ごく当たり前な悲劇02


※ゆっくり虐待ものですが、某幻想郷のキャラをいぢめるスレの成分が非常に高い、お前は一体東方キャラとゆっくりどっちがいじめたいんだというSSになっています。
※ゆっくりは行けるけど東方キャラ虐めは駄目な人にはオススメできません。ご了承ください。

※このSSは某幻想郷のキャラをいぢめるスレの設定を使わせてもらっています。やたらと嫌われている魔理沙がそれです。
※難しいかもしれませんが、魔理沙が好き勝手やった結果、知り合い全員から1人ハブられたと思って読んでもらえると嬉しいです。手抜きな書き方して済みません。


※こっちは後編になります。









 魔理沙はいつもの通り、森を歩いていた。

「……うーん、今日は不調だぜ」

 背負ったかごを揺らしながら、茸を探して歩いている。

 自給自足が常な魔理沙にとって茸狩りは重要な食料源、毎日採る訳にはいかないため、ある程度は日をおいて狩りに行っているが、今日はあまり見つける事が出来なかった。

 満足に食事を取れなくなってからもう長い。

 見つからないなら仕方ないと開き直れる余裕が魔理沙にはあった。

 今日はもう帰ろうと、樹の根っこに気をつけながら魔理沙は歩いていく。

 こんな何でもない時でも、初めに浮かぶのは、やはりゆっくり達のことだった。

 仲間のまりさ達の元へ行くというのは、最後に訪問した時に聞いていた。魔理沙もれいむとまりさの仲に不安を持っていたが、基本的にゆっくりは人間を恐れる。付き添う訳にもいかない。

 ありすとゆちゅりーには注意を促しておいたが、魔理沙はどうしてもれいむが心配だった。

 早く会いに行って杞憂だったと安心したい。自然と、魔理沙の速度は上がっていった。

「ゆーっ!」
「ゆっくりしてね!」
「おいかけてこないでね!」
「なに言ってやがるこの畜生がぁあぁっ!」
「ん?」

 魔理沙の進む方向から声が聞こえてくる。

 何の声かと魔理沙が考えていると、草むらからゆっくりが飛び出してきた。

「うおっ!?」
「ゆっ?」

 お互いに目が合う。

「ゆっ!? おねえさんっ!」
「……おまえ……?」

 魔理沙に同じゆっくりの違いはわからない。

 ただ、一瞬自分に反応したことから、このゆっくりまりさがれいむ達と一緒にいたまりさだと理解した。

 一方でまりさは目の前の人間が、れいむと仲良くしていた人間だと覚えていた。

 普段なら忘れているだろうが、突如に現れ、れいむを罵っているところを邪魔された恨みが記憶を繋ぎ止めている。

 そして今のまりさは、ここで魔理沙に出会えた事を感謝していた。

 草むらが揺れる。

「ゆっ!」
「ゆっくりしたらだめだよ!」
「おかあさん! 早くにげよう!」

 後から出てきた子まりさ達が、後ろの様子を気にしながらまりさを非難した。

「お前ら……れいむ達は」
「いたぞ!」

 魔理沙の声を遮ったのは、まりさ達を追いかけていた男達だった。

 1人が追いついてきたと思っていると、2人、3人とまた追いついてくる。

 最終的に6人が、樹の影から姿を現した。

「この野郎……! ちょろちょろ逃げやがって」
「潰してあんこにしてやるからな! 覚悟しやがれ!」

 男の手が、傍にいた子まりさに伸びる。

 この時、2つの要因が魔理沙の口を動かしていた。

 1つは、まりさはれいむの友達だという事実。

 もう1つは、れいむの事を詳しく聞きたいという気持ちだった。

「あ。ちょっ、ちょっと」

 伸びていた腕が止まる。

 思ってもみなかった邪魔に、思わず男達の形相が険しくなる。

「ああ? なんだ姉ちゃん?」
「俺たちは今からこいつらをミンチにするんだよ。何か用なら他所に行ってくれないか?」
「いや、取りあえず事情を──」

 まりさが叫んだのはその時だった。

「おねえさん! 言われた通り盗ってきたよ! これでゆっくりさせてね!」

 場の空気が硬直する。

「な、お前、何を言って……っ!?」
「言われた通りだと……?」
「まさか姉ちゃん、こいつらを使って」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 私には何のことだかまるで──」
「あっ!!」

 今度は男達の方で声が上がる。

 見ると、1人の男が魔理沙を指さし、驚愕していた。

「どうした、オイ!」
「こ、こいつ……魔女だぜ! 森に住んでるっていう!」
「な、なにっ!?」

 男達の視線が魔理沙に集中する。

 抜け目ないまりさはその隙を逃さなかった。

「わたしたちがやったことは、ぜんぶおねえさんに言われたんだよ! おねえさん! ちゃんとせきにんとってね!」
「お、おい!?」
「ゆーっ!?」
「おかあさんまってぇえぇぇぇっ!」

 捨て台詞を残し、そのまま立ち去っていく。

 男達の何人かは追いかけようとしたが、他の者達が目の前の魔理沙を警戒し、立ち止まらせた。

 後に残されたのは、魔理沙と掴まったままの子まりさである。

「お゛があざんのばぁがぁぁぁあ゛ぁっ!!」

 泣きながら手の中で暴れる子まりさ。

 あまりに鬱陶しかったので、捕まえていた男は気絶させようと地面へ叩きつけた。

「ぴぎゃっ!?」

 鈍い音と共に地面に当たって跳ねる。

 口から漏れた餡子が、辺りに散らばった。

「なるほど……魔女が魔法でゆっくりを操って俺たちの村を襲ったわけか」
「日に日にやせ細ってるとは聞いてたが、こんな畜生まで利用するとはな!」

 魔理沙の額を冷や汗が流れた。

「おいおい、ちょっと落ち着いてくれよ……私は村なんて襲わせてないぜ?」

 そう言いながら、少しずつ後ろへと下がっていく。

 説得は無理だろう、かと言って人間相手に魔法で撃退するわけにはいかない。そもそも八卦炉は既にお金へ換えてしまい、即興で打てそうな魔法は存在しない。

 それに、ただでさえ魔女だゴミクズだと言われている中で殺人を起こせば、霊夢が誰かが捕まえにやって来るかもしれない。そうなったら終わりだ。

「あいつらを操る魔法なんて存在しないぜ? 魔法なんてそんな万能なものじゃ」
「この状況で信じられると思うかい、姉ちゃん?」
「正直者は救われるぜ」

 男達との会話が途切れる。

 その間を狙って、魔理沙は走って逃げ出した。

「あ、テメェ!」
「待ちやがれっ!!」

 男達も焦って追いかけるが、森の奥まで入っていく勇気はそもそもない。しばらくすると追いかけてくる者はいなくなった。

 魔理沙は徐々に勢いを弱くしていき、止まると同時に樹へ手を付く。

「……ゴホ、ガハッ!」

 激しく息を吐く魔理沙。今の体調のまま全力で走るのはかなり辛かった。

 咳き込み続け、どうにか呼吸を落ち着けていく。

「……やれやれ」

 落ち着いてくると、自然とまりさに対する恨みとれいむを心配する気持ちが湧き出てくる。

 急いでれいむ達の様子を見に行こうと、魔理沙は歩き始めた。

「……」

 魔理沙の脳裏に、まりさの捨て台詞が浮かぶ。

「わたしたちがやったことはぜんぶおねえさんに言われたんだよ! せきにんとってね!」




『ああ、もういいぜ。諦めたよ。そうだ。全てはアリスがやった』




 空から雫が落ちてくる。

 いつの間にか空には雲がかかり、日光を遮っている。きっと今夜は雨になるだろう。

「大福と私が似てる……悪い冗談だぜ」

 しかし魔理沙は雫に気づかず、そのままれいむ達のところへ向かった。

 心には、小さなトゲが1つ刺さったままだった。




 雨の音が、洞穴にも響いてくる。
 中では酒池肉林の宴が繰り広げられていた。

「あああぁぁぁぁあぁあぁあっ!」
「きもちいい、きもちいいよっ!」
「ゆっ! ゆっ!」
「早くすっきりさせて、すっきりさせてぇえぇぇっ!!」

 3人の成体まりさに囲まれ、ありすは痙攣している。あれから交尾を繰り返し、気づけばまりさ達の性欲処理に利用されていた。

 もちろん、これまでに何匹も子ありすを産んでいる。

 その子供達は、全部子まりさ達に食べられていた。

「ゆっぐ、ゆっぐりぃいぃいっ!!」
「すっきりするよ! もうすぐすっきりするよ!!」
「いやぁぁあぁっ!! もうずっぎりじだくなぃいぃいっ!!」

 そんな成体ゆっくり達の様子を、子まりさ達はじっと見つめている。

「まだかな? まだかな?」
「おねえちゃん早くよういしてね!」
「ゆっくりしたらいやだよ! 早くつくってね!」

 次のエサが出来るのを、ただひたすら待ちわびていた。

 そんな子まりさ達の近くには、帽子が4つ落ちている。

 小型なゆちゅりーの帽子。

 見ると苦悶の表情を浮かべたまま、洞穴の隅には枯れたゆちゅりーが捨てられていた。

「ああぁぁああぁぁぁあぁっ!!」

 洞穴では、雨の音をかき消すようにありすの叫び声が響いている。

「むーしゃ、むーしゃ」

 そんな中、1人洞穴の奥で、村から強奪してきた野菜を食べながらまりさは思った。

 そろそろ飽きてきた。

 面白いかと思い、止めないで赤まりさに子れいむを与えてみたが、成体まりさが食べられる恐怖に怯え、ありすを必死に犯しだしたのは滑稽だった。

 ただ、もうありすも限界が近い。

 ありすが朽ち果てた後、残った赤まりさの面倒を考えるとこの辺りが潮時だ。

 野菜を食べ終わると、まりさはそのまま子まりさ達には気づかれないように、出口へ向かって歩いていく。幸い、全員が交尾に夢中となっていたので、誰も気づきそうにない。

 まりさは、子まりさ達を全員捨てて、新たな人生を始めるために飛び出そうとしていた。

「……そうか、こんなところにあったのか。場所を聞いておいて正解だったぜ」

 洞穴の出口に人影が見える。

「ゆっ?」

 それが魔理沙だと気づいた瞬間、まりさは足を止めていた。

 雨に濡れた髪を軽くかき上げると、目の前にいたまりさを睨み付ける。

「さっきはよくもやってくれたな大福」
「ゆゆっ!」

 慌てて子まりさ達のところまで戻っていく。

「逃げたって無駄だぜ? さっさとれいむ達の居場所を──」


 そのまま中へ入った魔理沙が最初に目にしたのは、成体まりさに襲われ続けているありす。

 次に目に入ったのは、片隅に置かれているゆちゅりーの遺体だった。

 魔理沙の顔色が変わった。

「お、お前ら……! なにやってるんだ!」

 突然現れた人間に、思わず子まりさ達は動きを止める。

 魔理沙は躊躇せず近づき、ありすに群がっている成体まりさを蹴り飛ばした。

「ゆぴぎゃぁっ!?」

 吐いた餡子が地面に線を引き、成体まりさは壁に当たってはじけ飛んだ。

 皮は引き伸ばされ、中身の餡子が壁にぶちまけられた。

 どう見ても、死んでいた。

「ゆぅううぅううぅううっ!!」
「この、このっ!!」
「ゆぎ、ゆぐっ!?」
「おねえ、ざんっ! やめっ! やめでぎぶっ!」

 残った2匹を魔理沙はひたすら踏みつぶしていく。

 1度踏まれただけで足の跡が付く大福は、そのまま足で潰され、踏み固められていった。

「お前らみたいな……お前らみたいな大福が私に似ているわけないだろぉおぉぉぉっ!」

 血の出そうな叫びが木霊する。

 自分の姉たちが潰されていくのを、子まりさ達はまりさの傍で見つめていた。

 次は自分と思うだけで、体が震えてくる。

「おかあさんっ!」
「たすけておかあさんっ!!」

 まりさの傍で飛び跳ねながら助けを求める。

 しかし、まりさはそれどころじゃなかった。

 このままではあの人間に殺されてしまう。早く逃げないといけない。

 しかし今日、外では大雨が降っている。雨はゆっくりの弱点だ。逃げ出した後ですぐにどこかへ駆け込まなければ、体が濡れてそのまま崩れて落ちてしまう。

 どうやって逃げだし、どこで雨を凌ぐか、何か思いつかなければこのまま殺されるだけだ。

「おかあしゃん!」
「たすけておかあしゃん! しにたくないよ!」
「ゆっくりしたいよ! ゆっくりさせて!」

 変わらず訴えかけてくる子まりさ達。

 その無神経な訴えが、まりさの神経を逆なでした。

「ゆぐぅうぅううううぅぅうっ!!」
「ゆっ?」
「おかあさ──」

 側で固まっていた子まりさ達は、そのまま飛び跳ねたまりさの下敷きになった。

 後ろでした鈍い音に魔理沙が振り返る。

 森で出会った時のように、魔理沙とまりさの目が合った。

「お前──」
「ゆっ!」

 まりさが何をしたか理解した瞬間、魔理沙の目に怒りが込められる。

 本能的に魔理沙の怒りを感じたまりさは、先ほど浮かべた問題は忘れて、脱兎のごとく逃げ出した。

「ゆーーーっ!!」
「待てっ! この……っ!」

 怒りにまかせて魔理沙も後を追いかけようとするが、それを止めたのは、ありすの声だった。

「……お、おねえさん……?」
「えっ? あ、ありす! 大丈夫か!」

 引き返して駆け寄っていく。

 ありすの体は、丸くて太かった以前に比べたら見る影もなく痩せ衰え、細い枯れ木の棒のような体になっていた。

「おねえさん……」
「しっかりしろよ、こんなことで都会派は死んだりしないんだぜ!」

 魔理沙の気遣いに、ありすの口元が緩む。

「おねえさん……わたしは大丈夫だから……れいむを……」
「そうだ! れいむは、れいむはどこにいるんだ?」
「わからない……外に出てそのまま……でもきっといきてるから……」
「ああ、私が探してみせるぜ!」
「……おねがいね……とかい派ととかい派のやくそく……よ」

 それを最後に、ありすは目をつぶって気絶した。

 魔理沙はありすを優しく地面に横たわらせる。

 そしてまずは、向こうに見えるゆちゅりーの遺体を埋葬してやろうと、近づいていった。



「……ゆっ! ……ゆっ!」」

 雨の振りしきる中、まりさは坂道を駆け下りていく。

 当たる雨はそのまま皮へ吸収されていき、自分の体が脆くなっていくのを感じる。早く雨を凌がなければ、そのまま体が崩れ、死んでしまうだろう。

 幸いにも、あの人間は追ってきていない。早く下りて場所を探そうと、まりさは急いでいた。

 そんなまりさの足が止まる。

「ゆっ!?」

 降っている雨のせいでよく見えないが、坂道の途中に何かの影が見えた。

 急ぐあまりに危険へ飛び込んでは意味がない。まりさはその正体がわかるまで慎重に近づいた。

「……ゆっ!?」

 一瞬、化けて出たかと飛び跳ねた。

「……まりさ」

 そこにいたのは、崖から落ちて死んだ筈のれいむだった。

 実際、森の中で捕食種に襲われたのだろう。体には歯形のついた穴が空いており、そこから餡子が漏れ出している、体中についた擦り傷は、森へ落ちた時に枝で引っ掻いたものだ。

「まりさ……」
「ゆっ……」
「れいむのあかちゃんは? ぱちゅりーとありすはどうしたの!」

 今まで見せたことのない形相で、れいむが睨み付けている。

 まりさに向けられる、真っ直ぐな怒り。

 思わず、まりさは満面の笑みを浮かべていた。

「ゆっくり美味しかったよ!」
「ゆぐぅううっぅううっ!!」

 目に涙を浮かべながられいむが突進してくる。

 まりさは、ようやくすっきりするのに何が足りてないのかを理解した。

 泣き叫ばすなら、れいむをおいて他にいない。

 れいむが泣き叫んでくれないと、ずっとすっきりしないだろう。

「ゆっくりしね!」
「あうっ!」

 突進してきたれいむに、同じようにぶつかっていくまりさ。2匹とも出産を経験したため、成体のゆっくりより大きめの体をしている。大きさが一緒なら後は状態の良さが大きく響いてくる。

 いくら雨に濡れたとはいえ、まりさの方が体の傷ついたれいむよりも明らかに有利な展開だった。

「ゆっくりしね! ゆっくりしねぇ!!」
「あうっ! ゆぐっ!」

 嬉々としてれいむを突き飛ばしていく。怒りかられいむは必死に対抗するが、落とされてからずっと動き続けていた体は限界が近づいていた。

「ゆっくりしねっ!」
「ぶっ!?」

 まりさの一押しに大きく吹き飛ぶれいむ。側には崖、もう数センチ動けば捕食種のいる森へ戻ることになる。いや、今の体で落ちれば、衝撃でれいむは死んでしまうだろう。

 地面に落ちてはじけ飛ぶれいむを想像して、まりさは思わず口を体液で濡らしてしまう。

 れいむは動けない。限界の近づいた体は、突撃の影響で言うことを聞かなくなっていた。

 まりさが叫ぶ。

「ゆっくりじねぇえぇっ!!」

 体当たりは、見事にれいむを突き飛ばした。

「ゆぐっ!!」
「ゆっゆっゆっ!!」

 そんなまりさの誤算だったのは。

「ゆっ!?」

 今日は雨が降ってたことと。

 れいむと崖の距離があまりに近すぎたことだろう。

「……」

 れいむは落ちていく、またあの森の中へ。

「どうじでわだじまでおちでるのぉおおぉおおおっ!!」

 今度はまりさも伴って、森の中へと戻っていった。






 ほんの少し前。

 そこにはゆちゅりーがいて、ありすがいて、れいむがいて、魔理沙がいて、そして3匹の子供達が楽しそうに過ごしていた。

 今、そんな崖の麓にいるのは魔理沙だけだ。

「……」

 滝のように降る雨を凌ぎながら、魔理沙はれいむの帰りを待ちわびていた。

 あれからゆちゅりーを埋葬し、雨が降っていたのでありすは洞穴に置いたまま、魔理沙はれいむを探し続けた。

 森を探し、崖を探し、落ちたと言っていた森へも滑り落ちるようにして降り、探し続けた。

 しかし雨が降っていたこともあってか、どれだけ探してもれいむは見つからなかった。

 もしかしたら戻っているかもと、崖の麓までやって来たが、そこには影1つ見あたらない。

 自然と、魔理沙はそこでれいむを待ち続けるようになった。

「……」

 不安と疲れの入り交じった体は、自然と泣きたい気分にさせるが、魔理沙の目に涙はない。

 ただ虚ろな目で、降りしきる雨を見つめている。

 次第に魔理沙はうたた寝をし始める。

 疲労が、魔理沙の意識を夢の中へと連れて行った。




「もうあんたと付き合うのはごめんなの! 帰って!」
「なんで私がアンタと一緒にいないといけないの、用事が済んだら出て行ってよ」
「本、返しなさい」
「だって貴方、思ったより飼育が面倒だったから」
「なんだよ……私が何したっていうんだよっ!」
「……ゆー、おねえさん。元気出して」
「れいむ! お前、無事だったのか?」
「うん! 大丈夫だったよおねえさん!」
「そうか。……そうかそうか! 良かったぜ! また一緒にゆっくりしような!」
「それはむりだよおねえさん、おねえさんとはゆっくりできないよ」
「……え? な、なんでそんなこと言うんだ? 今まではゆっくりしていたぜ?」
「おねえさん、れいむのこと虐めるから」
「なっ!? そ、そんなことないぜ! 私がいつれいむを虐めたんだ!」
「だって……おねえさんって」


『まりさといっしょ……なんでしょ』




 膝についていた顔が、勢いよく上がった。

「……はぁっ、はぁっ……」

 心臓の鼓動が聞こえる。夢だとわかっていても、むしろ夢だからこそ、魔理沙の胸の痛みは治まらない。

 ごく自然に自分を責めていく。

 あの時、無理矢理にでも家へ連れて行っていれば。
 あの時、不安を隠さずにれいむに打ち明けていたら。
 あの時、まりさをきちんと捕まえておいたら。

「……」

 鼓動が落ち着くと共に沈んでいく気分。そんな自分の想いを表すかのように、また下を向き、魔理沙は座ったまま動こうとしなかった。

「おねえさーんっ!」
「……」
「おねえさーんっ!」
「……えっ?」

 初めは、また夢でも見ているのかと思った。

 しかしその声は確かに聞こえてくる。

 魔理沙は声のする方を見る。

 雨が降る中でも顔が確認出来る位置に、れいむはいた。

「……れ、れいむ!」
「……お、おねえさん……」

 頬から餡子が漏れ、傷はさらに増え、何より大きくてくりっとしたその右目は閉ざされたまま開こうとしない。潰れてしまったのか。

 その状態に思わず悲しくなるが、それ以上の喜びが魔理沙の体を駆けめぐる。

 そこにいたのは、確かにれいむだった。

 れいむは涙を流しながら、笑顔でこちらに近づいてくる。

「れいむっ!」

 勢いよく魔理沙が立つ。今すぐにでも抱きしめてやりたい。優しくしてやりたいと、激しい感情が魔理沙を突き動かす。

 やって来るれいむを迎え入れようと、魔理沙は両手を広げた。

 普段とは位置が逆だが、しかしお互いの笑顔は変わらない。

「れいむぅううぅうううううぅっ!!」
「おねえさああぁあぁあああぁんっ!!」

 激しく鳴る雨音が、2人の再会を祝福しているようだった。








 魔理沙は上を見上げ、空を見つめていた。

 膝をつき、スカートは泥で濡れてしまったが、気にするそぶりはない。

 額からは血が流れ、しかしそれすらも手で拭おうともしないで、ただ空を見上げていた。




 ──現実から目を逸らそうとしていた。




 幻想郷でも記録的な大雨の日となった今日。

 雨によって大きく動いた岩は、そのまま落石となって、魔理沙の目の前に落ちてきた。

 あまりに至近距離だったそれは、額を掠め、魔理沙に血を流させている。

 れいむはもうどこにもいない。
 せめて見ようと思うなら、この岩を退けないといけない。

 岩の周りに飛び散った欠片が、れいむの居場所を伝えていた。

 止みそうな様子がまるでない雨は、魔理沙の頬に当たってそのまま流れていく。
 その光景は、まるで魔理沙が涙を流しているようだ。

 しかし、魔理沙の瞳から涙は流れない。

 悲涙なんて、遠の昔に枯れ果てていた。




 End




by 762

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最終更新:2008年09月14日 05:11
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