ゆっくりいじめ系69 小さな親切、大きなお世話

「小さな親切、大きなお世話」



 僕が来たのは、家から程近い“草原”。
ゆっくり達の生息地として知られているここには、よく加工所の職員がゆっくりを
捕獲しに来ている。そんな僕も、ゆっくりを見つけに来たのだが…

 僕はかねてから、不幸なゆっくりを思う存分ゆっくりさせてやりたいと思ってい
た。ゆっくりが畑を襲ったり、民家に居座るようになってから、ゆっくりは憎悪の
対象となり、頻繁に虐待されるようになっていた。

「あんなかわいいやつに、よくそんな事が出来るよな」

 僕の友達もよくゆっくりを虐待しているらしいが、僕はどうしてもそんな気にな
れない。僕だったら絶対に、ゆっくりを虐待したりしない。最大限にゆっくりさせ
てやるのに…

 草原にやってきたのは、ゆっくりできていない可哀相なゆっくりを連れ帰って、
思う存分ゆっくりさせてあげるためだ。

「ゆーーーーーーっ!!!」

 そんなところに、一匹のゆっくりの悲鳴が聞こえてきた。悲鳴の聞こえた方向を
向くと、そこにはゆっくりれみりゃから必死に逃げているゆっくりれいむがいる。

「がおーーー!!たーべちゃーうぞーーー!!」
「ゆゆっ!!れいむはおいしくないよ!!ゆっくりたべないでね!!」

 僕の捜し求めているゆっくりが、そこにいた。

「やめろーーーーー!!!!」

 力の限りダッシュして、ゆっくりれみりゃを蹴り飛ばす!!

「うーーーーぎゅーーーーー!!!!」

 餡子をブチまけながら、紅い屋敷のある方向へ飛んで行った。僕は弱いものを虐
める奴を、絶対に許したりしない!!それが僕の正義だ!!

「おにいさんありがとう!!これでゆっくりできるよ!!」

 と、お礼を言いながら寄り添ってくるゆっくりれいむ。あぁ、やっぱりかわいい
なあ。この子だけは、絶対に守らなければ…

「ここはさっきみたいなゆっくりれみりゃも生息している。ここに住んでる限り、
 君はゆっくりできないよ」
「ゆゆっ!?」

 かわいそうだが、事実を告げる。ここに住んでいたら、いつまたゆっくりれみりゃ
などの捕食種に命を狙われるか分からない。ゆっくりするためには、ここから出て
行かなければならないのだ。

「僕の家ならゆっくりれみりゃは入れないから、思う存分ゆっくりできるよ」
「ゆっ!!じゃあそこでゆっくりするよ!!ゆっくりつれていってね!!」

 どうやら、慣れ親しんだ草原を捨てる決心をつけてくれた様だ。僕はゆっくりと、
ゆっくりれいむを自分の家に案内した。

                   ◆

「ここだよ。さあ入るといい」
「ゆゆっ!!ひろいね!!あたたかいね!!」

 ゆっくりれいむのために用意した部屋に案内する。ここには遊ぶ道具もあるし、
空調設備も整っているし、走り回れるだけの広さもある。ここなら寿命で死ぬまで
一生ゆっくり出来るだろう。

「おにいさんありがとう!!ここでゆっくりするね!!」
「ああ、そうしなさい。それじゃあ僕はご飯を作ってくるよ」
「ゆっ!ごはん!ゆっくりまってるね!!」

 僕は自分の財力が許す限りのご馳走を用意した。普段、僕でも食べられないよう
な豪華な料理が並んでいる。

「ゆゆーーーー!!むーしゃむーしゃ♪しあわせーーー!!」

 今まで何度か食事中のゆっくりを見たことがあるが、こんなに幸せそうなゆっく
りは初めてだ。腕によりをかけて準備した甲斐がある。

「どう?美味しいかい?」
「すっごくおいしいよ!!ゆっくりたくさんたべるね!!」

 そう言って、ゆっくりらしからぬスピードで食べていくれいむ。でも、料理はな
かなか減らない。

「おにいさんはたべないの?ゆっくりたべてもいいよ!!」
「これはれいむの為に用意した料理だから、れいむが全部食べていいよ」
「でも、れいむこんなにたくさんたべられないよ!!」

 ちょっと用意しすぎたかな…でも、遠慮してるだけかもしれない。

「そんな遠慮しないで、ほら、お口開けて…あーん」
「ゆゆっ!!??もういいよ!!たべられないよ!!!もごぅっ!!??」

 れいむの口を無理やり開けて、美味しい料理を沢山食べさせてあげる。よほど嬉
しかったのか、れいむは涙を流して喜んでいた。

「うぎゅーーーー!!うぐぐあえrがえりのい!!!」
「ほらほら、もっともっと♪」
「むり!!!もうやめでよ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!だべられ゛な゛い゛よ゛
 お゛お゛お゛!!!」
「そんなこと言ってると大きくなれないぞ」

 用意した料理がなくなったのは、食べ始めてから30分経った頃だった。沢山食べ
て満足したのだろう、食事前より一回り大きくなったれいむは、無言でゆっくり床
に転がっていた。うんうん、沢山食べればそのうち立派なゆっくりになれるぞ!

 お礼を言いたくて口を動かそうとするが、食べ過ぎたせいでうまく喋れないらし
い。でもいいんだ。お礼なんて言われなくても。僕は君をゆっくりさせることが出
来ればそれでいいのだから…!

「じゃあ、お兄さんは片付けたらまた来るからね。ゆっくりしていってね」

                   ◆

 ゆっくりの部屋に戻ると少し暑く感じたので、冷房をつけることにした。エアコ
ンから出る冷機がれいむに当たると、れいむは「ゆゆっ!」と一瞬震えた後、喜び
ながら飛び跳ね始めた。

「すずしいね!!これならたくさんゆっくりできるよ!!」
「そうだろう。もっと涼しくするから、もっとたくさんゆっくりしていってね」

 そういって設定温度を-5℃にする。これだけ涼しくすれば、思う存分ゆっくり出
来るだろう。

 しばらくすると、れいむが震えながら苦痛を訴え始めた。

「ゆゆゆゆゆ………!さむいよ!つめたいよ!」
「え!?でも、涼しくすればたくさんゆっくり出来るだろう?」
「ゆゆゆゆゆ……!!さむいよ!!ゆっくりできないよ!!」

 ちょっと温度を下げすぎただろうか?暖めてあげる為に、暖房に切り替える。し
ばらくすると、れいむは幸せそうな顔をして部屋の中を跳ね回るようになった。

「ゆっゆっゆっ♪あたたかくてきもちいいよ!!これならたくさんゆっくりできる
 よ!!」
「そうか、じゃあもっと暖かくしてあげるから、もっとたくさんゆっくりしていっ
 てね」

 設定温度を50℃にして、僕は部屋を出る。50℃なんて、人間には耐えられないが、
れいむなら思う存分ゆっくりすることができるだろう。

 僕は自室に戻って、オーディオを最大音量で聞きながら気分転換に本を読むこと
にした。

                   ◆

 1時間後、夕飯を持ってれいむの部屋を訪ねたのだが…

「あつ……い…よ…………ゆっぐり…でき…な……」

 今にも消え入りそうな声で、異常を訴えるれいむ。ゆっくりできないだって!?
そんな…僕は暖房で思いっきり部屋を暖かくしてあげたのだから、思いっきりゆっ
くりできるはずなのに!!

 部屋に入ると、ちょうど真ん中にれいむは転がっていた。水分がかなり抜けてし
まっていて、干からびた饅頭のようになっている。

「ゆ…っくり……水を……もってき…て…ね……」
「み、水だな!!わかった!!ゆっくり持ってくるよ!」

 本当は急いで水を与えたかったが、れいむが「ゆっくり」と言うのだからしょう
がない。僕は30分かけてゆっくり水を持ってきた。

「おぞいよ゛お゛お゛お゛お……ばやぐみずぼどお゛あ゛い゛ぼお゛お゛お゛……」
「ごめんごめん、君がゆっくりって言うからさ。ほら、水だよ」

 水を与えて暫くすると、れいむの皮に潤いが戻ってくる。

 50℃の部屋に僕は長くいられないので、れいむには悪いが冷房をかけて室温と同
じ温度に戻した。

「ゆゆっーーー!あづかっだよおおお!!ゆっぐりできながっだよおおお!!!」
「おー、大変だったんだね。でももう大丈夫だよ。食べ物を持ってきたからね」
「ゆゆっ!?たべもの!?ゆっくりたべていくね!!」

 そのあと、昼ごはんと同じように、れいむが動けなくなるまで沢山食べさせて上
げた。たくさん食べれば、たくさんゆっくり出来るからね!

                   ◆

 夜。寝る時間である。僕はれいむの部屋を訪れた。

「そろそろ寝る時間だよ。ゆっくり眠ってね」
「ゆ!!あしたもゆっくりするよ!!あしたもゆっくりしようね!!」

 そんなれいむを僕は抱き上げて、一緒にベッドに入る。

「あたたかい!!これならゆっくりねむれるね!!」
「そうだね。明日もたくさんゆっくりしていってね」
「おにいさんもゆっくりねむっていってね!!」

 そういうと、れいむはあっという間に眠りについた。きっとゆっくりしすぎて疲
れたんだろうな。明日もたくさん遊んであげて、たくさんゆっくりさせてあげよう。

 僕は、枕もとのれいむを思い切り抱きしめて深い眠りについた…

                   ◆

「はなじでよぼおばお゛お゛お゛お゛お゛!!ゆ゛っぐりはな゛ぢでね゛え゛え゛
 え゛!!!」

 れいむの悲鳴で、僕は目を覚ました。目を開いた瞬間、あまりの惨状に僕は固ま
ってしまった。

 ベッドを汚す大量の餡子。その餡子の出所は、なんとれいむだったのだ。れいむ
はピクピクと痙攣しながら、苦しそうな悲鳴をあげ続けている。

「どうしたんだい!?」

 れいむを抱きしめていた手を緩めると、れいむはぴょんと跳ねてベッドの下に降
り立った。流出した餡子の量が多すぎた為に、目が虚ろで元気がない。

「おにいざんはなぢでえええええ!!!おにいざんどばゆっぐりできなびいいいい
 いいっ!!」

 いったい何があったというのだろうか?…いや、とにかくれいむを苦しみから解
放してやることが先だ。

 僕は散らばっている餡子を一箇所にかき集め、ベッドの上にれいむを持ち上げた。
そして…

「ちょっと痛いだろうけど、我慢してね」
「ゆっ!?ゆぎゅう゛う゛う゛う゛う゛う゛!?!?!?!」

 れいむの背中を切り広げて、そこから餡子を中に戻していく。人間だったら麻酔
なしで欠損した内臓を戻すようなものだから、絶対に発狂してしまうだろう…。で
もゆっくりれいむなら、きっとそんなことはないに違いない。

「ぎゅうううう!!やめでよごごおお!!!いだいよおおおお!!!」
「我慢するんだ!今れいむの中身を戻してあげるからね!!」

 白目をむき、あごが千切れんばかりに口を開いて泡を吹くれいむ。でも…放って
おくわけにもいかない。放っておいたら、発狂するだけじゃ済まないのだから!!

「やめでおおおおお!!!じんじゃぅおおおおおお!!!!????」
「頑張るんだれいむ!!我慢すればゆっくりできるようになるからな!!」
「ゆっぐりいいいい!!!ゆっぐりじだいよおおおおばおあおあおあおあr!!」

 綺麗に餡子をつめるために、かなり時間がかかってしまった。何とかすべての餡
子を戻し終え、傷口を塞いで縫う。しばらくすると、元気を取り戻したれいむが僕
に向かって言い始めた。

「もうひどいことするおにいさんとはゆっくりできないよ!!ゆっくりでていって
 ね!!」
「え!そんな…!」
「ここはれいむのおうちだよ!!おにいさんはゆっくりでていってね!!」




「……!!」




 その言葉に、僕は固まってしまった。「れいむのおうち」だって…!?
一晩経って……れいむはこの部屋を自分の家だと思い込んでしまったのだ。




「……そうか、そうだよな」
「そうだよ!!ここでれいむだけゆっくりするよ!!ゆっくりできないひとはでて
 いってね!!」
「僕が悪かったよ。れいむは僕がいない方がゆっくりできるんだな。今まで気づか
 なくてごめんな」

 そういって部屋の出口に戻る。

「ずっとゆっくりしたければ、ここをれいむのおうちにすればいい。誰も入ってこ
 ないようにお兄さんが守ってあげるからな」

 手のつけられていない料理を持って、僕は扉を閉める。一緒にゆっくり出来たの
は半日だけだったけど、これが“ゆっくり”の本来の姿なんだ。

「それじゃ、僕は出て行くよ。ずっとゆっくりしていってね」
「ゆゆっ!?おにいさん!!たべものはおいてって!!ゆっくりたべるよ!!」

 扉を閉めて、頑丈に鍵をかける。

「おながずいだよおおお!!ごはんたべざぜでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!」

 何かれいむが喋っているのが聞こえたが、悲しみのあまり返事をするのも忘れて
その場から立ち去った。仕方ないんだ、これはれいむがゆっくりするためのことな
んだから…。僕は涙を堪えながら自室に戻り、最大音量で音楽を流して沈んだ心を
癒すことにした。

「あぁ…もっとれいむと一緒に、ゆっくりしたかったなぁ」

                   ◆

 それから…れいむの部屋の前を通ることは何度もあったが、れいむが何を言って
もなるべく気にしないように努めた。僕が関わってはいけない。僕が部屋に入った
られいむはゆっくりできないのだから。

 そして、最後にれいむに会ってか3日後。どうしても気になって、僕は静かに鍵を
開けて、れいむの部屋に入り込んだ。そこには…どういうわけか、弱りきったれい
むが横たわっていた。

「おなが…すいだおおおおおおおあえおおおお!!!!おにいざん!!ごはんちょ
 おだいよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」

 お腹…すいた?もしかして、今まで何も食べてないのか!?

「れいむ、僕の用意したご飯が食べたいのかい?」
「だべざぜで!!おにいざんのごばんだべざででおおお!!!」

 そうか、僕の作ったご馳走が美味しかったから…れいむはそれをずっと待ってた
んだ。空腹を我慢して、3日間も…!!

「ゆっ…ゆっ…ごはんんんんんーーー!!!」

 れいむはピクピクと痙攣しながら、僕の足元に這いずってくる。そして、僕の足
にぱくっと噛み付いた。空腹が限界に来ている…目の前のものすべてが食べ物に見
えるんだ。

「れいむ…目を覚ますんだぁッ!!!」

 れいむを掴みあげると、僕は壁に向かって全力投球でれいむを投げつけた。

「ゆぎゅうううあえろうあおえろおおおあえrべ!!!!」

 壁に張り付いたれいむは、ぴくっと一度動くと床に落ち、大量の餡子を吐き出し
た。でも、幻覚かられいむを解き放つにはこれしかなかったんだ!!

「れいむ、待っててね!!今すぐご馳走を用意するから、ゆっくりまっててね!!」

 その後、用意したご馳走をれいむが動けなくなるまで食べさせてあげた。これぐ
らい食べないと3日分の空腹を満たすことは出来ないだろう。動けず喋ることもでき
ないれいむは何か言いたそうにしていたが、「お礼はいいよ」とだけ言い残して僕
はその場を立ち去った。

                   ◆

 食べたものの消化が済んだ頃、僕は再びれいむの部屋を訪れだ。マッサージをし
てあげるためだ。でも、僕が部屋に入るとれいむは…

「おにいさんといるとゆっくりできないよ!!」
「え!?」
「れいむはゆっくりたべるの!!いそいでたべさせるおにいさんはでてってね!!」
「あ、あぁ…それは悪かったよ。お詫びにマッサージしてあげるからさ」
「ゆ!?じゃあゆるしてあげるね!!ゆっくりまっさーじしていってね!!」

 どうにか許してもらえたようだ。適度に振動を与えると、れいむは気持ちよさそ
うな顔をする。そんな表情を見ると、僕も幸せな気分になるのだ。

「ゆゆゆゆゆゆぅ~~~~」
「どうだ、気持ちいいかい?」
「ゆうぅ~きもちいいのおおお~~~~ゆゆゆゆゆゆ……」

 そのうち顔が紅潮して、声も艶っぽさを帯びてくる。さらにマッサージを続ける
と…

「ゆゆゆゆゆゆゆ、ゆふうううぅぅぅぅんんんんんんんんんん!!!!」

 目を大きく見開いて、口も千切れんばかりに大きく開いたのだ。女の子らしから
ぬ、下品な顔。涎まで垂らしている。僕はそれを止めさせる為に、マッサージを止
めた。

「ゆゆっ!?なんでやめちゃうの!?すっきりさせてね!!」
「今のれいむの顔が酷かったから止めたんだよ。女の子なんだから、そんな顔しち
 ゃダメだ!!」
「やだああああ!!!ずっぎりじだいのおおおおおお!!!」
「じゃあ、もうあんな顔しないと約束する?」
「するよ!!もうへんなかおしないよ!!」

 と約束したので、また気持ちよくしてやるが…やはりあの下品な顔になってしま
うので、僕はマッサージを止める。

「やめないでよね!!ゆっくりすっきりさせてね!!」
「すっきりしそうになると、やっぱり君は変な顔になっちゃうんだよ。だからすっ
 きりさせてあげることはできない」
「ゆああああああ!!!ずっぎりじだいよおっばお゛あ゛お゛お゛お゛お゛!!!」

 何度マッサージしてやっても、れいむはすっきりする直前になると“例の顔”に
なってしまう。その度に僕はマッサージを止めざるを得なかった。すっきりしたい
れいむにとってはまさに生殺しだろう。

「ゆぐっ…ゆっ…ずっぎゅりざぜでばおおおおお!!ごのままじゃゆっぐりでぎな
 えろおおお!!」
「あ、れいむごめん!!お兄さんこれから用事あるから、またあとでね!!」
「いやああああおにいざんいがないでえええええ!!すっぎりざぜでえええ!!」

 すっきりさせてやれなくて可哀相だけど、わかってくれ!!れいむのためなんだ!!
すっきりできないストレスで扉に体当たりする音が聞こえるが、鍵をかけているの
で出てこれない。そんな痛々しい音を耳にしながら、僕はその場から離れていった。

                   ◆

 仕事が終わったのでれいむの部屋に戻ると、部屋に入った瞬間『むぎゅ』という
感触が足から伝わってきた。足元を見ると…

「ゆぎゅううううううう!!!はなぢでえええええええ!!!」

 ぺしゃんこに潰れたれいむの姿が、そこにはあった。部屋の入り口近くでゆっく
りしていたのだろう、そこに僕がやってきて思い切り踏んづけてしまったのだ。皮
をうまく引き伸ばして元の形に戻してやる。

「いだあああああいいいいい!!!やめでえええええ!!やぶれちゃううう!!!」

 僕は形を戻すのに夢中で、返事をすることも忘れていた。そんな時だった…

 ぶじゅ!!

 れいむの頬あたりから餡子がもれてしまったのだ。

「ゆぎゅうううう!!!もうやめでえええ!!ざわらないでえよおおおおああ!!」
「でも、ちゃんと元に戻さないと!」
「いいの!!れいむにちかづかないで!!おにいさんなんかきらいだよ!!」

 …ショックだった。今まであんなにゆっくりさせてあげたのに、嫌われた…

「そんなこと言うなよ。あんなにゆっくりさせてあげただろう…」
「ゆ゛っ!!ぜんぜんゆっくりできなかったよ!!おにいさんがわるいんだよ!!」

 衝撃だった。僕はゆっくりさせてあげているつもりが、全然ゆっくりできていなか
ったというのだ。

「ゆっくりついてこないでね!!れいむはおうちにかえるからね!!」

 今まではここがれいむのおうちだったのに…もう昔のおうちに戻るというのか。
あそこはゆっくりれみりゃがいるから危ない、と教えてあげたのに…!

 でも、れいむがそう決めたのなら、その選択を尊重してやるべきだよな。

「そうか、わかったよ。出口はこっちだ」

 門まで案内し、ゆっくりを外に出してやる。その瞬間、ゆっくりは震え上がった。

「ゆぎゅ!!さむい!!さむくてゆっくりできないよ!!!」
「寒いのは当たり前さ。今の“草原”は冬なんだから」

 全天候型ゆっくり放牧区画、通称“草原”。加工所の所有する施設である。今の
時期、このドーム内は気温-10℃の極寒に設定されているのだ。

「どうして!!さっきまであたたかかったよ!!」
「あぁ、さっきの部屋は暖房がかかってたし…君が前ここに住んでたころは、あた
 たかく設定されていたんだよ、このドーム」

 そう、昨日まで“草原”は夏だった。でも今日から“草原”は冬なんだ。

「ゆ!?なにいってるの!!わけわかんないよ!!ここじゃゆっくりできないよ!!」

 確かにそうかもしれない。でも決めたのはれいむ…君自身なんだ。

「大丈夫、れいむならゆっくりできるよ、きっと…たぶん」

 そう言ってれいむの背中を押す。れいむはころころ雪の上を転がって、大岩にぶ
つかると転がるのを止めた。体には行きが纏わりついていて、寒そうに震えている。

「やめでええええ!!おうぢにがえるうううう!!!」
「れいむのおうちはずーっと向こうだぞ。頑張って帰るんだぞー!」
「ぢがうの!!さっきのおうぢにがえるのおおお!!!!」

 それは許されない。れいむは自分で“元の家に帰る”と決めたのだから。
別れるのはつらい。僕ってれいむと一緒にゆっくりしたかった。でも、それは許さ
れないんだ。

「じゃあ、こんな厳しい環境だけど…頑張ってゆっくりしていってね」
「いやああああああああ!!!ぢめないでえええええええ!!ゆっぐりざじでええ
 ええええよおおおおお!!!」

 皮が凍り始めたれいむ。だんだん元気がなくなり始めた。

「いや……ゆっぐり……ざぜ……で…」

 寒さで震えて、うまく喋れないのだろう。僕も…別れの悲しさから、感極まって
目に涙を浮かべながら震えていた。

「や……じにだくな…いよ……ゆぐり…じだい…」
「…頑張って、ゆっくりするんだよ…」

 れいむに涙を見せないように、僕は急いで門を閉めた。もう何も聞こえない。

 『もっど…ゆっぐりじだがっだよ…』

 そんな声も、きっと僕の幻聴だ。

 『おにいざん……ごめんなざい…ゆるじで…ゆっぐりざぜで…』

 いったい何を謝ってるんだ。君はゆっくりしてただけじゃないか。

 『ゆ……っぐり…』

 そう…君は、ゆっくりしてるだけでいい。

 誰もいないところで、僕のいないところで…

 ずっと、ゆっくりしていればいいんだ… 

 『……ゆっ………―――――――――』

 それっきり、幻聴は聞こえなくなった。

 ……

 門を開けると、そこにはもうれいむの姿はなかった。

 雪原のほうへと続く、2つの足跡。

 それを見て、僕は確信した。

 きっとあのれいむなら、この厳しい環境の中でもゆっくりできるだろう、と。

 今まで僕のしてきたことは決して無駄ではない…そう確信して、僕は自室に戻った。

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最終更新:2008年09月14日 05:08
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