ゆっくりいじめ系1433 ずっと・・・(後)

ずっと・・・(前)の続きです。

(囚人のジレンマ)
無事に工場から脱出する事ができたれいむとまりさ。鞄の中から這い出ると男にお礼を言った。

「ありがとうおじさん!これでゆっくりできるよ!」

「ほんとうにありがとう!まりさはおじさんにおれいがしたいよ!なにかまりさたちにできることはない?」

「ははは。気にすんな。いつもやってる事だ。それにお前達のお礼が欲しくてやってる訳じゃない。
 ただ・・・一つ頼みがあるな。」

「なあに?」

「おじさんってのは止めてくれ。俺はまだそんな歳じゃないよ。せめてお兄さんと呼んでくれ。」

「ゆゆっ!ごめんなさい!」

「ははっ。謝らなくてもいいよ。それより、お前達これからどうするんだ?どこか行く当てはあるのか?」

お互いを見つめあいしょんぼりとうなだれる二匹。

「ゆぅ・・・いくあては・・・ないよ・・・」

「あそこにつれていかれるあいだおそとがみれなかったから、どっちにいけばおうちにかえれるかわからないよ。」

「そうか・・・じゃあ一つ提案があるんだがな。」

「ていあん?」

男の提案とは、「この道を真っ直ぐ行った所にゆっくりぷれいすがある。そこで暮らしてみてはどうか。」
と言うものだった。日は落ち始め、あたりはだんだん暗くなってゆく。
れいむとまりさに他に選択肢は無かった。喜んで男の言うゆっくりぷれいすに向かう事にした。
騙されているとも知らずに・・・


ぴょんぴょんと急ぎ足で進む二匹のゆっくり。やがて道は行き止まり、一軒の洋館の前に着く。
高い壁で囲まれた大きな洋館。門も扉もなぜか開け放たれている。

「ゆー?みちがなくなっちゃったよ。ここでいきどまりだね。」

「じゃあここがゆっくりぷれいすだね!きょうからここでゆっくりしようね!」

「うん!」

工場に連れてこられた時も、そこから逃がして貰った時も、外の様子を見る事ができなかった二匹。
初めて見る人工の建造物。そこに自分達を虐待する人間が住んでいる事など知らない。
ここが親切なお兄さんに教えてもらったゆっくりぷれいすだと信じて疑わず、早速中に入っていく。

「ゆー!ひろくてあったかい!とってもゆっくりできそうだよ!」

「ゆっ!なんかいいにおいがするよ!いってみよう!」

美味しそうな匂いにつられて屋敷の奥へとすすむれいむとまりさ。
やがて食堂に辿り着くと、そこには不自然にも床に置かれた美味しそうな数々の料理。
工場に連れて来られてから碌なものを食べていない。口にした物といえば工場の職員が用意した不味い餌。
二匹は夢中になって料理にありつく。

「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」

「ゆー♪おにいさんのいってたことはほんとだったね!ここはほんとにゆっくりできるよ!」

「れいむたちのためのごはんもあるなんて、とてもゆっくりできるゆっくりぷれいすだね!」

「それは君達のご飯ではないのだがね。」

「!!!」

いつの間に現れたのだろうか。二匹がびっくりして振り返ると、そこには初老の男が立っていた。
工場の職員、白衣のお兄さんに続き、二匹が見る三種類目の人間。工場の職員達が着る制服は身に着けていない。
ならばゆっくりできる人間だろう、と考えた二匹はにこやかに笑っていつもの挨拶をする。

「ゆっくりしていってね!!!」

「ここはれいむたちのゆっくりぷれいすだよ!」

「おじさんもいっしょにゆっくりしようね!おじさんもいっしょにごはんたべる?」

「ここはゆっくりぷれいすでは無い。私の家だ。それに、そこにあるのは私の夕食だ。」

「ゆ!」

「ごめんなさい!ここがおじさんのおうちだってしらなかったの!」

「謝ってすむ問題では無いな。君達には相応の罰を受けてもらおう。」

「ごめんなさい!ばつはまりさがうけるよ!おねがい!れいむにひどいことしないで!」

「まりさ・・・」

「ほう・・・きちんと反省し罰を受ける気があるのか。それに仲間を庇うとは見上げた心がけだ。
 その心がけに免じて、適当に軽くいたぶるだけで勘弁して・・・あれは!」

「あれを・・・あれをやったのもお前達か?」

男が指さす方向を見ると、そこには床に落ちて粉々になっている壺があった。
男は「壺を壊したのはお前達か」と聞いている。もちろん二匹は「違う」と答える。
二匹はこの部屋に入り食事をしていただけ。そもそも、その壺の存在にも今気が付いたのだ。

「ほう、君達でないとすると、いったい誰がやったのかな?この屋敷には君達と私しかいないのだが。
 当然、私はそんな事はしない。あれは我が家に代々伝わる家宝の壺だ。
 いたぶる程度の軽い罰で償えるほど安い物では無いぞ。」

「しらないよ!れいむはやってないよ!」

「ほんとだよ!しんじてね!まりさたちはひとのものをこわすなんて、わるいことはしないよ!」

「可笑しなことを言う饅頭だな。私の家に勝手に侵入し、ご飯を食べるのは『悪い事』なのでは?」

「ゆ!ごはんをたべちゃったのはごめんなさい!でもまりさたちはしらなかったんだよ!」

「その壺も知らずに壊してしまったのだろう?」

「ちがうよ!れいむじゃないよ!」

「まあいい、これから尋問して本当の事を聞きだしてやろう。ふむ・・・いい事を思いついたぞ。
 お前達にも一つチャンスをやろう。」

「ゆ?」

「これから一週間かけてお前達を別々に尋問する。一週間後に壺を壊したのか否か、答えてもらおう。
 その時正直に壊したと認めた方は逃がしてやろう。ただし、認めなかった方には死んでもらう。
 両方が認めたらもちろん二匹とも罰を受けてもらう。かなり重い罰だ。死にはしないがな。
 もし両方とも認めなかったら、その時はお前達を信じてやろう。罰は不法侵入の分だけだ。」

「ゆ・・・」

―ルール―

                まりさ
              自白   自白しない
                 ┏━━━━━┳━━━━━┓
          自白     ┃重罰,重罰┃釈放,死刑┃
れいむ           ┣━━━━━╋━━━━━┫
     自白しない ┃死刑,釈放┃軽罰,軽罰┃
                 ┗━━━━━┻━━━━━┛
1、一方が自白し、もう一方が自白しない場合→自白したものは釈放、しないものは死刑
2、両方が自白した場合             →両方ともしっかり虐待
3、両方が自白しない場合         →不法侵入の分の軽い罰
4、二匹は罪状が決定するまで別々の部屋で尋問を受け、接触できない


一日目。れいむのターン。
れいむは自白しない事に決めていた。なにしろ自分は壺を壊していないし、自白にはメリットが無い。
まず、まりさはれいむが死刑になる事は望まないだろう。まりさはきっと自白を選ばない。
そうなるとまりさの命運を決めるのはれいむ。死刑か、軽罰か。当然選ぶのは軽罰だ。
もし自白したら自分は自由になるがまりさは死ぬ。それではゆっくりできない。
自分も罰を受ける事になるが、軽い罰だ。まりさとふたりなら耐えられるだろう。
罰を受け自由になってからふたりでゆっくりすればいい。

れいむがそんな事を考えていると、男が部屋に入って来た。れいむの尋問の時間だ。
れいむは早速男に向かって叫ぶ。

「れいむはやってないよ!れいむはやってないよ!」

「そうか。」

「ゆ?」

男は部屋に入るとれいむを尋問する事もなく、椅子に座って読書を始めた。れいむは当然訝しがる。

「ゆ?おじさん、れいむのいうことしんじてくれるの?」

「ん?ああ、別に信じてる訳じゃ無いんだがね。何と言うか・・・
 そう、君には『尋問する必要が無い』んだ。ただ、一応まりさの尋問の時間と同じだけこの部屋には居るがね。
 まあ、適当にくつろいでくれたまえ。君には何も聞かないから。」

「?」

結局、男はれいむに何も聞かないまま、尋問の時間が終わると部屋から出て行った。


まりさのターン。
まりさもやはり自白しない事に決めていた。れいむの事を考えたら自白は選べない。
自分が自白したら、れいむの運命は重罰か死刑。自白しなければ、釈放か軽罰。比べるまでも無い。
どんな目にあっても絶対れいむは守る。絶対自白はしない。
きっとれいむも自白しない方を選んでくれるだろう。まりさはれいむを信じていた。
まりさの尋問開始の時間になり、男が部屋に入って来る。

「おじさん。かってにおうちにはいったのはあやまるよ。でもまりさたちはつぼをこわしたりしてないよ。」

「ほう。やはり自分はやって無いと言い張るのかね。まあ、時間はたっぷりある。良く考える事だ。
 尋問、とは言っているがやる事は拷問だ。自白するまで続く。自白すれば楽になれるぞ。
 それに・・・れいむが自白するのかどうか良く考えた方がいい。
 君が自白せず、れいむが自白したなら、君は死刑になるのだぞ。」

「まりさはれいむをしんじてるよ!れいむはきっとじはくしないよ!
 ふたりでかるいばつをうけるよ!おねがい!それでゆるしてね!」

「そうか。まあ今のうち好きなだけ喋っているがいい。そのうち満足に喋る事もできなくなるだろう。」

男は暖炉から真っ赤に熱せられた焼き鏝を取り出す。何をされるのか気付いたのだろう。
まりさはブルブル震えだし、男に哀願する。

「お、おじさん・・・れいむにもまりさとおなじことするの?」

「さてね。君達はお互いの状況を知る事はできない。」

「おねがい・・・れいむにひどいことしないで・・・まりさはどうなってもいいから・・・」

「ふん。私が聞きたいのはそんな言葉では無い。『わたしがやりました』と言うんだ。
 言うまで続くぞ。一週間、自白するまで拷問が続く。嫌なら早く自白する事だ。」

「ま、まりさは・・・まりさはやってな・・・いいい゛い゛い゛い゛い゛い!!!!!!」

「ほら、どうした。早く言ってしまえ。楽になるんだ。」

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!あじゅいよおおおおおおおおお!!!」

「れ゛い゛む゛!!!れ゛い゛む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!」


二日目。れいむのターン。
今日も昨日と同じ。男はれいむに対し何もしない。ただ本を読んでいるだけ。
れいむが何かを尋ねても何も答えない。『尋問する必要が無い』の一点張り。
なぜなのだろう。まりさが自白する筈も無く、自分も自白しない事に気付いたのだろうか。

まりさの様子も分からない。まりさに対しても何もする事無く、ただ本を読んでいるだけなのだろうか。
男に尋ねてみても、『ルール違反だ。お互いの状況を知る事はできない。』と言うだけ。
どうなっているのだろう。わからない。わからない。わからない。わからない。


まりさのターン。
昨日の拷問の後簡単な治療を受けたまりさは、ある程度回復していた。
しかし、体中についた痛々しい火傷の跡は消えていない。なにより焼き鏝の恐怖は体にしっかり残っていた。
今日もあんな目に遭うのだろうか。れいむは大丈夫か。れいむもこんな目に遭わされたのだろうか。

男はその問に当然答えない。答える代わりに取り出したのは五寸釘。
男はそれをゆっくりとまりさの体に刺していく。
相当虐待に慣れているのだろうか。致命傷となり得る体の中心は外し、死なぬ様に苦痛だけを与える。

「ゆぎいいいいいいいいいいいい!!!」

「どうだ?自白する気になったか?」

「お゛ね゛か゛い゛い゛い゛!!!や゛め゛て゛く゛た゛さ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!」

「お、遂に自分の罪を認めるのか?」

「ま゛り゛さ゛は゛い゛い゛か゛ら゛あ゛!!れ゛い゛む゛に゛ひ゛と゛い゛こ゛と゛し゛な゛い゛て゛え゛!!」

「なんだ、またそれか・・・残念だがれいむの様子をお前に教える事はできない。」

「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!!」

「早く楽になったらどうだ?自白するまで続くんだぞ?」

「れ゛い゛む゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!!」


三日目。れいむのターン。
男が入って来た。今日は本を持っていない。代わりに手にしているのはトランプ。
酷い目に遭うのかと思っていたのに二日間特に何もされなかったれいむは、すっかり緊張感を無くしていた。
男にぴょんぴょん近づいていくと、それなあに?と尋ねる。

「ああ、これはトランプと言うものだ。実は、本を全て読み終えてしまってね。退屈なのだよ。
 私に付きあってこれで遊ばないか?」

「うん!」

れいむはその話に飛びつく。『遊び』と言われて黙っていられる筈がない。
それにこの二日間退屈していた。虐待こそされないものの、男はれいむが何を話しても相手をしてくれないのだ。
久しぶりにゆっくりできる。相手がまりさじゃないのが残念だが・・・

男はカードの種類と簡単なルールを説明すると早速ゲームを始めた。神経衰弱だ。
何かを記憶し続けるのはゆっくりの得意分野では無い。ゲームは男の連戦連勝。

「ゆううううう!!!つまんないよ!れいむがかてないとつまんないよ!」

「ははは。じゃあ次は別のゲームで遊ぼうか・・・」

「ゆゆっ!つぎはまけないよ!」

まりさのターン。
痛い。怖い。疲れた。まりさの精神は限界に近づきつつあった。今日は電気を使った拷問を受けている。
電流が流れる度、耐えがたい痛みが襲い、体がビクンと震える。
泡を吹いて気絶すると水を掛けられ、意識が戻るとまた拷問が続く。
それでもまりさは自白しない。れいむの為。れいむの為。後五日、何とか耐えてみせる。

「君もしぶといねえ。早く自白したらどうだい。」

「まりさは・・・まりさは・・・やってないよ・・・」

れいむを信じてる。れいむはきっと自白しない。もし、自分が自白してしまったら、れいむが死んでしまう。
まりさは薄れゆく意識の中、ただひたすられいむを信じ、れいむを守る為、耐え続けた。


四日目。五日目。
相変わらずれいむに対する尋問は無し。れいむはリラックスして男と遊んでいる。

「ゆー♪おじさん!きょうはなにしてあそぶの?」

「うーん。そうだな。今日はかくれんぼをして遊ぼうか。」

「うん!」

「じゃあ最初に私が鬼をやろう。この部屋には隠れられる場所が無いな。別の部屋に行こうか。」

男はれいむを抱き抱え別の部屋に移動。れいむが隠れ終わるのを廊下で待つ。

「もういいかい?」

「もーいーよ!」

「さて、どこに隠れたのかな?」

「どきどき!」

男はすぐにれいむの隠れた場所に見当を付ける事ができた。「どきどき」などと口に出しているのだから当然だ。
しかし、すぐに見つける事はせず、れいむの遊びに付きあってやる。
れいむは自分の置かれている状況も忘れ、すっかり楽しんでいた。


一方まりさは。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

「それは壺を壊した事を認めた、と取ってもいいのかな?」

「ちがうよ・・・まりさはやってないよ・・・れいむも・・・」

「君は勘違いしている様だね。れいむが自白するかどうかを決めるのは君では無い。
 そして、君はれいむの決断を知る事はできない。れいむがどちらを選択するか良く考える事だ。
 それによって君は死刑にもなるし、自由になる事もできる。良く考える事だ。れいむの事を。」

「まりさは・・・れいむを・・・しんじてるよ・・・」

「れいむは・・・きっとじはくしないよ・・・」

「だから・・・まりさも・・・じはくしないよ・・・」

「ふん、そうだと良いがね。実際はどうかな?」

「ゆ?」

「そうだ、君達に判断材料を与えてやろう。明日、れいむに会せてやる。一分間だけ。
 会話によってれいむの選択を知られては困るから、声は聞こえない様ガラス越しにだが。
 それに明日は拷問も無しだ。体が痛くては考えも纏まらないだろうからな。」

「ゆ・・・れいむにあえる・・・れいむ・・・」

「七日目には君達の運命が決まるのだ。良く考えて選ぶ事だな。」


六日目。れいむとまりさの面会。
れいむの目の前のガラスを覆っていたカーテンが取り払われる。
久しぶりのまりさとの再会。目の前のまりさは変わり果てた姿をしていた。
体中に痛々しい虐待の跡が残る。二匹は駆けよりお互いの頬を合わせようとするが、真ん中のガラスが邪魔をする。

「ゆうううう!まりさ!どうしてそんな・・・」

「もうすこしだよ!もうすこしがまんしてね!」

「そして、ふたりでかるいばつをうけて、それがおわったらじゆうだよ!」

ガラスの向こうでまりさがなにか喋っているが聞こえない。

「がまんしてね!もうすこしがまんしてね!あとでふたりでゆっくりしようね!」


カーテンが開け放たれると、まりさの目の前にいたのは、別れた時と変わらない元気そうなれいむ。

「よかった・・・れいむはひどいめにあわなかったんだね・・・」

「だいじょうぶだよ・・・まりさはじはくしないよ・・・しんじてね・・・」

「まりさもれいむをしんじるよ・・・れいむはきっとじはくしないって・・・」

れいむが何か喋っている様だが、ガラス越しで聞く事はできない。

「れいむ・・・しんじてるよ・・・はやくここをでて・・・ふたりでゆっくりしようね・・・」


面会時間が終わり部屋に戻されたれいむ。男が話しかける。

「どうだった?久しぶりに見たまりさの姿は。」

「おじさんがまりさにひどいことしたの?どうしてあんなことしたの!」

「どうして、と言われても・・・ねえ。それより自分の身を心配したらどうだ?」

「ゆ?」

「君達の選択次第では、明日君は死んでしまうのだぞ。」

「なにいってるの?」

「君は一日目に『自分はやってない』と言ったね。これは変わらないのか?」

「あたりまえだよ!れいむはやってないんだから!」

「しかし、まりさはどうだろうね?」

「え・・・」

「まりさが受けていた虐待。あれは軽い虐待だ。君達両方が自白しなかった時に受ける罰と同じだ。
 まりさは君の為にそれをもう一度受ける事を良しとするだろうか。
 君が自白せず、まりさが自白したなら、まりさは罰を受ける事なく自由になれるのだ。
 そのまりさがはたして自白しない方を選ぶだろうか。良く考える事だ。」

「え・・・なにをいって・・・まりさがそんなことするわけ・・・」

れいむは今日まで七日目の事を真剣に考えてこなかった。
まりさが自白する訳無い。自分も自白しない。軽い罰を受け、自分達は自由に。そう考えていた。
しかし、虐待されたまりさの姿を見て改めて考えてみると・・・

まりさは本当に自白しない方を選ぶのか?まりさもあれ以上虐待されたくはないんじゃないか?
まりさが虐待されず自由になる方法がある。まりさが自白して、自分が自白しない場合・・・
自分は今、自白しない事に決めている。まりさはどうだろう。本当に自白しないのか?
釈放を求めて自白するんじゃないか?れいむが自白しないだろうと考えて。

さっき、まりさは自分に向って何か喋っていた。何を伝えたかったんだ?
『まりさはじはくしないよ!』と伝えたかったのか?それとも・・・
ひょっとして謝罪の言葉だったんじゃ・・・『れいむ、ごめん。まりさはもうたえられないよ。』
そう言っていたんじゃ・・・まさか・・・でも・・・

まりさが虐待を回避するには、まりさは自白しなければならない。
両方が自白した場合、更なる重い虐待が待っているが、れいむの選択しだいでは釈放もある。
まりさはれいむが自白しないと考えているんじゃないか?
自分だけ自由になろうと思っているんじゃないか?


その場合、れいむを待っているのは・・・死・・・

いやだ!死にたくない!自白したい!でも・・・
もし、まりさが自白しなかったら、まりさは・・・
まりさはれいむが死んでもいいと思っているのか?自白するのか?
それとも、れいむを助けようと思っているのか?自白しないのか?

わからない。わからない。わからない。わからない。わからない・・・

「ゆううううううう!!!ゆっくりできないいいいいいいいいい!!!」

「おや、だいぶ混乱している様だな。そんな時はもっと物事を単純に考える事だ。」

「ゆ?」

「お前は死にたいのか?生きたいのか?」

「・・・」

「相手の事を考えたせいで考えが纏まらないなら、自分の事だけを考える事だ。」

「れいむのこと・・・れいむのことだけを・・・」


れいむの部屋を出た男はまりさの元へ向かう。
考えが良く纏まる様にと、男はまりさに治療を施す。
まりさが回復してきたのを見計らうと、男はまりさに話しかける。

「いよいよ明日が決断の日だ。今日一日良く考える事だな。」

「まりさのこたえはきまっているよ。まりさはじはくしないよ。」

「そんなに簡単に結論を出していいのか?判断材料は与えたはずだ。れいむの姿を見ただろう。
 よく考える事だ。その結論次第で君は自由になるかもしれないし、死ぬ事にもなるかもしれない。」

「ゆ・・・」

自分はれいむを信じてる。れいむが自白する訳無い。だってれいむが自白したらまりさは死ぬかもしれないんだから。
でも、れいむはどうだろう。れいむはまりさの事を信じているだろうか?
そういえば、れいむには虐待された跡は無かった。なぜだ?
虐待する必要が無かったのか?自分の結論を既に男に伝えていたのか?

男がれいむの事を虐待する必要が無くなる・・・どんな結論だ?
男は『自白するまで拷問が続く』と言っていた・・・まさか・・・

そんな筈は無い。そんな筈は無い。れいむは自白しない。自分はれいむを信じている。でも・・・
れいむはまりさを信じているのか?まりさが自白しないと信じているのか?
信じているなら自白しない筈。信じていないなら自白する筈。

さっきれいむはなんと言っていたんだ?
『れいむはまりさをしんじるよ!れいむはじはくしないよ!』か?
『まりさはしんようできない!れいむはしにたくないよ!れいむはじはくするよ!』か?

れいむはまりさを信じてくれるのか?自分はれいむを信じていいのか?
れいむが信じてくれるなら、自分は死なない。二人とも自白しないんだから。
れいむが信じてくれなかったら、自分は死んでしまう。まりさが自白しなかったら。

「だいぶ困っている様だな。ならば一つ助け船を出してやろう。
 この際、れいむの事で無く自分の事を考えたらどうだ。お前はれいむをどう思っているのだ?」

れいむを信用して裏切られたら、自分は死んでしまう。
れいむを信じず自白したら、ひょっとして釈放されるかもしれない。
自分はれいむを信じられるのか?信じられないのか?


七日目。決断の時。
まりさの目の前には赤と青の扉。男が説明する。自白するなら赤、しないなら青。既にれいむは中に入っている。

「決まったか?部屋の中に入った時、君達の運命が決まる。
 別々の部屋に入ったら、今生の別れ。もう二度と会う事は無い。
 同じ部屋に入ったなら、君達は『ずっと』一緒だ。」

「さあ、君はどちらの扉を選ぶんだ?」

「まりさは・・・」


一時間後。男の元に白衣の若い男が訪ねて来た。

「やあ、君か。君には感謝しているよ。君のお陰でまた楽しむ事ができた。」

「それは何よりです。それで、今回のゆっくり達はどちらを選んだんです?」

「それは秘密だ。まあ、今回のゆっくりも私を非常に満足させてくれた、とだけ言っておこう。」

「そうですか。しかし、何でこんな回りくどい事をするんです?私に盗み出させずとも、
 あなたの財力なら好きなだけ工場からゆっくりを買う事ができるのでは?」

「ふふふ。解らんか?工場の奴等はあんな事を言っているが、所詮、造られたゆっくりは造られたゆっくりだ。
 虐待される為だけに生まれたものを虐待しても満足できんのだよ、私は。」

「『ゆっくりとは何か?』を知っている本当のゆっくりが、ゆっくりを得る為に無い知恵を絞り考える。
 必死になって、どうすればゆっくりできるのかを考えるのだ。そしてその結果があの運命の二択だ。
 人工のゆっくり、本当のゆっくりを知らないゆっくりにはそれができないのだよ。悩み苦しむ事ができない。」

「さて、次の商談をしようか。君にこの間行ってもらったのとは別の工場で野生種が入荷したらしい。
 方法は任せる。また二匹盗み出して欲しい。報酬はいつもの通り。もちろんやってくれるね?」

end

作者名 ツェ

今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」
         「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」
         「七匹のゆっくり」 「はじめてのひとりぐらし」  「狂気」 「ヤブ」
         「ゆ狩りー1」 「ゆ狩りー2」 「母をたずねて三里」 「水夫と学者とゆっくりと」
         「泣きゆっくり」 「ふゅーじょんしましょっ♪」 「ゆっくり理髪店」

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最終更新:2008年11月08日 16:46
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