雨が降りしきる夜、家路をひたひたと急いでいると、街路樹の根元に丸く大きな影が転がっているのを見つけた。
何だぁ、と屈んで顔を近付けると、果たしてそれはゆっくり霊夢であった。
こんな人の多い所に居るなんて珍しい。青年は話しかけてみることにした。
「おい、お前何してんだ」
「…ゆ……ゆっ…くり……」
返ってきたのは弱々しい声。
ゆっくり饅頭たち特有の、少しインフレ気味なくらい元気な挨拶はどうしたのだろう。
「何だお前、大丈夫か? 具合でも悪いのか?」
傘をホッと横に放り、思わずゆっくり霊夢を抱き上げる。
じっとり湿っていて、接地面に擦過傷が多々見られた。
「おにーさん……ゆっくりできる…ひと……?」
え? ゆ、『ゆっくり出来る人』だと……?
今一意味は分からなかったが、
「あ、あぁ! 出来るぞ、俺はゆっくり出来る人だ!」
ゆっくり霊夢が息も絶え絶えに訊いてくるので、思わず肯定の答えをしてしまった。
恐らくは、敵意の有無を確かめているのだろう。
青年のゆっくり宣言を聞いたゆっくり霊夢は、安心したように軽く口の端を持ち上げた。
そして、
「おにーさん……ゆっくり……れいむのおねがいを…きいて…ね……」
ゆっくり霊夢はあるお願いをしてきたのだった。
「……れいむは…おかあさんで……れいむのいえにはこどもが……いっぱいいるの……」
話をまとめるとこうだ。
今、この目の前でしょぼくれているゆっくり霊夢には子どもが居て、毎日毎日一緒にゆっくりしていたらしい。
近くの林の中に穴を掘って住み処とし、お母さんであるゆっくり霊夢が子ども達のために餌を獲ってくる。
食べ盛りな子ども達は餌を見ると「ゆっ、ゆっ、ゆっ、」とご機嫌になり、美味しそうに口いっぱい頬張った。
決して楽ではないけれど、そんないとおしい子ども達の為ならばいくらでも頑張れたそうだ。
――しかし、幸せな暮らしを送っていたゆっくり霊夢に重大な事件が起こってしまった。
三日前に餌を獲りに出たら急な雨に降られ、体が湿って帰れなくなってしまったのだ。
ずぶ濡れになりながらも体を引きずって何とか家に向かおうとしたが、ゆっくり霊夢はやはりただのお饅頭。
命からがら逃げ込んだこの街路樹の元で体力の回復を待ったが、雨はあれからずっと降り続いている――……。
「おにーさん……れいむのかわりに…こども…を……」
さぞや辛かったのだろう、ゆっくり霊夢は青年の腕の中で涙を流している。
「…こども……を……」
「わ、分かった! 分かったからもう喋るな!!」
これ以上無理をさせると、こいつ自身の命が危ない。
子ども達が助かったって、肝心の母親が居ないんじゃ悲しいじゃないか。
「おに、おに゛ーさん゛……」
冷たく降り注ぐ雨の中、こいつは気が気じゃなかったハズだ。
ずっと空を見上げながら、今か今かと雨が止むのを待ち続け、
頭に浮かぶのは親が居らずお腹を空かせて泣きわめく我が子達……。
絶対に助けてやる。
「子ども達は絶対に助ける。俺が迎えに行ってやる」
ゆっくり霊夢は目を瞑り、うん、うんと青年の言葉を噛み締める。
「だから……だから、まずはお前を助ける! 今から俺のアパートに連れていくぞ!!」
「ゆっ…ゆゆうっ……」
青年は傘を拾い上げると、ゆっくり霊夢を抱いたまますぐさま自宅へと走っていった。
■ ■ ■
ぴしゃっ、ぴしゃっ、ぴしゃっとはね上がる水滴。
青年はまた、冷たい雨の中を走っていた。
全身雨ガッパの完全武装に身を包み、目的地へと急ぐ。
片手には道具が入った大きなカバン、反対側にはこれまた大きなポリ袋。
両方ともゆっくり霊夢チルドレンを輸送する為の秘密兵器である。
『じゃあ、今から行ってくるぞ。お前はしっかり体を休めておけ』
『ゆうっ……おにーさんゆっくりたすけてね……』
『あぁ、任せろ』
あれだけ萎んでいたゆっくり霊夢であったが、丁寧に体を拭いてやるとある程度元気になった。
傷には水で溶いた餅粉を塗り込み、たっぷりのホットミルクを飲ませてあげた。
今ごろは毛布にくるまって寝ているだろう。
ゆっくり霊夢一家の住み処である、林の中に入る。
あいつが言うには、入ってから少し奥の、切り開いた所にほら穴があるらしい。
ぬかるんだ土を蹴って進み、大きな岩を避けて、あぁ、これだ。
大股で駆けていくと、木の枝で入り口をバリケードした穴が広がっていた。
ゆっくり饅頭の家だから、かなり小さめの物を想像していたが、軽く屈めば問題なく入れそうである。
「よし、」
青年は意を決して侵入した。
独特の、鼻について離れない湿った土の匂いが漂っている。
カバンに入れておいた懐中電灯で足元を照らしながら、慎重に慎重に進んだ。
こつ、こつ、こつ、こつと地面を踏みしめ、周囲に注意を向けながら、
「……ん?」
奥の方で、何やら聞こえてくるような。
「………ゆ……し……」
「……ゆっ……ん……」
間違いない。
子ゆっくり達の声だ。
懐中電灯をさっと前に突きだし、暗順応を済ませた目を最大限に凝らす。
右へ、左へ……真ん中、右……左へ、右へ……あ、
右になにかある。
明るい楕円が、大きな一塊の影を捉えた。
表面がぐにぐにと蠢いており、ぱっと見では何だか分からず少し不気味だ。
「お、おい。お前ら……ゆっくり霊夢の子どもか?」
恐る恐る、青年は声を掛けてみた。
「お母さん霊夢の子どもか?」
反応は二度目で返ってきた。
「ゆっ、」「ゆっ、」「ゆっ、」「ゆっ、」「ゆっ、」「ゆっ、」
少し高めのゆっくりボイスと共に、塊は瓦解していく。
保護したお母さん霊夢よりも一回り、二回りは小さいだろうか。
個体差はあるものの、正しく子どもゆっくり霊夢が一列に並んだ。
全部で……ひーふーみー……っと、全部で九匹居るな。
「おにーさんだれ?」
「おにーさんはゆっくりできるひと?」
「れいむたちになんのよう?」
「ようがないならゆっくりでていってね!!」
あ、あれ?
何だ、別に元気じゃねえか……。
「いや……お前らのお母さんに頼まれて助けに来たんだけど……」
お母さん霊夢のしょぼくれ具合から考えて、正直白目むいてるのも居るんじゃないかと思っていた。
思っていたんだけど……。
「ゆっ!」
「おかーさん!? おかーさんはどこにいるの!?」
「おかーさんとゆっくりしたいよ!!」
「おかーさんのところにつれていってね!!!」
うーん、拍子抜けだ。
まぁ、元気なのは良いことだから問題はないだろう。
「よ、よし! じゃあ今からお前らをお母さんの所に連れていくからな!」
「ゆっ!」
「ゆっくりできる!」
「おかーさんとまたゆっくりできるね!!」
「はやくおかーさんとゆっくりさせてね!!」
ぴょんぴょこぴょんぴょこ跳ね回り、お母さん霊夢と再会できる事を喜ぶ子ゆっくり達。
青年は、早速その場にポリ袋を広げた。
外に出てから家に着くまで雨に濡れないように、自分なりに頭を使ったつもりだった。
「さぁ、この袋に入って! 今外は雨がざぁざぁ降りなんだよ」
「ゆうっ!」
「ぬれたくないよぉ!!」
「だから、ほら。この袋に入れば大丈夫!」
「ゆゆっ!」
「おにーさんあたまいい! ゆっくりふくろにはいるよ!!」
分かってくれたみたいだ。
一匹ずつ、手で広げた袋に飛び込んでくる。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、」と声をあげ、その度腕にボスッという感触が伝わってきた。
「よし、全員入ったかぁ?」
「ゆーっ!」「ゆーっ!」「ゆーっ!」「ゆーっ!」
袋越しに、合唱で答えるゆっくり霊夢チルドレン。
一応辺りを見回して、残りが居ないか確かめてから、
「じゃあ、口を縛るからな!」
きゅきゅっと捻り、片結びにポリ袋を閉じた。
あとは、もう走って戻るだけ。
お母さん霊夢に見せて、早く安心させてやろう。
「オッケー! 早くお母さんの所に行こうな!」
「ゆっくり!」
「ゆっくりしたいね!!」
「はやくみんなでゆっくりしようね!!!」
「あはは、それじゃあ出発!」
荷物をまとめて、青年はゆっくり霊夢一家のほら穴を飛び出した。
雨はまた一層激しさを増している。
青年は走った。
木々を縫って林を抜け、人の居ない裏道を通り、表の大通りに出る。
「ゆー! はやいはやい!!」
お母さん霊夢と出会った街路樹の脇を走り抜け、コンビニの前をぶっちぎり、角を曲がる。
あとはもう真っ直ぐ行くだけ。
ラストスパートとばかりにダッシュする。
早く家のドアを開けて、
『おーい! ほら、お前の子どもだぞ!!』
なんて一刻も言ってやりたくて、
足を思いっきり踏ん張って、
たまたまそこにあったマンホールで滑って、
青年が倒れ込んで地面にぶつかるまでのその間。
右手を離れて宙を舞うゆっくり袋の中、計十八個の目が青年を見上げていた。
■ ■ ■
静かに、玄関のドアを開ける。
「……ただいま」
流石に、両手に荷物を抱えた状態で全力疾走はかなり疲れた。
しかも、雨で滑って転んでしまったのだ。
うつ伏せに地面に突っ込む形になってしまい、血こそ出なかったものの顔やら膝やらが少し痛む。
……胸とお腹は打たなかったから平気だけど。
「ゆっくり!! おにーさんおかえりなさい!!!」
下駄箱の上に荷物を起き、ごそごそと靴を脱いでいると背中越しにゆっくり霊夢の声が聞こえた。
「何だ、もう起きて良いのか?」
振り返り、ゆっくり霊夢の姿を確認する。
「ちがうよ! おにーさんをまってずっとおきてたよ!!」
少し仰け反って、誇らしげにするゆっくり霊夢。
なるほど、顔色が断然良くなっている。
毛布にくるまって、体温が上がったのだろう。
「ははっ、そうか。良かった良かった。今、またホットミルク持ってきてやるからな」
微笑ましい様子に、思わず声のトーンが増してしまう。
台所で急ぎ準備をしなくては。
「おにーさん、れいむのこどもは?」
体に、電撃が走った。
「……な、なに? き、聞こえなかったよ………」
背中を雨水ではない嫌な水滴が垂れていく。
「もう! だぁかぁらぁ、れいむのこどもたちはどこ!?」
頬をぷっくり膨らませ、まったく他人の話はちゃんと聞いてよね、そう言いたげな表情だ。
ヤバい、
どうしよう、
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう、
よし、これしかない、
「……落ち着いて聞いてくれ――」
「ゆ? れいむはいつもゆっくりおちついてるよ?」
「あのな……お前の子どもはな……」
「ゆっ?」
「野良犬に襲われて……全滅していたんだ……」
青年とゆっくり霊夢の居る空間が凍りついた。
しばらくは見つめあったままで、辺りを静寂が支配する。
「ゆっくりうそはやめてね! そんなわるいうそはつまらないよ!!」
突然に響く怒鳴り声。
ゆっくり霊夢は子どもの死を信じていないようだった。
当然だろう……。
「嘘じゃない。お前の子どもは野良犬に食いちぎられて、それは集めるがたいへ――」
「このままじゃおにーさんとはゆっくりできないよ!! はやくこどもたちをみせてね!!!」
ぼすっ、ぼすっと俺の腹に体当たりを食らわすゆっくり霊夢。
本気で怒っているらしい。
胃が痛む。
「分かった、分かったよ……」
やはり亡骸を見せるしかないようだ。
玄関に戻り、下駄箱に載せた荷物の内の一つポリ袋を掴む。
そんな青年の行動を、ゆっくり霊夢は赤く膨れながらもじっと見つめていた。
「気を確かに持てよ……」
諦めたようにそう言ってから、ゆっくり霊夢の前に袋をボスッと落とす。
重量感のある音にビクッとして「ゆゆっ!」と驚いていたが、眼前の袋の中身に気付いたのだろう、
「………………ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」
ゆっくり霊夢は、低く、ぶるぶると震えた唸り声に近い叫びをあげた。
ポリ袋の中は濃い紫色の餡子で満ち満ちており、所々に肌色と赤い布の切れ端が覗いている。
そう。
この塊は子ゆっくり達の成れの果て。潰れてしまった饅頭達である。
もはや、個体の判別が出来ないまでにぐしゃぐしゃになっていて、一つのどでかいおはぎのように見える。
ゆっくり霊夢は、ゆっくりらしからぬ速さでそのおはぎの傍によった。
「どおじでぇ゛ぇ゛ぇ゛!? どおじでこんなごどぉお゛お゛ぉぉぉぉっ!!」
「だから、野良犬が――」
「ゆ゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛! ゆ゛がああ゛ぁ゛あ゛ぁああっ!!」
駄目だ。
大量の涙を垂れ流し、ゆっくり霊夢は錯乱状態になっている。
「おっ、落ち着け! 落ち着くんだ!!」
「れい゛む゛のぉぉお゛お゛!!
れい゛む゛のかわ゛い゛いかわ゛い゛いこどもがみんなしんじゃっだあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ゛ぁ!!!」
ポリ袋にすがり付くように寄りかかり、愛しい子ども達だったものに訴えかける。
「ゆっぐり゛じでだのにいぃ! まいにぢゆっぐりじでたのにい゛い゛い゛ぃ!!
ぢいざなれいむだぢどながよぐみんなでゆっぐりじでだのにい゛い゛い゛ぁ゛あ゛あ゛!!!」
顔をぐいぐいと押し付け、子ども達の温度を感じようとした。
しかし、ほかほかの餡子とは程遠く、とても冷たい感触がゆっくり霊夢を更にどん底に突き落とす。
ふと、楽しかった日々がゆっくり霊夢の頭の中にぐるぐると回り始めた。
行きずりのゆっくり霊夢と交尾した事、
見事に受精し、自分の体を痛めながらも小さな命を産み落とした事、
その結果十二体のも可愛い家族が出来た事、
幼いゆっくりを巣に残して餌を探しに出て寂しくはないだろうかと心配した事、
子どもを守るため天敵と対峙した事、
初めて「ゆっくりちていってね!」と子どもが言葉を発して思わず泣いた事、
姉妹喧嘩をする子どもを叱った事、
子どもの寝言に思わず微笑んだ事、
今、それらが全てめちゃくちゃにされてしまった。
「ゆゅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! れい゛む゛のぜいだ!!
れい゛む゛がい゛え゛にいだら、れい゛む゛がかえ゛って゛た゛らあ゛あ゛あぁ!!!」
とうとう、ゆっくり霊夢は自分を責め始めた。
無理をしてでも帰宅して、家に居たら野良犬の餌食になんてさせなかった。
この身を犠牲にしてでも子ども達を守るつもりだった。
しかし、自分は遠くでガクガク震えていただけ。
寒さとかすり傷に震えていただけ。
――子ども達はその頃、野良犬の牙に引き裂かれていたのに。
「ごめ゛ん゛ね゛ぇ!! おか゛あ゛さん゛のせいでごべんね゛え゛え゛ぇ!!!」
その後ろ姿は、どこまでも痛々しかった。
■ ■ ■
青年が倒れ込んで地面にぶつかるまでのその間。
右手を離れて宙を舞うゆっくり袋の中、計十八個の目が青年を見上げていた。
そして、ブブリリュッという感触。
「ゆぐぐりゃあ゛あ゛あ゛あ゛ああああっ!!!」
その悲鳴で全てを理解した。
青年は足を滑らせて転んでそのまま前に倒れこみ、胴体でゆっくり霊夢チルドレンが入った袋を潰してしまったのだ。
体はあちこち痛んだが、子ゆっくりの安否を確かめるべく急いで袋を引きずり出す。
「うわっ……」
思わずそう口にしてしまった。
考えうる最悪の状況だった。
突然の圧迫に小さな子ゆっくり達の体は裂けてしまい、中から大量の餡子が噴出していた。
赤くて可愛いリボンも解け、子ゆっくり達の「ひゅーっ、ひゅーっ」という呼吸音が耳にまとわり付いて来る。
「ゆっ……ゆぐぐ……ぐ……ゆぐ……ゆぐり……ゆぐりした……い゛、い゛、い゛、い゛、…………」
左のほうには、明らかに死を目前にした痙攣をしている子ゆっくりが居た。
反対側には、口の皮が吹き飛んでいて白目を剥いている子ゆっくり。もう死んでる。
真ん中には何も居なかった。餡子とちぎれた皮とがごちゃまぜになっているものしか目に入らない。
手で袋を揉みしだき、何とか生きている子ゆっくりを探す。
ぐにょり、ぐにょり、ぐにょりと中のものを動かして、何とか生きているゆっくりが居まいかと泣きながら探す。
あ、頭だ。
ゆっくりの頭だ。
急いで、急いでにゅるりと餡子を掻き分ける。
生きていてくれ、生きていてくれ、生きていてくれ、生きていてくれ、生きていてく、
顔の、下半分がなかった。
「うわああああああああああ!!!!」
青年は地面にゆっくり袋をぶん投げ、両足でどこどこ踏み潰した。
もうぐちゃぐちゃで分からなくなってしまえ。
もう只の餡子袋になってしまえ。
――俺は知らない、俺は悪くない。
無駄に丈夫なポリ袋が悲しかった。
落ち着くと青年は餡子袋をそのまま抱え、とぼとぼと家を目指した。
■ ■ ■
ゆっくり霊夢は長時間泣き喚いていたが、突然振り向いてここをもう出る旨を伝えてきた。
「大丈夫か、もう平気なのか? 良いんだぞ、もう少しゆっくりしていっても」
自殺でもしやしないか心配で思わずそう問い掛けたが、ゆっくり霊夢は良いんだと言う。
「れいむはもういくよ。このこたちのためにももっとゆっくりしなくちゃ」
「そうか……」
ゆっくり饅頭って意外にも強いんだな。
青年はゆっくり霊夢の赤く腫れた目を見ながらそう思った。
「これは……お前の子どもの亡骸はどうする?」
床に転がった、色々な意味で重いポリ袋。
「いらない。もっていってもそのこたちはいきかえらない」
「………………」
「だから、おにーさんにたべてもらいたい」
何かを決意したような、力強い声だった。
「れいむたちのなかみはあまいあんこだよ。おいしくたべてね」
皮もおいしいよ、食べられないところはないんだよ、わざとらしくゆっくり霊夢は笑った。
「……分かった、ちゃんと食べる。おいしく全部食べるよ」
「おにーさん、ありがとう」
今度は、安心したような笑みだった。
その後、すぐにゆっくり霊夢は青年のアパートから出て行った。
雨は降り続いていると思ったが、玄関のドアを開けた時には止んでいて雲が切れ始めていた。
「水溜りには気をつけろよ」
「うん、おにーさんもゆっくりしていってね」
「……ああ」
のそのそと、ゆっくりゆっくり日常にもどっていくゆっくり霊夢。
その後ろ姿は、青年の心に焼き付いていつまでもはなれなかった――。
※実際はゆっくり饅頭たちが大好きです。
- 子ゆっくりが母親の持ってくる餌なしに元気だった理由
→ 母の思い出 『十二体のも可愛い家族が出来た』
→ 青年の確認した子ゆっくりの数 『全部で九匹居るな』
母親が居なかったのが三日だから、一日に一体ずつ……という事ですね。
見苦しい補足をしてごめんなさい。
最終更新:2008年09月14日 05:08