ゆっくりいじめ系1414 ゆっくり昼メロ_01

■ゆっくり昼メロ

ここは静かな森の中──ではなく、都心に程近いベッドタウンの一画。
川原の土手に掘られた巣の中に、あるゆっくりの家族が住んでいた。
まりさ種とれいむ種の両親を持つ、まりさ種とれいむ種の子供達。
土手を訪れる人間は少なかったので、四匹はそれなりにゆっくりした毎日を過ごしていた。
今日も家族でご飯をむーしゃむしゃし、ゆっくり食後のお昼寝タイム。
ゆっゆっとくつろいでる家族の姿を見て、親まりさは幸せな気分に浸っていた。
愛しいれいむに、可愛い子供達。
あんなに小さかった子供達が、こんなにゆっくり大きくなった。
でも、そのおかげで、ちょっぴりお部屋が狭い。
子供達の成長は嬉しいが、この問題は何とかしないといけない。

「ゆふぅ、子供達も大きくなって、ここも狭くなってきたんだぜ」
「そうだね、子供達のために新しい部屋が欲しいね!」
「まりさ、じぶんのへやがほしい!」
「れいむも! れいむも!」
「よーし今日はみんなで、おうちをリフォームするんだぜ!」
「「ゆっくりリフォームしようね!」」

思い立ったら即実行。家族はさっそく、巣穴の拡張工事を始める事にした。
まずは親まりさの指示が飛び、お部屋の位置が決められる。
子供達はお部屋予定地まで行くと、すぐにゆんしょゆんしょと穴を掘り始める。
川辺の湿度が高い土壌なら、子供達でも楽に掘り進む事が出来るのだ。
頑張ってる子供達の姿に、親れいむはゆっくりにっこりした。
ゆっくり一家は幸せに包まれていた。

この瞬間までは。

「せんぱーい! ありました! ありました!」
「ディ・モールト! よーし、よーし、ご褒美に角砂糖が欲しいか? 三つも! このいやしいんぼうめ!」
「いいから、さっさと作業しましょうよ。遊びじゃないんですから」
「冷たいマシーンだよ、お前は」

外から聞こえる人間達の声。どうやら巣の前まで来てるらしい。
人間には、ゆっくり出来るものもいれば、ゆっくり出来ないものもいる。
どちらつかずのその存在は、いつも野良ゆっくりの餡子脳を悩ませる。
警戒するに越した事はないのだが、幸か不幸か、人間とゆっくりは会話をする事まで可能だった。
親まりさは決断を下した。

「みんなお家に隠れてるんだぜ! まりさがお話してくるんだぜ!」
「おかあさん、あぶないよ! いっちゃダメだよ!」
「お母さんまりさの言う事を聞いてね? 子供達はれいむの後ろに隠れてね」
「ゆぅ……わかったよ……」

家族に見送られ、颯爽と外へ飛び出してく親まりさ。
その背には親としての威厳が満ちている。
子供達を後ろに庇いながら、親れいむは、親まりさなら何とかしてくれると信じていた。
怖い犬さんがお家に来たとき、まりさは飼い主のおじいさんに言って追い払ってくれた。
犬さんはあれからずっと来ない。まりさのおかげだ。
だから今度も大丈夫。まりさなら大丈夫。

「お、おにーさんたち! まりさのおうちに、なにかような……ゆべっ!」
「せんぱーい、一匹確保しましたー」
「よし、そのままボックスに入れとけ」
「はなすんだぜ! まりさはお空を飛びたくないからやめるんだぜ!」

親いれむの祈りは、人間達の手によって、あっさりと折られた。
土手に響く親まりさの悲痛な叫び。
だが人間達がその声に耳を貸す事はない。
それもそのはず。彼らは保健所から仕事でやって来たのだ。
人間達はつかみ上げた親まりさを、そのまま側にあった箱の中へと閉じ込める。
親まりさの入った箱がガタガタと震える。
きっと中で大声を出して泣き叫んでいるのだろう。
だが近隣住民に配慮し、完全防音で設計されたこの箱からは、呻き声ひとつ聞こえて来なかった。

「しかし、あの爺さん。このくらい自分でやって欲しいですよね」
「そう言うなよ。これも俺達の仕事のうちだからな」

彼等の勤める保健所に、先日一件の電話があった。
飼い犬が散歩のたびに野良ゆっくりに構って困っている。だから何とかして欲しいらしい。
そんなの放っておけよとも思ったが、野良犬を追い回すのに比べれば、遥かに楽な作業だ。
ちょうど手が空いていたので、ちょこっと行って、ささっと済ませてしまう事にした。
これで保健所は仕事してないと言う人間が一人減るだろう。

「せんぱーい、これ巣の中にもまだいるんですかね?」
「んー、そうだなぁ……ゆっくりしていってね!」
「「ゆっくりしていってね!」」
「あー、いるなぁ。掃除機持って来い。掃除機」
「わかりましたー」

後輩らしい職員が、土手の上に停めたワゴンから掃除機を持ち出してきた。
そこらで売られている、いたって普通の掃除機だ。
ちゃんと充電されてるか確認し、吸気を中にセット。ノズルをスキマ用に換装する。
これで準備完了だ。

「それじゃ行きますね」
「土はあまり吸わせるなよ。壊れるから」
「りょうかいー」

後輩職員の返事と共に、掃除機の電源が投入される。川の静寂を掃除機の吸気音が乱す。
直径30cm程の穴の中に、細かい土埃を吸いながら、長いスキマ用ノズルがゆっくりと進入していく。
巣の奥で震えるゆっくり一家に、スキマ用ノズル別売り1980円が迫る。

「ゆゆっ!? おかあさん、なんかきたよ!」
「ゆぇ~ん、なんだかゆっくりできないよぉ~」
「大丈夫だからね! お母さんの後ろから離れな……ゆべべべべっ!」

ノズルの先端は手始めに、巣の入り口に一番近かった親れいむの頬を捉えた。
その四角い口はピタリと吸着し、狙った獲物を決して逃さない。
激しく動くと、頬が破れてしまうかも知れない。
中の餡子まで吸いだされてしまうかも知れない。
怖くて動けない。成すがままになるしかない。
親れいむは掃除機の吸引力に戦慄した。

「よっしゃ、ヒットー」
「よーし、そのまま、ゆっくり外に出してね!」
「りょうかいー」
「ゆっぐりぃいいいい……」

捕らえられた親れいむが、そのままズリズリと巣の外へと引っ張り出される。
ノズルの先端には親れいむが、親れいむの表情には恐怖が張り付いてる。
後輩職員はその姿を確認すると、掃除機の電源を落とした。
吸引力を失い、親れいむの身体に自由が戻る。
親れいむはそのチャンスを逃さなかった。
ゆっくりせずに、ノズルの側から跳ね逃げようと試みる。
しかし後輩職員はもっとゆっくりしていなかった。
素早く伸びた腕の指先が、親れいむの後頭部をがっしりと掴みこむ。
親れいむの夢は儚くも奪われた。
怖いよまりさ。助けてまりさ。
親れいむは愛する親まりさの姿を探した。
だがその姿はどこにもない。
ああ、きっ人間のせいで大変な事になったんだ。
観念した親れいむは、せめて子供達だけは助けようと決心した。

「ゆぐぐ……お、おにーさんたち、れいむで最後だから、もうやめてね!」
「せんぱい、まだいるみたいです」
「よーし、もっかい入れてみろ」

後輩職員の指先が、無情にも掃除機の電源をオンにする。
三大神器の名を冠する悪魔は、再び命の炎を燃え上がらせた。
そして、ゆっくりうめぇぱねぇとばかりに、その口を巣穴の奥へと伸ばしていく。

「ゆゆっ!? ま、またきたよ!」
「ゆぐぐ……れいむ! れいむは、そのあなにかくれててね!」

言うが早いか、子まりさは子れいむの身体を突き飛ばした。
その先には、リフォーム途中で掘り返されたままの空洞が開いている。
子れいむはすっぽりと丸い穴の中に納まった。

「れいむ! ぜったいしゃべっちゃダメだよ! なにがあってもだよ!」
「ゆっ! でも!」
「いいから、だまってね! しずかにゆっくりしててね!」

子まりさはそう言い放つと、急いで子れいむの上から土を被せていく。
子れいむの姿はすぐに地面に下へ隠れた。
れいむだけでもゆっくりしてね。
心の中でそう呟くと、子まりさは獲物を求めるノズルへと体当たりをしかける。

「ゆべべべべべえぇ!」

何と言う吸引力。
両親の愛情あふれたちゅっちゅとは比べ物にならない。
粗野で乱暴なそれに、子まりさの柔肌を、抉るような激痛が走る。
だが引くわけにはいかない。
苦痛に顔を歪めながら、子まりさはその力に身を預ける。
身体がずるずると引っ張られ、気がつくと目の前には母の顔があった。

「ゆぐぐっ……おかあ……さん……」
「まりさぁあああ!!」

引きずり出された我が子の姿に、親れいむが慟哭する。
自分が捕まった時より余程悲しいのだろう。
その顔は白目を剥いて、歯茎をガチガチと震わせている。

目の前の光景に、後輩職員は僅かに眉をしかめた。
ある思いが、ふと頭をよぎったのだ。
だがそれは、無限に続く思考の落とし穴だ。
この仕事を続けたいのなら、その穴の中を覗いてはいけない。
後輩職員はすぐに気を取り直し先輩職員に声をかける。

「せんぱーい、やっぱまだいましたー」
「んじゃ俺が二匹まとめてボックスに入れとくから、お前はもっといないか探してみてくれ」
「りょうかいー! あ、そうだ先輩。やっぱ、さっきの角砂糖くださいよー!」
「持ってないよ、そんなもの!」
「ですよね!」


数時間後、ようやく静かになった巣の中で、子れいむがゆっくりと土の中から顔を出した。
巣の中には何も残されていなかった。
家族の匂いがする藁のベッドも、宝物の綺麗な小石も、そして掛け替えの無い家族の姿も、何一つ残されていなかった。
残されたのは、子れいむだけ。
子れいむは何とか生き延びる事に成功したのだ。
これもひとえに、子まりさの機転のおかげだろう。
あのまま巣の中にいれば、子れいむは確実につかまっていた。
子れいむは知らないが、寝床が掃除機のノズルに詰まったのも良かった。
先輩職員は後輩職員を罵るのに夢中になり、巣を埋めるのも忘れて帰ってくれた。
子れいむの家族を連れて……。

こうして、れいむは一人になり、ゆっくり出来るものを一つ失った。




それからのれいむの生活は、泣いて、食べて、眠る、この繰り返しだった。
残された巣の中で一人眠り、目が覚めたら巣の前の土手で草や虫を食べる。
涙はれいむの身体から勝手に溢れてきた。

しかし、そんな生活も長くは続かない。
何日かたった頃、れいむはある異変に気がついた。
巣の周りで取れる食料が減ってきているのだ。
昆虫も草も有限ではない。後先考えず食べた結果がこれだった。
このままだと食べる物が無くなってしまうかも知れない。
そう考えたれいむは、親まりさが普段どうしていたのか思い返してみた。

親まりさの持ってくる食料の中には、確かに巣の周りにある物もあった。
だが一番多かったのは、人間の食べ残したご飯、つまり生ゴミだ。
れいむには、そういった物がどこにあるのかの知識は全くない。
こんな事になるなら、どこから持ってくるのか聞いておけば良かった。
れいむは後悔したが、今更悔やんでも、どうとなるものではない。
こうなったら自分で探し出すしかないだろう。
人間の物は、やはり人間の場所にあるのかも知れない。
明日は人間の場所に、ご飯を探しに行こう。
れいむはそう決意すると、明日に備えて深い眠りについた。


次の日、れいむは産まれて初めて、巣から遠く離れた住宅街へとやって来ていた。

「ゆ~、おっきなおうちばかりだよ~」

これまで遠くから眺めてるだけだった場所。
物珍しさも手伝って、れいむは何だかわくわくしてきた。
どこかに、すごくゆっくり出来る場所があるかも知れない。
れいむは、まだ見ぬゆっくりプレイスを求めて跳ね進む。
当初の目的は、すっかり忘れ去られていた。

れいむにとって人間の街は、それほど危険なものでは無かった。
珍しくも無いゆっくりに構う人間は少なかったし、れいむ自身も人間に関わろうとしなかった。
人間はよく解らない。優しく撫でてくれる人間もいれば、家族を奪う人間もいる。
それなら迂闊に話しかけない方が良い。れいむは、そう考えていた。

しばらくすると、れいむの姿は公園のベンチの上にあった。
ここにいるのには、単純な理由がある。
公園の前を通りかかったさい、人間に餌を貰っているハトを見かけたからだ。
羨ましく思い遠くから見ていると、何故かれいむの方にも食べ物を投げた。
ここは割とゆっくり出来るのかも知れない。
そう思ったれいむは、疲れた身体をここで休める事にしたのだ。

公園でゆっくりしながら、れいむは何度か見かけた他のゆっくりの事を考えていた。
れいむは今日まで、家族以外のゆっくりを見た事がない。
初めて会った他のゆっくりは、大きく分けて二種類いた。

一つは人間と一緒にいて、ニコニコと微笑んでいるゆっくり。
サラサラの髪に、ふっくらとした頬、目が覚めるような美ゆっくり。
是非ともお近づきになりたがったが、残念ながら、お話する機会は無かった。

もう一つはれいむ同様、街をふらふらと跳ねてるゆっくり。
ベトベトの髪に、げっそりとした頬、目を覆いたくなるようなゆっくり。
それでもお近づきになりたかったが、残念ながら、れいむを見かけると隠れてしまった。

自分はどちらに見えるのだろう?
自問するまでも無い。間違いなく後者だ。
土埃に汚れた自分の身体を見て、れいむは重たいため息をついた。


次の日も次の日も、そのまた次の日も、れいむは住宅街に通い続けた。
すっかり忘れていたご飯の在り処が、翌日あっさりと見つかったからだ。

れいむが見つけたのは、親まりさ同様、ゴミの集積所だった。
朝早く出かけたれいむの目の前で、野良ゆっくりが袋を噛み破り、中から人間の食べ物を見つけ出し跳ねて行く。
れいむも他の袋で真似てみると、思いのほか上手くいった。

それからというもの、れいむは毎朝ゴミ集積所に通っていた。
ただし生ゴミは毎日出されているわけではない。
餌にありつける日もあれば、手ぶらで巣に戻る日もある。
その上、他のゆっくりや、犬、猫、カラスまでもが、餌を求めてやって来る。
特に後ろの三つは逆にご飯にされる可能性まであり、その競争率は高かった。
誰よりも先に袋を開けなければならない。
おかげでれいむは、早起きゆっくりになってしまった。
れいむのゆっくりがまた一つ消えていた。

「ゆゅ~ん♪ きょうはいっぱい、ごはんがあったよ~」

れいむはご機嫌だった。
ゴミ集積所に一番乗りし、普段より多目の食料を確保する事が出来たのだ。
さっそく巣へと持ち帰り、ぽっかり空いた穴の中へと仕舞い込む。
れいむの命を救ったあの穴が、今では貯蔵庫としてれいむの命を繋いでいた。
念のため土をかけて穴を隠すと、今度は巣の外へ出て、汚れた身体を川で洗い流す。
川辺の浅い場所でなら、溺れてしまう事はないので安全だ。
だが、それでも長居をすると溶けてしまう。
早々に切り上げると、身体に付いた水滴をブルブルっと震えて弾き飛ばす。
それから、水面に写る多少マシになった姿を確認すると、再び住宅街に向けて跳ねて行く。
公園に行くためだ。

れいむはご飯の貰えた公園に、ちょくちょく足を運んでいた。
たまにハトの餌が貰えるためだが、理由はその他にもある。
この公園には、主人と一緒に飼いゆっくり達が遊びに来るのだ。
自分と違い美しい姿をしたゆっくり達。
妬ましい気持ちもあったが、それを上回る程、彼女達の姿を見ているとゆっくり出来た。
話しかけてお友達になりたい。
れいむは常々そう考えていたが、生憎とこれまでその機会は訪れなかった。
どのゆっくり達も主人の側から離れない上、遊び終えると帰ってしまうのだ。
しかし今日は違った。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆゆっ!? ゆっ、ゆっくりしていってね!」

公園にやって来た飼いゆっくりの一人が、ベンチの上のれいむに話しかけてきた。
種類はまりさ種。大きさはれいむと同じくらいある。
ふと自分を庇った姉妹まりさの事を思い出すが、同じゆっくりじゃないのはゆっくりにだって解る。
よく梳かれた髪は太陽の光を含んでキラキラと輝いているし、栄養の行き渡った肌には傷一つありはしない。
完全に別ゆっくりだ。そしてすごく美ゆっくりだ。

「どうしたんだぜ? おなかがいたいのかなんだぜ?」
「ゆゆっ!? だ、だいじょぶだよ! れいむはげんきだよ!」

思わず見とれてしまっていた。
早く何かお話しないと。
自分はこんなお友達が欲しかったのだ。
今がそのチャンスなのだ。
れいむは何とか話を繋ごうと話題を探す。

「ま、まりさはひとりできたの?」
「ちがうんだぜ。むこうにいるおにいさんといっしょにきたんだぜ」

そんな事は聞くまでもない。
こんなに綺麗なのだ。
人間と一緒に決まっている。
言うべき事はこんな事じゃない。
言わなきゃいけない。
お友達になって欲しいと言わなければならない。

「あ、あのね……」
「れいむがひまなら、まりさとおともだちになるんだぜ。すなばで、いっしょにあそぶんだぜ!」
「う、うんっ!」

ベンチから跳ね降り、前を跳ねるまりさの後をついていく。
れいむの餡子に暖かいものが染み渡る。
自分の言おうと思っていた言葉。
それを向こうから言ってくれた。
自分とは天地程も離れた美しいまりさが。
その口から。

れいむはまりさと砂塗れになって遊んだ。
遊びつかれると、お兄さんに水道で綺麗に洗って貰った。
まりさとお兄さんは、このすぐ近くに住んでいるらしい。
「もうお昼だから、家で食べて行きなよ」
二人のお家にお呼ばれした。
お兄さんの作ってくれたご飯は、これまで食べたどんな物よりも美味しかった。
その後、まりさと日が暮れるまでゆっくりした。
いつの間にか、窓から射す光が赤くなってる。
夜は危ない。早くお家に戻らなくては。
時間を忘れてゆっくりした結果がこれだよ!

「ゆっ! まりさ、れいむはそろそろおうちにかえるよ!」
「わかったんだぜ! それじゃ、またあしたあそぶんだぜ!」
「うっ、うんっ! あしたもこうえんにいくよ!」

明日もまりさと一緒にゆっくり出来るなんて、まるで夢みたいだ。
二人に門の前で見送ってもらい、れいむは弾む足取りで帰宅する。
早くお家に帰って寝よう。そうすれば明日がやって来る。
明日になれば、またまりさとゆっくり出来る。
明日の事を考えると、とてもゆっくり等していられなかった。




それからのれいむの毎日は、楽しく幸せに満ちたものになった。
公園に行けばまりさに会える。
れいむは足しげく公園に通った。
まりさは毎日、公園に遊びに来てくれた。
お兄さんが一緒じゃない時でも、まりさは公園に来てくれた。
まりさにはお家に、専用の出入り口があった。
本当はお庭以外行っちゃいけないんだけど、お兄さんには内緒なんだぜ。
そう言い、まりさは笑った。
自分のためにそんな危険を犯してくれるなんて、なんて素敵なゆっくりなんだろう。
れいむは公園のベンチの上で、まりさと寄り添いゆっくりする。
擦り合わせたまりさの身体は、自分とは比べ物にならないほど滑らかだ。
もっとその肌を味わいたい。
れいむは身体を揺らすたびに、自分の餡子が熱く火照っていくのが解った。


そんな二人がすっきりするのに、さして時間はかからなかった。


すっきりしても二人の頭に茎は生えなかった。
だから赤ちゃんは出来ていない。
れいむの餡子脳はそう判断し、内心ほっとしていた。
まりさとの赤ちゃんが欲しくないと言えば嘘になる。
あんなに素敵なゆっくりとの赤ちゃんなのだ。
きっとすごくゆっくりした良い子が生まれるだろう。
でも、れいむは、まだまだまりさと遊んでいたかった。
二人きりでゆっくりしたかった。
家族を持つのは、もっと先の話だと思っていた。
そう信じていた。

これが茎型の出産なら、違う結果になっただろうか?
いや、結果は変わらなかっただろう。
悪意が今よりも少し早く、れいむの心を蝕んだだけだ。

妙に身体が重い。いつもより高く跳ねられない。
お兄さんから貰った美味しいお菓子を食べ過ぎたせいかも知れない。
最初はその程度の認識にすぎなかった。

だが、すっきり後4~5日した辺りから、れいむの身体は急激に成長を始めた。
れいむは最近、太りすぎなんだぜ。
まりさがそう言って笑っていたのを思い出す。
失礼しちゃうよ。ぷんぷん。
そう返した自分は、どんなに愚かだっただろう。

だが今なら解る。
あの頃から、自分の中で、新しい命が成長していたのだ。
そして今も、両親に会うため懸命に生きている。

れいむが自分の中にある新しい命に気づいたのは、すっきりから20日程たった後の事だった。

もう5日も、まりさに会っていない。
酷く身体が重いのだ。跳ねることもままならない。
まりさの待つ公園に行くことが出来なかった。
だが疑惑が確信に変わったからには、会わなくてはならないだろう。
お家の場所を教えてなかった自分が腹立たしい。
まりさならきっと、顔を見せない自分を心配して来てくれていたはずだ。

身重の身体に鞭を打ち、文字通り這うように巣を抜け出した。
危なかった。もう少し遅かったら、お家の入り口から出られなかったかも知れない。

れいむは身体を引きずりながら、まりさの待つ公園へと向かう。
途中、物珍しそうに自分を見つめる人間の視線を感じたが、そんなもの気にしてる暇はなかった。
一刻も早くまりさの所へ。今なら公園にいる時間のはずだ。

まりさ、おどろいてくれるかな?
まりさ、よろこんでくれるかな?

足の裏が硬いコンクリートでボロボロになっているのが解る。
だが歩みを止めるわけにはいかない。

あかちゃん、ごめんね。
あかちゃん、ゆれるよね。
もうすこしだから、がんばってね。

公園まであと少しだ。
ゆっくりと入り口をくぐった。
公園の中にはいった。

まりさはどこだろう?
まりさ。
よかった、いてくれた。

「ゆゆっ! どうしたんだぜ、れいむ!」
「ま、まりさ……」
「ちょっとまってるんだぜ。おみずをもってくるんだぜ」

まりさは噴水に行き口の中に水を含むと、すぐにれいむの側まで戻って来た。
そのまま、まりさのふっくらとした唇が、れいむのヒビ割れた唇に重なる。
口の中から冷たい水が、れいむの乾いた餡子中に広がっていく。
まるでまりさの優しさが、そのまま身体の中に入ってくるみたいだ。
れいむは、ごくごくとその水を飲み干した。

「あ、ありがとうね」
「きにするななんだぜ。でも、れいむはどうしてたんだぜ? まりさは、まいちにまってたんだぜ」
「うん、あのね」

れいむは話した。
自分に赤ちゃんが出来た事。
まりさとの赤ちゃんが出来た事を。

このおなかのなかにいるんだよ。
まりさとれいむのあかちゃんが。

赤ちゃんのいるお腹を見せ付けるように、ぐっと大きく伸びをする。
僅かに高くなった視線から、まりさの顔を覗き込む。
まりさは何だかひどく滑稽な表情をしていた。

やっぱり、まりさおどろいてるね。
すごくゆっくりしてないかおしてるよ。

これからその顔が喜びに溢れるのかと思うと、れいむはおかしくて堪らなかった。
思わずゆゆっと微笑むれいむ。
その目の前で、押し黙っていたまりさの唇が開いた。

「あかちゃんはいらないんだぜ。さっさとおろすんだぜ」

──あれ? いまなんていったんだろう?

「そうだ、おにいさんにいって、いいいしゃをしょうかいしてもらうんだぜ」

えっ?

「せっかくだから、ひにんしゅじゅつもしてもらうんだぜ。すっきりしほうだいなんだぜ」

どうして?

「どうじで……?」
「だって、まりさはどくしんきぞくなんだぜ。あかちゃんなんてありえないんだぜ」
「どぼぢでぞんなごどいうのおぉおお!?」

信じられない。
ゆっくりしても理解できない。
赤ちゃんなのに! ゆっくりできるのに!
まりさとれいむの、かわいいかわいい赤ちゃんなのに!
れいむの口から、言葉にもならない声が吐き出される。
呪詛にも似たその奇声に脅え、公園に集まっていたハトの姿が消えた。

「ばびぶべぼぉおお! ばびぶべぼぉおおおお!!」
「うるさいれいむなんだぜ。なにいってるかわからないんだぜ。ちょっとはでかいくちをとじるんだぜ」
「ぞんな゛! ぞんな゛! ぞんな゛ごどい゛ばな゛いでぇええええ!!」
「わからないれいむなんだぜ。さっさとだまるんだぜ」
「わがらない゛のは、ま゛りざのほうでしょおおぉおおおお!?」
「やれやれなんだぜ。だまらないなら、まりさのめのまえからきえるんだぜ! にどとかおをみせてほしくないんだぜ!!」

まりさの身体が、れいむの身体を揺らす。
間違っても親愛のすりすりなどではない。
嫌悪に満ちた体当たりだ。
動かないれいむに、まりさが何度も何度も身体をぶつけてくる。

まりさ、ぜんぜん痛くないよ。
痛くないのに、すごく痛いよ。
わかった、わかったよ、まりさ。
だからもうやめてね。
ゆっくりやめてね。
赤ちゃんが嫌いなら、れいむがひとりで育てるね。
まりさがそう望むなら、そのとおりにするね。
でも、せめて。

「……あかちゃんがうまれたら、またあってくれるよね?」
「かんべんしてほしいんだぜ! のらのれいむとは、あそびだったんだぜ!」

ツバと一緒に言葉を吐き捨て、まりさは自分の家へと跳ね去った。
公園の向こうへまりさの姿が消えて行く。
もう追いかける気力もない。もう終わったのだ。
公園にはれいむの姿だけが、ぽつんと残された。





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最終更新:2008年11月08日 12:39
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