髪に擦り付けた事もある。ちなみにこの時欲しがっていたのはプッチン前のプッチンプリンだった。
「くっきーがたべたいの!いますぐじゃなきゃやなの!さくやのばかぁー!!」
と駄々をこねたゆっくりゃに用意された焼きたてクッキーを、
「こんなくっきーいらないもん!こんなのはごみだもん!!」
と粉々に砕いた挙句妖精メイドの衣装箪笥の中にばら撒いた事もある。ちなみにこの時欲しがっていたのは白い恋人だった。
「しゅーくいーむがほしい!しゅーくいーむもってこないさくやはだめだもん!!」
とカーテンに噛り付いてねだったゆっくりゃに用意された手作りシュークリームを、
「こんなのだめなの!さくやのぱっどちょう!!」
と咲夜の下着の中に詰め込んで服の上から叩いて潰した事もある。ちなみにこの時欲しがっていたのはシューアイスだった。
咲夜が用意する食べ物以外にも強い関心を持った。妖精メイドの食事中にこっそり近付き、襲うのだ。
咲夜による報復を恐れて何も出来ない妖精メイド達はただ食事を投げつけられ、踏み躙られ、玩具にされるのを黙って見ていた。
こんな有様でも、ゆっくりゃの
「うー♪おいちー♪さくやのおかしおいちー♪」
この一言で咲夜は癒された。
ゆっくりゃの遊びはとにかく迷惑を振りまいた。
「くれよんちょうだいちょうだいちょうだい!!くれよんがなきゃしんじゃうぞ!!ぎゃおーぎゃおー!!」
と、寝ている咲夜の耳元で怒鳴り散らしたので与えたクレヨンは、その日の内に館内廊下に長大な線路を作った。
掃除しようとする妖精メイドは悉く
「こわしちゃだめなの!れみりゃのせんろなの!!さくやにいいつけるぞ!!ぎゃおー!!」
と脅され、結局ゆっくりゃが飽きる三日後まで放置された。
「れみりゃもぱちぇとおちゃするの!!させてくれなきゃたべちゃうぞ!!ぎゃーおー!!」
と不恰好なブレイクダンスを見せ付けるので大人しくするという条件付でレミリアとパチュリーの茶会に招待したら、
「こんなあついののめない!!さくやのぶわぁーか!!ぺっぺっ!!」
とレミリアとパチュリーの顔に熱い紅茶を噴き付けて逃亡、魔道書に落書きして遊んでいた。
四冊目を台無しにした所で小悪魔に取り押さえられ、以後図書館にはゆっくりゃのみ立ち入れない結界が張られた。
庭で遊んでいる時にシエスタ中の美鈴を発見し、盗んできた『れみりゃの』日傘を額に向かって、
「さくやのまねー!うっうー♪ねてないでしごとしなさい!このちゅうごく!!うーうーうー♪」
と叫びながら突き刺そうとした事もある。寝ながら気功でガードされたので、
「なんでささらないの!!ささらないとだめなの!!さくやにいいつけちゃうぞ!!ぎゃおーん!!」
とべそをかきながら日傘を振り下ろし続けた事もある。ちなみに気功ガードしていなければ確実に左目を失っていた。
大声でとっくに目を覚ましていた美鈴は面白がって延々振り下ろすに任せていた。シエスタを発見されてナイフ塗れになったが。
このような調子で紅魔館の新たな暴君ゆっくりゃは咲夜以外の約一名を除いた全ての住人に忌み嫌われていた。
だが、主であるレミリアが在住を認め、咲夜が可愛がっている事から口出しできる者は居なかった。
唯一口出しできる筈のレミリアは、
「ほほほ、誇り高き吸血鬼がじじ従者といいいい一度交わした約束をっ、そそそそう簡単に破れる筈が無いわ」
と、一番屈辱を感じているにも関わらず驚異的な忍耐力を発揮していた。この発言の際下唇を噛み切った事は公然の秘密である。
とは言え、このような誰が主か分からないような状態が長く続く筈が無かったのだ。

ゆっくりゃを飼い始めて一月が経つ頃、咲夜はうっかりレミリアのティーカップを落として割ってしまった。
「申し訳ございませんお嬢様!すぐに別のカップを御用意致しま…」
「待ちなさい咲夜。……貴女、最近まともに眠れていないでしょう」
穏やかな声で話すレミリア。普段ならばもっと不機嫌になるだろう。否、そもそも普段はこの様な失態自体あり得ない。
「そ、そのような事は決して!以後この様な事の無いように努め」
「そんな事は関係無いわ。貴女の仕事の内容は確実に悪くなっている。アレを飼いだしてから貴女は完全ではなくなった」
「そ……」
「『そのような事は決して』?嘘ね。貴女自身もよく分かってる筈よ。決めたわ。アレは処分する」
「それだけは!どうかそれだけはお止め下さい!必ず!必ず私が言い聞かせますから!!」
「無理よ。今の体調で更にアレの躾までやるなんて不可能。時間を操れる程度じゃそんな奇跡は起こせないわ」
「それでもどうか……どうか……」
「くどい。これはお願いではなく命令よ。咲夜。貴女の主は誰?」
いつの間にかレミリアは獲物をいたぶる猫科動物のような表情をしている。目だけで咲夜の苦悩を哂っているのだ。
「レミリアお嬢様です……」
「そうね。では貴女にとって主の命令とはどんな物なのかしら?」
「私にとって、お嬢様の命令は絶対です」
「結構。ではアレは貴女の手で処分なさい」
「…………」
「聞こえなかったかしら?咲夜、貴女やっぱり疲れているのね」
「…………どうか、あの子の命だけは」
「ああそう。もういいわ。もう話は終わり。今まで御苦労様。ゆっくりと休みなさい、十六夜咲夜」
人間にはとても出来ない邪悪な笑みを浮かべ、レミリアはゆっくりと右手を掲げ、

「う゛ー!お゛な゛がずい゛だぞー!ざぐや゛ー!れみりゃがよんでるのにこないと、たべちゃ……う、うー?」
床で足を投げ出して叫ぶゆっくりゃの部屋の扉が開く。
「さ、さくやー!またせると、たべちゃうぞー!!」
嬉しそうに扉に向かってのたのた駆け出すゆっくりゃ。だが優しく抱き留められる筈のゆっくりゃは、壁まで弾き飛ばされた。
「ぎゃう!!」
「こんにちは汚らわしい下膨れ。あなたが欲しいのは金のメイドかしら?銀のメイドかしら?」
「い゛、い゛だい゛よ゛ー!ざぐや゛に゛い゛い゛づげでや゛る゛ー!!う゛あ゛ーう゛あ゛ー!!」
「そう、瀟洒なメイドが欲しいの。でも残念ね。アレはもう居ないの」
「う゛、う゛ー?」
顔をくしゃくしゃに歪めながら首を傾げるゆっくりゃ。よく見れば泣いてなどいない。
単に、ああやって騒げばいつでも咲夜が助けてくれたからそうしただけの事だった。
「コレはもう完全でもなければ瀟洒でもなく、ましてやメイドですらないもの」
そう言ってレミリアはゆっくりゃの目の前にソレを投げ捨てた。
ソレは、紅魔館メイド長・十六夜咲夜に酷似した『何か』だった。
「う゛、う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ざぐや゛が!ざぐや゛がじんじゃっだあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「フン、喜んで貰えて光栄ですわミス。貴女のおかげでそのネズミを処理できましたの。ありがとうございます」
猛烈な皮肉である。口元は微笑んでいたが、目には殺意が燃え盛っている。
それは人間ならば恐怖でショック死しかねない程の恐ろしい笑みだった。知性無きゆっくりにはそんな事は起こらないが。
「がえ゛じで!ざぐや゛を゛がえ゛じで!!ぶわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ぶあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「何故そこまで泣くのかしら?私は吸血鬼だから今一分からないわ。教えて貰えるかしら」
「だっで!ざぐや゛はれ゛み゛り゛ゃの゛み゛がだだっだも゛ん゛!れ゛み゛り゛ゃのゆ゛う゛ごどぎいでぐれ゛だも゛ん゛!!」
「例えばどんな事だったかしら?」
「ひっぐ!ざぐや゛はれ゛み゛り゛ゃに゛おがじぐれ゛だも゛ん゛!ごほん゛よんでぐれ゛だも゛ん゛!!」
「ああそう。それから?」
「うぇ゛っぐ!い゛っじょに゛ね゛でぐれ゛だも゛ん゛!い゛い゛ごい゛い゛ごじでぐれ゛だも゛ん゛!!」
「へぇ。でも咲夜は貴女の事を随分と叱ったんじゃなくて?」
「ぞん゛な゛ごどじな゛い゛も゛ん゛!!ざぐや゛はれ゛み゛り゛ゃの゛い゛や゛な゛ごどじながっだも゛ん゛!!」
「食事の好き嫌いを無くそうとした。我侭を止めさせようとした。やってはいけない事を教えた」
「う゛っぐ!…………ひっぐ!…………ぶぇっぐ!」
「他人の物を無断で使ってはいけないと教えた。迷惑をかけた相手には謝らせた。……全部忘れたのかしら?」
「……………………ひっぐ」
「つまり貴女にとって咲夜は、要望を全て叶えてくれる回数無制限のランプの精だった訳ね。
 じゃあ、私が貴女の要望を叶えてあげると言えば、貴女は私にも懐くのかしら?ねえ、どうなの?」
「……………………ほんと?」
「何が?」
「ほんとにれみりゃのゆうこと、きいてくれるの?」
「ええ、聞いてあげるわ。それこそ咲夜の様に」
「さくやはだめだよ!ときどきよくわかんないこといって、れみりゃにめーってするんだもん!!」
「あらあら」
「それにおかしはたべたいのくれないこともあるし、よみたいごほんよんでくれないこともあるもん!!」
「それはそれは……分かったかしら?これがコレの本質よ。貴女はコレにとって使い捨ての道具。飼い主なんかじゃないわ」
「うー?おねえちゃん、どうしたの?」
突然後ろに向かって話し出したレミリアに戸惑うゆっくりゃ。いつの間にか親しげにレミリアの袖を掴んでいる。
「汚らしい手でお嬢様に触るな」
「う゛あ゛!!?」
声が聞こえた瞬間、ゆっくりゃは胸倉を掴まれ高々と持ち上げられていた。
声の主に向かって、レミリアは言う。
「漸くお目覚めかしら?完全にして瀟洒なるメイドさん」
「はい。大変御迷惑をおかけしたしました。目が醒めました。もうコレに惑わされたりはいたしません」
「別にいいのよ。貴女は私の大切な従者だもの。従者の目を醒まさせるのは主の喜びでもあるのよ」
「勿体無きお言葉です」
「相応しい言葉よ。……では、ソレの処分は一任するわ。構わないわね?」
「喜んで。では失礼致しますお嬢様」
「ええ、せいぜい楽しみなさい咲夜」
何が起こっているのか理解できないゆっくりゃは、ただ呆然と咲夜に何処かへと持ち運ばれていく。
先ほどまで床にあった咲夜の死体は、木の人形に変わっていた。

人間にはとても出来ない邪悪な笑みを浮かべ、レミリアはゆっくりと右手を掲げ、指を鳴らした。
「はいは~い!呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん!」
美鈴が、咲夜と同じ服を着た等身大の木の人形を抱えて部屋に入ってきた。
「何を言ってるのよ美鈴。呼ばれたのは私よ」
「お、お嬢様……これは一体……?」
殺されると確信して、目を閉じていた咲夜が恐る恐る尋ねる。
「これは試験よ」
「試験……ですか?」
「レミィ、それだけじゃ何の事だか分からないでしょう」
「ふん。そんな事ないわよ。咲夜ならきっと分かってくれるわ」
「…………すみませんお嬢様、何の事なのか分かりかねます」
「ほら見なさい」
「あっ!私は分かりましtヘヴン!!」
パチュリーの6A攻撃で昏倒する美鈴。
「試すのはあの下膨れよ、咲夜。私が作ったあなたの偽物を使うの」
「はぁ……」

ゆっくりゃが運び込まれたのは、地下にある懲罰室だった。
そこには玩具の様な鞭や蝋燭や三角木馬といった他愛も無い物から、疎らに棘が付いた審問椅子、鉄の処女、鉄製の靴や金槌等の、
本格的に人を苦しめ、殺す為の拷問器具まで沢山のグッズが揃っている。
「う、うぅー……さ、さくやー……」
それらの器具が放つ威圧感は、ゆっくりブレインでも感じ取れるのか怯えた様子で咲夜を見上げるゆっくりゃ。
その咲夜はナイフよりも冷たい眼でゆっくりゃを一瞥し、床に放り投げる。
「ぶっ!」
頭から床に落ち、涙目になって起き上がるゆっくりゃ。
咲夜は無言でゆっくりゃの元につかつかと歩み寄り、背中を踏みつける。
「ぶぎゃっ!い゛、い゛だい゛よ゛ー!ざぐや゛ー!だずげでー!」
「まだそんな事を言えるのね。こんな物を飼っていたなんて、本当にどうかしていたわ」
「うー!?」
いつもの口上で助けてくれない事に動揺するゆっくりゃ。必死で後ろに向き、媚びた笑みを浮かべるが咲夜の表情は変わらない。
「ざ、ざぐや゛だずげでー!こぁいひどがいるよー!!」
この咲夜は偽物だとでも思っているのか、必死で咲夜を呼びつけるゆっくりゃ。
ゆっくりゃの言う事を聞く人形は、もう何処にも居ないというのに。
「そう、お前にとって『十六夜咲夜』とは今やあの木の人形なのね。……馬鹿みたい」
背中から足をどけ、右肩を踏み潰す咲夜。ぐしゅり、と裂けた皮から中身が飛び散る。
「う゛あ゛ー!!ながみ!れ゛み゛り゛ゃのながみがぁー!!」
「うるさいわ。少し黙りなさい」
右肩を踏み潰したままでしゃがみ込み、口をこじ開けて舌を引っ張り出し、ナイフで切り落とす。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
口から肉汁を撒き散らしながら絶叫し、全身を激しく暴れさせるゆっくりゃ。
「や゛べでよ゛お゛ばざん゛ー!!れ゛み゛り゛ゃな゛に゛も゛わ゛る゛い゛ごどじでな゛い゛の゛に゛ー!!!」
「ああうるさい。これをあげるから黙りなさい」
喉の奥に切り取った舌を強引に押し込む。喉を塞がれた事で声を出せなくなり、静かになった。
飲み下してまた大声を出されないよう、首の後ろに椅子の脚を置いて飲み込めないようにする。
「………………………!!!」
びゅうびゅうと音を立てて必死で呼吸するゆっくりゃ。先程よりは大分静かになった。
「では続けましょう。そうね、まず散々館内を散らかし、汚してくれたこの手から」
「!!!」
今までに何度も何度も料理をぶちまけ、皿を割り、床や壁を汚してきた右手をそっと手に取る。
そして短くぷにぷにとした親指を摘んで引きちぎる。
「~~~~~~~~~~っっっ!!!」
声を上げる事も出来ず、ただ表情を苦痛で歪め、涙と肉汁で床を濡らして両脚をばたつかせる。
その醜い姿に眉を顰めて人差し指、中指と順番に引きちぎっていく。
右手が終わったら左手の指に取り掛かる。その表情は何の感情も見せず、機械的に淡々と作業を進める。
「ああ気持ち悪い。本当にどうしてこんな物を可愛がっていたのかしら。ここまで自分の時間を巻き戻せたらと思った事は無いわ」
「…………………………」
もう暴れる気力も無くなったのか、指を千切る度にびくびくと痙攣する以外は動かないゆっくりゃ。
死んでいる訳ではない事は依然として聞こえてくる呼吸音と、止まらない涙が告げている。
「これを相手にここの道具を使うのは勿体無いわね……ああそうだ。これが触った食器を使えばいいか」
時を止め、ゆっくりゃが一度でも使ったフォークやナイフを全て持ってくる。
「……こんな上等の食器を使わせていたなんて、今なら考えただけでゾっとするわ」
自身の行いへの嫌悪感を顔に表して右腕にフォークで穴を開けていき、左腕をナイフで切開する。
そして両腕を強く握り締めて中身をあふれ出させる。右腕からはミンチが、左腕からは原型を留めた肉まんの具がこぼれる。
「っっっっっっっ!!!!!!!~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!!」
かつて無い激痛に全身を激しく痙攣させるゆっくりゃ。痛みを誤魔化す為か、床に激しく額を打ち付けている。
「そんなに死に急いでもその程度じゃ死なないわよ。中身が残っていれば死なないんでしょう」
聞こえたのか聞こえないのか、より激しく床に頭を打ち付ける。既に額は平らに均されており、小さな鼻も潰れている。
「あら?いつの間にか腕が使い物にならなくなってるわよ。せっかくだから私が取ってあげる」
白々しく言い放ち、皮だけとなった両腕を思い切り引っ張って肩口から切り離す。
肩周辺の中身がぼろりと床に零れ落ちるが気にしない。
まるで激しく鳴く蝉の羽の様に全身をガクガクと痙攣させるゆっくりゃ。どんどん中身が零れて行くが止まらない。
「さて、次は沢山の物を踏み躙って汚し、壊してきた脚をおしおきしないとね」
手の指と同じように足の指を引きちぎり、両脚をゆっくりゃが壊したレミリアの日傘の骨で連結する。
「あら、これはまるで線路ね。良かったじゃない。あなたが線路になれたわよ」
言いながら、傘の骨を足で軽く蹴る。
脚の中を掻き回される苦痛に耐え切れず脚をばたつかせようとして、尚激しい苦痛に悶えるゆっくりゃ。
その顔は何度も床に打ち付けたせいで全体が平らになって肉汁を滴らせていた。
「ふぅ。まあこんなものかしらね。ああ、服が……油汚れは中々落ちないから嫌よねぇ?」
ゆっくりゃの潰れた鼻の穴にクレヨンを一本一本押し込みながらぼやく。
全て押し込んだ頃には後頭部に膨らみが二つ並んでいた。
「さて。私はそろそろ行くわ。後の仕事は小悪魔が用意してくれたこいつらに任せるから。それじゃさようなら」
「う゛あ゛う゛ー……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
椅子をどかされ声を出せるようにはなったものの、もう叫ぶ気力は無いのかただ呻くだけのゆっくりゃ。
そのゆっくりゃの全身を、咲夜が置いていった黒光りするチャバネ的な何かがゆっくりと這い回る。
小悪魔によって長命に品種改良され、咲夜によって時間の進行を遅くされたそれらは、
ゆっくりゃの感覚をゆっくりを責め苛みながら、もう自力で動く事もできない体を一家の巣にするのだった。

THE MASTER PRETENDER DIED SLOWLY


作:ミコスリ=ハン

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最終更新:2008年09月14日 11:04
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