ゆっくりいじめ系1926 怖いお顔 3



「あらあら、また背を測っているのかしら?」

 ありすにとって、幸せでゆっくり出来る光景に、ゆっくりと近づいていく。
 群れの一角で、まだ幼い子供達が日向ぼっこをしたり、跳ね回って遊んだりしてい
る。たくさんの子供達がゆっくりいる様子を見ると、それだけでありすもゆっくり出
来るのだ。子供はとても不思議で、とても素敵な、ゆっくりした存在だと思う。老い
た自分は、もう子供に恵まれることはないだろう。そのことが、ほんの少しだけ、悲
しかった。

「「長、ゆっくりしていってね」」
「ゆっくりしていってね」
 まりさとれいむに答えると、たくさんの子供達が自分も自分もと、挨拶をしてくれ
る。その一つ一つに答えた後、ありすはまりさの頭の上に乗ったれいむを見上げた。
 子供達の輪の中で、ドスとなったまりさが高い木に背中をつけていた。れいむはそ
の頭の上に載って、口にくわえた石で木に印を刻んでいた。
「まりさはまた小さくなってるよ。そろそろご飯を食べても良いって、長からもゆっ
くり言ってあげてね」
「ダメだよ。ご飯を食べたら、きっとまた体が大きくなっちゃうよ」
「そんなに、ドスになるのは嫌かしら?」
「ゆ!?」
 ありすも、まりさがドスになりたくないと考えていることは、伝わってきていた。
そして、れいむがそのことに自分だけが気付いていて、だからこそ自分がまりさを支
えてあげようと考えていることも。
 食事を制限してまで、まりさは自分の体の成長に抵抗している。徐々に縮んできて
いるからか、最近ではのんびりゆっくりした話し方も消えてきて、ドス化する前の話
し方に戻ってきてもいるようだ。
「お話にあるように大きな大きなドスになっちゃったら、まりさはれいむとすっきり
出来ないものね」
「ゆゆゆ!? ち、ちちち、違うよ、長! まりさ、すっきりだけのために小さくな
りたいんじゃないよ!」
「あら、そう? それじゃ、たくさんある理由の一つが、すっきりなのかしら?」
「ま、ままままま、まりさ?」
「ゆぁああ!? 恥ずかしいことを言わないで、長ぁ!」
 まだ幼い子らは、すっきりとは何か、それはゆっくり出来ることかと、好奇心に溢
れたキラキラした目で聞いてくる。いくらか育った子供達は、大人になったら出来る
ゆっくりしたことだと説明したり、赤ちゃんを産むための大切なお仕事だと言ったり
……中には、ちょっとおませな子もいて、恥ずかしげに俯いたりしている。

「ぱりゅりーのことは、残念だったわ」
「ゆ……長は悪くないよ。良くなかったのは、れいむかも……」
「違うよ、れいむも長も悪くないよ。みんなで選んだこと通りに、長が決めただけな
んだから」

 数日前の話し合いで、ぱちゅりーが提案した“特別な狩り”は、却下された。
 話し合いに参加した群れのみんなが、揃ってれいむの意見に賛成したのだ。人間に
近づいてはいけない。あの夜のようなことを、もう二度と起こしてはいけない。頑張
った、まりさの姉の想いを台無しにしちゃいけない。
 一人立ちつくしていたぱちゅりーは、しばらく震え続けた後、むきゅむきゅと怒り
の声を上げ続けた。そして、みんなを罵り始めたのだ。
 群れのみんなを、愚かで何も考えていないと罵った。自分の手足になっていればい
いのに、逆らうなんて馬鹿ばっかりだと。お野菜がたくさんあれば、食べるものの心
配はいらない。“特別な狩り”を定期的に行えば、どんな形でもすっきり出来るし、
いくらでも赤ちゃんが作れる。群れの人数が増えれば、大規模な狩りも出来る。どう
して、それくらいわからないのだと。
 それはそれで、一つの考え方だと、ありすも思う。だが、危険すぎるのだ。

 “特別な狩り”は……人間に近づくことは、危険が大きすぎた。

 この群れでは、お腹を痛めるにんっしんっ──胎生妊娠──以外は、禁じられてい
た。そう提案したのは、他でもない若い頃のありす自身だ。
 お腹に赤ちゃんを抱えている期間があるから、当然不自由も多いし、無防備な状態
で激しくも動けないから、危険でもある。産んであげるときも、痛みや苦しみが伴い、
母子共に死んでしまうことだってある。それでも生まれてきた子は、蔓にたくさん並
ぶ──植物型妊娠の──赤ちゃん達よりも、一回り大きくこの世界へ誕生できるから、
すぐに自分で駆け回れる。
 なにより、お腹の中に赤ちゃんがいる期間、母親はこの世で最もゆっくりした時間
を過ごせるのだ。体にはつらいことも多いが、心がとてもゆっくり出来る。それは、
他では得られないことだった。
 しかし、その提案をした理由は「産まれてくる子が少なくて済むので、群れが大き
くなり過ぎない」という、冷たく現実的なものだった。すっきり制限は現実的ではな
いことを、ありす種である自分が誰よりもよくわかっていた。だったら、ゆっくりと
時間をかけ、すっきりに到るまでは痛みさえ伴うが、それでも出来る方が良いのだ。
みんなが愛し合える方が良いし、みんなが子をなせる方が良い。
 無理に我慢するより、ずっとゆっくり出来るのは考えるまでもない。

 ぱちゅりーも、そしてれいむもまりさも、その決まりが出来てからの子供達だ。

 そのぱちゅりーが、同世代のれいむを名指しで罵り出した。
 醜い片目の弱虫と罵ったのだ。れいむほど勇気のある者はいないということを群れ
のみんなが知っているから、何を言い出したのかと、みんなきょとんとしていた。
 そして、ありすのことを、怠けたいだけの老いぼれと罵った。実際に自分は老いぼ
れているし、出来ればのんびり怠けてゆっくりしたいと思っているので、腹も立たな
かった。それでも群れのみんなは、自分のために怒り始めてくれた。
 その、みんなの怒りが爆発したのは、ぱちゅりーがまりさを罵り始めたときだ。
 なり損ないと罵り、意気地無しと罵り、裏切り者の妹とまで言い放った。だから、
まりさはドスになり切れないなり損ないなのだと。無駄に大飯を食うダメゆっくりだ
と。
 体が大きくなる前のまりさが誰よりもご飯集めに熱心で、そしてそのご飯をほとん
ど他のみんなへ配っていたことを、群れの多くの者が知っている。特に、赤ちゃんに
恵まれた家のためのご飯集めは、何度もやった。
 お腹に子がいる間、ゆっくりは体を激しく動かすことが出来ない。出産が迫れば迫
るほど、身動きの一つでも苦しくなるものだ。愛する者がそんな状態なら、出来れば
側にいてやりたいと思うのが当然だろう。いくら大丈夫だと言われても、自分が留守
にしている間が気になって仕方ない。
 まりさは、にんっしんっの経験も理屈も知らない幼い頃から、誰に言われなくても
そのことがわかっていたようだ。優しいまりさには、困っている人の気持ちがよく見
えるのだろう。そして、そんな困っている人がゆっくり出来るようにと頑張ってきた
のだ。
 群れのみんなの多くが、そのまりさの優しさに助けられてきている。そして誰もが
ドス化したまりさを慕い、その側でゆっくりしたいと思っている。
 ありすが制止しようとしても、まりさが宥めても、みんなの怒りは収まらなかった。
みんなをゆっくりとした気持ちにさせてくれる、ドスとしての力がなければ、ぱちゅ
りーはあの場で殺されていたかもしれない。

 翌朝、ぱちゅりーは一言の別れもなく、この群れから去っていた。

 ぱちゅりーがいなくなっていると知らされたあの日の朝から、ありすの胸が微かに
騒ぎ続けている。ゆっくり出来ないことが、起こりそうな予感がする。
 きっと、“特別な狩り”という、悲しい記憶を呼び起こす言葉を聞いたからだ。
 そう思うことで、ゆっくり出来ない予感を振り払おうとした。
 ありすは、もじもじと恥ずかしがるまりさとれいむの姿を見た。ゆっくりのびのび
と遊んでいる子供達の様子を見た。
 予感なんて、年老いた者に良くある、取り越し苦労だ。

 このゆっくりとした景色は、これからもずっとずっと続いていくのだから。

  ***  ***  ***  ***  

「ヒャッハーーーーッ! たまらねぇ! たまらねぇよ、兄貴ぃ!」

 甲高く、耳障りな声が辺りに響いた。
 許しもなく自分のことを「兄貴」と呼ぶ小僧が、周囲の目も気にせずに興奮状態で
ゆっくりを潰し回っている。
──おめぇにいちいち呼びかけられる、こっちの方が「たまらねぇ」よ。
 同類と思われては、それこそたまらない。だから、ことさら冷静に、淡々と、村人
や自分の家で働いている者達に指示を出す。アレとは、自分は違うのだと。村のため、
みんなのためにやっていることなのだと、示すために。
 上手い米と上手い水が自慢のこの村で、自分の家だけが酒造りも行っている。田畑
もそこそこの広さを抱えているので、村では一番裕福な家だろう。人手も多く抱えて
いて、小作人もいれば、酒造りに携わっている者もいる。荒事が得意なヤツも多い。
自然と、跡取りである自分が顔役のようなことを引き受け、何かあったとき……たと
えば今のように、多くのゆっくりが山から下りてきて田畑を荒らしたときには、指揮
を執ることになる。
「ウーーーッヒョーーーーッ! 兄貴、俺イッちゃいそぉお!」
 行くなら勝手に、どこか遠くへと願いたいものだ。

 いつだったか、兄貴、兄貴と言うのなら、うちへ来て働けと言ったことがある。働
き口は、それこそ小作でもいいし杜氏の下につくのでもいい。いくらでもあるのだか
らと。
「勘弁してくだせぇよ、兄貴ぃ。そんなことより、ゆっくりでもとっ捕まえてきて、
いたぶりましょうぜ!」
 あの時も、胸ぐらを掴み上げて大概にしろと怒鳴りつけたい気持ちを抑え込んだの
だ。
「みんな! 全部は潰さず、いくつかは見逃せよ! こうまで荒らされちゃ、黙って
おけねぇ。こいつらの群れごと潰すぞ!」
 声を張ると、あちこちから短い返事が聞こえてきた。ゆっくり共にも聞こえただろ
うが、かまいはしない。どうせ最後には山へと逃げ込み、自分の巣がある群れへと案
内してくれるのだ。
「兄貴、兄貴! 今度は、俺っちも連れて行ってくだせぇよ!?」
 あの小僧が、餡子まみれの汚い姿で近寄ってきた。餡子なら洗えば落ちるが、この
造作の悪い面はきっと都の水で洗われてもマシにはならないだろう。さらに、今は異
常な興奮で目を見開き、口も奇妙に引きつったままという、思わず身を引いてしまう
ほどの醜さだ。
「兄貴ぃ! 今度は置いてけぼりなんてごめんですぜ! 意地でもついてきますから
ね! 群れには、子ゆっくりや赤ゆっくりもいやがんでしょう!? それに、孕んで
やがるのもいるかもしれねぇ……ひっ、ひひひっ! うひひひひひょぉおお!」
──まったく、親切心で連れて行かなかったことも知らずによ。
 前にも、今回ほどではないが何匹かのゆっくりが村の田畑を荒らしたことがあり、
その時も巣を突き止めて全滅にしようという話になった。この小僧を連れて行かなか
ったのは、こいつの本性が村のみんなに知られないようにするためだ。

 こんな様を見れば、誰だって嫌な気がする。

 村人の中には、ゆっくりが憎くて憎くて仕方ない者もいる。生首のような見た目の
連中を気持ち悪がる者は多いだろうし、ゆっくりを潰すことが、責め抜いて嬲り抜く
ことが好きだという者さえいるかもしれない。
──この俺だとて、人のことは言えねぇものな。
 自分が饅頭を嬲って遊ぶのは、気分がムカムカしているときだ。憂さを晴らせれば
それでよく、憂さ晴らしの的にしたところで、どこからも文句が来ないのが饅頭共だ
った……それだけのことだ。だから、気分の良いときは見逃しもするし、途中で飽き
たら潰さず放してやる。気分が良すぎて、手当をしてやったことだってあるほどだ。
 だが、生き物か饅頭かもわからない連中相手でも、殺生のような真似は嫌だという
者も多い。畑を守るためならやむを得ないが、出来れば潰すようなことはしたくない
と考えている者もいる。まして、人と同じ言葉で命乞いをされたら、なおさらだろう。
 あの時、辿り着いた群れの巣でのことを思い出せば、そういう者の方が多いのだと
言うことがよくわかる。
 群れ全体のために命を投げ出すと言った親。その親の代わりにと自分を投げ出した
子。しかも、子供の方はまだ赤子も同然の幼さに思えた。いやはや饅頭のクセして、
あっぱれ見事だと感心したものだ。
 一緒に行った村の連中も、同じように感じたらしい。見逃してやってもいいのでは
ないかと囁き合っていた。
 目玉をよこせと言っても、あの子饅頭は動じなかった。抉り出す間も、声一つあげ
ずに耐えきった。人の内にあんなのがいれば、間違いなく腰砕けだ。饅頭に惚れる趣
味が無くて、つくづく良かった。
 一番鮮やかに思い出せるのは、抉り出した目玉を、口の中へ放り込んだときのこと
だ。柔らかいクセに真ん丸の形を綺麗に保ち続けて、つい噛み潰したい欲求に駆られ
たことを。餡子を舐め取って吐き出してみたときの、月明かりを受けたあの不思議な
美しさを。
 あの時は、らしくもないことを言ったが……おかげで、村人達からは流石だと褒め
られた。あんなふうに窘められたら、ゆっくり達も大人しくなるだろうと。

 だがこの小僧は、全てお構いなしだ。
 ゆっくりは弱い。自分より弱い。だから面白い。
 いつだったか、酒をたっぷりとかっ食らわせたときに、上機嫌でそう言っていた。
つまり、自分より弱いものを潰して、その瞬間だけでも強い自分に酔いたいのだ。
 あの場にこの小僧がいたら、一切構わず潰して回っただろう。しかも、子饅頭から
順に。村の連中みんなが感心した、あの赤子からまずヤルはずだ。そんなことになっ
たら、あの場にいた全員が白い目で小僧を見るようになっただろう。翌朝には村中に
広まる。あっという間に村八分だ。
 連れて行ったら、何かしでかす。そうなりゃ、こいつは立場をなくす。だから、連
れて行かない。その、せっかくの親切心を、多分こいつは永遠に理解できないだろう。
 やりすぎるなと釘を刺していたのに、さっきの様だ。おかげで村人の多くが、すで
に小僧のことを嫌なものでも見るかのような目で見ている。潰れた饅頭共よりもなお
汚らわしそうに。
 そして、小僧はそのことに気付くことは永遠になさそうだ。

「ま、手遅れってのなら、好きにするさ」

「え? なんですかい、兄貴?」
「好きにしろって言ったんだよ」
「ッヒョォオーーー! ありがてぇ! そうこなくっちゃあ!」
 喜ぶ小僧に、わざと大きな声で周囲にも聞こえるように言い放つ。
「うちのモンでもねぇ! 弟分と認めてもいねぇ! 勝手に、兄貴呼ばわりしやがん
じゃねぇと何度言わせる!!」
「連れねぇこと言いっこ無しですぜぇ、兄貴ぃ」
 胸がムカムカしてきた。気分が大きく、斜めを向きやがる。

──おめぇの猫なで声なんざ、潰れた饅頭共より吐き気がすらぁ。



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最終更新:2009年01月11日 13:41
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