ゆっくりいじめ系2264 向日葵

向日葵



「はいおしまい」
「おう、おつかれさん」

畑の水遣りを終えた ゆうかは のたのたと縁側に向かう。
そのままぴょんと上がるとだらりと伸びる。その姿は猫のようである。

「しっかし、お前やる気ないねー」
「やることはやってるわ」
「手を掛ければ掛けるだけ応えてくれるもんじゃないの?植物ってさ」
「あまりかまうと ぐれるわよ」

そんなもんかい。適当に相槌を打って男もゴロリと横になる。
庭先では苗木達が葉の先に雫を浴び、涼しげにキラキラと輝かせている。
時折駆け抜ける風が熱を颯爽と連れ去っていく。
春も終わり、立ち込める熱にじわじわと汗が滲む。
ポカポカ陽気も通り過ぎ、やがて来る梅雨を越えれば茹だる様な夏を迎える。
今年の夏は暑そうだ。

イ草の香りを嗅ぎながらゆうかに目をやる。
板間の冷たさが心地よいのか、でろりと溶けて目を瞑っている。
中身まで溶けているのでは不安になるほどのだらけっぷりである。
そうしてまどろむ意識の中、今日もまた昔のことを思い出す。




「みずやりおわり。きょうは このくらいにして かえりましょうか」
「「「ゆっくりー!!」」」

ぽいんぽいんと巣に向かうゆっくり達。その顔は泥に塗れていたが、皆が皆 幸せそうに笑っていた。

「ゆぅ・・・きょうも うまく できなかったよ・・・」
「だいじょうぶ。わたしが てつだって あげるから。げんきだして」
「ゆゆぅ!! ゆうかありがとう」

落ち込むまりさを励ましながら、ふふふと優しく微笑む。
ゆうかはこのまりさが好きだった。
不器用で何をしても上手くいかない。それでも一生懸命、ただ直向きに努力を続ける。
そんな彼女が愛おしかった。この群れに居付くようになったのも彼女が居たからであろう。


巣立ったばかりの まりさは 餌を取るのに悪戦苦闘。そんな彼女をゆうかは見ていた。
畑を作り、更に身体能力に優れるゆうかには狩りに苦戦するまりさの姿は滑稽そのものでしか無かった。
ガムシャラに跳ね回り虫を追う。転んでは立ち上がり、転んでは立ち上がり。
結局何も得られず帰路につく。次の日も、その次の日も。
その次の次の日。今日もダメだろうと見守る中、まりさは一匹の蝶に向かい勢いよくジャンプした。
着地に失敗し顔面から地面に突っ込み、ゴロゴロと土の上を転げ回る。
思わず ゆうかが まりさの側に駆け寄ると、彼女は泥だらけの顔でニカっと笑った。
その口元には、一匹の茶色く染まったモンシロチョウが咥えられていた。
まりさの屈託なく喜ぶ姿は、まるで高らかに咲き誇る向日葵のようだった。


だが幸福な時間は長く続かなかった。
2匹が一緒になってしばらくすると、まりさは仕事をさぼるようになっていった。

「まりさ。もっと こころを こめないとだめよ」
「うるさいよ。おやさいさん つくるのは とくいな ゆうかが やればだいじょうぶだよ」

ゆうかの嗜めもどこ吹く風か、まりさはすっかりゆうかに依存するようになってしまった。
次第にギクシャクとしていく生活。そんな折、ゆうかの体に異変が起こった。

「まりさ。あかちゃんができたの」
「ゆゆ!?」
「あなたとわたしのこよ。いまおなかのなかにいるわ」
「そ、そう・・・よかったね・・・」
「まりさ・・・?」

子供が出来たというのに、まりさに喜んだ様子は見られない。
それどころか、まりさは驚くべき事を口にした。

「それじゃあ・・・おしごとできなくなっちゃうの?」
「ええ。しばらくは おうちで ゆっくりさせてもらうわ」

そう。
まりさは短く返事をし、次の瞬間ゆうかに体当たりを放った。

「!? まりさ、あなたなにを!!」
「こどもがいるから おしごとできないんだよね・・・こどもがいなければ・・・できるんでしょ?」
「まりさ・・・?」
「ゆうかがおしごとしないと・・・ごはんたべられないもんね!!」

言い終わるや否や、まりさは再度飛び掛る。
だが ゆうかは それをかわし、ガブリとまりさに食いついた。

「ゆぎゃあああああ!!?」
「でていって・・・」
「ゆぎゅ・・・でもここは まりさのおう」
「でていって」

張り上げるでもなく、ただ静かにゆっくりと言葉を吐き出すゆうか。
抑揚のない声音と裏腹にその瞳は冷たく、まりさのを心を突き刺した。
すがることも出来ず、まりさは痛む体を引きずり夜の森へ消えていった。
後にはただ、一匹の泣き声だけが残されていた。

翌日、群れのゆっくり達はまりさが居なくなったことを悲しんだが、それ以上にゆうかが身篭ったことを喜んだ。
仲間達の手助けもあり、ゆうかとお腹の中の子供は元気に育っていった。



季節は巡り、秋も暮れ。
その頃にはゆうかは群れの長となり、子供も立派に育っていた。

「それじゃあ しゅうかくを かいしするわ。これだけ あれば じゅうぶん ふゆも こせるでしょう」

ゆうかの指揮のもと、テキパキと働くゆっくり達。
たわわに実った野菜をもぎ取る。ずしりとした重みが心地良い。

「それを まりさたちに よこすんだぜ!!」

突如として浴びせられる声に振り返ると、そこにはガラの悪いゆっくり達の姿があった。
そしてその集団の先頭には、頬に傷のあるゆっくりの姿があった。

「まりさ・・・」
「ひさしぶりなのぜ、ゆうか」

帽子は薄汚れ、目には輝きがなく、口調どころか声まで変わっていた。
変わってしまった、そんなまりさの姿は酷く痛々しくゆうかに見えた。

「いまさら なんのよう」
「ここには まりさの おうちが あるのぜ? かぞくは たすけあわないと いけないのぜ?」
「そちらの かたがたは?」
「まりさの かわいい こぶんだぜ、いっしょになかよくしようなのぜ」

ゆっへっへっへ

「そう。でも あいにく しょくりょうに よゆうはないわ」
「なら・・・まりささまたちだけが たべれば もんだいないのだぜ!!」

そこまで言って、まりさの体の半分が無くなった。

「ゆ・・・?」

「どうして、もどってきたの」
「ゆぎゃああああああ!!?」
「「「まりさあああああ!!?」」」
「もう あなたのかお、みたくなかったのに・・・」

「よぐもまりざおおおおお、お!?」

突っ込んでくるありすの髪を咥え地面に叩き付ける。
ビチャリと水っぽい音を立て、その体は動かなくなる。

「つぎは・・・だぁれ?」

面を向いたゆうかは、底冷えするように美しい笑顔だった。



餡子で真っ黒になったゆうかは、まりさにゆっくりと話しかける。

「どうしてもどってきたの」
「ゆうかが、ゆうかが うらやまじがっだがら・・・」
「・・・・・」
「はたげもづぐれで、かりもうまぐで・・・」
「・・・・・」
「づよぐなれば、づよぐなればもういぢど・・・!!」

何時の間にかまりさの声には嗚咽が混ざっていた。
涙を流し、しゃがれながら懸命に言葉を紡ぐ姿は、まるで子供のようだった。

「あなたって ほんとうに・・・ばかで・・・ぶきようなんだから・・・」

ゆうかは悲しげに、それでも優しく微笑んで

「おかえりなさい」

まりさを踏み潰した。




その後、彼女は子供に畑を任せ群れを後にした。
やがて雪が降り、世界がが白く染まったある日にゆうかは倒れた。
そうして目覚めた時、そこは男の家だった。



あれから幾度の季節が巡っただろうか。もはや覚えていない。
ただそれだけの時間が立っても、彼女の心に向日葵は咲き続け枯れる事はない。
それにしても今日は暑い。まるで夏のようだ。
向日葵が喜びそうな日ね、そう思ったところで再び眠りについた。





「おにいさん、こんにちわ」
「ああ、いらっしゃい」
「おばあさまは?」
「そこで寝てるよ」
「あら、おつかれのようですね。それはそうと きょうはこれを・・・」
「ん? やけにくたびれた帽子だね」
「ええ。なんでも おじいさまの ものらしいのですが・・・」





その年の夏も男の庭先には立派な向日葵畑が黄金色に揺れていた。
畑の真ん中、胸を張るように真っ直ぐ伸びた花と、それに寄り添うよう少しだらしなく頭を垂れた花。
2本の向日葵が満足そうに笑っていた。



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最終更新:2009年03月05日 00:28
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