霊夢×ゆっくり系2 博麗神社の酒造り

 博麗神社の酒造り


[洗米]

  ざんっ、ざんっ!
 秋の冷たい井戸水を張ったタライに、巫女の腋がひるがえる。
 博麗神社の井戸である。あるじの霊夢が、一心に働いている。
「ゆぶっ、ゆゆっく?」
「つめたすぎるよ、もっとゆっくりさせて!」
 叫んでいるのは黒髪赤リボンの生ける饅頭たち――ゆっくり霊夢である。
 もっとも、霊夢本人は、それのことをそんな風には呼ばない。自分はこんなに下ぶくれではないと思っているからだ。
 単に、ゆっくり、と呼ぶ。
  ざんっ、ざんっ!
 霊夢はゆっくりを洗っているのだ。水を浴びせ、布巾でこすり、よくすすぐ。
 手を切るような冷水をはね散らし、むちむちした饅頭を、白い細腕で次々に裏返す。
 鮮やかな手つきだ。
 やがて洗浄が終わった。十匹ほどのゆっくり霊夢がお決まりの叫びを上げる。
「すっきりー!」
 晴れやかな表情。微笑ましい光景だ。
 水をあけると、彼女らをタライに入れて、霊夢は歩き出した。

[蒸し]

 霊夢は神社の脇殿に入り、台所に向かう。
 そこには古風なかまどがある。すでに薪がくべてあり、ごうごうと火が燃え盛っている。
 気づいたゆっくりたちが、声を上げる。
「ごはんにしてくれるの?」
「ちょうどおなかが減ったよ、食べてあげるよ!」
 霊夢はかまどの上の、巨大な釜のふたを開ける。もうもうと蒸気が立ち上る。
 いや、それは釜ではない。見る人が見ればわかる。
「甑(こしき)」という蒸し器だ。
 霊夢はその上で、無造作にタライを裏返した。ゆっくりたちがごろごろと転がり落ちる。
「ゆぐぅぅっ!?」
「あづっ、とってもあづいよ?」
「ここはちがうよ! お姉さん、まちがえてるよ!」
 蓋を閉める。叫び声はくぐもり、ほとんど聞こえなくなった。
 霊夢はかたわらの椅子に腰掛け、新聞を手に取って目を通し始めた。

[放冷]

 小一時間ほどたった。霊夢は新聞をたたみ、甑の蓋を開けた。
 再び、もうもうと蒸気が立ち上る。そこには先ほどと違い、蒸し餡の豊かな甘い香りが加わっている。
「ゼハッ、ゼハッ、ゼハッ……」
「あづい……よ……!!!」
 ゆっくりたちは真っ赤になり、息も絶え絶えになっている。
 だが、もともと蒸し饅頭なので、蒸されて死ぬことはない。
 死ねない、と言ってもいいだろう。
 霊夢はミトンをした手で甑を持ち上げ、そばの床に敷いたすのこと麻布の上にあけた。
 かなりやわやわに蒸し崩れたゆっくりたちが、ぼてぼてと転がりだす。
 並の人間なら熱中症で死ぬほど蒸されていたゆっくりにとって、すのこの上はまさに天国。涼しい風にさらされて、急速に冷えていく。
「ゆゆぅ……ゆっくりできるよぉ……♪」
「おねえさん、ありがとう!」
「大吟醸米と同じ扱いよ」
 霊夢が答えるが、その口調は事務的だ。
 しかもなぜか、額にしわを寄せ、苦悩の表情を見せている。
 巫女は、何を悩んでいるのだろうか。
 そのまま冷やすこと、二十分。

[製麹]

 霊夢はゆっくりたちを、脇殿の奥のほの暗い一画に運んだ。
 そこは土間で、森閑と静まり返っている。結界が張られているのだ。
 霊夢以外の人間が入ったことは一度もない。
「とっても静かだね……!」
「ここならゆっくりできそうだよ……!」
 蒸されたために若干ゆるいトーンで、ゆっくりたちが叫ぶ。
 霊夢は、そのゆっくりたちを作業台の上に乗せた。
 そして手早く、台の四隅に符を貼った。符はぼうっと輝き、力を発揮し始める。
 その後、古びた木箱を取り出して、中からなにかの粉をつかみ出した。
 それを、力士の塩撒きのように、ゆっくりにぱっぱっと振りかけた。
「ゆっ?」
「おねえさん、これなあに?」
「ゆっくりしていていいわよ」
 不思議がるゆっくりたちを尻目に、霊夢はその場を立ち去った。

[切り返し]

 戻ってきたのは夕方である。
 台の上はゆっくりたちは、だいぶだらけた様子になっていた。うんざりした顔で寝たり崩れたりしている。中には見えない壁にもたれるようにして、台の隅でつぶれているものもいる。
 符が微光を発している。それが湿気を保ち、ゆっくりたちを閉じ込めていたのだった。
 四隅のゆっくりたちは霊夢を認めて起き上がる。
「おねえさん、ここはもういいよ!!」
「退屈になっちゃった。おうちにかえらせてね!!」
「おやつでもいいよ!!」
 口々に叫ぶゆっくりを尻目に、霊夢は台の下から一本の棒を取り出した。やや長めのすりこ木である。
 それを振りかぶり、突然ゆっくりを殴りつけた。
「お姉さぶべえぇぇぇ!」
「ゆくっ!?」「お、お姉さん!?」
 驚愕するゆっくりたちを、渾身の力を込めて叩き続ける。ビシッ、バシッ、と快音があがり、すぐに薄闇に吸い取られる。
 やわらかいゆっくりたちはすぐに形が変わり、でこぼこになっていく。だが、裂けたり餡を飛び出させたりはしない。
 霊夢が加減しているのだ。ゆっくりを満遍なくもみほぐし、かつ、崩さないよう。
 実に手馴れた殴打である。
「やめでぇ、やめでぇぇぇぇ!」
「叩かないでね! たたいたらだめだよ!」
「おがあざんにいいづけでやるぅぅ!」
 悲鳴を上げるゆっくりを、執拗に叩き続けた。
 すべてのゆっくりが息を切らしてぐったりと伸びると、その下に手を差し入れた。
 滑らかな腋に、ぐっと力をこめる。華奢な筋肉が浮き出す。
 それなりの重さのあるゆっくりが、くるりとくるりと裏返されていく。
 これもまた、鮮やかな手並みであった。

 一晩おき、翌朝、また同じことをした。
 ゆっくりたちは昨晩のことを忘れて霊夢を歓迎し、同じことをされて、同じように悲鳴を上げた。
「はやぐ出してよおぉぉ!!」
「おねえざんなんか、ぎらいになるがらね!!」
 濁った叫びを上げるゆっくりたちは、自分たちの体の異変に気づいていないようだった。
 その餅肌から、ほんのりと香ばしい栗のような香りが漂い始めていることを。

[醪・初添]

 どぼっ! ぼちゃっ! だぼっ!
 うつくしい腋もあらわに持ち上げたゆっくりたちを、霊夢は次々と、水を満たした一抱えほどの甕(かめ)に落としていく。
「だぼぁっ!」
「ゆばべっ!」
「おっ、おぼれちゃうからねばっ!」
 落ちたゆっくりは叫ぼうとするが、すぐに次のゆっくりが投げ込まれるのでしまいまで言うことができない。
 結局、最後に入れられてゆっくりが、代表のような形で言うことになった。
「れいむもういやだよ! ゆっくりしないで出してほしいよ!」
「そこはゆっくりできるのよ?」
「ゆっ?」
 言われたゆっくりは、ゆっくりという言葉を聴いて、条件反射的に周囲を見回す。――が、そこは薄暗い甕の中。内壁には、はるか昔から重なり続けた酒粕のようなものが、びっしりとこびりつき、あごの下辺りまで白っぽく濁った水が満ちている。
 おまけに自分の下では、窒息して押しつぶされた姉妹たちが、ゆぐゆぐと苦鳴をあげてうごめいている。
「ゆっぐりできないよぉぉ!??」
「そうでもないと思うわ。それじゃあね」
 そう言うと、霊夢は甕に水を継ぎ足し他。
 それから、カタリと甕に蓋をして、符を貼った。
 もちろんそれは、開封禁止の結界符である。
 そして、その場を後にした。
 あとには、くぐもった声を漏らす甕が残された。

[醪・踊]

 翌日、霊夢は現れなかった。
 甕からは、一日中、力のない懇願の叫びが漏れていた。
 時がたつにつれ、ぷつぷつと泡のはじけるような音も増え始めた。

[醪・仲添]

 翌日、霊夢は甕の蓋を開けた。
「うゆ……? ゆ、ゆっぐりしていっでね!!!」
 一番上のゆっくりが叫び声を上げた。まる一日半、助けを待ち続けていたのだろう。切迫した調子だった。
 そのゆっくりのまわりの水面は、まるでジャグジー風呂のように一面にぷつぷつとあわ立ち、沸きかえっていた。
 霊夢はその額に、小鉢に入れた白茶色の液体を注いだ。
 それから身長ほどの棒を手に取り、一息に甕の中に突き入れた。
 ざぼっ!
 びゅ……! というような濁った叫びがあがった。水中のゆっくりが叫んだのだろう。棒はたぶん、何体かを貫通している。
 幸か不幸か、頂上のゆっくりには刺さらなかった。
 そのまま霊夢は、力を込めて甕をかき回し始めた。
「んくっ……!」
 水漬けのもったりとしたゆっくりが、たっぷり詰まった甕である。
 細身の少女には荷が重い。自然、清楚な腋にも力が入った。
 ぐるり、ぐるり、と中身が回る。泡に混じって、「ゆぎゅ……」「だ……ず……」と声が聞こえてくる。
 ゆっくりは生き物ではないので、呼吸しない。
 だから狭く苦しい甕の液体中でも、死ぬことができないようだった。
 しかしゆっくりが死ななくても、ゆっくりにたっぷりまぶされた、目に見えないほど小さな微生物たちは頓着しない。
 その豊富な糖分を嬉々として分解し、すばらしい勢いで別のものに変化させ始めていた。
 最後に霊夢は腋を見せ付けるようにして、たかだかと棒を引き抜くと、甕に水を注ぎ足した。
「ゆっがばっ、ごばっ、やっ、やめでぇぇぇ……んぐぼっ」
 ゆっくりの前髪がちょうど隠れるところまで入れて、蓋を閉めた。

[醪・留添]

 翌日、霊夢は蓋を開け、また昨日のように小鉢の液体を注いで、中身をかき回した。
「ゆっくぴ……していっぺ……」
 頂上のゆっくりは変色していた。白い肌が黄色っぽくほぐれ、浮き始めていた。目は穏やかな半眼になっている。まるで忘我の状態に入ったようだ。
 そのまわりを満たす液体は一面の泡で彩られていたが、ところどころに、白や黄色ではなく赤茶色の粒も浮き始めていた。
 餡子であった。前日よく攪拌したせいだろう。
 甕全体から、果物のような、えもいわれぬ甘く豊かな芳香が立ち上りつつあった。
 霊夢は、ますます眉をひそめて、蓋を閉じた。

 それから三十日間、霊夢は毎朝毎晩甕を覗いては、小鉢の液体を加減しながら注ぎ続けた。

[上槽・雫取り]

 三十一日目、霊夢は蓋を開けた。
 甕の中は、薄桃色の小さな泡で沸きかえっていた。霊夢は腋をきゅっと引き締め、慎重にへらで泡をのけ、中をうかがった。
 と、かすかなささやきが聞こえた。
「……ゆっ……ぷぅ……っぺ……」
 泡の底から、ぺらぺらの皮だけになったゆっくりの顔が浮き上がってきた。驚いたことに、それはまだ意識があるようだった。
 ただ、その意識が正常であるかといえば、そうでもなかった。ゆっくりはの顔はすっかり桜色に染まっていた。皮にしみこんだ餡子の色ではないことは、むせ返るほど濃い香りで明らかだった。
 酒精の香りだ。――ゆっくりは、古今の酒に精通した巫女の手で、手塩にかけて醸造され、今まさに熟成を終えつつあるのだった。
「ゆっぷぃ……れひ……はお……!!!」
 死の一歩手前まで体が崩れ果てているはずだが、アルコールで麻痺しきっているためか、ゆっくりは幸せそうだった。
 しかし巫女の愁眉は晴れなかった。
 霊夢が心配していたのは、そんなことではないのだ。
 おそるおそる、おたまで少量をすくい取って、口に運んだ。
 ひと舐め、ふた舐め――そして、口に含む。
「……あああああ」
 がっくりと肩が落ちた。比類ない腋も、心なしか、しぼみがちとなった。 

 それでも霊夢は、古式にのっとって甕の中身を酒袋に入れ、自然に滴らせて液体を搾り取った。
 そして、残った粕も丁寧に槽に伸ばして、形を整えた。

[試飲]

「霊夢ーっ、約束どおり来てやったぜ!」
 霧雨魔理沙は、晴れた空から箒に乗って降りてくると、神社の玉砂利に勢いよく着地した。
「新しい酒が出来たって? 早く飲ませてくれよ!」
 脇殿の縁側に腰掛けていた霊夢が答える。
「出来たんじゃないの、手に入ったの」
「うんうん、わかってるぜ! 酒造りはご法度だからな!」
 一応、建前では、霊夢の酒はすべて外から仕入れたものということになっている。魔理沙はうなずき、親友に歩み寄った。
 だが、その浮かない顔に気づいて、足を止めた。
「どうしたんだ、元気ないな。手順でも間違えたか?」
「洗いから搾りまで、最高級の大吟醸の作法でやったわよ。発酵のところでは、多少ありものを使ったけど」
「じゃあ何が不満なんだ。それだけやったのに、とんでもなくまずくなっちまったとか?」
「まずいというか、なんというか……とにかく飲んでみて」
 傍らの大徳利を手にとって、猪口にとくとくと注ぐと、霊夢は差し出した。受け取った魔理沙は猪口を覗き込む。
「――きれいな色じゃないか」
 薄桃色。桜色よりもっとうすい、はかなく上品な色だ。
「いい匂い。これが?」
 魔理沙は聞く。霊夢は目顔で促す。
 魔女はひとくち、酒を飲んだ。
 その顔が、驚愕に彩られる。
「こっ……これは……」
「そう」

「ラム酒!」

「……考えてみれば、当たり前だったのよ」
 深々とため息をつきながら、霊夢は話す。
「いくら作法どおりにやったって、材料が『餡子』なんだもの。日本酒と同じになるわけがなかった。ましてや、ゆっくりのあんこはギラギラの糖分過多。半分以上、砂糖で出来ているようなもの。そんなものを醸造したら……」
「そっか、ラム酒ってのは、サトウキビの酒だったよな」
 納得してうなずきかけ――
 ぶばーーーーーーっ!!
 魔理沙は酒を噴き出した。
「なに!? これ、ゆっくりが材料なのか!?」
「ええ……」
「そ、そんなもん飲ませるなよ!」
「別にいいじゃない、あなたは魔法の森で取ったガマだのキノコだの、お酒に漬けて飲んでるんだから」
「ああいうのはしゃべらないからいいんだ。でもゆっくりは……あああ、気分悪いぜ!」
「そんなに嫌だった? ごめんね」
 霊夢が徳利を傾けて酒をこぼそうとしたので、魔理沙はあわてて止めた。
「まあ待てよ。せっかく作ったんだ。私はちょっと勘弁してもらいたいけど、他にほしいやつはいくらでもいるんじゃないかな。みんなに聞いてみたらどうだ?」
「日本酒派とワイン派が多い気がするけど……」
「聞いたみなきゃわからねーって! な、私もアリスに聞いてやるから!」
「それはやめたほうがいいんじゃないかな」
「なんで?」
「なんででもよ」
 魔理沙は首をかしげたが、すぐに笑顔になった。
「とにかく、元気出せよ! 万が一、誰もほしがらなかったとしても、話の種にはなるじゃないか」
「それが、それで済まないのよね」
 霊夢がちょいちょいと指で招いて、別殿の奥へ入った。魔理沙はブーツを脱ぎ、ついていく。
 符の張られた木戸の前で立ち止まり、霊夢が振り向いた。
「最初は絶対成功すると思ったのよ。だから、つい調子に乗っちゃって……」
 符をはがし、木戸を開ける。
 ギィィィィ……と開いた扉の中は、薄暗い倉庫のような場所だ。魔理沙がそこを覗き込む。
 そして、顔を引きつらせた。

「ゆっくりしていってね!!!」「ゆっくりさせてあげるから!!!」「ゆっくりしにきたの!!?」
「ゆっくりしにきたの!!?」「ゆっくりしていってね!!!」「ゆっくりさせてあげるから!!!」
「ゆっくりさせてあげるから!!!」「ゆっくりしにきたの!!?」「ゆっくりしていってね!!!」
「ゆっくりさせてあげるから!!!」「ゆっくりしていってね!!!」「ゆっくりし放題だよ!!!」「ゆっくりしにきたの!!?」
「ゆっゆっゆっゆっ!!!」「ゆっくりしていってね!!!」「ゆっくりさせてあげるから!!!」「ゆっくりさせてあげるから!!!」「ゆっくりしにきたの!!?」
「ゆっくりさせてあげるから!!!」
「ゆっくりしていってね!!!」「ゆっくりしにきたの!!?」

「加工所から、買いすぎちゃってさぁ……」 
 苦渋に満ちた霊夢の言葉の語尾は、魔理沙の悲鳴にかき消された。


[酒粕]

「ぺ っ た り   し て い る よ  ! ! !」 



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YTです。
いかがでしたでしょうか腋。
ゆっくりでアルコールができる、という発言から、ここまで突っ走ってしまいました腋。
でも、出来上がってみたら別にゆっくり虐待じゃなくなってしまった腋。
かといって、こんなもの他に発表する場所があるわけがない腋ので、
ここで出させていただきます腋。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

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最終更新:2008年09月14日 05:12
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