10月31日、それはハロウィンの日。
ケルト人の1年の終りだったり、日本でいう盆のようだったり元をたどると色々あるが、まとめてしまえば、仮装を楽しみつつ、やって来た子供達にお菓子を配る日である。やって来た子供達にTrick or treat(お菓子をくれないといたずらするぞ)と言われ、ケチっていたずらされる人も早々いない。
そしてそれは、子ゆっくり達でも同じことだった。
「お菓子ちょうだいね! でないと、ゆっくりいたずらしちゃうよ!」
「ハイハイお菓子よ、ちゃんと分けて食べなさい」
手渡されるお菓子。
「ゆゆっ! ゆっくりしていってね!!」
お菓子の入った袋を頭の上に乗せて、上機嫌で子ゆっくり達は次の家へ向かった。10匹ほどの饅頭がゆっくりゆっくりと鳴きながら飛び跳ね、移動していく様はどこか異様だ。
どこから聞きつけたのか、今、町中では子ゆっくり達がお菓子をもらえると各家の玄関を訪れ、子供達のように叫びながらお菓子を求めている。
これが普段だったら取り付く島もなく追い払われ、または蹴り飛ばされているところだが、今はハロウィンの真っ最中。自分たちからわざわざもめ事を起こそうとする大人達も少なく、お菓子の用意もあることから、子ゆっくり達も無事に美味しいお菓子を手にすることが出来ていた。
「やったねまりさ! すごくゆっくりした味のお菓子がいっぱいだよ!」
「これで帰ったらみんなでゆっくり出来るね!」
「ゆっくりーっ!!」
同時に飛び跳ねる10匹達。9つのお菓子が、同じように空を舞い、また頭に戻る。
「あと1個でみんなのお菓子がそろうね!」
「人間たちもケチだね! みんなの分をくれなくて、まりさはゆっくりできないよ!」
「でももう一つだからね! みんなゆっくりがんばろうね!」
ほとんどの大人達は10匹に1つと考えて、持てそうな小さなお菓子を渡していたが、食欲旺盛な子ゆっくり達は不満でいっぱいだった。
そんな調子で喋りながら、子ゆっくり達は10件目の玄関へとたどり着いた。
「ゆゆっ! 最後はここにしようね!」
「いっぱいくれるといいね!!」
「ゆっぐ! ゆっぐ!」
小さい体を勢いよく玄関へぶつけ、ノックを繰り返す。
やがて鍵が回る音と共に、ドアの隙間から男が顔を覗かせた。
「なんだなんだいったい……」
「おじさん!!」
子ゆっくりの声に反応して、男が顔を下へ向ける。
「……ゆっくり?」
「とりっく おあ とりーとだよ!」
「おじさんはお菓子くれるの? それともいたずら?」
しばらく困惑していた男だったが「ああ」と呟くと、ゆっくり達の質問に答えた。
「お菓子なんて無いからいたずらで」
「ゆゆっ!?」
10匹から驚いた声が上がった。今までにいたずらを選んだ人は誰もいなかったからだ。
しかしすぐさま、今度は先頭にいた子まりさから不敵な笑い声が聞こえてきた。
「ゆっゆっゆっ! おじさん度胸のある人だね! まりさたちのいたずらは凄いよ!」
「ほう、随分な自信だな」
「とうぜんだよ! そういわれた時のために ぱちゅりーと一緒に色々考えたからね!!」
まりさの横で子ゆちゅりーがむきゅーと反応する。どこか頬を染めたように見えるのは照れているのだろうか。
「ゆっゆっ! やめておくなら今の内だよ!!」
「そう言われても、お菓子がないからな……まぁその自信のほどを見せてもらうよ」
「ゆっくりーっ!」
男の期待に応え、その場で飛びかかる子まりさ。
ひゅーんと、どこかゆっくりしたその跳躍は、男の手によって受け止められていた。
「ゆゆっ!? な、何するのおじさん!? 受け止めたら──」
「何って……いたずらするんだが」
「ゆく?」
子まりさが状況を理解する間もなく。
子まりさの頭にまち針が突き刺さった。
「ゆぐう゛う゛う゛う゛っ!! いだい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛っ!!」
「ま、まりさぁっ!?」
「ほいほいっと」
次々に突き刺されていくまち針。刺されて終わったかと思った瞬間、ドアの向こうに手が伸び、戻ってきた手にはやはりまち針が握られている。
「ゆぐっ! げひっ! いだい゛! ごわれじゃう゛う゛う゛う゛っ!!」
「やめでえ゛え゛え゛え゛え゛っ!! まじざにばり゛ざざないでえ゛え゛え゛っ!!」
残りの子ゆっくり達の制止を男が聞き入れる訳もなく。
全てのまち針がなくなった時、まりさは足の裏から帽子の先まで針だらけで地面へと下ろされた。
「まりざあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
「……いだい、いだいよぉ……」
9匹が慌てて駆けつけるが、ハリセンボンかウニかハリネズミかと言われそうなまりさの状況に、すり寄ることは出来ず、針で出来た距離の分だけ遠くから声をかけ続けるしかなかった。
「ふむ……針山代わりのつもりだったが……ちょっと針の数が多すぎたな」
「ど、どうじでごんなごどずるのお゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!! まりざはいだずら゛
じようどじだだけだよおおおおおっ!!」
「ああ、だから言っただろ。いたずらを選ぶって」
「だがらまじざが──」
「お菓子をあげるか、いたずらをあげるか、だろ? くれるの? って言ってたじゃないか」
「……ゆ?」
不思議そうに体を傾げるれいむ。きっといくら考えても男の言っている意味は理解出来
ないだろう。
それではつまらないと、男は言葉を続けた。
「あーあ。ちゃんといたずらさせてって言っておけば、まりさはこんな目に遭わなかったのになぁ。お前達がはっきり言わないからこんな姿になってなぁー」
「ゆぐぐぐぐっ!?」
はっきりと、自分たちが悪いと言われ、れいむの体を動揺が走った。本当にそうなの?
でもれいむ達は今までこうやってお菓子を……。
悩み始めた様子を楽しそうに眺めながら、男は残り9匹を手で捕まえ始めた。
「ゆゆっ!? ど、どうじでれいむたちを掴むの!?」
「まりさだけハリセンボンで可愛そうだろ? 言いだしたのはお前達なんだから全員いたずらしないとな」
言い終わらない内に子ゆっくり達を全員捕まえ、部屋にあった透明な箱へと投げ入れた。
「ゆぶじゅっ!」
「ぷぎゃっ!」
「むぎゃぁぁあぁっ!」
「ぱ、ぱちゅりー! ぱちゅりーがゆっくり出来てないよ!」
箱の中で大騒ぎする子ゆっくり達を笑顔で見続ける男。ドアから顔を覗かせた時とはま
るで別人のように生き生きしている。
今日はハロウィン。
世間では、多くのパーティーが開かれている。
そして男の表情が、ここではゆっくり虐待パーティーが開催されることを物語っていた。
「取りあえずまりさの針を抜いてやるな、それ!」
「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛っ!! まどめ゛でぬがないでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛っ!!」
「む、むきゅー……」
「ぱちゅりいいいいいいいっ!」
End
by ちゃわんむし
最終更新:2008年11月08日 09:18