その畑では、本当に、お野菜さんが、勝手に生えてくるのであった。
理由は判らないが、数日前にゆっくり達が言っていた台詞が真実になってしまったな、と思った。
「だから、ここは、僕のおうちで、これはお兄さんが育てたお野菜なんだよ。」
「おやさいさんはかってにはえてくるんだよ!!」
「おやさいさんをひとりじめするにんげんさんはずるいよ!!ゆっくりしんでね!!」
「「「「「ちんでにぇ!!!!!」」」」」
まりさとれいむと、赤ゆっくりが5匹。初めてゆっくりの被害にあってしまったが、
なんというか、本当にこんな思考をしてるんだなぁ、と驚愕するばかりである。
別に自分は農業で生活を立てている訳ではない。親から受け継いだ畑で、趣味として野菜を育ててるのだ。
新鮮な野菜を食べれるし、国からわずかだが、お金も出る。それだけだ。そんな理由なので荒されても別に心は荒まない。
被害も、きゅうりが4本程度、トマトが5個くらいだろう。どうでも良かった。
だが、自分が畑を荒してる所を止めようとしたら、体当たりしてきたのだった。
ぽこん、ぽこんと足に体当りする様が面白かったので、捕獲しようと思った。
使っていない納屋まで誘導し、扉に鍵を掛ける。
こうして、着いてきた一家丸ごと捕まえる事に成功したのだった。
「ゆっへっへ。もういちどまりささまのたいあたりをくらいたくなかったら、ゆっくりここからだすんだぜ!!」
「そうだよ!!まりさはとってもつよいんだよ!!!はやくあやまったほうがいいよ、おにーさん!!!」
「「「りぇーみゅちゃちに、はやきゅあみゃあみゃをもっちぇきちぇね!!」」」
「「まりしゃちゃちにももっちぇきちぇね!!しょしちゃらゆっきゅりちんぢぇね!!!」」
どうも、先程の体当りで優位に立っていると思っているようだ。捕まえたと言っても閉じ込めている訳ではないし。
まあ、いいか。……と野菜は勝手に生えてこない事を根気よく説明したが、返事は、勝手に生えてくる。という一点張りだ。
これはやり方を変えないと駄目かも。そう思ってると足に音が鳴る。
「ゆっふっふ。おにーさんのざれごとに、つきあっていられないぜ。まりささまのこうげきでしんでもらうぜ。」
またもや、ぽこんぽこんとリズムを奏でる事にしたようだ。
「うっそお?」
さっき何度も繰り返して効かなかった攻撃を繰り返すとは。他に攻撃の手段はないのか、と驚いてしまった。
「まりさ!!ゆっくりきいてるよ!!!」
「「「おちょーしゃん!!ぎゃんばっちぇにぇ!!!しょしちぇあみゃあみゃをとってきちぇね!!!」」」
効いてないし、と突っ込むよりも、子供達の台詞がひたすらに甘い物を求めているだけな事のほうが気になる。
そういえば、ここに缶ドロップがあったことを思いだので、気づかれないように移動、そして腕だけ動かし
缶ドロップを取る事に成功した。そして、まりさの攻撃?に合わせて飴を落とす。
「「「ゆゆ!!?おにーしゃんからにゃにきゃおちちぇきちゃよ!?」」」
親が必死に体当りしてる場所が近いと飴を拾えないだろうから、気づかれないよう移動する。
「「「ちあわしぇ~~♪♪きょれはちょってもあみゃあみゃだにぇ!!!」」」
うお、いきなり口に含むとは・・・。何という警戒心の無さ。
「まりさ!!おにーさんをこうげきしたらあまあまがでてくるよ!!!」
「わかったんだぜ!!もっとこうげきをはげしくしてあまあまをださせるんだぜぇえええ!!!」
「「「おちょーしゃん!!もっちょあみゃあみゃをだしちぇね!!!!」」」
飴が落ちるたびに子供達がきゃいきゃい騒ぎ出した。
……しかし、何度か続けると、飴が出なくなってしまう。
まあ、缶ドロップの中身などたかが知れている。というか飴を舐めないで食べてるから消費が早いのだ。
「まりさ!なにやってるの!?はやくあまあまをだしてね!!!!」
「「「ひゃやくだしちぇね!!やくたたじゅにゃおちょーしゃんはちんでにぇ!!!」」」
「どぼじでぞんなごどい゛う゛のお゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
何故か責められる親まりさ。不憫だ。助け舟を出してやろう。
「まあ聞きなさい。飴さんは勝手に落ちてこないんだよ。限りがあるんだ。お野菜さんだって同じだよ?
勝手に生えてこないんだ、解るかな?」
「ゆゆ!!?まりさのゆっくりぷれいすににんげんさんがいるよ!!?」
「そんなのどぼでぼいいでじょお゛お゛お゛!!はやくあまあまざんをだじででいぶにもっでぎでね!!!
でいぶはまだあ゛まあ゛まざんをだべでない゛んだよ!!!」
「「「やくたたじゅのおちょーしゃんはちね!!しょしてあまあましゃんをもっちぇきちぇね!!!」」」
聞いてなかった・・・。というより気づいたのはまりさだけだ。
そのまりさもさっきは出してといっていたのに、今ではここが自分のゆっくりぷれいすだと思っている。
れいむは、子供達を優先したようだが、心の中は飴に夢中だったらしい。涎が物凄い事になっていた。
子供達は甘いものしか見えてないのが哀れだ。これが、ゆとり教育の弊害かもしれない。
「にんげんさんはまりさのゆっくりぷれいすからでていってね!!!そしてあまあまをもってきてね!!!」
「ばりざあ゛あ゛あ゛!!!あまあまざんをだすのをあぎらめない゛でえ゛え゛え゛え゛!!!」
「「「あまあまをもってこないまりしゃおちょーーしゃんはゆっくりちんでにぇ!!!」」」
駄目だ、この一家。家庭崩壊とかいうレベルじゃない。なんだか親まりさが哀れで泣けてくる。
あまりにも(頭が)可愛そうだったので捕まえるのは止めた。納屋から出してやる。
「ゆゆ!!??おやさいさんがいっぱいあるよ!!!ここをまりさたちのゆっくりぷれいすにするよ!!!」
「ゆ!?……やったね!!まりさ!!さすがれいむのおっとだね!!!」
「「「おちょーしゃんしゅぎょーい!!!」」」
目の前に畑があっただけなのだが、それだけで突然一家の中が良くなった。なんだこいつら。
「むーしゃ、むーしゃ!!しあわせーー!!!」
「むっしゃ!むっしゃ!!しあわせーー!!!」
「むーちゃむーちゃ!ち、ちあわちぇええええええ!!!」
一家そろってガツガツと野菜を食べ始めるが、自分はもう止める気はなかった。
どうせ趣味でやってる畑だ、こう幸せに食べてくれるなら、いいじゃないか。自分ではこうも幸せそうに食べられないし。
それに、親まりさには同情している。こんな一家の大黒柱を務めるなど、とても出来ない事だ。
まあ、かといって家に上がられると困るので、家の鍵は厳重に閉めておこう。
毎日自分の畑に来ては、野菜を食い漁っていたまりさ一家だが、その幸せは突然終焉を迎えた。
なんと、畑に野菜が全くなくなってしまったのである。
「どぼじでおやざいざんがないのお゛お゛お゛お゛お゛!!!!」
「「「ゆえーーん!!おやしゃいしゃんたべちゃいよおおお!!」
「まりざあ゛!!!まりざがたべだんでじょお゛お゛お゛お゛!!!」
「でいぶだっでだべだでじょお゛お゛お゛!!ぞれに!!おやざいざんは!がっでにはえでぐるんだよお゛お゛お゛!!!
なぐなるばげない゛んだよお゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」
「じゃあ゛なんでないのお゛お゛お゛お゛!!!?まりざのぜい゛でじょお゛お゛お゛お゛お゛!!!!!
おやざいをだべだまりざはごみぐずい゛がだよ!!!!」
「「「おやしゃいしゃんをたべちゃ、まりしゃおちょーしゃんは、ゆっくちちね!!!!」」」
「どぼじでばりざのぜい゛にずるのお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
家の窓から覗いていたら、こんな光景を繰り広げていた。まあ2週間もバクバク食ってたら無くなるよね。
無実(?)の罪で罵られ、妻からは、
「まりさは今日の分の狩りをして帰ってきてね、れいむ達は家に置いてあるお野菜を食べて待ってるね。」
というような事を言われ、置き去りにされているまりさ。
相変わらず不憫だ。と思っていると、畑に向かって土下座し始めた。
「かみさま、おねがいだから、おやさいさんをちゃんとはやしてあげてね!かってにはえてくるのをじゃましないでね!」
という台詞を土下座しながら叫んだまりさは、去っていった。何言ってるんだろう、あのまりさ。
だがまあ、神頼みとはゆっくりにしては、上等な行為をするものだ。宗教の概念も無い物体の癖に……。
まりさのお願いをせめて、山の神様に届けてみるか。そう思い、お賽銭を山の上の神社に投げ入れる事にした。
神社に着くと、参拝客は誰も居なかった。この寂れ具合だと、優先順位は一位だろう。願い事が少しアレだが。
自分は全てのゆっくりの平和を願っておくか。
この願いよりは、まりさの願いの方が若干楽だろうから、自分の願いは後回しなはずだ。
翌日、自分の畑には野菜が全開で生えていた。ありえん。
「ゆゆーーーっ!!まりさのゆっくりぷれいすにおやさいさんがはえてきたよおおおおお!!!」
「まりさのいうとおり、きのうはおやさいさんがゆっくりしてただけだったんだね!!!」
「「「おちょーしゃん、ものちりだにぇ!!!!」」」
「ゆっへん!!みんなでおやさいさんをたべようね!!!!」
ガツガツと食っていくまりさ達。おいおい、一日で出来た野菜とか恐くて食えねーよ・・・。少しは考えようよ。
「「しあわせーーーー!!」」
「「「ちあわちぇええええええ!!!!」」」
食えるのかよ。しかも旨いのか。まあいいよ、自分は食う気にならないし・・・、好きにしてくれ。
まりさの地位も元に戻ったようだし、満足だ。ヒエラルキー最下位はつらいよな。
さらに、次の日、畑の野菜の濃度が上がっていた。個人でやってるような畑ではなく、農業を営めるような畑だった。
神社効果か?神様スゲェ、としか言いようが無い。まあ、隣の家まで2kmある田舎だからそうそう騒ぎにはならないだろう。
「おやさいさん、すっごいゆっくりしてるよぉおおお!!!!」
「こんなにゆっくりとしたおやさいさんは、はじめてだね!!まりさすごいよ!!!」
「「「しゅごいゆっくちだにぇ!!!おちょーしゃんだいしゅきだよ!!!!」」」
「ゆゆ~ん。てれるよぉお!!」
まりさの株もストップ高だ。おめでとう!!まりさ、おめでとう!! 心の中で誉めてやる。
それからは、毎日がゆっくりデイだった。
お野菜は本当に勝手に生えてきたので、まりさはゆっくりしている。
妻のれいむとの仲も良好なようで、常に頬擦りしてるような感じであった。
まりさの子供達も発育が良く、最近では、赤ちゃん言葉が抜けてきたようだ。
試しに家族を尾行して巣を探してみたが、巣の中は人間が入れる程広く、野菜も存分に保管されていた。
というか、巣というのは俺の納屋であった。畑は納屋をも侵食し、今や大農園の様相を呈していたので、気づかなかった。
そろそろお隣さんにバレるかと思ったが、お隣さんはいつの間にか空き家になっていた。
調べてみると半年前かららしい。ビクビクしていたのが馬鹿らしい。
1ヵ月後、最近まりさ達の姿が見えないな、と思い探してみる事にした。
納屋が探せない・・・。なんという野菜王国。自分の家だけを避けるようにびっしりと生えた野菜の楽園。
ここまで来るとさすがに気持ち悪い。もうやめて。と神社にお祈りしにいこうかな。どうせ自分はこの野菜を食べないし。
30分程かけて納屋を見つけた。中に入ると入り口には変な生物が居た。冬虫夏草っぽいゆっくりだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!でいぶのあんごがずわ゛れでい゛ぐう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」
れいむらしい。頭からトマト(大)を30個はぶら下げている。というか、そう言っている間にもトマトが生っていく。
養分が吸われるのか、それを補うようにずりずり移動しながら野菜を食べている。気持ち悪い。
キャベツを食いながらトマトを生産するとは・・・。これが連金術か。
無視して中に入っていくと、子ゆっくり達が居た。
「おねーちゃんのとまとおいじい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」
「れいむのきゅうりざん、どっでもあまあまだよお゛お゛お゛お゛お゛お゛」
「まりさおねーちゃんのいちごさん、すごくゆっくりだねえ゛え゛え゛え゛え゛え゛」
「おねーぢゃんのなずざんばすっごぐじんなりじでる゛よお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」
「まりさのとうもろこじはざいごうだよう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」
数珠繋ぎだった。野菜が生えてくる瞬間から共に食べあっている。うーん、飽きないのかなあ・・・。
飽きたら順番変えればいいのか?・・・というかトウモロコシだけ凄い食べにくそうだが。まあいい、ほっとこう。
まりさを探す。まりさは何処だ?まりさやーい。
奥の奥、納屋の中でも全く日に当たらない暗闇の中、まりさは居た。懐中電灯を持ってきてようやく見つけたのだった。
見てみると頭から野菜は生えていない。おお、無事だったか。
「ゆ!!?おにーざん!!???」
覚えててくれたとは、おにーさん嬉しいよ。
「おに゛い゛ざあ゛ん!!!ごごは、ぜんぜんゆっぐりでぎない゛よお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」
よしよし、何があったか話して見なさい。おにーさんに聞いてみて?
「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!!!」
早く話してよ・・・。
まりさの説明は要領を得なかった。3時間かかって、ようやく理解した頃には日が暮れていた。
ながったらしい説明である、正直途中で見捨てようかと思ったが、泣いてすがり付いてきたので我慢する事にした。
光っていたお野菜さんの種があったので、家族で食べた。
すると、まりさ達の頭の上に野菜が勝手に生えてくるようになっていた。
最初は喜んでいたが、自分の力が吸われていく、と気づいてパニックになる。
れいむが頭の茎をへし折った所、今度は2本の茎が生えてきた。折るのはまずい、と理解した。
力が抜けていくのを感じたので、急いでお野菜を食べたが、一向に力が戻らない。
それどころか、余計にお野菜さんが力強く生えてくるようであった。
日が沈むと、お野菜さんは生えてこなくなり、この時にお野菜を食べれば力が戻ると解った。
なら、安心だね。と笑いながら眠ったが、それが間違いだった。次の日には益々お野菜さんが生えてきた。
まりさは恐くなって納屋の奥に逃げた。しばらくするとお野菜さんが大人しくなっているが解った。
まっくらな所にいれば、お野菜さんは生えてこない。すごい事に気づいたと思った。
急いで家族に知らせようとしたが、その時はすでに夜であり、何も見えなかったので、次の日に知らせる事にした。
だが、その時には遅かった。れいむは頭から10本のトマトを実らせ、ほとんど動けず。
這いずりながら野菜を食う、生きる屍と化していた。
子供達もほぼ同じ状態。跳ねる事が出来なければ、この暗闇には来れない。
まりさは一人、暗闇に舞い戻るのであった。
………。光る種を食べたのはまあいい。……だが、ゆっくりしすぎだ。答えを先延ばしにした結果がこれじゃないか!!
「おにい゛ざあ゛ん!!だずげでねえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!」
やれやれ、解ったよ。同情しちまったなら、最後まで面倒みるのが筋さ。
というか神社にお祈りしたせいなら、半分は俺のせいだし。
そういうわけで、夜なのに神社にやって来た。上等な酒を持ってきたので大丈夫なはず。人間も神様も酒が好きのだ。
おやさいさんが勝手に生えてくる、という願いを取り消してください。お願いします。
シンプルに願って、山を降りた。
自分の家に着くと、そこは普通の畑があるだけだった。野菜都市は崩壊したようだ。
そうだ!!まりさは!?まりさはどうなった!!?? 急いで納屋に駆け込む。
冬虫夏草なれいむと子ゆっくりは死んでいた。恐らく、身体のほとんどを野菜に乗っ取られていたんだろう。
まりさは大丈夫だろうか。侵食の具合が気になる。納屋の奥に行くと、まりさは泣きながら胸に飛び込んできた。
「おにぃーざーーん!ありがとお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!まりざのなががら、おやざいざんがぎえだよお゛お゛!!」
……、全く、これに懲りたらお野菜が勝手に生えてくる、なんて言っちゃ駄目だよ?
「わがっだよお゛お゛お゛お゛!!!ありがどう゛!!ありがどう゛う゛う゛!!!」
その後、妻と子供の死を知り、また泣いたまりさだったが、家族の分まで生きていくと言っていた。
自分と一緒に暮すか?と聞いたが、これからは、お野菜さんが勝手に生えてこない事を布教して回るという。
ゆっくりまた会おうね。と別れた。
いい奴だったな……。ゆっくりにもいい奴がいる。そんな事を、思った。
しかし、山の上の神社は本物かな?何か間違った方向に叶ってしまう気がするから使う事はないだろうけど……。
自分も何か願ったような……。気のせいかな?
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まりさとの平日
ぱちゅりーとおにーさん
最終更新:2009年01月30日 10:12