ゆっくりいじめ系1927 怖いお顔 4



「いけない……!」

 ぱちゅりーのことも、“特別な狩り”のことも、誰も口にしなくなった頃。
 ちょうどご飯を集めるための狩りが終わり、その収穫を広場で分配しているとき。
 まりさのよく見える自慢の目が、麓から危険な一団が駆け上がってくるのを見た。
 たくさんのゆっくり達と、それ以上に大勢いる人間さん達だ。
 すぐさま、まりさは警告を発し、見たものを説明してみんなにお家の中へ隠れてい
るように指示した。群れのみんなが、ご飯も持たずに慌ててそれそれのお家へと駆け
込んでいく。
「れいむも、ゆっくりしないでお家に隠れてね!」
「まりさも一緒に隠れてね」
「まりさは、ここで見張ってなくちゃダメなんだよ。ゆっくり理解してね?」
「まりさがここにいるのなら、れいむもここにいるよ」
「ダメだよ! 危ないんだよ! お願いだから、お家の中でゆっくりしてね!」
「まりさの側が、れいむの一番ゆっくり出来る場所だよ。小さかった頃から、ずっと
ずっとそうだったんだよ。そろそろ、それくらいのことはゆっくり理解してね?」
「れいむ……で、でも!」
「大丈夫。二人でずっと一緒に、ゆっくりしようね」
「そ、それ……それじゃ、まるで、その……」
「まりさが言わないから、れいむが言うのよ。プロポーズには、ゆっくりきちんと、
お答えちょうだいね?」
「ゆ……ま、まりさも、同じだよ。まりさも、れいむと二人で、ずっと一緒に……」

「ドスぅううううっ!!」

 まりさのお答えは、聞いたことのある声に遮られた。
「「ぱ……ぱちゅりー!?」」
「ぜ〜っ! ぜ〜っ! む……むきゅ……!」
 群れを出て行った、ぱちゅりーだ。そのぱちゅりーが、よく知らないゆっくりをた
くさん引き連れて、しかもその後ろに大勢の人間さんを連れてやってきた。
 群れに帰ってきてくれた、という感じがしない。とてもとても、ゆっくり出来ない
感じがする。
「どうして、ぱちゅりーが走ってくるの?」
「はぁ、はぁ……ど、ドス! ゆっくりしないで、ぱちぇを助けなさい!」
「な、なんのこと? 助けるって、何?」
「あなたのために頑張ったけど、うまくいかなかったわ! だから、ドスがぱちぇを
助けるのよ!」
「ゆあ!? 何を言ってるの? まりさにはよくわからないよ! ゆっくりちゃんと
説明してね!」
「説明なんて必要ないわ! そのドスの力で、人間さんをやっつければいいのよ!」
「何言ってるの、ぱちゅりー! 人間さんには近づいちゃいけないのよ!」
「れいむは黙ってて!」
 自分の周りに、よく知らないゆっくり達が集まってくる。助けろ、助けろと言って
くる。そんなことを言われたって、どうして人間さんに追いかけられてるかもわから
ないし、どうすれば助けられるかもわからない。
「ぱちゅりー……あなた達、人間さんの村へ行ったんだね? そして、畑を荒らした
んだね?」
「れいむは黙っててって言ったわよ? 今はそんなのこと、どうでも良いのよ」
 人間さん達も、この広場へ辿り着き始めた。あの夜のように、まりさ達をぐるりと
取り囲む。
「人間さん! ぱちぇは悪くないわ! みんなこのドスに命令されたの! だから、
ぱちぇは許してあげてね!」
 ぱちゅりーが何を言っているのか、まりさにはよくわからなかった。だいたい、あ
の話し合いの日にまりさのことを「なり損ない」と言ったのは、ぱちゅりーだ。ドス
ではないと言ったのは、ぱちゅりーなのだ。ぱちゅりーの言ったことはとても正しか
ったので、まりさはみんなが怒り始めたときは、ただただ困惑したのを憶えている。
 そのぱちゅりーが、まりさのことをさっきから「ドス」と呼んでいる。そのことが
とっても変に思えて、ゆっくり出来なくて、まりさはあまり他のことを考えられなか
った。
「ぱちゅりー……! あなた、全部まりさのせいにする気なんだね!?」
 れいむが、怒っていた。
「まりさのお姉ちゃんの言いつけに……人間さんに近づいちゃダメだって言いつけに
背いて! 人間さんを怒らせたのを、全部まりさのせいにするつもりね!」
 ああ、やっぱりれいむは凄いなぁと、まりさは思った。れいむはゆっくりきちんと
考えて、どうしてこんなことになったのか、その答えに辿り着いたんだ。
 そして、こんな時だというのに、怖い人間さんがたくさんいるというのに、さっき
から見当違いなことばかり思っている自分は、やっぱりダメだなぁと、まりさは思っ
ていた。
「だって、本当のことよ! れいむだって知っているでしょう! ドスが命令したん
だから!」
「知らないわよぉ!」
 そうだそうだ、ドスが命令したんだ、仕方なくやったんだ、自分達は悪くないんだ、
見知らぬゆっくり達が、揃って声を上げる。みんな、自分のせいにしようとしている。
「この群れがどうなっても構いませんから、ぱちぇだけはゆっくり助けてね!」
 ぱちゅりーが顔を地面にズリズリする土下座をしながら、とんでもないことを言っ
た。そんなこと、絶対にあっちゃいけない。でも、どうしたらいいのか、まりさには
わからなかった。
 やっぱりドスにはなりたくないし、どうして良いかわからない自分にはドスなんて
勤まらないと思いながら、まりさは改めて人間さんをよく見てみた。
「ゆ……?」
 幼い頃に見た時は、お月様の光だけで、暗かった。今は夕焼けさんに赤く照らされ
ている。間違ってるかもしれないけど、まりさは自分の目の良さには自信があった。
「れいむ、あの人間さん」
「ゆ? な、なに、まりさ?」
「憶えてる? あの人間さんの、あのお顔」
「ゆゆ……! う、うん、憶えてるよ。ゆっくり思い出したよ」
 ゆっくりにとって、お顔はとても大切だ。大切な理由は色々あるけど、やっぱり気
持ちが一番表れるところだからだと思う。
 あの夜に、そして今も、人間さんのことを見ているときだって、お顔が一番気にな
る。お顔に、気持ちが出ていると思うから。
 取り囲んでいるお顔は、いろいろだった。怒っているお顔が多いけど、本当は悲し
いのかもしれないってお顔もある。嫌だなぁって思ってるようなお顔もある。
 まりさが憶えているお顔、今見つけたあの夜と同じお顔は、今まで見てきた中で、
一番……

「「怖いお顔だ」」

 何を思っているのか、全然わからないのだ。お目々もある。お口もある。ゆっくり
達よりもつんと突き出した、お鼻もある。あんまり柔らかそうじゃないけど、ほっぺ
もある。おでこもある。
 そのどこにも、気持ちが出ていなかった。
 色々あるのに、真っ平らみたいに見える。
 まりさがれいむの方を見ると、れいむもまりさの方を見ていた。なんにも言わなか
ったのに、二人で頷いていた。

 あの、お顔だ。

  ***  ***  ***  ***  

 完璧だったはずの策戦が、うまくいかなかった。
 やっぱり新しい群れだったから、一人一人のことをよく知らなかったせいだろうか。
いや、ぱちゅりーはきちんとそれぞれの適正を見極めて、役割分担をした。
 だとすると、手足となるべき連中が、ぱちゅりーのことを信じ切れなかったせいだ
ろう。新参者の言うことなんて信じられないと言って、今回の策戦に加わらなかった
者も多い。意気地のない連中が余計なことを言うから、手足となるはずのゆっくり達
まで、ぱちゅりーの言うことを聞かなかったのだ。

 それでも、ここまで来ればもう大丈夫だ。

 愚かな人間の一人が、ゆっくりを何人か見逃せと言っていた。群れごと潰すために
見逃すのだと。ぱちゅりーがしっかり聞いているとも知らずに、大声を張り上げると
いう愚かぶりだ。
 だから、ぱちゅりーはこの群れへと人間共を誘き寄せたのだ。なり損ないのまりさ
でも、いい加減大きくなっているかもしれない。そうすれば、人間なんていちころ…
…と、そう考えていたのだが、それに関しては期待外れだった。ちっとも大きくなっ
ていない。やはり、まりさはまりさ。なり損ないのダメドスだ。
 それでも、一応はドスなのだ。人間には負けないだろう。仮に人間が生き残っても、
この群れのゆっくりを殺して回っている間に、ぱちゅりーは助かることが出来る。
 ひょっとしたら、大勢のゆっくりがいる群れへと案内したぱちゅりーに感謝して、
人間達はご飯を貢いでくれるかもしれない。いや、きっとそうなる。この群れは愚か
者ばかりだったが、ぱちゅりーの賢さをゆっくり理解できないほどの愚か者など、人
間にだってそうそういないだろう。

 さぁ、戦え。
 ドスと人間で殺し合え。
 生き残った者は、大賢者ぱちゅりーの奴隷にしてやろう。

 まりさをけしかけるために振り返ると、まりさとれいむは目を閉じていた。愚か者
の考えることは、賢いぱちゅりーには理解しがたい。こんな時に、こんな場所で眠る
つもりなのだろうか?
「何をしているの、ドス!? 早くなんとかするのよ!」
 ぱちぇりーが声をかけると、やっと二人が目を開いた。それも、ゆっくりゆっくり
と。まったく、愚図な連中を相手にするのは疲れる。
「むきゅ……!?」
 まりさもれいむも、変だった。口は閉じているだけだし、目も開いている。そして、
自分をただ見ている。何が変なのかわからないが、変だとしか思えない。とても静か
でゆっくりとしている様にも見えるが、見ているぱちゅりーはちっともゆっくり出来
ない。そんな変な、ゆっくり出来ない顔をしている。
「む、むきゅ……なっ、なにをしているの!? ゆっくりしないで、早くぱちぇを助
けてね!」
 返事をしてこない。二人のお顔は変わらない。愚図過ぎて、ゆっくりというよりも
のろま過ぎて、考えたり喋ったりすることさえ、とんでもなくゆっくりとした時間が
かかるようになったのだろうか?
 それともひょっとして、二人ともすでに“えいえんにゆっくり”してしまっている
のかもしれない。ちっとも優秀じゃないあの二人なら、あり得ることだ。だとしたら
人間達が、夢中でこの群れを襲ってくれるようにし向けるまでだ。
「人間さ……むきゃぁああ!?」
 ぱちゅりーがその賢明さで正確に見抜いた、人間さん達の長の顔が。
 人間さんのお顔が。
「まりさ! れい……むぎょぉお!?」
 人間さんなのに。
 ゆっくりなのに。

 三人とも、同じお顔をしていた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年01月11日 13:44
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。