ゆっくりいじめ系1217 水夫と学者とゆっくりと

(出会い)
「おお、やっとお目覚めかい。三日間も寝続けてたんだ、死んでるんじゃないかと心配したぜ。
 ここは何処なのかだって?さぁね、俺が知りたいくらいだよ。俺が知ってるのはここが無人島だったって事。
 今ここに住んでるのは俺だけ。ああ、あんたもだな。この小さな島の住人は俺とあんた、二人だけさ。」

「へぇ、やっぱりそうかい。あんたの船も嵐に襲われて・・・俺もそうさ。気づいたらこの島の
 浜辺に打ち上げられてた。他の仲間は皆海の底だ。しかし、運が好いんだか悪いんだか。
 こんな通常航路を外れた絶海の孤島に一人・・・いや、あんたが来たから二人か。」

「しかし、なんだってこんな地図にも載ってない、未開の海域に入って来たんだい?
 俺の方はちぃとばかし訳ありだが・・・ほぅ、探検航海か。へぇ、学者先生だったとは。
 道理で好い身なりをしてる訳だ。貴族のボンって訳か。なるほどねぇ・・・」

「ああ?俺?俺はただの船乗りさ。別に名乗るような名前も持っちゃいねぇ。適当に呼んでくれていいぜ。
 俺もあんたの事は聞かねぇさ。それよりさ、あんた学者なんだろ。ならこの島に流されたのは正解だったぜ。
 この島にはちょっと変わった生き物が住んでてな。きっとあんたなら気に入るはずだ。」

「俺も仕事がら世界中の海を回ったが、こんな奇妙な生き物他じゃ見た事ねぇ。
 国に戻ってこの島での研究成果をアカデミーに発表すれば、あんたの名声は鰻登りさ。
 そこでちょっと相談なんだが・・・あんたの研究を手伝う代わりに俺の手助けもしてもらいてぇ。」

「なぁに、難しい話じゃないさ。国に戻った時にお偉いさんにちょっと口利きしてくれるだけでいいんだ。
 一人くらいいるだろ?あんたの親父さんの知り合いや友人にそういう奴がさ・・・
 内容は後で話す。まぁ、それも無事にこの島を出て国に帰ったらの話だがな。」

「ん?この島から出られるあてがあるのかだって?まぁな。このあたりはまだ海図にも載って無い未知の海だが、
 船がまったく通らないわけじゃあない。あんたの乗ってた船みたいな探検目的の船が来る事もある。
 俺がこの島に来てから一年経つが、その間に一隻の船を見た。世は大航海時代。
 地図の空白を埋めようと、どの国も躍起になってる。そのうち船はやって来るさ。」

「あん?どうしてその時合図を出して助けて貰わなかったのかだって?
 言っただろ、『訳ありだ』ってさ。ま、その辺は無事帰れたら説明するさ。余計な詮索すると命を縮めるぜ?
 正直な話、この島で一生過ごすつもりだったんだ。それがあんたみたいな貴族とお知り合いになれるとはな。
 俺の悪運もまだ尽きちゃいねぇって訳だ。」

「で、どうなんだい?俺はあんたの研究を手伝う。あんたは俺の手助けをする。悪い話じゃねぇだろう?
 おお、やってくれるかい。ありがてぇ。これで国に帰れるぜ。じゃあ明日、早速島を案内するぜ。
 今日はもう日が暮れちまったからな。」


○月△日
気が付いた時、私は崖に掘られた洞窟の中で横になっていた。どうやらこの洞窟の住人が助けてくれた様だ。
嵐の海に投げ出された私は、海流に乗ってこの島に打ち上げられたらしい。男の話によると
この島は小さな無人島であるらしい。気が付いた時、私が持っていたのはこの手帳とペンだけ。
ポケットに入れていた懐中時計や護身用の短銃は無くなっていた。問い詰めても男はのらりくらりとかわすだけ。
この様な状況では男の提案をのむしか無い。男が私の命の恩人であるのも理由の一つだが、
なにより男の腰に下げられたカトラスと彼の鋭い眼光を前にして、私は彼に逆らう事ができなかった。

男は自分は船乗りであると言っていたが・・・彼の放つ威圧感と眼光は水夫のそれでは無い様に見える。
しかし、これ以上の詮索はしない様にしよう。私と彼と、二人協力してこの島で生活しなければならないのだ。
それに彼は一つ面白い事を言った。この島には私を満足させる様な新種の生物がいると。
彼の話によると、それは人の言葉に似た鳴き声を発するらしい。俄かには信じられないが・・・
なんにせよ、暫くはこの島から抜け出す事はできない。その間その未知の生物の生態について研究する事にしよう。
学会を追放された身ではあるが、それを持ってアカデミーに戻れば、あるいは私も・・・


(未知との遭遇)
「やぁ、先生。おはよう。良く眠れたかい?ほら、こいつだよ。こいつが昨日話したちょっと変わった生き物さ。」

「ゆっくりしていってね!!!」

「ははは!びっくりしたかい。無理もねぇ。なんせ見た目は人間の生首そのものだからな。
 俺も最初見た時はそうだったさ。いくら見なれた・・・ゲフン
 いや、まさか生首が飛び跳ねるとはな。その上、人の言葉みてぇな鳴き声を出しやがる。」

「こいつの仲間がこの島にはごろごろいるのさ。数は・・・そうだな、ざっと千はいるんじゃないか?
 今日は島の中を一通り案内するぜ。こいつらの日常生活が分かるようにな。
 何か解らん事があったらなんでも聞いてくれ。なにしろ一年もこいつらと一緒に生活してるんだ。
 ある程度の事なら答えられる筈だぜ。」

「ん?鳴き声の事か。ああ、確かにこいつらは一見、人の言葉を喋っている様に見えるかもしれんが。
 別に人と意思の疎通ができる訳じゃねえ。ま、そこら辺は他の生き物と同じだな。
 奴等同士では意味が通じてるのかもしれねえが、俺にゃさっぱりだ。
 なにしても『ゆっくり、ゆっくり』としか言わねえんだから。」

「試してみるかい?ほらっ!」

「ゆぐうううう!!!!!」
「ゆっぐり!ゆっぐり!ゆっぐりいいいい!!!」

「ほら、この通り。あんた解るかい?解んねえだろ。俺もさ。
 ほっぺたを思いっきりつねったからな、たぶん抗議か威嚇をしてるんだろうが。
 ま、時間はたっぷりあるはずだ。色々試してみたらいいさ。学者先生の腕の見せ所だぜ。」

「じゃ、早速島をまわってみるかい。あ?そいつか?ほっとけ、ほっとけ。適当に外に蹴っ飛ばしとけばいいさ。
 どうせ簡単には死なねえんだ、そいつは。そいつらの体な、結構丈夫にできてんだよ。
 殴っても、蹴っても、ちょっとやそっとじゃ死にやしねえ。ああ、こいつで斬ると流石に死ぬがな。
 殴ってるとそのうち体の中身を吐き出すんだ。そしたら殴るのを止めるこった。それ以上やると死ぬからな。」

「ああ、大事な事を言うのを忘れてた。こいつら殴ったり蹴ったりするのは構わんがな、絶対に殺さないでくれ。
 奴等、仲間意識が強いらしくてな、仲間の断末魔を聞くと集まってくんだよ。わらわらと。島中から。
 んで、死体の周りに集まってな『ゆっくりー、ゆっくりー』って泣き続けるんだよ。島中に響く様な大声で。
 それが三日三晩続くんだぜ。たまったもんじゃねぇよ、五月蝿くって寝られやしねぇ。」

「ま、殺さなきゃ大丈夫さ。こいつらイラつく顔してるしな。俺もしょっちゅう蹴っ飛ばしてる。
 あんたもストレス解消したいときはこいつらにぶつけるといいさ。踏みつけたり、髪を引っこ抜いたりな。
 たまに近くにいる仲間が助けに来るが、生首に何かできるわけもねぇ。
 噛みついてくるが大した事はねぇ、毒も持ってねぇしな。」

「気をつけなきゃなんねぇのは奴等の断末魔だけ。『もっとゆっくりしたかったー!』って言うんだがな。
 それを言ったら最後。さっき言った通りさ、島の反対からも仲間がやって来る。聞こえる筈はねぇんだが、
 そこら辺の事はよく解んねぇんだ。それ以上は先生の領分だろ。知りたかったら自分で調べるこった。」


「さぁ、着いたぜ。ここが奴等の餌場だ。そこら辺に生えてる草を食ってるみてぇだな。
 でかいのが一匹と小さいのが何匹かいるだろ。でかいのが母親、小さいのが娘。
 ん?メスしかいないのかだって?ああ、別に雄雌の区別がついてるわけじゃねぇよ。
 あいつら全部同じ顔してるからな。顔が女っぽいからメスだと勝手に決めてるだけさ。
 あんたと違って俺は生物学者じゃあねぇからな。それを調べるのはあんたの仕事だろ。」

「一つ面白いもんをみせてやろうか、小さい奴を適当に小突いてるとな・・・」

「ゆきゅううううううう!!!」
「ゆ!ゆっくり、ゆっくりーーーー!!!」
「ゆっ!ゆっ!」 「ゆぅーーー!」 「ゆっくりーーー!」

「ほら、おもしれぇだろ。別に食ってるわけじゃねぇ。母親が子供を口の中に隠すのさ。
 んで、安全なとこまで逃げたら吐き出すんだ。お、早速逃げ出したな。ちょっと追いかけてみるか。」

「ゆ゛ーーーーーーーー!!!」

「逃げるって言ってもな、別に脱兎の如く逃げ出すわけじゃねぇ。ご覧の通り、奴等足が遅いからな。
 一生懸命走ってるつもりなのは表情を見てたら解るが、人の歩く速さより遅い。
 暫くは適当に逃げ回るが、そのうち観念して巣に逃げ込むのさ。そこで最後の抵抗をする。」

「ゆっくりしていってねっ!ゆっくりしていってねっ!」

「ほら、この小さな穴が奴等の巣だ。子供達を皆巣の中に逃がすと、母親は入口で踏ん張って巣を守るんだ。」

「ゆ゛っ!!!」

「入口の大きさ一杯に膨らんだだろ。たぶんこうやって外敵を中に入れないつもりなんだろうな。
 これは外でも見られるぜ。奴等同士が喧嘩する時だ。空気を目一杯吸い込んで体を膨らませてな、
 体当たりして喧嘩するんだ。ポヨンポヨンとな。そんな事して決着つくのかは疑問だが。」

「さ、ここはこの位にして次に行こうか。ああ、その前にちょっと悪戯していくかい。
 そこに落ちてる木の枝を使ってほっぺたに穴を開けてみな。面白いぜ。」

「ゆ゛っ!!!」 「ぷひゅうぅぅぅぅ・・・」 「ゆゆっ!!!」
「ゆ゛っ!!!」 「ぷひゅうぅぅぅぅ・・・」 「ゆゆっ!!!」
「ゆ゛っ!!!」 「ぷひゅうぅぅぅぅ・・・」 「ゆゆっ!!!」

「はははっ!おもしれぇだろ。空気が漏れて体が元の大きさに戻るんだ。で、焦って空気を吸い込むが、無駄無駄。
 膨らんで、しぼんで、膨らんで、しぼんで、の繰り返しさ。俺らがここにいたらきっと死ぬまで続けるぜ。
 ま、ほんとに死なれたら困るしな。こいつはほっといて次の場所へ向かうか。」


「ここは水場だ。俺達の飲み水もここから汲むんだ。奴等もここに来て水を飲む。
 お、丁度いい具合に一匹やって来たな。水を飲むところが見られるぜ。
 奴等は長い舌を使って少しずつ水を飲むんだ。犬や猫みたいにな。人間みたいな顔してんだから、
 水面に口をつけてゴクゴク飲んだらよさそうなもんだが、そうはできない理由があるのさ。」

「奴の後ろに回ってそっと押してみな。奴等にゃ足がねぇからな。踏ん張る事ができねぇのさ。
 バランスを崩してコロンと落ちちまう。で、水の中に落ちる訳だが・・・これが傑作でな。
 まぁ、物は試しだ。ちょっとやってみな。」

「ゆ?ゆ?ゆ?」
「ゆーーーーーーーーっ!」
「ゆっぐりっ!ゆっぐりーーーーーっ!!!」

「あっはっは!おもしれえだろ。見たかい?あいつのあの顔。あの目がたまんねぇんだよな。
 ん?あいつ等は泳げないのかだって?さぁ、どうだろうな。確かに泳いでるとこは見たことねぇが。
 あいつが焦ってたのは溺れるからじゃねぇんだ。あいつら、長い事水に浸かってると溶けちまうのさ。」

「ゆぶるるるるる・・・」

「漸く岸に上がったか。奴等水が大の苦手なのさ。水に濡れるとああやって体を震わせて体に付いた水を飛ばす。
 近くに仲間がいる時は舌で舐めてもらう事もあるみてぇだ。」

「ゆっぐりしていってねっ!ゆっぐりしていってねっ!」

「おお、なんか喧嘩売って来てるぜ。どうする、先生?相手してやるかい?
 ん?ああ、あと紹介したい場所は一か所だから、こいつとゆっくり遊んでもいいぜ。」


「しかし、先生もなかなかやるねぇ。いくら畜生だからとはいえ、人間の顔してるんだぜ。
 それをあそこまでやるとは・・・しかもあいつを弄ってた時のあんたの顔・・・あんた本当に生物学者なのかい?
 いや、すまねぇ。忘れてくれ。誰でも隠しておきてぇ事くらいあるよな・・・俺にも・・・
 ま、お互い詮索するのは止めにしようや。それより着いたぜ。」

「この柵で囲ってある中にはな、この島にいる生首共と違う、別の種類のが住んでるのさ。
 見分けるのは簡単だ。外にいる奴は皆、黒い髪に赤いリボンを付けてる。俺はリボン付きって呼んでる。
 この中にいるのは金髪に黒い帽子をかぶった奴だ。帽子付きはこの中にいるので全部。全部で五十くらいか。」

「何で柵の中にいるのかだって?ああ、この柵は俺が作ったんだ。こいつ等はちょっと特別でな。
 この柵がねぇと外にいるリボン付き共に攻撃されて殺されちまうんだ。それを防ぐ為さ。」

「んで、あんたにちょっと頼みがあるんだが・・・リボン付き共には何をやってもかまわねぇが、
 この帽子付き達を研究対象にしてあれこれやるのは止めてもらいてぇ。
 なぜ?って・・・理由は話せねぇんだが・・・どうしても俺の頼みを聞けねぇってのか?」

「もしそうなら、無理やりにでも聞いてもらうしか無くなるんだが・・・できればそんな事はしたくねぇ。
 まぁ、天秤に掛けてみるこった。自分の命とどっちが大事か。考えなくても解るよな?
 そうそう、それでいい。解ってくれたらいいんだぜ。帽子付き達はこのまま静かに暮させてやってくれ。
 なぁに心配はいらねぇさ。リボン付きにならなにやってもいい。俺も止めねぇ。
 それに奴等は島中いたるところにゴロゴロいる。研究対象に困る事はねぇさ。」


○月□日
男の案内で島の中を巡る。彼の言ったとおりだった。この島に住む奇妙な新生物は私を大いに満足させた。
やはり海に出たのは正解だった。こんな奇妙な生物は今まで見た事も聞いたことも無い。
生物学者としての私の血が騒ぐ。そして何よりあの声、あの姿。彼女達なら私の趣味も満足させてくれるだろう。

男の、この生物に対する知識は大したものだ。ただ漫然と一年間この島で過ごしていただけでは無いだろう。
彼自身、何かを調べたくて積極的に調査していたのではないか。だとすると気になる存在が二つ。

まず、あの帽子付きの生首。彼は帽子付きに対して特別な感情を持っている様だった。
帽子付きをリボン付きから守る為に隔離していた。彼の言動から察するに、ただ弱い物が虐げられるのを防ぐため、
という理由では無いだろう。どうしても守たい、守らなければならない理由があるのではないか。

そしてもう一つ。リボン付き達のボスの存在。島を巡っている最中、森の入口に立ち寄った時の彼の言葉。
『この森には入ってはいけない。中にはリボン付き共のボスが住んでいる。体長2mを超す巨体のリボン付き。
 もし奴に出会ってしまったら絶対に目を合わせてはいけない。もし目を合わせたら・・・』
目を合わせてしまったらどうなるのか、そこまでは話してくれなかったが、命にかかわる事だと再三警告された。
男と帽子付き、そしてリボン付き達のボス。何か関係があるのだろうか。

それにしても気になるのは男の素性だ。彼は余計な詮索はするなと言っていたが・・・
唯一つ解る事は、彼が嘘を吐いているという事。あの目には見覚えがある。
嘘を吐く者の目、自分の仲間以外は信用しない者の目。私と同類の者が持つ目だ。


(生首の価値)
「おい!おい!先生!起きてくれ!いやぁ、すまんな、こんな夜遅くに。これから食料を取りに出かける。
 あんたもついて来て手伝ってくれ。明日にしようだって?駄目なんだよ、夜じゃなきゃ。
 ぐだぐだ言ってねぇでさっさと起きてくれ。」

「これから生首共の巣に出かける。実は今まで話して無かったがな、俺たちが毎日食ってたアレ、
 あいつらから取ってるんだよ。おいおい、いまさらそんな顔してどうすんだよ。
 あんたも美味い美味いって言いながら食ってたじゃねぇか。まるでお菓子みたいだって。」


「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ゆぅ・・・」

「よし、じゃあ先生、一匹捕まえてくれ。そうそう。そしたらこの入れ物の上に持ち上げて、口を下にしてな。
 あ?なんでこんな事するのかだって?まぁ見てなって。この棒を口の中に入れて・・・」

「ゆ?ゆげっ!ゆげえええええええええええええ!!!」
「ゆっ!ゆっくりっ!ゆっくりっ!」
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」

「お、他の奴等も起きだしたな。じゃ、明かりを消してくれ。こっから先は月明かりだけでやるぜ。
 こいつらなぁ、夜目がきかねぇんだ。夜になると周りがまったく見えなくなるのさ。
 昼間なら叫んで仲間を呼んだり逃げ回ったりするんだが、夜は大人しくしてるのさ。」

「ま、声は出すがな。仲間の悲鳴は聞こえるが、周りは何にも見えねぇ。パニックを起こすが逃げられねぇのさ。
 ただそこでぶるぶる震えるだけだ。これは昼間でも同じだぜ。目隠しをしてやったらいい。
 その場から動けなくなって『ゆっくりー、ゆっくりー』って泣き続けるんだ。
 それを聞いて仲間が集まって来るが、別に何ができるって訳でもねぇ。仲間共々泣くだけだ。
 ほっといたら死ぬまで泣き続けるだろうぜ。」

「あんたもやってみるかい。この棒を口の中に入れてかき混ぜるんだ。そしたら中身を吐き出すから。
 くれぐれもやりすぎて殺さないようにな。前にも言ったが殺すと後が面倒だからな。」

「ゆ゛。ゆ゛。ゆ゛。ゆ゛。ゆ゛。ゆ゛。ゆ゛。ゆ゛。」
「ゆっぐりーーーーー!」
「ゆっくりしてー!ゆっくりしてー!」

「そうそう、その調子。うめぇじゃねぇか。」

「ゆ゛っ、ゆ゛く゛っ!ゆ゛け゛け゛け゛け゛け゛!!!」
「ゆ゛~~~~~~~~!」
「ゆっくりしてよおおおおおお!!!!」

「だいぶ貯まったな。こんなもんでいいか。じゃ、帰るぜ。そいつらはそのままそこにほおっておいたらいい。
 朝になったらまた観察しに来てもいいかもな。奴等が仲間に餌を運んでくるとこが見れるぜ。
 普段はそんな事しねぇんだが、弱った仲間がいるとな、皆で餌を運んで助けるのさ。
 中身を吐き出して体が縮んだが、一週間もすれば元に戻る。結構丈夫にできてんだよ。」


○月×日
昨夜の事は正直面食らった。私達が食べていたものが、奴等が吐き出したものだったとは・・・
しかし、見た目こそ悪いものの味は悪くない。一年以上アレを食べ続けている男が健康そうである事を考えると、
栄養価も高いのではないかと思う。奴等を国に持ち帰って繁殖させたらひと儲けできそうだ。
問題は見た目の悪さと、中身を吐き出させる際の作業の残酷さだが。
とても一般人には受けそうにもない。しかし、私の友人達ならひょっとして・・・




(別れ)
×月△日
遂に島を出る日がやって来た。島の近くを一隻の船が通りかかり、私の出した合図に気づいてくれたのだ。
しかし、やって来た船がよりにもよって私掠船だとは・・・
だが、幸いかの船は私達二人と同国の船で、更に船長は男と旧知の間柄だった様だ。
彼のお陰でここから一番近い港まで送って貰える事になった。船底の積み荷を決して覗かないという条件付きで。

船は飲み水の補給の為、島に一日滞在する事になり、海の荒くれ共が島に上陸する。
リボン付き共は何を勘違いしたのだろうか、彼らの足下に集まり、得意のあの鳴き声で彼らの神経を逆なでする。
百戦錬磨の海の猛者共に襲われ、「ゆっくりー」と泣きながら逃げる様は、なかなか見ごたえがあった。

もう明日にはこの島を出るのだから、彼女達が死のうと関係無い。
自分の研究用として、特に健康そうな個体を十数匹集めて船に乗せ、後は彼らに任せる事にした。
半年間の調査の結果この島の生態系についてはだいぶ解った。この島に彼女達の天敵はいない。
繁殖力はあまり高くは無いが、全滅さえさせなければそのうち回復するだろう。
森には近づかない様にとだけ忠告して、後は自分の趣味を満足させる事にした。

そして夜。男が何やら改まった顔で私に話しかけてきた。

「やあ、先生。やっと国に帰れるな。あんたも、俺も・・・
 だがなぁ・・・俺にはこの島でやらなきゃなんねぇ事が、どうしてもやらなきゃなんねぇ事が残ってるんだ。
 今から行って用事を済ませてくるよ。朝までには戻るつもりなんだが・・・
 もし・・・もしも朝になっても俺が戻って来なかったら・・・そん時は俺を置いて先に国に帰ってくれ。」

「理由は聞かねぇでくれ。それに手伝いも不要だ。これは俺一人でやらないと・・・
 ま、国に戻ったら話すさ。前に言った、手助けしてほしいって事と一緒にな。
 じゃ、先生。また明日な。」

そう言い残すと、男は奴等の鳴き声が木霊する島の中心へ向かって消えて行った。


×月□日
結局、男は朝になっても帰ってこなかった。私は出発の時間を遅らせ、男を待つ事を提案したのだが・・・
男は船長にも話を通していたようだった。船長は男の意志を尊重し、船は予定通りに島を出た。
自分の事をあまり多くは語らない男であったが、故郷へ帰りたいという事はしきりに話していた。
だからこの島に未練が残り、それで島に残ったという事は考えにくいのだが・・・

男が最後に言った言葉も気になる。最期にやり残した用事とはなんだろうか。
もしかしてそれが原因で男の身に何か起こったのだろうか。
だが、今となっては知る由もない。船はもう島が見えないところまで来てしまった。

ただ・・・船が出る時、こちらを見て「ゆっくりしていってねー!!!」と大声で叫んでいた帽子付き。
あの目付きの悪い帽子付きの声だけが、私の耳から何時までも離れない・・・

end

作者名 ツェ

今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」
         「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」
         「七匹のゆっくり」 「はじめてのひとりぐらし」  「狂気」 「ヤブ」
         「ゆ狩りー1」 「ゆ狩りー2」 「母をたずねて三里」

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最終更新:2008年10月27日 01:32
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